ぼくがかんがえた架空のNARUTOにおける絵本概念   作:匿名希望

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ぼくがかんがえた架空のNARUTOにおける絵本概念

 夕方から夜へと向けての、一日が終わろうとするこの時間帯が、ナルトは嫌いだった。

 できるだけ夕方になる前に、物心ついた頃から生活しているアパートの一室に戻ろうと努めていた。

 ただでさえ嫌悪を以て避けられると言うのに、その時間帯は、自分と同い年の子供達が親に探され手を引かれる場面が、あちらこちら、当たり前のように散らばっているのだから。

 みんなが当たり前のように持っているものを、自分だけが持っていない孤独に居た堪れなくなるから。

 

 

 

 

 カップラーメンを食べ終えて、歯も磨いて、お風呂もカラスの行水だけど終わらせて、あとはベッドに潜るだけ。

 けれども、ベッドに到着する前にとナルトは本棚を漁る。その容量の割には数冊だけ雑に放り込まれていて、がらんとしている。申し訳程度に置かれている書物とて、殆ど読まれておらず新品同然。

 そんな中で、たった一冊だけ、読み込まれている書物が────と言うか、絵本があった。

 

 本棚に並ぶ、何冊かの書物。後にして思えば情操教育の一環なのだと納得できる、絵本ばかりが並ぶ棚の列に置かれていた、その中の一冊。

 それを手に取った発端こそ何の意味もない偶然だったが、二回目以降は必然だった。己の人生の指針にせんとばかりに読み耽る程の、必然だった。

 

 

【二代目火影 千手扉間】

 

 

 それは、初めて読んだ時から、毎日のように、夜に眠る寂しさを紛らわせるように愛読し続けている、二代目火影の生涯を綴った物語だった。

 絵本と称するには絵よりも文章に比重が置かれており、絵物語に近いのが実態だった。物心がついた頃に触れるには難易度が高く、かと言って絵物語寄りとは言え詰まる所は絵本なので、忍者学校(アカデミー)に入学するような歳になってまで読むには幼稚だ。

 尤も、ナルトには、年齢にそぐう書物を改めて与えたり、忍者学校(アカデミー)に入学したのだからと取り上げて窘めるような保護者は居ない。

 だからこそ、こうして毎晩のように、いつの間にか寝落ちするまで読み耽るのが習慣化していた。

 

「……んあ?あちゃあ、途中で寝ちま、ってああああ!!!」

 

 窓から朝の日が差し込み、その眩しさで目を覚まし、瞼をこすっていたナルトは絶叫した。口を開けたまま寝ていた所為で、読んでいたページが涎を吸って汚れてしまっていたのだ。

 

「たったたた大変だってばよ!買い替えたくないってのに!」

 

 ベッドから転げ落ちそうになりながら箱ごとティッシュをひったくり、無駄になるくらいティッシュを大量に引っ張り出して、それで涎の痕跡を一生懸命に拭き始めた。

 ナルトがこうも焦っている理由は、幼い頃より大切にしている物を汚してしまった焦燥感もあるが、先程の発言通り、できれば買い替えたくないのだ。

 

 

 この絵本は、二冊目だ。

 一冊目は、絵本を読みながらカップラーメンを食べていた時、うっかり汁をぶちまけてしまって台無しにしてしまった。

 その後、一日三食を二食に減らす等して生活費をやりくりして貯蓄した。成長期の子供がするべきではないやりくりの仕方だったが、そもそもにおいて、それを指摘してくれる保護者が居てくれれば、そこまで絵本にどっぷりと浸かったりしていない。

 一冊分を買えるだけのお金を握り締めて、当時のナルトは本屋へと走ったのだが、そこで嫌な思いをした。

 訳もわからず迫害されているとは言え、買い物自体はできる。実際、できた。できたのだが。

 

 レジまで持って行った時の、対応していた店員の目。口。

 子供とは言え大きくなった身でありながら絵本を購入しようとしたナルトの、その幼児性を嘲笑していた。

 

 それに委縮して、思わず、言い訳のように間違えたと苦笑しながら、絵本を元の棚へと戻して、全く興味のない別の書物を購入してしまった。

 当然、帰ってから頭を抱えた。こんな物を買う為にひもじい思いを我慢してまで貯蓄した訳ではないのだから。

 その後悔が頭の中を占めて、その晩、なかなか寝付く事ができず、とうとう、衝動的にアパートを飛び出し、あの本屋へと戻った。

 まだギリギリ閉店時間ではない筈。嫌そうな顔をされるだろうし、もしかしたら相手にもされないかも知れないが、それでも、どうにかこの本を返品して、改めて、あの絵本を……。

 

 そう考えていたナルトは、打ちのめされた。

 それは、到着した時、既に本屋が閉店していたからではない。だから、店員から直接何かをされた訳ではない。

 それでも、ナルトは打ちのめされた。

 

 間に合わなかったと肩を落としながら帰ろうとしたナルトは、ふと、本屋の脇の路地裏に視線を遣り、目を見張った。

 本屋に隣接されている、蓋がずれている青いポリバケツ。ゴミ箱だった。既に中身がパンパンに詰められていたポリバケツ内へと無理矢理挟み込むように、絵本が捨てられていた。

 なぜ、あの絵本が捨てられているのか。その理由を察して、ナルトは堪らなくなって、近寄り、その絵本を拾い上げた。

 

 自分が触った物だから捨てられた事が悲しい──のでは、ない。

 それだって悲しいが、それよりも深い悲しみが胸の奥から湧いた。

 この本は、本屋の店員の手で捨てられた。

 自分が幼稚だと嘲笑されるのが辛いからと、恥ずかしいからと、見捨ててしまったせいで、こんな無残な有様になっている。

 

 たかが絵本に対するものにしては、情緒はあり得ない程に膨らんで、滅茶苦茶にされていた。

 この場に誰かが居れば、たかが絵本の為に泣いていると嘲笑された事だろう。

 しかし現実には、この場にはナルトしか居なかった。本屋のゴミ箱から絵本を拾ったナルトを泥棒呼ばわりするような人すら存在しない、ナルトだけの孤独な空間だった。

 それがまたナルトを罪悪感で苛んだ。

 ならばこそ、自分がこうして通りがからなければ、この絵本は明日にでもゴミ収集所へと送られていただろうから。

 

 あの時、恥ずかしいとか馬鹿にされるとか、そんな事に構わず、買っていれば、こうはならなかったのに。

 

 たかが絵本に感情移入し過ぎだった。

 しかし、ナルトにとって、その絵本は、苦境でも諦めずめげない人物を描いたその物語は、希望だった。

 孤独で迫害されていた少年が、皆から認められて火影となる。

 同じく孤独で迫害に晒されているナルトにとって、希望にならない筈がなかった。

 

 だからこそナルトはその絵本を回収した。幸いにも絵本の消失が発覚してナルトが疑われるなんて胸糞悪い事態にまでは発展しなかったが、それを幸運だと思えるだけの余裕はなかった。

