実力主義の教室にようこそせず   作:太郎

9 / 26
9話(仮)を加筆したものです。文字数は倍くらいになっています。




9話

「あっやっと帰ってきた。一応連絡してたんだけど見てないでしょ。いろいろと話したいことあるんだけど今からいい?」

 

 疲れた私を迎えてくれたのは桔梗ちゃんだった。携帯を確認してみると確かにいくつかのメッセージがきている。

 

「ごめんごめん。気づかなかったよ」

 

 私はドアを開けて桔梗ちゃんを部屋の中に促すとお茶も出さずに席につく。こんな時間に紅茶もなんだしね。

 

「聞くまでもないかもだけどわざわざ遅くまで私の帰りを待ってまでしたい話って何かな?」

 

「うん。なら早速本題に入るけど松崎さんには学校に来て欲しいの」

 

 やはり彼女の目的は私の引きこもりから脱却させることだった。つまり彼女はDクラスからの親善大使なのだろう。適任だ。

 

「やっぱりそれか〜。ん〜何度も言うのは心苦しいけどパスで。ごめんね」

 

「そっか。改めて理由を聞いてもいいかな?」

 

 桔梗ちゃんは悲しげな表情をしながらそう言う。親善大使は大変そうだ。申し訳なさで胸がいっぱいだ。頑張れ。

 

「えっとね、理由はシンプルにめんどくさいからだよ。苦手なんだよね行動が制限されるの」

 

「分かった。答えてくれてありがとね。とりあえず今日は帰るけどまた来てもいいかな?」

 

 どうやら今日は様子見のジャブを放ちにきたらしい。しかしこれが毎日続くとなるとかなりめんどくさい。今日は桔梗ちゃん一人だったけど明日からは違う人が複数人で押しかけてくる可能性もある。嫌すぎる。ウザすぎる。

 

「友達としてならもちろん歓迎だけど、Dクラスからの使者としてならもう来ないでほしいって言ったら桔梗ちゃんは困るかな?」

 

「別に困らないよ。私は友達として松崎さんに学校に来てほしいからね」

 

 桔梗ちゃん! なんていい子! ヤバい、顔がニヤける。

 

「そっかそっか友達としてか。いいね、そういうの。じゃあ私から友達の桔梗ちゃんに質問とプレゼントがあるんだけどいいかな?」

 

 せっかく桔梗ちゃんがこう言ってくれたんだ。この学校における数少ない友達とは深く付き合っていかねば。

 

「うん、何かな?」

 

「まずは質問なんだけど桔梗ちゃんがDクラスになった理由ってなんだと思う? 小テストの結果を見る限り成績に問題があるようには見えないし、コミュニケーション能力に関しては言うまでもない。なんか心当たりない?」

 

 私のこの質問に桔梗ちゃんは一瞬顔をこわばらせるがすぐにいつもの笑顔に戻す。

 

「どうしてそんなこと聞くのかな?」

 

「いや単純に友達が不良品の評価を受けた理由が気になっただけだよ。ちなみに私の予想は高校入学前に何かやらかしたに1票。これは洋介くんにも当てはまるね。あぁもちろん言いたくないならいいよ」

 

 やらかしたとしたら何だろうか? 犯罪を犯したにしても少年院に入るレベルのことではないと思う。きっと。まぁそれは政府運営のこの学校を信じよう。軽犯罪ならどうだろう。学生のしそうなので言うと万引きにいじめ、飲酒や喫煙辺りだろうか。正直どれをしていてもおかしくはない。

 しかしあくまで私の印象だが桔梗ちゃんは強い。彼女は何かをやらかしてしまった時に自分を責めるタイプではなく、次に活かそうとするタイプな気がする。そういう意味では彼女が外部との連絡が完全に遮断され知り合いが誰もいないこの学校に来た目的は過去に何があったかはひとまず置いといて人間関係の再構築に違いない。

 知り合いが誰もいないかどうかはあくまで彼女の発言なので真偽は曖昧だがわざわざ嘘をつくメリットもないと思う。仮に彼女の知り合いがこの学校にいたとしても完全な計算違いだろう。

 まぁつまり彼女がこの学校で品行方正であればあるほどその過去は知られたくないものであるはずだ。

 

「言いたくないかな」

 

 ビンゴ! 

