【悲報】わい氏、異世界の神から啓示を受ける【助けて】 作:筑摩
【すべての プレートを あつめよ】
預言された日その直後に新たなる神命が下された。
与えられていた知識によればプレートとは神アルセウスの力が宿った石板であるらしい。
その形状は一定しておらず様々でまな板サイズの石板や人間大の棺桶に似た形の物があるようだ。
ポケモンのタイプと同数即ち全18種存在し、所持した者に大いなる力を授けるという。
それだけでも強力な秘宝なのだが、更にはタイプの力を増幅させて神秘の力を宿す物品を作り出す事が出来るのだ。
例えば豊穣の宝珠は荒れ果てた土地を一瞬で緑溢れる地に変え、封魔の壺は強大な魔神をいともたやすく無力化し封じ込めたという。
それら神秘の宝物は時に人の世を救いまた戦乱を招いたそうだ。
神話や英雄譚とも関りが深く、こちらでいう草薙の剣や九鼎といったレガリアとして各地で受け継がれていることも多い。
人の手に渡れば一波乱あることが容易に想像出来る劇物を何故地上に撒いてしまったのか。
神の性質からして恐らく善意からの行いだとは思うが、その神意を計りかねていた。
そもそも周りから預言者と煽てられているが、かの神と関りを持てたのは最初の一度だけだ。
対面時の印象からは上位者としてではあるが人類を慮る、善悪でいえば善寄りの存在に思えた。
あとは知識にある様々な世界での伝承や活動から凡その人格もとい神格を察するしかない。
自分そっくりの大陸作ったり人に裏切られて水銀で溺れたり色々ガバい面があるが、概ね善神といっていいだろう。あるいは神らしい神というべきか。
しかし今回の異変といい、人と神の間に致命的な価値観の乖離が見られるのは明らかだ。
妄信せずされど疎意を持たず適切な距離感を保ちつつ関係を持つのが正しいだろう。
今は理由は分からずとも神にやれと言われればそれに従うしかない。意に背いて妙なてこ入れをされては適わないからだ。
各地に飛散したプレートをどうやって見つけ出すか。
あれほどの強力な力を与える秘宝、必ず現地に異変を齎しているはずだ。
未曽有の混乱の最中だが、幸いネットインフラは生きている。何かしらの異常があれば情報が上がっているはずだ。
一応預言を的中させた預言者として、新たなる神命を告知して広く情報を募るという手も考えたが、これは止めた方がいいだろう。
プレートが良からぬ手の者に渡らぬよう気を付けなければいけないからだ。同様に国家にも。
前者に渡ればどう悪用するか分かったものではなく、後者に確保されると神命の達成が不可能になる可能性が高い。
一つの問題を解決する為に新たな問題を作り出すのは本末転倒だろう。
幸いポケモンwikiにはモンスター関連を優先して書き記しており、今回のプレートに関しては記していない。
世に知られれば世界を巻き込んだ争奪戦と成りかねない代物、また世を混迷の渦に叩き込んだ存在とその一派として排斥する団体まで現れる可能性が高い。
神は遥か彼方から今この時も世界を御照覧あらせられているのは間違いない。
もし世界が反アルセウス神に傾いた場合神がどのような反応を示すか。
かつて人に裏切られ姦計に嵌められた際の怒りは凄まじく、人類を根絶やしにしかねない有様だった。幸いその時は一人の少年と仲間達の活躍、そして三眷神の助力もあって事なきを得た。
此度そうなった場合止める手立てが無い。最低でも中立に世界の風潮を持っていかねばならない。
幸いとも言えないが各地で発生するであろうプレート関連の異変を奇貨とする事ができるかもしれない。
異変を解決していき混迷を打ち砕く人々の希望となる。それが事前に預言していた者ならなおそれらしい印象を与えられるだろう。
まるでマッチポンプで関心を引くDV彼氏のようだが、大事の前の小事なので無視する。
皆を騙しているようで心苦しいが、プレートも神命もできるだけ秘匿していく方向にしよう。
そんな感じで今後の事でうんうん頭を悩ませていると、ちょいちょいとラブネキが肩を叩いてきた。
徐に下半身の雲に手を突っ込み、薄桃色の分厚いまな板を手に取り渡してきた。
「そうそう、丁度そんな形してる‥‥‥」
それは金属とも石ともつかない材質をしていた。
それは濃密な神の残滓を感じさせた。
それはめっちゃ見覚えがあった。
「ってプレートじゃねぇか!!」
神の遺物、神に探索を命じられた十八の欠片の一つが手元に有った。
フェアリーの力を司るせいれいプレート。
金属のような光沢と研磨された石材を思わせる質感。不思議と見た目程の重さは無かった。
知識にある形状、発する神気、いずれも疑いようのない本物だ。
「え?!いつの間にそんなの持ってたの?!」
(恐らく、日付が変わった直後)
(体に違和感を覚えて、気が付いたら体に巻き付いていた)
巻き付く??
