実力主義の教室にようこそせず   作:太郎

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タイトルつけるセンス全くないのがわかった。


5話

「ぜひ、私ともポイントを賭けたチェスをしてもらえませんか?松崎さん?」

 

 後ろを振り向くとそこにいたのは、ちっちゃな可愛らしい少女だった。よく見れば足が弱いのか杖をついている。ゴスロリが似合いそうだ。

 それにしてもいきなり勝負を挑んでくるなんてこの子はポケモントレーナーなのだろうか?いや目すら合っていない。それに私の名前を知っているところもちょっと怖い。ゴスロリ少女が可愛いから許容できるものの、不潔な見た目だったら逃げていただろう。やっぱり見た目は大事だね。

 

「えっと、誰かな?」

 

 私は至極当然の疑問を声に出す。

 

「これは失礼しました。私は1年Aクラスの坂柳 有栖と言います。私もボードゲーム部に入部したんですよ。そしたら近藤部長から松崎さんが既に部室に向かっていると聞いて来てみたのですが、部室の中を覗けば松崎さんが先輩たち相手に賭けをしていらっしゃったので入りづらかったんです。」

 

 Aクラス。私の仮説ではもっとも優秀な生徒の集まり。その集まりに身体的なハンデを負いつつも所属する有栖ちゃんはどれほど優秀なのだろうか?そして、そんな優秀であろう有栖ちゃんと同じ部活に所属できたことはなんと幸運なのだろうか。

 

「あぁそれはごめんね。部活全体のレベルが知りたくてさ。知ってるようだけど改めて、私はDクラスの松崎 美紀。これから部活仲間としてよろしくね。」

 

「D…クラスですか?」

 

 有栖ちゃんは私がDクラスなことに驚いている。いや、これは私がDクラスなことに疑問を抱いているようだ。なぜ私がDクラスだと疑問に思うかは分からないが、特定のクラスに疑問を覚えるといことは彼女もクラス分けの仕組みには気づいているのだろう。

 

「そうだよ?それよりチェスをしようって言ってるけど部室は閉まっちゃてるよ。」

 

「心配ありません。私の部屋にチェス盤があります。ぜひ今からいらしてください。」

 

 どうやら私の心配は全くの無駄だったらしい。二人で寮の方向へ足を進める。

 

「入学二日目で既にマイチェス盤を持ってるなんて、有栖ちゃんは相当なチェス好きだね!」

 

「そういう松崎さんこそ、私がチェス好きだと分かった上で負けることなんて一切心配していない顔をしていますね。」

 

「確かにそれもあるけど、もし負けたとしても有栖ちゃんと友達になれるなら儲けものだと思ったんだよ。」

 

 これはホントだ。今日、先輩たちと闘ってみた感じだと私のチェスの実力は小学五年生の時から衰えた感じは特にないし、負けることは早々ないだろう。

 例え負けたとしても有栖ちゃんと仲良くなることはチェスの勝ち負けよりも重要なことだ。そうやって二人で会話を続けていると有栖ちゃんの部屋に着く。

 

「どうぞ上がってください。」

 

 カードキーを差し込み、ドアを開けながら有栖ちゃんが言う。

 

「おじゃましまーす。」

 

 私はそう言って靴を脱ぎ部屋に入る。クラスは違えど、部屋のグレードに差はないらしい。まぁ今後、クラスの実力がひっくり返るなんてこともあるかもしれないしね。部屋の改築っていくら払えばできるんだろう?

 

「腕、貸そっか?」

 

 私に続いて部屋に入ってきた有栖ちゃんが靴を脱ごうとしていたのでそう声をかける。

 

「ありがとうございます。お願いできますか?」

 

 そう言う有栖ちゃんに腕を差し出すと、有栖ちゃんはその腕を掴みバランスを取りながら靴を脱ぐ。ホントは靴を脱がせてあげるのが早くて楽なんだろうけど、そこまでいったら介護とか幼い子に接するみたいなるからね。それはもう少し互いを知ってからだろう。

 そうして、二人でリビングに入ると真ん中に置かれた机の上にチェス盤が置かれている。

 

「ホントに持ってたんだ。」

 

「疑ってたんですか?」

 

「うん、新手のナンパなんじゃないかと。どう彼女、うち来てチェス打たない?みたいな。」

 

「なんですかそれ。」

 

 有栖ちゃんが手で口元を隠しクスクス笑う。笑い方が上品だ。冗談を交わしながら二人でチェス盤を挟み対面に座る。さっきまでの雰囲気が消え去り、互いに本気モードに入る。本気と書いてマジと読む。

 

「さて、いくら賭ける?」

 

「5万ポイントなんていかがですか?」

 