 一冊目の、ラーメンの汁で零してしまった絵本は、悩んだ末に捨てた。本当にごめんなさいと一生懸命に謝りながら、捨てた。

 故に、二冊目は、駄目にしてはならない。駄目にしたとして、買い替えたくなかった。

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 忍者学校(アカデミー)を卒業してからも、第七班に編成されてからも、ナルトは絵本を読み続けた。任務に出かける際は紛失してはまずいから流石に持ち歩かず、帰れぬ夜は頭の中で内容を諳んじた。

 

 ただ、自来也の下でみっちり修行を付けられていた間だけは、絵本を持参した。

 ナルトが夜毎にその絵本を読んでいても、自来也は何も言わなかった。

 

 いや。厳密には、最初の日の夜こそ何か言いたげに口を動かしかけたが、その絵本の年季が入った読み込み具合を感じ取り、放とうとしていた内容を噤んだのだ。

 

 

 

 

 

「おい、ナルト、…………」

「……ん?なんだってばよ」

「…………随分、読み込んどるな」

 

 好きなのは知っておるが、まだ読んどるのか、それ。

 

 その苦言を自ら封じた後、自来也は代わりに質問を投げかけた。うつ伏せ寝しながら絵本の頁を捲っていたナルトは目を輝かせながら、「おう!」と相槌を打った。

 

「ずーっと、ずーっと、読んでるってばよ!」

「毎晩か?」

「ああ。何度読んでも飽きねぇからな!っつっても、任務で出かける時は持ってったりしねぇけど」

「なのに、今回は持ってきたのか?」

「だってよ、何年も読めないのは辛いってばよ」

「……そうか」

 

 苦言を封じて正解だった。そもそもにおいて、こうして自来也の前で堂々と絵本を開いている時点で信頼されている証だ。それを裏切らずに済んだ。

 自来也はそう確信しながら、「邪魔になるかも知れんが、もうちっといいか?」と更に質問を投げかける。

 

「二代目様がそんなに好きか?」

「そんなの当たり前だってばよ」

「そうか、そうか。道理で」

「ん?」

「いいや。お前が綱手に激怒した時のことを思い出してな」

「うっ、…も、もう、やめてくれってばよ。あの時、怒ってる理由がそれぞれ違ってたのにバチバチしちまって、もーちょっと冷静だったらなぁ、って反省してるんだからよ」

「ははは。あの時はどうなる事かと冷や冷やさせられたぞ」

 

 二代目が存命だった頃を知る者として、自来也は感慨深そうに目を細めていた。

 幼い頃より迫害されていた少年が火影へと成りあがるサクセスストーリー。ナルトが好きにならない筈がない。むしろ、ナルトが火影を目指すきっかけになったと推察さえ可能だ。

 

 しかし、二代目が存命だった頃を知るからこそ、同時に複雑な気分でもあった。

 綱手が五代目火影に就任するのを拒んでいた時、二代目を特に腐すような物言いをしていたのは、彼女もまた二代目が存命していた頃を知っていたからだ。

 いいや。綱手に関して言えば、知っていたどころではない。彼女の祖父である千手柱間は、二代目と義兄弟の契りを交わしていた。その関係で綱手は本人と面識があり、大層可愛がって貰えていたと聞く。

 

 だからこそ、ナルトが綱手と初めて会った時は、本当に大変だった。

 綱手が『何が孤高の英雄だ、馬鹿馬鹿しい』と口走っていたのは、等身大の大叔父を知るが故。プロパガンダに利用され、実像とは乖離した人物像が罷り通っている現状を唾棄していたからだ。

 あの時の綱手が、絵本から二代目を知ったと語ったナルトを鼻で笑ったのはそういう事情が背景にあった。絵本という柔らかで幼いイメージで包められたその物語は、綱手にとっては忌々しいイメージ操作の象徴だったからだ。

 とは言え、さすがに大人げないんじゃないかと同席していた自来也は眉を顰めたものだが、そんな懸念が吹っ飛ぶ程に、その後のナルトの激怒は凄まじかった。綱手の事情を知らなかったナルトは、二代目本人を愚弄したと勘違いしたのだ。

 それから、すったもんだの末、和解し、謝り合ったのだが、何度でも言うが、あの時は本当に大変だった。仲裁役にならざるを得なかった恨み節を込めて、何度でも溜息を吐きたくなる。

 

「本っ当になあ、全く、ワシゃあの時、どんだけなあ」

「わー!わー!!!続きを読むから!もう終わり!お終いってばよ!」

「……ったく。そうだな。これ以上は邪魔せん」

 

 実際本当に溜息を吐きながら愚痴ろうとしたら、ナルトが顔を真っ青にしながら手をぶんぶんと振り、慌てて視線を絵本へと落とした。焦り過ぎる余り、パニックになりながら、読めてもいないのに次々とページを捲っていた。

 

「(はあ。ナルトの気持ちはわかるし、かと言って綱手の気持ちもわかるし。これが板挟みって奴かのう)」

 

 絵本とは、後世に希望を伝える物語だ。

 ならば、絵本として整える際、取り除かれた要素とは。その闇とは。

 

 尤も、それを、絵本に希望を見出す者を前にして、わざわざ口にするのは野暮というもの。

 

 それに、ナルトとて馬鹿ではない。

 明るく振る舞ってはいるが、もうとっくに気づいているのだ。

 それでも信じたいのだ。

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 髪の色が皆とは違うという、自力ではどうしようもない身体的特徴で迫害されながらも、遂には認められた英雄譚。

 無邪気だった幼少期、そう信じて疑わなかった。

 だからこそ、歴史を紐解いて客観的事実を知った時、ナルトの失望感は凄まじかった。

 

 それでも、今でも、絵本を部屋に置き続けていて、今でも夜毎にページを捲っている。幼い頃より愛読し続けたのだから、劣化は激しい。

 かつてのようにワクワクしながら読み進める事ができず、真冬の夜のように静かで凍えた心境にも拘わらず、それでも。

 この絵本を入手した経緯を思えば、捨てるなんてできないけれども、それでも、もう読まないという選択肢があるのに。

 

 習慣としてすっかり根付いてしまったからか、それでも、読む為に捲る手を止められなかった。

 

 綺麗に整えられているだけで、この憧れの人は、失意の中で亡くなったのではないかという恐れ。己が人生の目標にし続けたが故、認めれば、自らの人生まで根底から引っ繰り返されそうだった。

 もし、この恐れが、真実だったとするなら。自分が信じてきた希望とは何だったのか、と泣きそうにさえなる。

 

 それでも、それでも。

 それでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たに編成された、新第七班。

 サスケの代わりにと補充されたのは、暗部に所属していたサイという少年だった。根の出身だけあって感情を殺す事に長けているようだが、同じ根の出身であるヤマトですら目を覆いたくなる程に協調性が欠けていた。

 サスケの穴埋めだと抵抗感を覚えていたナルトや、サスケの客観的事実を指摘されて激怒したサクラにも問題はあるが、サイもサイだ。散文的では済まないストレート過ぎる物言いは、例えナルトやサクラが最初から好意的だったとしても軋轢が生じていただろう。

 絶望的なチームワークに見兼ねる余り、ヤマトは三人を引き連れて温泉へ向かった。互いを知り、少しでも溝が埋まればという淡い期待によるものだった。今すぐには改善できずとも、そのとっかかりになれば、と。