 

「そっか、なら今はいいや。でも次からは私を学校へ勧誘するたびにこの質問をしようかな。そんでもってあまりしつこいと本格的に探りにいかせてもらうよ。なんたってこの学校にはポイントで買えないものは無いらしいからね」

 

「わかったよ。もう学校に来てほしいなんて言わないようにするね」

 

 どうやら交渉成立のようだ。桔梗ちゃんは今度は笑顔を崩すことはなかった。すごい。私たちの関係は友達からお友達(笑)に進化した。テッテレー。

 

「ありがとね。いくらお友達でも触れてほしくないものって誰でもあるもんね。まぁいつか私ともっと仲良くなりたいって思ったら教えてよ」

 

「うん、そうだね。それでプレゼントってのは何かな?」

 

「あぁそれに関しては現物とかはなくただの憶測なんだけど、多分次のテストは先輩方の過去問が鍵になると思うよ。過去問と全く同じかは分からないけどそれなりに関係してくると思う。まぁ2、3年生からそれぞれ過去問をもらえば確実かな」

 

 桔梗ちゃんは驚いた顔で身を前に乗り出してくる。可愛い。

 

「それはどういうことかな?」

 

「佐枝ちゃん先生が赤点を取らずに乗り切れる方法がある的なこと言ってたじゃん。それって過去問のことだと思うんだよね。点数や問題を買うことも考えたけどポイントがほぼないDクラスにその方法はあってないようなものだしなら過去問かなって。まぁ間違ってても過去問をもらうこと自体はマイナスにはなり得ないから試してみたらどうかな」

 

 桔梗ちゃんはまだ驚いた状態から帰ってこれていないがそれでもゆっくりとこちらに問いかけてくる。そんなに驚くことか? 割と誰でも気づきそうだけど。

 

「どうしてわざわざ教えてくれたの?」

 

 え??? 何を聞いてくるかと思えば教えた理由? 嘘じゃん。今度は私が驚く番のようだ。

 

「えっと、一応私もDクラスの一員なのでDクラスのみんなのテストの平均点が上がってそのことでクラスの評価が上がるなら嬉しいんだけどなーって」

 

「あっそっか、そうだよね」

 

 私たちの間に沈黙が流れる。私がジト目を送ると桔梗ちゃんは気まずそうに目をそらす。

 

「あー夜も遅いし、そろそろお開きにしようか」

 

「そうだね。そうしよっか」

 

 桔梗ちゃんは気まずい空気から逃げるように立ち上がり、素早く玄関に向かう。私はそんな桔梗ちゃんの後ろに付いていき見送りへ向かう。

 

 桔梗ちゃんが靴を履くのを待ちながら今後のことを考える。私の仮説が正しく過去問と今回のテストがまったく同じならDクラスの平均点は凡ミス含めて95点くらいになるだろう。これは一般的に褒められる結果だろう。つまりクラスの評価アップにつながるはずだ。

 しかし、学校に登校していない私が一人で考え付くことなんて他クラスの集合知には叶わないだろう。今回のテストでは各クラスの評価の差はそこまで変わらないだろう。もしかしたら他クラスがⅮクラスの生徒の点数を買い赤点に追い込むという作戦に出るかもしれないが、1点の価値がわからない今考えても仕方のないことだろう。

 ここまで考えたところで桔梗ちゃんが靴を履き終え、体をこちらに向ける。

 

「それじゃあ帰るね。改めて遅くにありがとう。過去問は何人かの先輩にあたってみるよ」

 

「うん、それと過去問のことなんだけど、桔梗ちゃんが思いついたことにしておきなよ」

 

「えっいいの?」

 

 桔梗ちゃんが心底驚いた顔で言う。かわいい。

 

「もちろん。私より桔梗ちゃんのほうがクラスでの地位は必要だろうし、なにより友達じゃん!」

 

 そして何より、私自身が今後どう行動していくか明確じゃない状態で名が売れるのは避けたいしね。

 

「そっか、ありがと。過去問手に入れられたら松崎さんにも送るね」

 

「待ってるね。それじゃ、近いとはいえもう時間も遅いから気を付けて」

 

「うん、ばいばい」

 

 そう言い、部屋から出ていく桔梗ちゃん。あぁ私の部屋のかわいい密度が減った。半減だ。私はかわいい。

 疲れた頭でアホなことを考えながら風呂場に向かう。今日は湯船に浸かるのはなしでいいや。さっさと寝てしまおう。

 それではおやすみ人類たちよ。いい夢見ます。

 

 

 

 

 それから私はテスト当日までは特に代わり映えのない日々を送っていた。途中、桔梗ちゃんからテスト範囲の変更や過去問を教えてもらったりしたが私には関係のないことだった。念のために目を通した過去問もやはりと言っていいのか私にとっては造作もないものだった。これで桔梗ちゃんが偽の過去問を送ってきてたらおもしろいけど、まぁ大丈夫だろう。大丈夫だよね? 私たち友達(笑)だよね? 