 それは一見大金を持ってはしゃいでいる、お年玉を貰ってついついいつもとは違うお金の使い方をしてしまう子供のように見える。

 しかし私には分かる。これは煽ってきてるのだ。「私に勝てる自信があるのならいくら賭けたとしても怖くないでしょう」と。良い、面白い。私はニヤッと笑う。

 

「いいね。でも私は先輩方から分けてもらったポイントがあるけど、有栖ちゃんは5万ポイントも失って今月生活出来る?」

 

 Aクラスならきっと来月もかなりのお小遣いをもらえるだろう。もしかしたら今月よりももらえるお小遣いが増えるなんてこともあるかもしれない。しかし今月はまだ始まってばかり。3食山菜定食を食べてる有栖ちゃんは見たくない。いや、見たいな。

 

「大丈夫です。まだポイントに余裕はありますし、足りなくなったら私も先輩方から分けてもらうとします。」

 

 悪どい笑みを浮かべる有栖ちゃん。有栖ちゃん!なんて悪い子!

 

「そっか、ならやろっか。私が握るね。」

 

 私は黒と白のポーンを有栖ちゃんに見えないように握り、前に出す。

 

「ど〜っちだ?」

 

「ではこちらで。」

 

 有栖ちゃんが選んだのは右手。開いてみると黒のポーンがあった。

 

「やったね、私先行だ。」

 

 チェスは先行の方が有利だ。これは単純に一手多く打てるから。だからといって全く油断はできない。

 当たり前だがチェスをやる人は後攻になったときでも勝てるように様々な研究をしている。もちろん、先行のときの研究も多く行われているのだが、やはり不利とされている後攻になったときに勝つための研究の方が多く行われているのだ。頭の中でいくつかのパターンの試合をシミュレーションしてると駒が並べ終わる。

 

「「お願いします。」」

 

 二人で揃って頭を下げる。さぁ頑張らないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェックメイト」

 

 私はそう宣言する。

 

「……」

 

 有栖ちゃんは盤面から目を離さない。ボードゲーム部の先輩方に比べればかなり強かった。しかし決して勝てないほどではなかった。これは相性だったり今回は私が先行だったりといろいろな要因があるのだろうが、もう1戦しても私は勝つことができるだろう。

 

「もう1戦」

 

 有栖ちゃんが下を向いたまま小声でそれでいって芯のある声で言う。そしてガバッと顔を上げると今度はハッキリと言う。

 

「もう1戦してもらえませんか?ポイントならまだ3万ポイントほどあります。」

 

 目に涙を浮かべながら、それでも今度こそ勝つという意思が感じられる。ホントに負けたくなかったんだろう。どれくらいチェスに打ち込んだのだろうか、どれほどチェスを愛しているのだろうか。

 きっと今、有栖ちゃんの中でもっとも大切なことは私とチェスの再戦をすることでポイントなんてものはどうでもいいんだろう。きっと私に対して闘志をここまで燃やしているのは今しかない。今後、仲良くなるにつれてこの闘志は薄れていくだろう。だからこそチャンスだ。

 

「ごめんだけど、有栖ちゃんから全財産を巻き上げようとは思えないな。ポイントを賭けるのはまた来月にしよ。その代わりと言ってはなんだけど、勝った方が負けた方になんでも一つお願いできる権利を賭けてもう1戦しない?まぁなんでもって言っても限度があるだろうけど、叶えられる範囲でみたいな。」

 

 Aクラスの有栖ちゃんになんでもお願いを聞いてもらえる権利。絶対に5万ポイント以上の価値がある。有栖ちゃんからしたら勝ってもDクラスの生徒にお願いができる権利。この賭けは私に圧倒的に有利なものだ。そしてそれに有栖ちゃんも気づいているのだろう。

 

「分かりました。それで構いません。」

 

 さっそく駒を並べなおす有栖ちゃん。やっぱりノってきた。

 

「次は有栖ちゃんが先行でいいよ。」

 

 私は煽る。別に有栖ちゃんから精巧を欠くためじゃない。有栖ちゃんは苛立ちでミスをするほど愚かではないだろう。そう私は苛立つ有栖ちゃんが見たいだけなのだ。可愛い。

 

「分かりました。」

 

 有栖ちゃんは頭の中でいろんな計算をしているのか私への返事もおざなりでチェス盤から目を離さない。そして白のポーンを持つ。2戦目は開始の合図なしに始まった。

 

 

 

 

 

 

「チェックメイト」

 

 私は再びそう宣言する。びっくりした。かなりの接戦だった。有栖ちゃんのレベルが先程と比べ物にないほど上がっている。先行だからというだけではない。先の1戦でレベルアップしたのだ。

 

「本当にお強いんですね。」

 

「まぁね、一時期めちゃくちゃ練習したから。」

 

「一時期ですか?」

 

 あっしまった。有栖ちゃんがピキっているのが分かる。今も切磋琢磨頑張ってることにすればよかった。しかし口に出してしまったものは戻せない。

 