 

「サイ、絵本に興味あんのか?」

 

 なので、温泉から上がって、サクラが女湯から上がって来るまでの間、当然ながら待っていようという話になり。

 休憩所にて腰を下ろしたサイが自らの荷物の中から手作りの絵本を取り出し、何をするでもなくぼんやりと眺めている所へと、ナルトが意欲的に声掛けしたのは、ヤマトの期待を僅かでも膨らませた。

 

「ううん。興味はないよ。ただ持ってるだけ」

 

 しかし、その期待をすぐさま萎ませるような、サイの断言。それでは会話が続かない。断ち切られてしまう。

 短時間で二人の関係が改善するのを期待するのは楽観的過ぎるとは言え、もう少し何とかならないものかとヤマトは表情を変えずに心中で溜息を零す。

 

「持ってるだけで、元気になるようなもん、なのか?」

「……?」

 

 が、何と、意外にも、ナルトがまだ食いついていた。しかも、サイをカカシ班の新たな一員とは認めないと断言していたのに、質問の内容が好意的に寄っている。

 サイの方も理解し難そうに首を傾げていた。

 

「さっきから、何が言いたいの?ナルトくん」

「いや、ただ、お守りみてぇなもんなのかな、って思っただけで」

「違うよ。さっきも言ったけど、ただ持ってるだけ」

「……何か、意味があるから、持ってるんじゃねえの?」

「どうしよう。ナルトくん、ボク達は今、会話をしているんだよね?しているはずだよね?なのに全く会話している気がしないんだけど」

「っ、だぁ!わかった、ズバッと言ってやるってばよ!」

「最初からそうすればいいのに」

「ちょっと恥ずかしくて……い、いや!恥ずかしくねぇし!だから言ってやるし!」

 

 何がどうして、サイが絵本を持ち歩く意味に固執するのか。サイだけでなくヤマトも疑問だった。

 ナルトは恥ずかしそうに顔を赤らめたかと思えば、恥じる自分を恥じるという二重状態に陥り、頭を両手でがりがりと掻いた。

 

「俺さ!好きなんだよ!絵本が!」

「へえ、そう」

「もうちょっと反応しろよ!ガ、ガキっぽいって笑ってもいいんだぞ!俺はそういうの全然平気だし!」

「ナルトくんが何を好いていようが、ボクには関係ないよ」

「てっ、てめー!ただの絵本だと思うなよ!あの二代目火影の大スペタククル、いや、じゃなくて、大スペクタクルなんだからな!」

「────、二代目火影の、絵本?」

「!お、おお!そうだってばよ!知ってんのか?」

「知ってるよ」

 

 何と。サイも食いついてくれた。ヤマトは密かに驚き、感動していた。

 

 ナルトが好きだと豪語する例の絵本は、政治的意図が大いに絡んでいるとは言え、その知名度は里でも随一だ。

 確か、三代目火影が主導となって作成した絵本の第二弾だ。小難しい書物ではなく絵本という形態にこだわったのは、小さな子にも偉業がわかり易いようにという意図だったが、結果としてそのわかり易さは知名度に貢献した。

 現在では、第一弾の初代火影の物語を差し置いて有名だ。何せ、美談として完成度が高過ぎた。何なら他里にも知られている。

 

 尤も、だからこそ、いざその人生を歴史書を辿って調べ始めると、度肝を抜かされるのだが。一部では、絵本詐欺などと嘆かれている。

 

「俺、ガキの頃からずーっと読んでてさ。まあ、今は、実際には絵本みたいに何もかもが上手くいってたんじゃねぇって、わかってんだけどさ」

 

 ナルトもどうやらそれを理解しているらしい。幼い頃より好む美談は、不都合な闇を排除して形作られたのだと。だからどこか歯切れが悪く、弁明めいた言い方になっている。

 

「それでも、好きなんだよな。だってさ、だって──」

「あれが好きだなんて、頭にウジでも湧いてるんじゃないの?」

「──…………、は?」

 

 場の空気が凍り付いた。

 

「確認したいんだけど、千手扉間の旧名がうちはトビラだってのは知ってる?」

「し、知ってるってばよ。絵本には描かれてなかったけど、歴史書には……」

「歴史書を読んだの?じゃあなんで好きなの。捨てなよ」

「なっ何言いやがるんだってばよ!」

 

 サイは基本的にストレートな物言いをするが、それは己の心に基づいて事実だと判断した事を淡々と述べているのであって、善悪を基準にしていない。尤も、それはそれでタチが悪いのだが。

 だからこそ、ヤマトは場の空気の豹変に危機感を抱かされながら、サイの言い方がサイらしくない事に強烈な違和感を覚えた。あまりにも露悪的だ。

 

「黒髪黒目ばかりのうちは一族に白髪赤目で生まれたものだから、ずっとずっと、白子だの鬼子だの忌子だのといじめられていた。目が弱いから強烈な光が苦手で、だからってわざと火遁の練習に付き合わされていた」

「……やめろ」

「大罪人マダラの反逆によって信頼が失墜した一族を守るべく、初代火影である千手柱間の義兄弟になり名まで改め、うちは一族は千手を裏切っていないと自ら体現し、死ぬまで里の為に尽くした。でも、そんな二代目火影を、うちは一族の人達は死ぬまで認めなかった。死んでも認めなかった。里は認めたけど、うちは一族は認めなかった。うちは一族は里の一員だという自覚が欠落している」

「やめろよ、サイ」

「次の火影に推薦してもらう為に媚びていただけだと陰口を叩かれて、いざ火影になればやっぱりそうだったじゃないかと勝手に納得され、それでも二代目火影はうちは一族を守り続けた。だというのに、うちは一族は恩知らず。ああ、そう言えば、自分の身体的特徴を自ら揶揄する悪癖があって」

「やめろっつってんだろ!!!」

「その通り。やめなさい」

 

 二人の関係を育むべく見守る、なんて言っていられなくなった。

 ナルトは最初こそ虚を衝かれた顔で唖然としていたが、次第に怒りで歪ませていき、とうとうサイの胸倉を引っ掴んで殴り掛かろうとした。それでも口を止めず、むしろよりすらすらと『感想』を垂れ流すサイは、相変わらずの能面だった。

 が、本当にナルトがサイを殴ってしまう前に、ヤマトは割って入る。ナルトの拳がサイの横っ面を叩き込まれる前に、無理矢理サイを引き寄せた。

 

「ヤマト隊長!そいつを庇うってのかよ!?」

「いいや。今から二人っきりの個人的指導に入る。だからナルト────それに、サクラ。抑えるんだ」

「っ、え?なんでサクラちゃんの名前……って、サクラちゃん!いつの間に!?」

 

 ヤマトが指摘して初めてナルトは、サクラが女湯から上がっていたのだと把握した。

 サクラはこの場にそぐわぬ爽やか過ぎる笑顔を浮かべながら、密かに右手の拳を握り締めていたが、ナルトに名前を呼ばれるや否やスッと表情を軽蔑に染め上げ、サイを睨む。

 

「あんた、サスケくんやナルトの好きな絵本が嫌い……って言うより、うちは一族が嫌いみたいね」

「そういうわけじゃ──」

「サイ。それ以上喋ったら舌を引っこ抜くよ」

 

