転生女装令嬢俺物語。~推しCPをくっつけたいんですが、何故かヒロインが俺のことを口説いてきます~   作:かり~む

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3:物語の始まり

 16歳となったカミーユは来たるべき日を迎えていた。

 

 原作の開始。入学式はとうにすませている。

 

 カミーユの機嫌は最高に良かった。入学式が始まる前は気負いもあり、どこかピリピリした雰囲気を纏っていたが、今はある程度肩の力を抜いてリラックスしている。

 

(いやー! 新入生代表のルークライト王子かっこよかったな! ほんとに同じ人間かよ。光の粒子が見えたね。イケメン爽やかオーラが、後方の席にまで届いてきたわ! あのイケメンがルートによっては闇堕ちして、入社3年目みたいな顔をするもんだから、人間てのは分からんよな)

 

 

 ルークライトはアメリア王国の第一王子だ。

 ゲームにおける攻略対象の一人でもある。

 

 

 入学式では、王子は初めゲームに出てくるキャラクターを何人も見る事が出来た。しかし、肝心の主人公とシリウス様を見つけることはできなかった。

 

(まあシリウス様入学式サボってるからな)

 

 

 カミーユは一人学園に併設された貴族寮に移動する。

 

 貴族寮とは、読んで字の如く貴族出身の生徒の為に作られた寮である。平民出身の生徒の為の寮もあるが、そちらよりも遥かに設備が良い。

 

 

(さーて。そろそろ原作のイベントが起きるぞ!)

 アンナは貴族の血をひいているが妾の子である。それが一部の令嬢の癪に障ったのだろう。

 

 『ここは貴女がくるような場所ではなくてよ』とかなんとか難癖をつけ始めるのだ。

 

(意地悪な貴族のお嬢様方に絡まれたアンナ。そこに、たまたまシリウス様が通りかかって助けるんだ。いや、本人的には助けたつもりなんかないんだが…。本当は道を聞きたかっただけなんだが。ぶっちゃけ本人的には迷子で困り果ててるからな)

 

 なにせ学園で迷って入学式をサボった男だ。方向音痴は筋金入りである。

 

(で、シリウス様にアンナは平民寮への道を教えてやる。2人が別れた後に、カミーユ・ゴールドローズはアンナに声をかける。これが原作の流れだ)

 

 脳内でこれからの流れをシミュレーションする。

 

(お、ここだな。おお、すげー。原作のCGと同じ風景だ)

 

 階段途中にある踊り場が目的の場所だった。

 そこでカミーユはアンナがやってくるのを待つ。

 

 が、

 待てども待てども彼女はやってこない。

 

(あれ? こないなぁ。といっても原作でも正確な時間とか書かれてないしなぁ)

 

 

 

「――――あら、ここは尊い血筋のみが住まうことを許された貴族寮ですわよ。なのに何故、鼠が紛れ込んでいるのかしら?」

 

 尊大で他人を見下した口調。

 

 声の方向を向くと気の強そうな少女が立っていた。背後には2人取り巻きが立っている。

 

(原作で聞いた声のままだ!)

 カミーユは歓喜する。が、肝心のアンナは何処にもいないし、意地悪な貴族令嬢たちは明らかにカミーユの方向を見ている。

 

 カミーユは念の為、自分の後方を振り返る。やっぱり誰もいない。自分の顔を指さし『わたしですか?』とジェスチャーする。

「貴女以外に誰がいるのかしらっ!!」

 

 怒られた。

「いや、人違いですよ」

 自分はアンナではない。

「貴女であっていますわっ!」

 

(……これはどういう事だろうか)カミーユは混乱していた。

 

「貴女……わたくしを馬鹿にしていますの? ゴールドローズ家の長女でしょう? あの成金一族の」

 

 成金一族。ゴールドローズ家を貶める際に使われる言葉だ。ゴールドローズ家はカリオストロの代まで明日の生活に困窮するほどの貧乏下級貴族だった。

 

 しかし、領内から金鉱が見つかったことにより一気に生活は潤った。また、金山から得た資金を元手に今は亡きゴールドローズ夫人が商会を開き、莫大な富を築いたのだ。近年急速に力をつけたゴールローズ家を妬む者は多い。目の前の令嬢たちもそういった手合いなのだろうと、カミーユは当たりをつける。

 

 しかし、

(やっぱりおかしいだろ。どうして俺がこのポジションにいるんだ!? ここで貴族たちに囲まれべきは主人公のアンナなのに!?)