どこからどう見ても分厚い板だが?と不思議に思っているとプレートがひとりでに蠢きだした。
粘土を捏ねるように蠢き、スライムのような軟体が滑る様に左手首に巻き付き、簡素な腕輪へと姿を変えた。
もしやと念じてみると思った通り再び姿を変え、ガントレットのような肘まで覆う形状に変わった。持ち主の思念によって自在に形状を変化させるようだ。
明らかに質量が増減しているが神様由来のアイテムに常識は通用しないということか。
他世界のポケモンはプレートを持って闘ったりするそうだが、邪魔にならない形状に変えていたのだろう。謎が一つ解けた。
形状を変化させて遊んでいると、近くに置いていたアルセウスフォンが突如輝きだし、手元のプレートがアルセウスフォンに吸い込まれ消えてしまった。慌ててアルセウスフォンを手に取ると画面に憶えの無いアプリが追加されていた。
そのアプリの名は「バッグ」。胡乱げにアプリに触れると、幾つかのカテゴリに分けられていた。「ALL」と書かれた箇所に触れてみると一覧が表示された。
そこにはせいれいプレートとモンスターボール十個が表示されていた。「せいれいプレート」 に触れるとなんと手元に出現した。
なんだこの神機能。隠されし神機能、無限バッテリーに匹敵するぞこれは。
確認の為にもう何度か出し入れしてみたがアイテムに異常は見られなかった。
本からお菓子まで適当に周りにあった物も収納可能だった。
普段使い出来る、神過ぎる機能に思わず興奮してしまう。
しかもモンスターボールのサンプルがいくつも手に入ったのが何よりありがたい。
国にいくつか提供して研究及び複製出来ないか試してもらおう。世に広く普及できればポケモンとも付き合いやすくなる。
せいれいプレートはラブネキに持たせておく事にした。
今の自分が持っていても大して使い道はないがラブネキは違う。
ただでさえ強大なその力をより高める事が出来たなら、もう鬼に金棒だ。
大体の相手なら不足することは無いだろう。
プレートを返した所でラブネキが話かけてきた。
(似た状況に覚えがある)
(元居た世界でも奴は同じ事をやらせていた)
(前回と同じであるなら、プレートは各地の力あるポケモンの下に渡ったはずよ)
俺の目を見つめて続けて語りだした。
大きな力には引力が備わる。
力とは物理的なものに限らず、それが持つ運命や因果といった概念的な物も含む。
そして力はより大きな力に引き寄せられる。
「‥‥‥何が言いたい?」
今この星の一ヶ所に最も強い力が集中している。
例えば、大いなる存在から令を下されている者。
創世神と直接対話が許された神謹製の至高の神器。それを所持する者。
神と呼ばれる事もある存在。それを従える者。
あとプレート。
(大体俺やんけ!)
(そうだよ)
脳内に割り込まれた。
もう嫌な予感しかしないが尋ねなければなるまい。
「‥‥‥つまり何が起こるんだ?」
(放っておいたら、プレート持ちポケモンが日本に大集合!するかもしれん)
刹那、最悪の想像が脳裏を過る。
某赤い怪獣と青い海獣がプレートを携えて目覚め、連鎖して空飛ぶきゅうりが突撃して来る未来。
火山が噴火し大地は荒び豪雨が絶えず陸が沈む。恐るべき天変地異を呼吸するように起こす亜神たち。
プレートが持つタイプの力を増幅させる特性からして本来の、太古の姿に戻すことも可能かもしれない。そうなればさらに甚大な被害を被るだろう。
救いは無いのですか?
(慌てるでない、今直ぐどうかなる事ではないわ)
一度深呼吸をして落ち着く。
ラブネキの言うように直ぐに寄ってくることはない筈だ。
あくまで俺が受け身な姿勢で時間を浪費した場合の未来であって、能動的にこちらから動いて各個撃破していけば大丈夫だろう。多分。恐らく。
向こうが引き寄せられるのなら、主導権はこちらに有るも同然だ。
ある程度戦地を限定することもできるだろう。周囲の被害も抑えられるはず。
全ては俺に懸かっているんだ。しっかりせねば。
じきに夜が明ける。先ずは朝一で研究所に向かおう。あちらも俺との接触を図っているはずだ。
国の直下なら情報の集まりもいいだろう。まずはそれからだ。
「ありがとう、落ち着いた」
(うむ)
そうして準備を整え気休め程度の変装に帽子を被り、ラブネキの力を借りて急いで研究所に向かった。
その数時間後、お世話になった教授が慌てて走ってきた。
「大変だ葦原君!」
「どうしたんですか?教授」
「突如太平洋上に超大規模な台風が二つも発生して東京に一直線にやってきてるんだよ!これってポケモンの仕業じゃないかな?!」
ファッ?!