 サクラに返事をしようとしたサイを一瞥し、脅す。それ以上喋らせれば、間違いなくサクラに拳を振るわせてしまうと察しての牽制だった。

 

「二人とも、ここで待機しているように。戻ってくるまで適当に寛いでてね」

 

 到底そんな事ができる精神状態ではないだろうが、それでもあえてそう言い残し、引き寄せたサイの首を胸と腕でがっちりとホールドしたまま、ヤマトはこの場を離れた。

 

 

 

 残されたナルトとサクラは、特にナルトは、沈痛な面持ちで項垂れていた。普段の饒舌さはどこへやら、片手で顔を押さえながら、たまに溜息を零してばかりだった。

 

「わかってんだってばよ」

「ナルト……」

「絵本のオッチャン、里のみんなから認められはしたけど、でも、そのみんなの中に、本当に認めて欲しかった人達が含まれていなかったこと。わかってるってばよ」

 

 沈黙を不意打ちで破ったかと思えば、ナルトは自虐し、自嘲していた。

 ナルトがやめろと叫びながら殴ろうとしたのは、具体的な反論ができなかったからだ。悪意的な曲解があったにせよ、歴史書の事実の通りの内容がサイの口から痛烈に放たれ、頭が真っ白になっていた。

 

「サイに言われた事、全部、図星……いや、違ぇ。サスケの一族をあんなに悪く言うなんて。でも、絵本のオッチャンを認めてなかったみたいなのも、事実で……あ、頭、痛ぇ」

 

 千手扉間。その旧名は、うちはトビラ。

 うちは一族の一員にして、大罪人マダラの実弟。

 マダラが犯した罪を禊ぐべく、初代火影だった千手柱間と義兄弟の杯を交わし、名を千手扉間に改め、以後、里の発展に尽力した。

 その生き様、そして死に様は里の殆どの者達から讃えられたが、うちは一族だけは蛇蝎の如く忌み嫌った。

 髪や目の色が違うからと差別しておきながら、名を変えれば途端に裏切り者扱い。

 近年でのうちは一族での扱いも、どうやら悪かったらしくて。

 なら、サスケは、どう思っているのだろうか。

 まだ第七班を組んだばかりだった頃、絵本を読んでいる事を知られても笑わなかったけど、実際はどう思っていたのだろう。サスケが里抜けしてから歴史的事実を知ってしまったものだから、確認できない。するのも恐ろしい。怖い。

 

 わかっている。わかってしまっている。

 絵本は、綺麗事を纏めただけだ。

 千手扉間は、いや、うちはトビラは、自らの生まれであるうちは一族から終ぞ認められなかった、悲劇の火影。

 かつて、綱手からもはっきりと言われたではないか。

 道半ばで倒れた大馬鹿者だと────今ならわかる。あれは嘲笑ではなかった。なぜ、あの時の自分は、あれを嘲笑だと誤解してしまったのか。自らの大叔父を思い、目や口を怒りで歪ませていたのに。

 

 二代目火影の物語の基となった当人の人生を、歴史書という残酷な形で突き付けられた。

 サイの暴言によって、改めて突き付けられた。

 二代目火影の人生を調べれば調べる程、迫害の事実ばかりが綴られた歴史書を捲れば捲る程、ナルトの胸中は纏まりを失っていった。

 

 そもそもにおいて、自分が信じていた、いや、信じたかった希望は、何だったっけ。

 火影になっても認めて欲しい人達から認めて貰えなかった悲劇やら、英雄だと信じていた、いや、信じたかった二代目火影は絶望の中で死んだかも知れない可能性やら、ナルトの頭の中でぐちゃぐちゃと巡り続けて全く纏まらない。

 

「しっかりしなさいよ、ナルト!」

「っ、痛ぇ!!!」

 

 いきなりサクラから背中を勢いよく叩かれ、その痛みで思わず背筋をぴんと伸ばす。

 

「い、いきなり、何すんだってばよサクラちゃん!」

「あんたねぇ!前に私に堂々と言ってたじゃないの!」

「前って……」

「私が、…その歳で、絵本を読んでるなんて、って、笑った時よ」

「そんなことあったっけ」

「あったわよ。……はあ」

 

 言われてからようやっと思い出したが、ナルトにとってはその程度の事だった。絵本を愛読していると言えばその幼児性故に笑われるなんて当たり前だった。

 だからこそナルトは、幼児性ではなく絵本自体を侮辱するサイの暴言に深く傷つけられたのだが。

 サクラは呆れたように肩を竦める。その眼差しが一瞬、自身の過去の言動を悔いて揺らいだのだが、残念ながらナルトは気づかなかった。

 

「『だって、絵本のオッチャンがカッコイイから』って逆に私を笑い返してた、あの頃のあんたはどこ行ったのよ!」

「あー、そういうこと言ってた記憶はあるってばよ。けど、あの頃は何も知らなかったし……」

「だから何よ!」

「え」

「なんであんたまで、他の人達みたいに二代目火影様を不幸だって決めつけてんのよ!」

 

 涙目になってまで怒るサクラに、ナルトは狼狽える。

 

「私ね、そのことを綱手様に話したのよ?そうしたら綱手様、他の人とは違うって喜んでいらしたのよ!」

「綱手のばあちゃんが?」

「そうよ!可哀想な悲劇の主人公扱いする人達とは違うって!」

「で、でも、絵本には、カッコイイ所しか、載ってなくて」

「絵本を読んだ人達の大半はね、可哀想って思うのよ!可哀想な二代目様って!」

「えっ!?」

「驚いたでしょ?ビックリしたでしょ?子供の頃の感性ってね、残酷で、平気な顔をして可哀想だって言い切れちゃうの。可哀想って言いながらも平気で読めるの。悲劇の英雄を、だからこそ面白いって!」

「なな、な、泣き止んでくれよ、サクラちゃん」

「ただ単純にカッコイイって思えるあんたの感想、実は少数派なのよ!あんたは他の人達とは違う、違うのよ、なのに……っ」

「サ、サクラちゃん……」

 

 そしてついに泣き出されてしまって、ナルトはますます狼狽えながらも、不器用ながらにサクラの背中をさすって宥めようとする。だが、逆効果だったのか、ますます泣かれてしまって、ナルトは途方に暮れた。

 

「悲劇だと思わなかったんでしょ?カッコイイんでしょ!?それでいい、それでいいのよ!他ならぬ、二代目様を直接知っておられる綱手様が太鼓判を押してくださっているのよ!」

「……綱手のばあちゃんが、そんなことを」

「そうよ!なのに、今のあんたは何やってんの!綱手様だけじゃなく、昔のあんたからも軽蔑されるような事を考えてんじゃないわよ!」

「…わ、悪かったって。だから、いい加減泣き止んでくれよ、サクラちゃん」

「泣きたくもなるわよ!いつの間にかナルトがこんなにもカッコ悪くなってんだから!」

「──」

 

 逆切れのように怒鳴られて、尚も泣かれて、しかしその内容はどうしようもない程にナルトの心に突き刺さった。今のナルトの心に、よく突き刺さった。

 とうとう滂沱の領域に達したサクラの叫びに、ナルトはとうとう何も返せなくなり、無言でひたすらに彼女の背中を撫で続けた。

 サクラが叫んだ通り、確かに、昔の自分に殴られた気分だった。

 

