スペックホルダーのヒーローアカデミア 作:角刈りツインテール
翌日。
朝。
オールマイトが雄英の教師に就任したというニュースが全国を驚かせ、餌を見つけたマスコミが門前にわらわらと集まっている頃、僕はというと———
「えー、あの、響香さん?」
「……………。」
「なんで無視するの?」
「……………。」
「おーいおーい」
「……………。」
徹底的に響香さんに無視されていた。
いやいやいや……。
なんでだよ。
無様ここに極まり。
つーか同時に僕を虫を見る目で見てくるのはどうしたことだろうか…。
昨日の訓練以降ずっとこれなんだけど、僕何かやりましたっけ?正直何もやった記憶がないんだけど。……まぁこの現状は明らかに僕が何かしでかしたことを示しているのだから仕方ない。きっと何かやったのだろう。出会って数日で人を怒らせるなんてもはや才能かもしれないな、とか思わなくもない。喧嘩するほど仲がいい、とはよく聞く言葉だがこの場合はまだそれほど仲がいいとも言い難い関係性で、それも一方的な怒りなためその言葉に縋ることもできない。
僕は今、普通に怒られている。
悲しいことに。さてどうしたものか。
デクくんにでも聞いてみたら分かるかな、と辺りをキョロキョロし始めたとき(彼はまだ登校していなかった)。
「なんでさぁ……」彼女は無愛想ながらもようやく口を開いた。「なんであそこで降参したの?」
?
なんでかって。
「そりゃあ、ねぇ?あの状況で勝てるなんて思えな」
「じ ゃ な く て !」バン、と机を叩く響香さん。
おぉう。
びっくりした。
声がより大きめになりその結果数人がこちらを振り向く。それにより、つい大声を出しすぎたことに気が付いたのか彼女は少し頬を赤らめてうつむき、そして僕に目線だけ向けて睨みつつぼそりと呟く。
「……私だってヒーロー志望なんだけど?」
あぁ、と。
僕はようやくそこで理解した。
要するにプライドの話だ。あの時拘束されていたのは俺だけであって、響香さんはフリーだった。だったら私を動かせば良かったじゃん———そう言いたいのだ。言われてみれば失礼な話だったかもしれない。僕は彼女のことを守るべき存在として見て……いや、そんな生ぬるいものじゃないか。僕は深層で彼女を一段下に見ていたのだろう。だからあんな判断を取れた。
はぁ…ほんと僕ってやつは。
そんなだから負けるんだよ…。
「や、ごめんね?まじで」
「誠意……」
「購買の焼きそばパンでどうだ」
「許す」そう言ってにこりと微笑んだ。
チョロい……とは流石に口に出さない。どうやら許してもらえたようなので蛇に足を描くような、というか火に油を注ぐような行為は止めておく。
本能が告げているのだ。
この人を本気で怒らせたら死ぬ。心臓にイヤホンぶっ刺してきそう。やだよそんな死に方…。
昼休み前に買っとかなきゃなぁ面倒だなぁなんて考えながら、昨日のことを思い出す。確かあのあと、オールマイト(というかほぼ八百万さんだけど)から思っていたより多くの改善点を告げられたのだ。
ちなみに。
何を言われたかなんてほとんど覚えていない。
「…………。」
嘘だ。
全く覚えていない。
まぁ最悪響香さんに聞けばいいよね、うん。
「おはよ〜」
と、ここでデク君が登校。
右腕を見事に骨折していた。
各々挨拶を返したのちそちらに目を向ける。とはいえ昨日の放課後に既に見ているものだったのに加えて肩からぶら下げていたのから腕に包帯を巻いているだけにレベルダウンもしていたので特に驚くことはない。
昨日。
彼は爆豪くんとの勝負でボロボロになり、骨を折った。
何も知らない僕が言えることではないけどさ。
かつていじめっ子といじめられっ子の関係だった2人は———この日からようやく対等になれたのではないだろうか、なんて思ったりもする。
「いや〜ははは…体力の問題でリカバリーガールに治してもらえなくて……」
確か昨昨日彼はそう言っていた。確かあのおばさんの個性は『蘇生』とかだったのではなかっただろうか。蘇生に体力がいるとはどういうことだよという疑問を残していたことを思い出して尋ねようとしたところでイレイザーヘッドもやってきた。
タイミング悪いなぁ。僕は心の中で舌打ちをする。
ま、急用ってわけでもないしあとで聞けばいいか。
♦︎♦︎♦︎
「雄英バリアーだよ。俺らはそう呼んでる」
「ダサ!!なんスかそれ!?」
切島くんは、熱く僕らの想いを代弁した。もっとおしゃれな名前を考えようとはしなかったのだろうか、ここの教員は。
だが名前はどうであれシステム自体は最先端であることに変わりはない。学生証や通行許可IDを身につけていない者が門をくぐるとセキュリティが働くらしい。校内のいたるところに存在していると相澤先生は僕たちに説明したのだが、もし学生証を無くした場合どうなるのかについては教えてくれなかった。その辺りは自己責任ということだろうか。流石に退学なんてことはないだろうけど。…ないよね?
