射手としてこの世界を旅してみようと思います。 作:名無しの射手
「理緒ー?どうしたの、また深刻そうな顔して」
「え?あ、うん。……ちょっとね」
「ふーん……? あ、ギルドホームの候補地ね、いい場所見つけたんだ。明日にはメイプル戻ってくるだろうし、戻ってきたら見に行こうよ」
「うん、わかった。夜でいいよね? ……はぁ」
「本当どうしたの。お姉ちゃんにも言えないこと?」
無事にギルドホームの候補地を理沙は見つけた。メイプルの好みというのは長い付き合いで理解していたし、それを基準としてよさそうなギルドホームの空き家を見つけることが出来た。最悪、そこが明日までに誰かに取られていたとしても他にも幾つかの候補地は見つけてある。
ギルドホームの競争倍率は高い。だが、ホームを買える買えないは別問題である。ホームは最低ランクでも数百万ゴールドはする。そして、中規模クラスになると数千万、大規模クラスなら数億ゴールドかかる。更に言うなら、立地などのことも関係してきて、各階層のホームタウンの中であればあるほど高くなるし、俗に言う等地が高ければ高いほどまた値段も上がる。
よって、ほしいと思っている人間は数多く居ても買える人間は限られてくる。理沙の場合、早い段階から実装情報を確認していたため、貯金していたのだ。メイプルや妹が居ない時に効率のいい狩場でレベル上げと金策を同時に行い、それで貯めた金額は結構な額である。運が良ければ、街の外にある中規模クラスのホームも買えてしまえそうな金額である。
準備は万端。それもこれも、とてつもなく足の早いケイロンと場所探しに空から探してくれるフレスを貸してくれた妹のお陰でもある。だが、その妹の様子がおかしい。とにかく妹大好きで大事にしている理沙としては気になってもいたし心配で仕方なかった。
「実は、NWOで目をつけられてるみたいで」
「詳しく話しなさい」
穏やかではない。つまり、自分の妹がNWO内部で誰かに狙われているということだ。それはストーカーとも取れるし、今の時期なら無理な勧誘とも取れる。だが、大抵の相手なら妹だけでもあしらってしまうはずだ。にもかかわらず妹がこうなっているということは、相手は相当に違いない。
守護らなければならない。大切な妹を狙う不届き者をいかなる手段をもってしてでも成敗しなければならない。
そう思い理沙は真剣な表情で妹へと詰め寄った。
「どこの愚か者が私の妹に手を出したの?大丈夫だよ理緒、お姉ちゃんが全部なんとかするからね? ――絶対生かしてはおけない」
「姉さん、そんな必殺仕事人みたいなモードにならなくていいから。 ちょっと、ね。ミィからある話を聞いて」
「ミィって、あの【炎帝】の? あー……そういえば、イベント途中で交戦して、色々あったけど終わった後にフレンド登録したって言ってたよね。じゃあ昨日私がケイロンとフレス借りてる間に喫茶店で会ってたのってミィなんだ」
「うん、最近のことでちょっとお話しようってなってそれで。そこで色々話したんだけど、ちょっと変な話を聞いちゃってね……」
リオはミィの素については話していない。ただ、イベント中、姉と楓が別エリアに飛ばされている間に【炎帝ノ国】と交戦。その過程でミィとも戦闘になり、そこから事故で別の場所に転移したということは話してある。そして、イベント後にフレンド登録していることもだ。
「今最も勢いのあるギルドの1つのギルドマスターからの話なんて、結構大事?」
「うん、実はね……なんでかはわからないんだけど私、【集う聖剣】のペインさんに目をつけられてるんだってさ」
「ちょっと【集う聖剣】にカチコミしてくる」
「待って待って落ち着いて姉さん」
「止めないで。【炎帝ノ国】と並んで有名ギルドでホームの場所はわかってるから。理緒はゆっくりリアルでお茶でも飲んでてくれればいいよ。本気モードでカチコミするだけだから」
「姉さんの本気は本当に不味いから落ち着いて」