「うん、そうなんだ。小学五年生の時にホントに365日24時間、学校にも行かずにチェスと将棋の練習してたんだ。なんかふと極めたくなっちゃって。」

 

 嘘だ。ホントは365日24時間なんて言えるほどではない。せいぜい320日16時間くらいと言ったところだろう。

 

「学校に行かずに?」

 

「私、昔っから集団行動苦手でさ。なんか周りのペースに合わせるのが無理なんだよね。この学校でも授業の出席、ポイントで買ってるし。」

 

「なるほど。だから入部初日から先輩方に賭けを申し込んでいたんですね。松崎さんがDクラスなのも納得です。」

 

 言外にあなたもこの学校の仕組みについて気づいているんでしょうと語りかけてくる有栖ちゃん。私はクスッと笑って言う。

 

「そういえば、初め自己紹介したときに私がDクラスなことに驚いてたっていうか疑問に思ってたけどなんでなの?」

 

 私は気になっていたことを聞く。

 

「あぁそれは実は私、松崎さんのことを前から知っていたんです。」

 

「どっかで会ったことあったっけ?」

 

「いえ、中学2年生の時に全国模試で松崎さん、全国一位を取ったでしょう。私はそれまでずっと一位だったんですよ。なのに突如現れた松崎さんに一位を取られてすごく悔しくて次は私が勝つんだって勉強に一層取り組んだんですよ。まぁ松崎さんはそれ以降1回も模試を受けなかったみたいですけど。」

 

 こちらをジト目で見てくる有栖ちゃん。全国模試、確かに1度だけ受けたことがある。結果には目を通してなかったがまさか一位だったなんて。っていうか有栖ちゃんずっと全国模試で一位を取り続けてたのか。すご。私の気まぐれで連続記録に泥を塗ってしまったことが申し訳なくなる。

 

「そんなこともあったね。でもこれからは同じ学校なんだし、毎回テストで勝負できるよ。」

 

「そうですね。楽しみにしておきます。」

 

 そんな風に話しているとふとお腹が空いたなと思う。時計を見てみれば11時48分。嘘でしょ。どうやら私たちはチェスに集中しすぎていたようだ。

 

「もうこんな時間じゃん!有栖ちゃん晩御飯食べた?私の部屋きたら簡単なご飯は作れるけど、どうする?」

 

「それならいいものがあります。」

 

 そう言ってキッチンの方へ何かを取りに行く有栖ちゃん。なんだろ?待っているとカップラーメンを2つ持って有栖ちゃんが帰ってくる。有栖ちゃんにカップラーメン。似合わない。

 

「家では父が厳しく食べさせて貰えなかったのですが、せっかくの一人暮らしということで買ったんです。よければ松崎さんもいかがですか?」

 

 どこか嬉しそうにそう言う有栖ちゃん。可愛い。仕草から何となく察していたが有栖ちゃんはいいとこの子らしい。

 

「有栖ちゃんは可愛いな〜。ありがと、いただくよ。」

 

 お湯を用意してカップラーメンに注ぎ、2人で待つ。有栖ちゃんがまだかまだかと待ち望んでるのが分かる。

 3分が経ち、フタを開ける。美味しそうないい匂いが漂ってくる。

 

「「いただきます。」」

 

 私も久々に食べるカップラーメンだが美味しい。有栖ちゃんに顔を向けると、めちゃくちゃお上品に食べてる。カップラーメンすらも高級食材に見えてくる。しかし、私は見逃さない満足そうな有栖ちゃんの顔を。可愛い。

 二人でカップラーメンを食べながらいろいろな話をする。家族のこと、なんでこの学校に入ったか、これからの行動について。どうやら有栖ちゃんのお父さんはこの学校の学園長らしい。有栖ちゃんの前でこの学校の悪口を言わないでよかった。

 

「それじゃそろそろお暇するね。」

 

 有栖ちゃんと連絡先を交換しポイントを受け取ると私はそう言う。

 

「えぇ同じ寮内とはいえ気をつけてください。」

 

「ありがと。じゃあまたね、有栖ちゃん。」

 

 そう言って私は有栖ちゃんの部屋から出る。

 

「えぇまた、美紀さん。」

 

 驚いて振り返ると既にドアは閉まっていた。それでも有栖ちゃんがドアの向こうで笑っているのがわかる。やられた。

 こうして私の入学二日目は終わる。

 

 

 

 

 なお、食事中に有栖ちゃんがあまりにもチェスを誘ってくるものだから、私たちの中で賭けチェスは毎月一日に1度だけ無理のないポイントを賭けることに決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




有栖ちゃんは可愛い。
そして頭が相当いいことが明らかになったオリ主ちゃん

やっと2日目が終わりました。次回からは結構時間が進むはずです

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