 歴史を紐解いて、幻滅した。

 現代に渡るまでうちは一族から裏切り者扱いされていたと知って、幻滅した。

 

 だったら、ならばこそ、当時を生きていた二代目火影は、一族が自分を決して認めてくれないという風潮を肌で感じ取っていた筈だ。

 それでも、頑張っていたという事になる筈だ。

 なぜ、頑張っていたのだろうか。

 なぜ、頑張れたのだろうか。

 

「(…………あぁ、そうか)」

 

 過酷な状況下でも、ずっと頑張り抜いた、凄い人。

 そうじゃないか。

 だから、小さい頃から惹かれ続けたのではないか。どんなに辛そうな状況下でもめげずに頑張る、その姿に励まされてきたというのに。

 いつの間に忘れてしまったのだろうか。

 火影になれば認められる、という、めでたしめでたしのカーテンフォールに気を取られ過ぎていた。

 絵本を読んでいる時、一番ワクワクしていたのは、苦境でも諦めずに頑張っている二代目火影の姿を眺めていた時ではないか。

 一番胸を躍らせていたのは結末では無く、二代目火影の歩き方、生き様だったではないか。

 

 ただ、自分の人生を、歩いているだけなのに。

 やれ可哀想、やれ哀れ、やれ悲劇だと寄って集って評価されては。

 きっと、あの人も困惑するだろう。

 

 会った事もないけれども、ナルトは、そう信じると決めた。

 例え、現実の二代目火影が失意の内に亡くなっていようとも、だからどうした。

 もしも会えた時、それがかの人の真実の姿だったとしたら、なんて事はない。ただ、こう言えばいいのだ。

 

「凄ぇよ、絵本のオッチャン。カッコイイ」

「っ、当たり前でしょ、バカナルト!」

「そうだな。ありがとうな、サクラちゃん。励ましてくれて」

 

 ファンだと公言しておいて、応援しなくて、認めなくて、どうすると言うのだ。

 

 それを言える日が来るとすれば、不吉だが死んだ後の事だろう。

 その時に、尊敬する人に情けない顔を見せながら悲劇の主人公扱いするなんて、本当に格好悪いではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、サイはヤマトから告げられた懲罰の内容に、無表情ながらに理解できずに固まっていた。

 

「読書感想文、ですか」

「そうだ」

「それがボクへの罰になるんですか?」

「ただ書くんじゃない。君が思った事を書くんだぞ」

「はあ……」

 

 二代目火影が主役の絵本について、読書感想文を纏める。

 それを御大層にも真面目な顔で告げられた。感情を殺す訓練を受け続けてきた身だが、あまりにも突飛で理解に苦しめられ、思考の速度が落ちてしまう。

 感情を殺せていると思い込んでいるサイは気づいていないが、その実、かなり困惑していた。

 

「さっきのあれ、君の感想じゃないだろう?」

「いえ。感想です。あの絵本に対する、あるべき正しき感想だと教わりました」

「……はあ。やっぱり」

「……?」

 

 サイ自身としては、何も間違った事を言ったつもりはなかった。当然だ。常識を口にしただけなのだから。

 しかし、サイが疑わない常識は、ヤマトを腑に落ちさせた。

 

「君自身が心からそう思ったのなら、僕もこんなお節介は焼かないけどね。違うだろう」

「……ボクがどう感じたか、というのは、問題外なのでは」

「いいや。大問題だ。君のそれはただの受け売りだ」

「それの、何がいけないのでしょうか」

 

 サイは心の底からそう思っていた。

 理由をよく思い出せないが死に別れた兄は残念ながら聞き分けが悪かったけど、サイは聞き分けが良かった。

 

 ダンゾウから密命を授かるにあたって、うずまきナルトや春野サクラに纏わる情報を資料として渡され、サイはその全てを網羅し記憶した。

 その中には、ナルトが三代目火影であった猿飛ヒルゼンによる情操教育の一環で、あの絵本を与えられたというプライバシーを無視した旨も記載されていた。

 たかが絵本、されど絵本の件がわざわざ記されていたのは、ダンゾウの執着に由来する。三代目火影やその他仲間と共に出版したのを今では後悔している、とはっきり断言された。プロパガンダに利用しておきながら後悔している矛盾に対して、サイは特に何も思わなかった。

 

 なので、サイは、むしろ親切のつもりでナルトに述べていたのだ。ダンゾウから直々に仕込まれた通り、正しい感想を。

 そんなサイの事を、ヤマトは、言葉に出す前からその眼光だけで間違っているのだと否定していた。

 

「サイ。あの絵本、読んだ事は?」

「あります」

「ないだろ」

「いえ、ありますって」

「読んだ事もないのに、読んだナルトの感想を批判するなんて、それ自体が失礼だ。ちゃんと読め。そして感想文を書け」

「……あの。聞こえていますか?」

「聞こえている。その上で答えている。文字が()()()のと()()のは違うからな」

「…………はあ」

 

 急に哲学を唱えられて、サイにはどうしようもなかった。ヤマトの意図がまるでわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 その後、サイは感想文を書くべく、堂々と絵本を購入し、任務中だろうがお構いなしに読み耽るようになるのだが、最初はただの情報の羅列としか思えなかった。

 絵本と呼ぶには文字が多過ぎて絵物語に近いが、それでも小さい子に理解させようという苦心が見て取れる。

 だが、だからどうしたのだ。

 二代目火影の人生は、歴史書を読んだ方がずっとわかるというのに。

 わざわざ、なんで、絵本という媒体で触れる必要があるのだろうか。

 

「ズルしてんじゃねぇぞバカヤロー!!!」

「……参考にしようとしただけだよ」

「ヤマト隊長から聞いてんだぞ!他人の又聞きで作品を語るような不届き者だって!それやっちゃいけねえヤツじゃねえか!」

 

 どれだけ読んでも大した思いを抱けない。兄の死と向き合って乗り越え、情緒を取り戻しつつある今でも、皆が口々に語るような心揺さぶられるような感慨を抱けない。

 絵本の感想を聞き回ってもまともに相手にされないので、二代目火影本人についてどうかという尋ね方をして回っているのだが、誰も彼もが似たり寄ったりだった。しかも、サイにはいまいち共感し辛い。

 そしてその現場をナルトに押さえられ、詰められていた。

 

「今吐け!てめぇあの絵本読んでどう思った!」

「文字数が感想文に書ける程の量に達してないよ」

「それでもいい!言え!!!」

 

 相当お冠だ。話が通じない状態になっている。

 サイは思案する。ナルトに見つかる前に聞いて回った、皆にとっての二代目火影を。感想に困ったからと他人からの情報収集をしておいて今更だが、確か、他人の又聞きで語ってはならないのだっけ。

 幸い、サイの感じ方は皆とは違っているようで(それが果たして良い事なのかはさておき)、被らずに済む。だから又聞きだと誤解されまい。

 