 

 

 そして迎えたテスト当日、私はセットしてあったタイマーでしっかりと起き、余裕をもって学校へ向かった。教室に入ると周りの目が一瞬集まるが、やはりテスト目前ということもあってかすぐに各々のテスト勉強へ戻っていく。一ヶ月ぶりに訪れた教室は私に優しくないようだ。愛なき時代に生まれてしまったようだ。

 席に着き佐枝ちゃん先生がくるのをボーっと待っていると不意に後ろから声がかかる。いったい誰だろう、皆目見当がつかないなー。

 

「さすがにテストの日は来るんだな」

 

 なんとびっくり清隆くんだ。

 

「清隆くんおはよう。さすがにまだテストを免除してもらえるほどのポイントは持ってないからね」

 

「仮にポイントが集まったら来ないのか」

 

 呆れたように清隆くんは言う。やる気のない目にはジト目が似合うぜよ。

 

「ポイントによるとしか言えないな~。高校のテストも途中退室があればテストなんてなんら苦でもないんだけどな~」

 

「テストなんて一瞬で終わるってことか、余裕だな」

 

「清隆くんだって余裕のくせに私にそんな目を送る権利はないでしょ。あっでも清隆くんは得点調整に時間がかかるかな?」

 

「何度でも言うがあの点数はたまたまだ」

 

「じゃあ今回はオール50点は取らないのかな?」

 

「取らないんじゃなくて取れないんだよ、あんな偶然が2度も起こるはずがないだろ。しかも誰かさん曰く俺はこのままじゃ普通になれないらしいからな、それは事なかれ主義に反する」

 

 偶然なんて口では言っておきながら、もう私相手に誤魔化すことを諦めた様子の清隆くん。私の助言を聞き入れつつも事なかれ主義をやめようとしてないところを見ると今回も得点調整はするつもりなんだろう。まぁ清隆くんが実力を発揮して目立っても上手く対処できなそうだしね。あたふたする清隆くんが見たくもあるがそれはほっといてもいつか見れそうだしいいや。

 

「松崎さん少し賭けをしないかしら?」

 

 脳内の清隆くんで遊んでいるといつの間にか私の席の横に立っていた堀北さんが面白そうな提案をしてくる。しかし、さすがコミュニケーションが苦手なだけある、相手のことをまったく考えていない突然の提案だ。世界の中心は君だ。さぁ愛を叫ぼう。

 

「いきなりだね、堀北さん。このタイミングでってことはテストの点数での勝負かな?」

 

「ええそうよ。ルールは簡単に5教科の総合点数でどうかしら? 私が勝ったら松崎さんには毎日ちゃんと学校に来てもらうわ」

 

「おいおい堀北、松崎の入試の点数忘れたのか?」

 

「今は松崎さんと話しているの、口を挟まないでくれるかしら綾小路くん」

 

 口をパクパクと開けつつも声の出ない清隆くん。哀れなり。世界の中心には勝てないようだ。

 

「ふ~ん、私が勝ったら?」

 

「もちろんそちらの要求に無理のない限りで答えるつもりよ」

 

 なんでもとは言ってくれない堀北さん。しかし、余程勝つ自信があるのだろう、かなりの強気だ。あれ? いつものことかな? 

 

「ん~パスで」

 

「あら、勝てる自信がないのかしら?」

 

「賭けの勝ちに価値を感じないからだよ」

 

 勝ち価値

 

「どういうことかしら」

 

「清隆くん、説明!」

 

「いきなり振るな、まぁ単純に考えれば堀北の用意できるものの中に松崎が毎日学校に来るということと釣り合うものがないんだろう」

 

「正解! 簡単な話だよね。相も変わらず堀北さんは自分に自信満々で価値があると思っているようだけど、残念ながら私は交友関係も狭くというかほぼ無く、Dクラスでポイントの安定供給も見込めない君にさほど魅力を感じない。ごめんね」

 

 なんかおもしろいことをやらせても堀北さんは見てられなくなるタイプだろうしね。私たちの親愛度もまだまだ低いしね。

 

「っ……」

 

 悔しそうに顔をゆがめる堀北さん。かわいい。

 

「また堀北さんが自分が成長したと思ったならいつでも声かけてよ。楽しみにしてる」

 

「ええそうさせてもらうわ」

 

 納得したかどうかはともかく堀北さんは自分の席に戻っていく。

 

「ずいぶんきつい言い方をするんだな」

 

「堀北さんの成長はDクラスのためになるからね。清隆くんだったらいつでも賭け、待ってるよ。もちろん内容によるけど」

 

 なんせ私たちは親愛度MAXだからね。

 

「機会があればな」

 

 その後も少しの間清隆くんと雑談をしていると、教卓の方から声がする。

 

「欠席者はなし、ちゃんと全員揃っているみたいだな」

 

 どうやら佐枝ちゃん先生がいつの間にか来ていたみたいだ。そして来て早々に佐枝ちゃん先生はテストを配り始める。

 

「もし、このテストと7月に行われる期末テストをお前ら全員が乗り切れたら夏休みにはバカンスに連れていってやる。青い海に囲まれた島での夢のような生活だ」

 

 バカンス、海という単語に皆やる気が出たのか声を上げる生徒までいる。強制でないことを祈っておこう。

 そしてそうこうしているうちにテストが配り終えていた。どうやら1時間目は社会のようだ。

 

「それでははじめ」

 

 佐枝ちゃん先生の合図とともにテストが始まる。

 

 私の戦いはこれからだ! 松崎先生の次回作にとうご期待を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




10話に続く
感想にあった段落などのことについて全話、修正しました。またなにかあれば気軽に乾燥らんまで

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。