「仕方ない。とりあえず少しだけ命を先延ばしにさせてあげることにしよう。 ……で。またなんで目をつけられたの?」
「うーん……それがね、心当たりないんだよ。私、ペインさんのことは知ってるけど会ったこと無いし。そもそも、あの人の周り関係ってよく知らないし」
そう、リオからすれば心当たりが無いのにいつの間にかとんでもない相手に目をつけられていた状態なのだ。ギルドマスターであるペインと交友はない、ペインの周辺人物についてもあまり心当たりがないし、どうしていきなりこうなったんだ状態である。
実は、ミィとしても原因不明でなんとか力になってあげたいとは思っていたのだが、様々な理由で少なからず昨日のギルドメンバーのように理緒をギルドに引き込みたいと考えている層は居るようで、現時点ではまた問題を起こしかねないのでギルドの情勢が落ち着くまでは迂闊に【炎帝ノ国】のホームでは匿えないのだ。これについて本人はとても申し訳なく思っているのだが。だが、いざという時は全力で力を貸すと約束してくれた。
「ミィでもわからない、か。んー……なら他に何か知ってそうな人とかは ――居るじゃない」
「え?」
「昨日の夜、ウィルバートさんがギルドをリリィさん?って人と作ったって話してたでしょ。なら、ここは思い切って頼ってみたら?」
「うーん……迷惑じゃないかな?」
「でも、このまま問題を放置するよりいいと思うよ」
確かに理沙の言うとおりでもある。現状、この件についてなにか知っているかと聞けそうなのは理緒の交友関係だとクロムかウィルバート、リリィ辺りである。クロムはイベント後に楓と挨拶に行ってフレンド登録をしたが、最近はフィールドに出っぱなしのようで街には戻ってこないようだ。
だとするなら、頼れそうなのはウィルバートとリリィくらいだ。二人がNWO初期ユーザーであることは知っていたし、もしかしたらペインについて何か知っているかもしれない。
「そうだね、確かに黙ったままで問題が悪化でもして心配掛けるのも嫌だし、相談するだけ相談してみようかな」
「うん、それがいいよ。後、私もちゃんとウィルバートさんには挨拶もしたいし。いつも妹がお世話になってますってね。リリィさん?って人にも同じで」
「わかった。じゃあ、晩御飯食べたら連絡取ってみるよ。ギルドホームの場所は聞いてるから、一緒に行こうか姉さん」
「ちなみにだけど、ホームの場所何処?」
「……第二層の一等地」
「わぁ」
そんな言葉しか出なかった。第二層のタウン一等地となると数億という金額がかかる場所だろう。もしかすると、【炎帝ノ国】や【集う聖剣】のようにとんでもない隠れギルドだったりするのだろうかと理沙は思う。
ともあれ、二人は相談だけでもしてみることを決めた。
◆ ◆ ◆
「やあやあよく来てくれたね!こうしてホームに遊びに来てもらうと、なんだか新鮮な気分だよ」
「リリィ、嬉しいのはわかりますが落ち着いて。良い紅茶があるので、お淹れしましょう」
その日の夜、サリーとリオはとあるギルドホームへと足を運んでいた。
ギルド【ラピッドファイア】。現時点でのメンバー数はトップギルドである【集う聖剣】や【炎帝ノ国】には劣るが、全体的に質の高いプレイヤーが集まるギルドだと二人はリリィから聞かされた。
最初に教えられた場所に足を運んだ時、二人はそのホームの大きさに思わず唖然としてしまった。
第二層の住宅専用区画にある、洋風のホーム。例えるならよく物語に出てくるお屋敷とも言える巨大なホーム。屋敷周辺は塀で囲われており、入り口には巨大な扉。そこを恐る恐るノックすると、扉の奥からギルドメンバーと思わしきプレイヤーが現れ、名前を告げてウィルバートとリリィと約束があると告げるとすぐさま中に通された。
サリーとリオの知名度はこの【ラピッドファイア】にも伝わっているようであったが、同時にギルドマスターであるリリィからは名前を伝えられた上で『もしこのプレイヤーが訪ねてきたらすぐに通してくれ』と言われていたそうだ。