 可哀想とか、悲劇の主人公だとか、悲しいけど素晴らしい人とか。

 そういうのは、除ける。

 と言うより、元よりサイの思う所ではない。

 サイには、二代目火影をそうだとは思えなかった。

 

「頑張ってるなあ、と思ったよ」

「許す!!!!!」

 

 大変そうな状況で、ひたすらに頑張り続けている。ただそれだけ。皆が思うような感動物語ではないと思う。

 それは、サイ自身でも、あんまりにも素朴を極め過ぎていてつまらないと呆れるようなものだったが、なぜだかナルトに甚く感動され、強く抱き着かれた。

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 第四次忍界大戦、終局。

 十尾が今正にナルト達に襲いかからんとしている局面で、大蛇丸の穢土転生によってこの世に再び舞い戻った歴代火影達が、現場に駆け付けた。

 

「……え、絵本のオッチャン」

「絵本?」

「あっ、あの、え、えーっと」

「いや。答えんでも良い。ワシの人生を基にした絵本があるらしいのは、既に知っておる」

「あ!そうなん、です、か」

 

 その中に、ナルトが尊敬して止まない、かの二代目火影である千手扉間の姿もあった。

 白い髪、赤い目。間違いない。火影室に飾ってある写真の顔がそのまま、そこにある。強いて言えば、穢土転生体である弊害で、白目が黒くなっている点か。

 兎にも角にも、こんな局面なのにナルトは緊張して、慣れない敬語をたどたどしく使いながら、委縮するように背を丸めかけてしまう。

 

「サル。お前が出版した絵本は随分と有名なようだな」

「…ええ」

「その割には、浮かない顔をしておるが」

「思っていたのとは違う評価をされてしまいましたからな」

「作者の意図通りになる作品など、そうそうないと思うが」

 

 心臓がばくばくと激しく脈打つ。どうしよう。

 千手扉間。もしくは、うちはトビラ。もし会えた時、なんて言うんだっけ。決めていた筈なのに記憶が飛んでしまった。

 

「どうしたんだいナルト、具合が悪いのか?」

「父ちゃん!ごめん!話しかけるのはやめてくれってばよ!」

「ええ!?」

「い、今は、そ、そのっ、あ、頭の中が、ま、真っ白、で、なな、何を言おうと、してたん、だっけ」

 

 緊張の余り凄まじい形相で黙り込んでいるナルトを案じ、近寄ったのは四代目火影こと波風ミナトだったが、当のナルトはパニックになりながらミナトから逃げるように距離を取った。

 

「……ふむ」

「に、二代目様」

 

 何やら緊張しているようだ、と扉間は判断した。そんな二代目火影の横顔を眺めていた三代目火影改め猿飛ヒルゼンは、猛烈に嫌な予感がした。

 

「ナルトと言ったか」

「っ、は、はい!そうです!!!」

 

 憧れの人に名指しで呼ばれ、ナルトは起立の姿勢を取りながら返事をした。

 

「頭が真っ白になっておるのか?」

「は、はぃ、い、っそ、その!緊張、しちまって!」

「なら、お揃いだな」

「は、え?お揃いって」

「ほれ」

 

 扉間は少しばかり微笑みながら、自らの髪を指先でつまんで見せた。

 その瞬間、場の空気が文字通り凍り付いた。ナルトだけではなく、その場にいた戦争参加者全員が、肩を張り、息を詰めた。

 

「ううむ。トビラよ。この時代の笑いのツボは、どうやらワシらの時代とは変わっておるらしい」

「初代様……その頃から、二代目様の笑いのセンスは、受け入れられてはおりませんでしたぞ……」

「なぬ!?だ、だがしかし猿飛よ、少なくともお前は笑っておったろう!」

「気を遣っていただけです!」

「その気遣いがなぜ今は発揮されぬのだ?」

「さすがに厳しいものがありますぞ……!」

 

 初代火影こと柱間が残念そうに腕を組み、ヒルゼンは顔を手で覆いながら嘆いていた。ミナトですら、どう反応すれば良いのだろうと悩みつつ、扉間による自虐的ジョークを真っ向から浴びたナルトへ心配そうに声を掛ける。

 

「ナ、ナルト。そのね、二代目様は、どうやらこういった冗談を好んで使われるようで。あっ、でも、歴史書の通りではあるんだけど、歴史書の通りじゃないって言うか」

「……」

「……ナルト?ねえ、聞いてる?もしもーし?ナルト!?」

 

 自らの身体的蝶を揶揄し、道化を演じていた。歴史書にあった記述そのままの行為により、ナルトは俯いたまま何も喋らなくなった。

 

「そんなに笑えんか?ワシは笑えると思っておるが」

 

 誰も笑ってくれないどころか場が凍り付いた事に、扉間は意外そうに両目を瞬かせた。

 扉間本人は何とも思っていない。自分の身体的特徴など、当然のように許容している。差別に晒されたが、そんなものは間違っていると声高に叫んで庇ってくれた大きな背中を知るからこそ、決して恥じていない。だからこそ堂々と冗談の種にしている。

 の、だが。誰も彼もが、反応に困って沈黙していた。場を和ませようとして失敗してしまい、扉間は肩を竦めた。

 

「笑えるわけ、ないじゃないですか」

 

 そんな中で、一人の若者が、怒りに張り詰めた顔で扉間へと歩み寄った。サイだった。

 他の者達は驚いた。サイは物静かで、このように激情を露わにするような性質ではなかった。しかし実際には、不機嫌そうな形相で扉間を睨みつけていた。

 

「何者だ、貴様は」

「ボクはサイ。ナルトの友人です」

 

 ナルトと扉間の間に割って入り、扉間と対面し、サイは目つきを更に鋭くさせた。

 

「もしかしたら、笑っていいのかも知れません。だけどボクは笑えません。冗談に本気になっている、空気の読めない男だと思ってくれて構いませんが……ナルトは、あなたを尊敬しています。そのナルトの前で、そんな自虐、やめてください」

「……っ、ぶははっ!違ぇって、サイ!」

「えっ」

 

 ナルトが尊敬していた人物が、自虐で周囲の気を引くような悲しい性質の持ち主だった。その事実に純然たる怒りを抱いていたサイは、背後からの哄笑に耳を疑い、思わずきょとんとした表情になる。

 

「すっげぇー!!!ちっとも気にしてなきゃ言えねぇよ、それ!凄ぇよ絵本のオッチャン!はっはははっ!!!」

「ナルト?それ、どういう感情で笑ってるの?ボクは怒り損だったの?」

「いやいや、まあ、でも、サイに便乗するわけじゃねえけどよ、オッチャンの笑いのセンスってよくわかんねぇってばよ」

「だったらナルトはなんで笑ってるの?」

「ご、ごめっ、ごめんっ、感激し過ぎて、はは、腹が痛ぇ!」

 

 今度はナルトの大爆笑に周囲の者達は唖然とさせられた。迂闊に発言できない空間が出来上がってしまった。

 

「サイ、紙と筆貸せ!サインもらうから!」

「それはいいけど」

「お前の分も貰ってきてやるからな!」

「いや、ボクは」

「絵本毎日読んでんじゃねーか!お前もファンだろ!?」

「まだ感想文を書けてないから、書ける文字量に達するまでやめるにやめられなくなってるだけだよ。ヤマト隊長は現在消息不明だけど、だからってやめるわけにはいかないし」

「もーいいってー!前に言った感想で俺は満足だってばよ!」

「……はあ」

 