 

 カミーユは青い顔をして唇をぎゅっと結ぶ。それは第三者から見れば、虐められる可哀想な女の子にしか見えなかった。

 

 だから、

 

「――――感心しないな。そういうのは」

 

 そこに救いの手が現れるも、きっとおかしな話ではないのだろう。

 

 コツコツと、ブーツを鳴らしながら彼女はカミーユたちの元まで歩いてくる。

 

「あ、あなたは……! なんですの!? 文句でもあるんですの!? わたくしはこの物を知らぬゴールドローズ家令嬢に貴族としての礼儀を教えていただけですわ!」

 

「そうかい」

 

 言いながら、『彼女』は距離を詰め続け貴族令嬢を壁際に追い込んだ。

 

 

「っ!? なんですの!? やりますの!?」

 

「まさか。ただ、キミにはそんな顰め面よりも、笑顔の方が似合っている。そう思っただけさ」

 

「んなっ!?」

 

 貴族令嬢の顔が真っ赤に茹で上がる。

 

「うん? あはははは! ごめん、今のは取り消すよ。笑顔よりも、恥ずかしがってる顔の方がずっと素敵だ。うん、リビアの花のようだ!」

 

「きいいいいいい!」

「あらあら」

「まあまあ」

 

 そんな貴族令嬢たちと『彼女』を目の前にして、カミーユは混乱の極みにあった。

 

(……嘘、だろ。これは。一体どういうこと、だ。何が、どうすれば、こうなる?)

 

 余りのショックで立っていることすら困難になり、後ろに倒れこむ。そこは螺旋階段が続いていた。カミーユは下に向かって転がる――――ことは分かった。

 

「おっと。大丈夫かい?」

 

 とっさに『彼女』がカミーユの手を掴み自分に引き寄せたからだ。片手はカミーユの掌を握り、もう片方は腰に添えられている。まるでキスする2秒前のような態勢だった。

 

「………………………………キミは」

 

 カミーユの瞳を上から覗き込む『彼女』。

 

「おっと、失敬。余りに可愛いお嬢さんだってでね。つい、見とれてしまった。とはいえ、不躾だった。許してくれ。ボクの悪い癖だね」

 

 

「あ、あの」

「うん?」

「離してください。お、重いでしょう?」

 

 出来得る限り異性との肉体接触を控える。それは彼が己に課したルールの一つ。混乱の極みにあるからこし、カミーユの口は自然と自分に課した強固な掟に従っていた。

 

「ふふ。そんなことはないよ。羽のように軽い。とはいえ、嫌がる女の子を無理やり腕の中に閉じ込めておくのも紳士的ではないね。その林檎のように真っ赤に染まった愛らしい顔をもっと近くで見たかったって本音はあるけどね」

 

 呼吸するように口説かれた。その様子を見て貴族令嬢が歯を食いしばる。

 

「きーーーーっ! 誰にでもそんな歯の浮くようなセリフを言うんですね! アンナ(・・・)・ランスロット!」

 

「――――――――――誰?」

 

 本当に誰なのだろう。

 

 この桃色の髪をポニーテールで束ねた長身の少女は。

 

 制服の上から外套を袖を通さず、肩からひっかけるその姿は様になっている。一応スカートをはいてはいるが、デニール数の高いストッキングを着用し肌色は見えない。

 靴はどういう訳かローファーでもヒールでもなく、脹脛まで覆う革の軍用ブーツだった。

 

