86−エイティシックス 戦争が生んだものとは 作:梅輪メンコ
「火力拘束、面制圧仕様各機、照準補正!」
続けてヴィーカの司令が飛ぶと。それぞれ指定された場所へと砲撃をし始めた。
タダでさえ小型な部類の攻撃子機型は熱線を打つ為に莫大なエネルギーが必要になる。エネルギーパックを交換する時間もない。その為、どこか有線でつながっているのだろう。その証拠に、火炎放射器で燃えている部分から攻撃子機型は離れていた。指定された場所にミサイルや砲撃が加わり、火炎放射で焼かれた攻撃子機型を続々と撃破していた
火炎放射器の燃料が尽きかけた頃。ついに電磁加速砲型の回転機関砲がーー実に三対二十四基のガンマウントアームを剥き出しにした
それに気づいたジャガーノートは榴弾を放ち二対を、狙撃仕様のジャガーノートが格子の奥に潜む八基を吹き飛ばした
榴弾の炸裂にコブラのエネルギー弾、攻撃子機型の誘爆炎。
電磁加速砲型のセンサーは塞がれた。転瞬、その爆炎を抜けてアンダーテイカーが駆け抜けた。頂上階の底面を高周波ブレードで切り開くとついに頂上階に到達した
機械仕掛けの亡霊の断末魔は二つ。いずれも電磁加速砲型の中からだ。おそらくは制御中枢と、自由度の上がったガンマウントアームと回転機関砲。おそらくこの二つ用のサブのサブ中枢。
壊れたオルゴールのように鳴り響く思惟、その怨嗟と呪詛を繰り返していた
帝国万歳、帝国万歳、帝国万歳ーー・・・
エルンストの予想通り、旧帝国の帝室派の残党
切り開いて躍り上がった位置は電磁加速砲型の至近。30mもの砲身では例え砲が無事でも死角が存在する。砲塔の後ろに二対、天には向かうように広がる放熱索の翅が崩れる。バラりと解けて近接格闘用の導電ワイヤーと化し、先端の鍵爪を雪崩のように落とそうとする。
電磁加速砲型が自身を守るための最後の切り札
だが、一度見た攻撃はシンには通用しなかった
解けて直ぐ、天を突くように広がった形だ。アンダーテイカーとは少し距離があった。その距離を詰めるよりも先に砲兵やコルーチクの放った榴弾と火炎放射で燃え上がらせた。通電能力の失ったワイヤーはシンがブレードを当てて叩き落とし、メンテナンスハッチの上へと着地させる
一年前、フレデリカの騎士が潜んでいた場所に・・・
振り落とそうと暴れる姿はムカデが酸をかけられた時に似ていた。シンは兵装を57mmパイルドライバに変更、4基同時に爆発。激震に歯噛みしながらも兵装を今度は主砲に変更し。
トリガを引いた
悲鳴のように電磁加速砲型が仰け反り、一瞬硬直をすると一部が溶け落ちた砲身を旋回させた。
「チッ・・・」
シンはパイルをパージし、避けると電磁加速砲型かの背から飛び降りた
『外した・・・か』
シンはアンカーを引っ掛けながら電磁加速砲型を見た。
どうやら破壊したのはサブ中枢の方らしい。明るい空に嵐が去ったことを認識した。荒れ狂っていた波や風は一応の和らぎ、夜が明けていたと気付けるほどに薄くなった雲。
その空を背景に、電磁加速砲型は佇んでいた。
折れた砲身に流体金属が湧き出す。
上空の風は強いらしい。速度を緩めていた黒い雲が散り、青い色彩の鮮やかな紺碧が顔を覗かせていた
ジョージ達が残りの制御系の破壊を試みようとした時。その蒼穹が一変した
「っ!?」
その眩い光にギンガのスクリーンは一瞬真っ白になった。音もなく発せられたその光線は恐ろしく長く、けれど刹那の無音の後、唐突に光は消え、白くくらむ空が残っていた
鋼鉄で組まれた要塞の頂上。第E層丸ごと焼かれて陽炎が立ち上らせていた
『な・・・』
「電磁加速砲型がーー!」
「何だ、ありゃ・・・」
飴細工のように折れた砲身。爆発反応装甲も意味をなさずに脱落し、光学センサーも起動せずに擱座していた。当然嘆き声も聞こえなかった
「なーー・・・」
「砲光種・・・!よりにもよって!」
イシュマエルが呻いた。そしてレーナの問う目を見返す事なく独り言ともつかぬ口調で続ける
「原生海獣の中でも一番でかいやつだ。戦闘機でも爆撃機でも。ああやって、レーザーで撃ち落としちまう。レギオンだって真っ向に勝負できない化け物だ」
「原生海獣・・・これが」
何千年と大陸を脱する事を拒み続ける生き物
イシュマエルは歯噛みしながらもソナーを確認した。