で、どうしてその話になったのかと言われれば単純なことで、今さっき発動したのだ。マスコミが取材のため敷地内へ先生を追跡しようとしたらしい。
「さてHRだ。急で悪いが今日は君らには———」
そこで言葉を止めた。先生の表情が重く、嫌な予感が体を覆う。まさかまた臨時テストなのではないかと覚悟を決めようとした。
「学級委員長を決めてもらう」
「「「「「「「学校っぽいの来たーーーー!」」」」」」」
が、どうやら杞憂だったようだ。
先程の空気が嘘だったかのようにクラス一同がヒートアップ。やかましそうな顔をしたのを僕は見逃しませんでしたよ先生。
それにしても、学級委員長か。
言わずもがなだがクラスをまとめ上げる大事な仕事である。僕が思うに故に『責任感』のある人物、加えてプロヒーローになるためには欠かせない『統率力』のある人物。この二つをもつ生徒が適正者なのではないだろうか。
ちなみに僕はどちらもないので手を挙げるつもりはない。
面倒だしね。
だが他のクラスメートはそうもいかないようで———見事に全員が挙手していた。向上心硬すぎでしょ。
ざわざわがマックスになり、いい加減先生が怒り狂うのではと思い始めたとき、別の人物の怒号が響き渡った。
「———静粛にしたまえ!」
「!」
「“多”を牽引する責任重大な仕事だぞ!『やりたい者』がやれるモノではないだろう!」
……ん?あれ?
「周囲からの信頼があってこそ務まる責務…民主主義に則り真のリーダーをみんなで決めると言うのなら———」
うん、まぁ確かに正しいんだけどさ。
「これは投票で決めるべき議案!」
「いや手ぇそびえ立ってるじゃねーか!?」
じゃあなんで発案したんだよ折角カッコいいと思ったのに。
まぁそういう部分も愛嬌って感じがするけどね、この人は。
なんとなくだけどそう思う。
まだほんの少ししか話してないから本当になんとなくだけど。
閑話休題。
その後も暫く続いたが結局HRの時間で役割を決めることはできず、「放課後までに決めてくれればなんでもいいよ」という相澤先生の言葉を受けてひとまず中断した。
———そして昼食へと時は進む。
「ニノマエくん、学級委員長しないの?」うどんを啜りつつ響香さんが尋ねる。
ちなみにこの長机には僕、デクくん、響香さん、麗日さん、なんやかんやでお供することになった飯田くんがいる。
「するわけないじゃん。僕に責任感とかあると思う?」
ないね、と一言。流石に酷くないですかね。
「ニノマエくん!ヒーロー志望としてそれはどうなんだ!大体君は……」
「あー!あー!聞こえなーい!」
「人の話を聞けぇ!」
「で、でもさ!」喧嘩を恐れたらしいデクくんが咄嗟に口を挟む。「多数決とかしたらニノマエくんにも票入ると思うんだけどな……」
「うんうん!2票くらいあるんとちゃうかな!」
「しょぼい……」
その票数でこんなやる気ゼロの人が委員長になったら学級崩壊待っただなしだわ。
加えて、僕なんかよりも適している人材がこの教室には大量にいるのだ。例えば———
「ウチは飯田くんアリだと思うけどねぇ」
カレーライスを飲み込み、響香さんは言った。
勿論、同感だ。彼には(少々行きすぎているとはいえ)強い責任感がある。ほんの数日間だがそれでも飯田くんは信頼に値する人間だとよく分かったし、彼ならばきっとこの教室を統率できる。
しかし当の本人は首を振る。
緑谷くんを推薦する、と。
「試験のとき、彼は麗日さんを助けるために迷わず0点ロボを壊しに向かった。まだ皆のことを詳しく知らない今、俺が最も評価できる点はそこだ」
え、ちょっとちょっと。
僕は?
……と、思ったけどよく考えたら時間を止めていたからあまり話題になってないのか、と納得した。見ていないのだから当然話題にはならない。道理だ。
「まぁそうだよねぇ……」
「何が?」
「なんでもー」
「あそう」
うーん、委員長になりたいわけではないけど誰にも知られていないのはなんだか切ない。今後、仮にヒーローになれたとしても最終的には相澤先生みたいなアングラになってしまいそうだ……。
それは困る。
僕は、モテたい。
なんて下らないことを考えながらチキン南蛮(380円。やっす!)を頬張っていた時のことだった。
ウウウウウウウ———と食堂中に、いや学校中に禍々しい警報が鳴り響いた。
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テレビドラマ『SPEC』
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