今回は掲示板形式ではないです。
――中略――
……そして、私が犯してしまった愚かな過ちは、世にも恐ろしい結果をもたらすこととなった。
嗚呼、何と愚かで浅はかであったことか。
私は悪魔のささやきに乗って、禁断の技をふるってしまった。
パラケルスス。
伝説となった錬金術師の創造した小人。ホムンクルス。
その制作過程を記した文書。これが、実はある種の暗号であること。
文書の発見と解読によって、私は歓喜した。
自らの手で生命を作り上げる。
おお、神への挑戦!
そして、私は――……
――中略――
こうしてすべての過程をへて完成した。
美しく、賢く、完璧な存在。
アダムを創造した神に対する勝利。
何という不敬であったことか。
だが、当時の愚かな私はかえりみることさえなかった。
私の創造物……いや、怪物。
それは、私の未熟さも手伝い通常の人間よりもはるかに巨大になった。
とはいえ、美しさと賢さは間違いはない。
古代に天使と人間が交わって生まれたというネフィリム。
彼らは巨人であったというではないか。
怪物はすぐにあらゆることを学び、完璧に習得していった。
私が長年かかって蓄えてきた知識さえも……。
そのくせ、身体能力も人間のそれをはるかに……。
が、怪物は基本忠実であった。
ゆえに私は……。
――中略――
私は今怪物の手によって監禁されている。
生活に過不足はなく、怪物の愛玩具となり果てた生活。
さながら貴族に飼育された猫のようなものだろうか……。
ああ、もはや私は人の尊厳すら失いつつある……。
だが、かつて人が追放される前のエデンとは、このような……いや。
※手記はここで終わっている。
『西暦18XX年にヨーロッパ某所で発見された手記より』
西暦181X年、これを読んだと思われる某女流作家は人造人間の登場するゴシック小説を
執筆している。
ただし、手記とは異なり人造人間は極めて醜い姿をした男性型として描かれている。
作家がどのような意図で改変を加えたかは論議が続いている。
※
〇『――』の怪物
フィクションでは創造者の名前がいつしか怪物自身の名となっている。
しかし、真実の名前は不明。
創造者を恋人であり夫としみなして、連れ去ったと推測されている。
この点は、映画の『怪物の花嫁』が一部だが要素的に真実と近しい。
ホムンクルスやゴーレムなど、古代より類似した存在が確認されている。
ギリシャ神話におけるピュグマリオンの逸話も近似種と見てよいかもしれない。
また歌舞伎の京人形も江戸時代に起きた実際の事件がモデルだとされている。
西行法師が作ったとされる『髑髏鬼』もこれと関係あると主張する学説も存在。
今回も苦戦しました。