召喚した貞子さんが俺を呪い殺そうとずっと見つめてくるんだが…… 作:芋けんび
カルデアの無駄に長ったらしい廊下を貞子さんと一緒に歩いてい
る。俺が先導して前を歩き、貞子さんがその後ろを非常にゆったりとした速度で歩く。
「いや〜、まさか貞子さんが俺達に力を貸してくれるなんて。俺はマスターの藤丸立香。協力してくれて本当にありがとう。これからよろしくね」
「………」
ペタ…ペタ
「………」
「………」
ペタ…ペタ
んわぁぁぁぁぁ!気まずい!え、何でずっと無言なの?いきなり召喚したから怒ってるの?それとも召喚した時点で、意図せず死亡フラグがいつの間にか立ってたの?ワケワカンナイヨーー!!こんな事ならエミヤにも付いてきて貰えればよかった!後ろからの突き刺すような視線が気になって仕方ないよ…!大丈夫だよね?いきなり後ろから首締められないよね?
「先輩、こんにちは。今からトレーニングですか?」
「マシュか。違うよ。貞子さんを部屋に案内してるところ」
「貞子さん?あ、新しく来られたサーヴァントの方ですね。初めまして。私はマシュ・キリエライトと言います」
「………」
「あの…?」
「あー…ごめんねマシュ。貞子さんは照れ屋というかその…。変わりに俺が貞子さんの紹介をするよ。彼女は山村貞子と言って、日本じゃ知らない人がいないほど超有名(怖がられているという意味で)な人なんだ」
「なるほど、日本で有名な方ですか。きっとそれだけ偉大な功績を挙げられた方、という事ですね!そんなに有名な方を今まで知らなかったなんて…。自分が恥ずかしいです」
────何だかとてつもなく勘違いされている様な気がする。本当の事を伝えた方がいいのだろうか…。いやでも、とってもキラキラ状態のマシュに真実を教えるのは罪悪感で気が引ける。くそ!俺はどうすればいいんだ!
「あの、先輩。私も御一緒させていただいても大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だよ。でも、貞子さんが」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
チラリと貞子さんの様子を伺うと低い唸り声を上げた。これはどっちの意味なんだろうか。「私は別に構わないわよ♪」って意味なのか。はたまた、「巫山戯るなよ人間。お前ら纏めて呪い殺してやろうか」の意味なのか。後者だったらどう足掻いても絶望しかない。
相も変わらず体を左右に揺らしながら俺の後ろで棒立ちしている貞子さん。うーん…特にアクションは起こさないみたいだし…、これは…許されたのだろうか?よし、ここはポジティブに捉えようそうしよう。
「うん、恐らくだけど…いいと思う。一緒に行こうかマシュ」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って貞子さんの後ろをマシュが歩く。いやちょっと待て。何でド○クエみたいに1列なの?廊下のスペースはあるんだから別に俺の横でもいいのに。…はっ!?さては、マシュ…。俺を守ろうとしてくれているのか!貞子さんが何かアクションを起こした瞬間いつでも助けに入れる様に!後ろから!
「やっぱりマシュは頼りになるね。本当にありがとう」
「へ?あ、ありがとうございます先輩。急にどうしたんですか?」
「何でもない…何でもないんだ」
「?」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
廊下を暫く歩き貞子さんの自室となる部屋に辿り着く。ここカルデアは元々は各マスター、スタッフごとに部屋が幾つも用意されていたが、レフ・ライノールの爆破事件でスタッフ、マスターがごっそり減ってしまったのもあって、部屋が有り余っている状態となっている。今ではサーヴァント達の部屋になっていて、各サーヴァントのクラスごとに部屋割りをして、そこで生活兼待機をしてもらっている。皆は思い思いに自室を改造、改築しているようで、太陽王オジマンディアス、英雄王ギルガメッシュの部屋なんてそれはもう凄かった(語彙力)
貞子さんはアヴェンジャーだから、アヴェンジャーのフロア。現状カルデアにいるアヴェンジャーと言えば、ジャンヌオルタと巌窟王だったっけ。二人ともかなり我が強いが貞子さんは上手くやっていけるのだろうか…。特にジャンヌオルタなんて煽り性能高いから貞子さんを怒らしたりしないか心配だ。
「はい、ここが貞子さんの部屋だよ。部屋の中は好きに改造しても大丈夫ってさっきダヴィンチちゃんが言ってたから自由に変えてもいいよ」
「何かわからないことや困ったことがあれば気軽に私や先輩に仰ってくださいね。もちろんダヴィンチさんやドクター、スタッフの皆さんや、他のサーヴァントの皆さんでも大丈夫ですよ」
「 ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」
返事なのか唯の唸り声なのかはわからないが、ユラユラ揺れながら自分の部屋へと入っていく。
それから程なくして、食堂でオカン…じゃなかった、エミヤが作ってくれた和風ハンバーグ定食を頬張っていると慌てた様子で食堂に転がり込んでくる人物がいた。
「旦那っ!飯のところ悪いが急いで廊下に来てくれ!」
「ロビンじゃん。どしたの?かなり慌てた様子だけど」
ここまで走ってきたのか、膝に手を置いて息を切らしている。
「施設の至る所に誰が置いたかわからねぇ変なガラクタが大量に散乱してやがるんだよ」
「変なガラクタ?何それ?」
「ほら!そこにもあるだろ」とロビンフッドが指を指す方向を見てみると、沖田さんやノッブが座っている場所のテーブルにはかなり古びたテレビが置いてあった。テーブルには大きい亀裂が入っている。ノッブはビックリしたのか椅子から転げ落ちていた。…あんなものさっきまでは無かったハズだ。一体いつの間に…。
「ノブゥ!?き、急に何事じゃ!?説明せい人斬り!」
「私に言われてもわかりませんよぉ!?いきなり何でモニターが上から落っこちて来たんですか!?薩長の奇襲か何かですか!」
辺りを見渡せば2人が座ってた場所だけではなかった。食堂に配置されている各テーブル、椅子、床、そして厨房にまで謎のテレビに侵食されていた。
───誰が見ても只事ではない。
ロビンフッドと共に廊下へ急いで向かう。彼の言うとおり、確かに廊下の至る所にテレビの山が転がっている。
「これは…」
「な、明らかにやばいだろ旦那。誰の仕業かは知らねぇが、こんなガラクタばら撒いて何がしたいのかねぇ奴さんは」
「一体何が目的なんだ…」
「用心しとけよ旦那。一件唯のガラクタにも見えるが、
それ、というのはこの大量のテレビのことだろう。全部に魔力反応があるだって?大規模な魔力で構築された特殊なテレビという事か。ロビンの言う通り、それが施設や廊下に置いてある理由はなんだ?うーん…さっぱりわからん!一旦戻ってダヴィンチちゃんやドクターに相談しないと…。
「くそ、体が突然硬直して動かねぇ!マスター!後ろ気を付けろ!」
「え?一体どうし…」
「───ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛───」
ーーー低い唸り声がすぐ背後から聴こえて勢いよく後ろを振り返る。すぐ後ろには、長い黒髪で覆われた貞子さんの顔面があった。
「えーと…。こ、こんにちは…」
いきなり音もなく背後に立つのは反則じゃない?
髪の隙間からチラリと見える鋭い眼。
目を合わせたらダメだと分かっていたハズなのに───俺は彼女と目が合ってしまった。
へー、貞子さんって意外と可愛い瞳してるね?(現実逃避)
基本的にはカーニバルという名のバカ騒ぎをするギャグ主体で、そこにたまにシリアスをブレンドしてぶっ混む、みたいな作品です。