 よくわからないが、ナルトが傷ついた訳じゃないなら、まあいいか。サイはそう諦めつつ、要求された通りに紙と筆を手渡した。

 

「絵本のオッチャン!今すっげぇ忙しい状況だからさ、花丸でもいいから、サインよろしくだってばよ!」

「っくく、ははっ、面白い奴よ」

 

 ルンルンと鼻歌さえ交えそうな上機嫌で、ナルトは扉間へ紙と筆を差し出した。

 そんなナルトの姿を見ていた扉間は肩を震わせ、愉快そうに笑いながら、ナルトの望み通りにサインを書いて返してやった。

 千手扉間、うちはトビラの二通りの名を達筆で。

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 うちはマダラは、ナルトが気に食わなかった。

 絵本の愛読者だと主張して憚らず、弟に尊敬の眼差しを注ぐ。頭を空っぽにすれば、何とも素晴らしい光景ではないか。

 それができないから、マダラは苛立っていた。

 

「砂利がぁ!貴様がトビラを語るな!」

「トビラじゃねえ、トビラマだろ、絵本のオッチャンは!」

「あいつの本当の名前はトビラだ!!!」

「トビラマのマの意味ならさっき初代のオッチャンが説明してただろ!?今更引けなくなったからって逆切れしやがって!!!」

「黙れ!!!!!」

 

 戦いの真っ只中にも拘わらず、マダラは吠えた。負けじとナルトに吠え返され、マダラの怒りは更に増す。

 これがマダラの集中力を削ごうとする作戦なら、逆効果だ。反吐が出る。逆にマダラの心は研ぎ澄まされていた。

 

「ファンだの何だのと戯言ばっかりほざきおって!あんなお涙頂戴の物語を見聞きしただけでトビラの理解者のような顔をするな!」

 

 マダラの苛立ちは、あの胸糞悪い程に美しく整えられた美談に酔って弟を崇拝するナルトだけではなく、弟本人にすら向けられていた。

 

 なぜ、笑っている。

 あんな物語でお前を知った気になっている砂利から尊敬されて、なぜ笑えるのだ。

 どうして。

 死んでも利用されていると、なぜ怒らないのだ。

 怒るどころか、こうして死んでも尚、里の為にと尽くすだなんて。昔から何も変わっていない。

 まるで奴隷のように奉仕する、その献身に何度胸を打たれた事か。

 その献身を裏切るような一族の醜態に、何度、族長にあるまじき憎悪を滾らせた事か。

 うちは一族が事実上の壊滅を辿った時、どれほど喜ばしかった事か。

 

「っ、絵本のオッチャンを悲劇の主人公にしてんじゃねぇ、バカヤロウ!!!」

 

 そうやって弟を可哀想だと哀れむのは、兄だからこその情。然れども、その行き過ぎた憐憫により心の目が曇っている。

 

 それをナルトから堂々と指摘され、マダラは歯噛みした。

 結局の所は堂々巡りだ。お前に何がわかるのだ、と。

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 大戦終結後。

 将来の火影として経験値を積む為の任務から帰ってきたナルトは、偶然鉢合わせたヒナタと一楽でラーメンを食べていた。曰く、今日は外で食べたい気分だったが、何を食べようか悩んでいた所にたまたまナルトが通りがかったらしい。

 

「私、あんまり好きじゃないの、絵本のお話」

「そうなのか?」

「……うん。ごめんね」

「い、いや。ヒナタが苦手だからって、それで俺に謝るのはおかしいってばよ」

「…そっか。ありがとうね、ナルトくん」

 

 ヒナタの主張を疑わずに信じ、こうして共にラーメンを食べている最中、話題は絵本へと移った。

 ナルトがあの絵本の愛好家なのは既に周知の事実で、かつてを思えば信じられない程に容易く口にし易くなった。常日頃から持参するようになったし、何なら今でも持っている。ラーメンの汁で汚すようなヘマをしないよう、流石に食べながら読むような真似はせず、鞄に入れているのだが。

 なので遠慮なく切り出したのだが、ヒナタの反応は意外にも芳しくなかった。

 

「でもさ、なんで苦手なんだ?」

「……眩しい、から」

「眩しい?」

「うん。強過ぎて、眩し過ぎて、ずっと見ているのが怖くなっちゃうから」

 

 ナルトより先んじてラーメンを食べ終えたヒナタは、どんぶりに箸を置いた後、俯いて膝の上で手を握った。ナルトが好きな絵本を自分も好きなのだと嘘でも言ってあげられない、そんな自分の不器用さに項垂れていた。

 過酷な状況下でも迷わず前を進める、強い人の御伽噺。尊敬の念よりも恐怖が勝ってしまった。自分はここまで強くなれない、と心が挫けてしまった。

 だからこそ、絵本に憧れて努力しているのだと豪語するナルトも眩しく感じて仕方なかった。絵本は苦手だけど、その絵本が好きなナルトは好きになった。

 何とも、不器用としか言いようがない。そんな自分がヒナタは嫌になっていた。

 

「だよな!」

「……え?」

 

 怒られるか、そうじゃなくても失望されるか。そう恐れていたヒナタは、ナルトの喜ばしそうな同意が信じ難くて、戸惑いながら顔を上げた。

 ナルトは目を輝かせながら、うんうんと両手を組んで頷いている。

 

「確かに絵本のオッチャンは凄ぇもんな。凄過ぎて恐縮するよな。俺も実際会った時は頭がしっちゃかめっちゃかだったし!ヒナタの気持ち、超わかるってばよ!……あ、もう1杯追加で!」

 

 好きになった人の手前、嘘でもこの絵本が好きだと褒めるべきかどうか真剣に悩んでいたヒナタは、衝撃を受けていた。

 

「でもさ、でもさ。眩し過ぎるからこそ見失わずに済むと思うんだよ」

「そう、かな」

「そうそう!見失う事がないってさ、凄い安心できるってばよ!」

「…………そう、だね。そうかも知れない」

 

 ヒナタはそう答えながら、追加の麺を投入されるや否や笑顔で啜り始めたナルトの横顔をじっと見つめていた。

 

「見ていて怖くなるくらい眩しいって事は、どこに居てもすぐに見つけられるって事だもんね」

「そーそー!オッチャンは人と毛色が違うからすぐに見つか……あっ、忘れてくれヒナタ。絵本のオッチャン流のジョーク、あんまり面白くねぇぞこれ」

「…ふふ。そうだね。そこは真似しない方がいいよ、ナルトくん」

「だよなー」

 

 絵本の話をしながらも、ヒナタの眼差しはずっとナルトの横顔へと注がれていた。一楽の店主もその娘もそれに気づいている。気づいていないのはナルトだけだった。

 

「ねえ、ナルトくん」

「ん?」

「私、やっぱり、絵本のお話が苦手だよ」

「それはもう聞いたってばよ」

「ううん。まだ言ってない事があってね」

「マジ!?聞かせてくれよ!」

 