 男子からも人気は出るだろうが、それ以上に女子から人気がでるであろうことが簡単に予想できる容姿。

 

 

「っ!? 知らないんですの! 王国剣技舞踏会にて史上最年少で優勝し剣聖の称号を賜った『あの』アンナ・ストレイ・ランスロットを!? 王都を恐怖のどん底に突き落とした『ブラックレイン事件』を解決に導き、爵位を賜ったあのアンナ・ランスロットを!? 宮廷騎士団の指南役を務めるあのアンナ・ランスロットを!?入学初日にも関わらずもう学園ではもうファンクラブが結成されてるんあのアンナ・ランスロットを!? 今、王国で一番ホットで熱いあのアンナ・ランス――――」

「ごめんなさい、私が悪かったです!!!!」

 

 いい加減認めよう。今自分に微笑みかけているのは『聖☆剣物語』の主人公アンナだ。

 

(王都の方で凄い剣士がいるって話は聞いてたけど、それがアンナだなんて思わないだろっ!? おまけに廊下の角に隠れてこちらの様子を伺ってるのはシリウス様じゃないか!? なんかブツブツ言ってるし!?)

 

 カミーユは銀の髪の美男子を視界の隅に捉える。

 

「………奴だ。奴がいる。どうしてこんなことに……。父上、申し訳ありません。私は次の夏休み、実家には帰れないかもしれません。土の中にいるかも……ブツブツ」

 

 シリウスはなぜか青い顔をしてガタガタ震えていた。

 

(……本当に、意味が、分からない)

 

 誰か教えて欲しかった。

 

 

 

 

(――――遂に見つけた)

 

 アンナ・ランスロットは歓喜した。

 

 言っても誰も信じてくれないだろうが、幼い頃アンナは魔族に襲われた経験がある。助けも呼べない森の中での出来事だった。

 

 しかし、救い手は現れたのだ。

 

 金の髪を持つ仮面をつけた少年。

 その日以降、寝ても覚めても『あの少年』のことが頭から離れない。

 

 あの金の髪。

 あの太刀筋。

 

 ―――美しかった。これまで見た何よりも。これから見るであろう何よりも。

 

 きっと己は恋をしたのだ。そう理解した瞬間、アンナの進むべき道筋は決まった。あの金の少年が何処かの誰かは分からない。

 

 だけど、いつか見つけて見せる。追いついてみせる。その決意を胸にひたすらに剣を振り続けた。

 

 そうして、ようやく再会の時は訪れた。少し雰囲気が変わっているようだが、見間違えようもない。

 

 

 あと、実は女の子だったようだが、そんなのは些細な事である。

 

 

 

 

(遂に見つかってしまった)

 シリウスは絶望した。

 

 幼いころ、彼は神を見た。

 死神を、見た。

 

 数年ほど前から外界に出た魔族が消息を絶つ事件が頻発している。詳しい原因は明らかになっていないが、魔族の多くは外界での活動限界が訪れたにも関わらず魔界に戻らなかったために肉体の消失が起こったのだと考えている。

 

 しかしシリウスは確信していた。

 

 一連の事件は死神の仕業であることを。幼い頃、シリウスが出会ったあの美しくも恐ろしい金の死神が魔族を刈っているのだと。

 

 あれから自分も強くなったが、あの日の死神に勝てるイメージは微塵も湧かない。それでも、死神と再会することはなかった。

 

 だけど、今日ついに死神に見つかってしまった。あの日と違って仮面をしていないが自分が見違えようもない。

(あっ。今、目があった)

 

 気づけばシリウスの身体は回れ右をしていた。とにかく全力で奴から離れるのだ。

 

 

 アンナは歯の浮くようなセリフを自分にかけてくる。シリウス様は何故か、こちらから逃げるように回れ右して廊下を全力ダッシュしている。

 

(――――どうしてこうなった!?)

 カミーユの物語は今まさに始まったばかりである。

 

 

 


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