「ソナーには・・・まだ映っていないか。だが、確実に近くにいる。縄張りを侵されて威嚇に来たのか・・・。嵐によって霧ですら吹き飛んだこの時に・・・」
レーザーは水で拡散する。隣で航行するギンガなどの空中艦は霧で拡散しない為に今回の射撃は通常弾を使っていた。電磁加速砲型の砲身を破壊する為に撃ったエネルギー弾は通常よりもエネルギを3倍にして放った物だった。だから海底火山によって起こっていたと思われた霧はこの為だと知った。こうすればレーザー攻撃を受けないからと
「嵐を・・・奴らも待っていたのか」
イシュマエルはレーザーの飛んできた方角を見ながら呟いていた
「ジョージ、大丈夫!?」
頂上階付近にいたジョージはギンガとつながっている生体反応が途絶え、まさかと考えていた。すると切れていた生体反応が復活すると返事があった
『司令・・・聞こえていますよ』
「ジョージ!良かった。無事なのね」
『ええ、直前に飛び降りて正解でした。じゃなければ吹き飛んでいましたよ』
そう言うと通信が切れた理由はレーザーは攻撃による強力な電磁波の影響だと説明すると少し満足そうな声色で言う。
『まだ自分は死ぬわけにはいきませんから』
そう言うとさっきの砲光種の攻撃と攻略中に無人機部隊の殆どが撃破された事を伝えるが、ジルは問題ないと言い。ジルは突入隊回収の為に僚艦のドレッドノート二隻と共に第D層にいるジョージ達の回収に向かった
「しかし、原生海獣があんな怪物だとは・・・」
回収の為にジルは飛行を開始した時。水平線上の、光学カメラにすら映らない遠い場所を見ていた。そして、第二の目標である制御中枢は恐らく焼け焦げたと思って良いだろう。そう思うと電磁加速砲型から銀色の流体金属が垂れていくのを確認した
「海に落ちた・・・墜落したのか?ーーいや」
知覚同調に絶叫が響く。機械仕掛けの亡霊の断末魔の声。
鉄色の巨影が浮上。一対の槍のような鋭い剣尖が海を割る。30mはあるであろうそれはグワリと伸びてジャガーノート達のいる第D層をーー
滴り落ちた流体金属。30mの一対の槍状の砲身、要塞を登る最中に聞こえた声!
「司令!離れて!総員降りろ。下から来るぞ!」
転瞬。
視認など不可能な砲弾が駆け抜ける。800mm秒速8000mのエネルギーを持った砲弾は簡単にドレッドノートを中央から真っ二つにへし折った。
真っ二つに折れ、炎を撒き散らしながら堕ちていくドレッドノートにジルは驚愕していた
「何ですって!?」
『警告!ドレッドノート轟沈。反応無し。下からの攻撃です!』
「全艦、全速退避!波動防壁展開!直ちにこの場から離れる。突入隊。直ちに降りて!」
『了解』
ジルの司令にジョージは生体反応を確認し、生き残っている人を探し、コブラの予備席に乗せると全員が第一層に退却していた
刃のような艦首が飛び出す。空中に晒される艦底に、折り畳まれた脚。艦首近くに四対並んだ光学センサ満載排水量10万トン。ギンガに匹敵するほど巨大な巨軀が、次の瞬間海面へと雪崩れ落ち、猛烈な水柱と轟音を立てた。
装甲の鉄色に輝く上部甲板と舷側。一部は艦首と艦尾に、多くは装甲中央付近にずらりと砲身を煌めかせる40mm対空回転機関砲。両艦舷に並ぶ、155mm電磁加速速射砲。数基ずつの対空砲で速射砲を守りつつその射線を確保する為に階段状に折り重なって配される。
そして天守閣のように聳える二つの砲塔と、そこから伸びる一対の、全長30mもの槍状の砲身。この巨体の上にあってなお遠近感が狂って見えるーー
二門もの、800mmレールガン。
こちらも射線確保のためだろう。艦尾側と艦首側で15m程の差があった。海面から甲板までの高さはギンガと同じものの、艦橋最上階までの高さなら上回っていた
誰かが呻く。呆然と
『なに、これ・・・!?』
『まさかこいつもーーこの船もレギオンなのか・・・!?』
甲板上から海水が流れ落ちる。ざあ、と二門のレールガンの砲塔から銀糸が伸びる
砲口径はインチ派か。センチ派か
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インチ派
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センチ派