 ヒナタは数秒だけ沈黙した後、意を決して口を開く。

 

「一人で何でも頑張りましたって物語、凄いけど好きになれない」

「おお?」

「きっと、居たはずだよ。居たと思うの。助けてくれた人が、守ってくれた人が、愛してくれた人が。どこにも描いてなくても、きっと居たと思うの。だから、そういうのを省いて、一人で頑張りましたって風に整えちゃってる、このお話は好きになれない」

「そうだな!実際、初代のオッチャンとか居たしな。あのマダラだって、ヤベェ奴だったけど、絵本のオッチャンを愛してるのは本当だったし」

「そっか。そうだったんだね。じゃあ、今更だったかな。こういう感想」

「とんでもねぇよ!むしろばんばん聞かせてくれってばよ!」

 

 一人で頑張っている。一人で頑張るしかない。孤独だから、自力で何とかするしかなかった。

 幼かった頃のヒナタには、その絵本が恐ろしく残酷な物語に映った。二度と読む気になれなかった。

 こんなにも大変な目に遭っているこの人を、どうして誰も助けようとせず、一人で頑張らせるのかと。

 どれだけ過酷でもたった一人で努力するしかないと強迫観念さえ抱かされて、辛かった。ナルトのように希望を見出すには、ヒナタは繊細に感情移入し過ぎてしまっていた。

 だからこそ、祈るようにこう思いたかった。絵本に描かれていないだけで、誰かがこの人を愛してくれていた筈だと。現実逃避の妄想だと自嘲しながらも、そう願わずにはいられなかった。

 

「ありがとう、ナルトくん」

「礼を言うのはこっちだってばよ、ヒナタ!」

 

 そして現実は、ヒナタが祈り、願っていた通りのものだったとナルトから太鼓判を押され、安心した。

 残酷な物語だと震えていた幼かった頃の自分が、救われた。

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 イタチから初めてその話を聞かされたのは、五歳の頃。

 森の奥でイタチに手裏剣の練習を見て貰っていた最中、休憩がてら、イタチが周囲の様子を窺いながら声を潜めてこう言った。

 

『秘密の話をしてやろう』

『秘密?』

『そうだ。二人だけの、秘密の話だ。守れるな?サスケ』

『ああ!もちろんだ!』

 

 その時は、話の内容よりも、イタチと秘密を共有できる喜びの方が勝っていて、迷わずに頷いた。

 そして、イタチは語り始めてくれた。

 千手へ名を変えてでも一族を守ろうとした、一人の英雄の物語を。

 

 今なら、わかる。イタチがどれほどの気持ちで、一族でタブー視されていた、あの人についてサスケへ語り継いだのかを。誰かから悪意的な曲解を吹き込まれる前にと、せめてもの抵抗だったのだろう。

 イタチが諳んじてくれたのは、里で絵本という体で流布されている物語とは少々趣が異なっていた。だから後に絵本の内容を又聞きした時は、違うじゃないかと密かに驚かされていたものだ。

 今となっては確認する術はないが、二人だけの秘密というのはサスケの口を堅くする為の方便で、実際には族長であった実家に代々伝えられていた物語で両親も知っていたのかも知れない。千手扉間が信頼していたと自ら言い切ったカガミの子孫であったシスイも、もしかしたら。

 

 ただ、イタチの気持ちに思いを馳せられても、それと千手扉間の生き様に納得できるかどうかはまた別の話だ。

 いっそ、世間一般に流布されている悲劇的な美談として処理した方が楽だ。しかし、なまじ自ら望んで本人と会ってしまった以上、そうはいかなかった。

 里の成り立ち、里の意義について話を聞くべく、大蛇丸の力を借りて穢土転生体で蘇った千手扉間は────うちはトビラは、境遇に反して凄まじく強靭な自己肯定感の持ち主だった。

 その場に居合わせていた者達は全員絶句した。あの大蛇丸ですら、少し動揺していた。

 

 里に隷属しているかと思えば自らの意思によるもので、自分を認めないうちは一族を恨んで隔離政策の発端となった警務部隊を発足させたかと思えばそうではなく、無私の権化かと思えば、存外、笑えない冗談を口にできる程度の余裕があって。

 境遇からは想像も付かないような強固な精神性、自己確立力。イタチと言い、あの男と言い、どうしてあそこまで強くなれると言うのか。

 イタチは良いとして、あの男の信念は理解するには苦しい。わかるにはわかるが、よくあそこまで己を見失わず、貫けるものだと畏怖さえ覚える。

 

 理論上はわかるのだ。あの男の自己確立力の根源は、マダラから揺るぎなく愛されたおかげだろうと。

 サスケが知るマダラは恐ろしい敵でしかないが、そういう事のはずだ。

 だとしても、やはり、納得し難い。

 率直に言ってしまおうか。メンタルの強度がおかし過ぎる。

 

「じゃ、じゃあサスケは、絵本のオッチャンのこと、嫌いじゃないんだな!?」

「……嫌いじゃないが。顔が近ぇんだよ、ウスラトンカチ」

「へへっ、良かった!」

「聞けよ」

 

 あんなわけのわからない精神性の人物をよくもまぁまっすぐと直視して尊敬できるものだと、ある種、ナルトを尊敬してしまいそうだった。

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 ナルトは今、諸々の重圧から一時だけ解放され、土手で寛ぎながら絵本を捲っていた。

 すっかり年季が入ってしまった。文字も一部掠れてしまって読めなくなった。自分が付けた涎やら何やらの汚れも相俟って、随分とくたくたになったものだ。

 

 ヒナタとの結婚式に向けて準備しているのだが、どうも自分の絵本に対する姿勢が一部誤解されているらしいと悪い意味で唸らされた件があった。

 結婚式で披露される催しにしなくても良い。演劇にしなくても良い。十中八九、悲劇性が盛られてしまう。それは嫌だ。

 提案した側にとっては厚意なのだろうとわかっていても、それでも、ナルトは首を縦に振れなかった。

 よりにもよって結婚式で、尊敬する人を悲劇の主人公にした物語が上演されるなんて、むしろ嫌がらせでしかない。

 

 物語としては、例えそちらの方が美しくとも、御免被る。

 そもそもにおいて、現実は物語を超えていた。あの人の生き様は、死に様は、そして死んでからの言動は、絵本の終わりの常套句であるめでたしめでたしを遥かに超えていた。

 現実のあの人は、物語なんか鳥のように易々と飛び越えてしまっていたのだ。

 

「ナルト兄ちゃん、まーた読んでる」

「おっ、木の葉丸」

 

 だが、それでも、初心を忘れない為に。何より、自分があの人に見出したものを忘れない為に。

 今でもナルトにとって絵本は宝物だった。そこに直接的には描かれていない、向こう側にあるものを見る為にも、今だって暇さえあれば読んでいる。

 

「当ったり前だろ!これは人生の歩き方が載ってる指南書だかんな!」

 

 ナルトは爽快に笑いながら「お前も読むか?」と木の葉丸に勧めたが、木の葉丸からは「所々読めなくなってんじゃねーかよ」と冷静に返されてしまい、少しばかり肩を落とした。

 

 

 

 

 

(終わり)




 やりたいようにやりました。悔いはありません。

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