中に通され、応接間に案内される。そこに待っていたのはリリィとウィルバートだった。
設置してあるとても高級品のようなテーブルセットに座るように勧められ、それに応じるとサリーがまず二人に挨拶をしていく。
「はじめまして、サリーです。妹がいつもお世話になっています」
「なるほど、君がそうか。リオから話は聞いているよ、自慢の姉だとね。よろしく頼むよ、何かあれば遠慮なく頼ってくれ」
「ありがとうございます。ウィルバートさんも、挨拶がまだでしたので。いつもリオがお世話になっています、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。私としても、教え甲斐のある教え子で楽しくさせて頂いていますよ」
幾つか話をした。イベントは楽しめたかだとか、ここ最近のNWOについてだとか。自分達のギルドも中々に大変だが、いいメンバーが集ってきてくれているなど、そんな話をした。その中で、勧誘についての話は一度も出なかった。少なくともこの二人はそのあたりについて弁えており、礼節のある人達なのだなとサリーは思った。
「色々とまだお話したいですが、本日はご用件があるということで。リリィ、そろそろそちらを伺いましょう」
「ああ、そうだね。リオがこうして姉のサリーと訪ねてきてくれるのは嬉しいが、メッセージでは相談があると言っていたね? 私達で力になれることかな?」
サリーとリオが顔を見合わせる。
そして、リオが最近の自分についてのことを話し始めた。
どうやら自分が【集う聖剣】のペインに探されているということ。だが、それについて心当たりが一切ないということ。
情報がなさすぎて不安だったので、何か知らないかという相談に来たこと。
それを話すと、リリィとウィルバートは『ふむ』と。考え込んだ。
「どうにも解せないな。私達もその話は初耳だ ……ミィはなんと?」
「ミィは、たまたま【炎帝ノ国】と【集う聖剣】のトップが話し合う場があったらしくてそこでと言ってました。といっても、その場は重いものじゃなくて、メンバー勧誘についてのマナー徹底の意見交換や、新規受け入れの際の指導マニュアルについてとか、後は消耗品関係の相談とかだったらしいんですけど、たまたまそこで本人から聞いたらしいんです。『リオという名前に心当たりはないか?』と」
「ふーむ……ウィル、どう見る?」
『そうですね』とウィルバートは間をおいた後
「個人的にはペインとは多少の交友はあります。ですが、彼が強引にリオさんを探そうとするようには思えません。まあ確かに、バトルジャンキーの気はありますが、それでも彼も上に立つ人間として立場や礼儀は理解しているとは思うんです。それに、これは推察ですが……【集う聖剣】というギルド単位ではなく、ペイン個人が探しているように思えます」
「つまり、ミィと会った時に話したのはギルドとしての話ではなく、個人としての話だったということですか?」
「そうではないのかな、とは思います。個人で探していると推察して、問題はどうしていきなりリオさんを探し始めたかです。彼がもしイベント後のお二人の知名度や話題を耳にして探している、というのはちょっと腑に落ちません。彼は噂や情報だけでは動かない人のはずなので。……とすれば。彼の性格から考えて、より詳しい情報。例えば、イベント最終日以外のリオさんについての情報をより詳しく聞いて、それで興味を持ったという可能性があります」
「それは、どういう……?」
「彼はまぁ、バトルジャンキーです。強い相手に目がありません。ですが、ただの噂や話題程度では動かないでしょう。例えばの話ですが、イベント中に彼と行動していた誰かがリオさんを目にして、そのことについてペインに話した。それで興味を持った。これならば有り得そうですが……イベント中、メイプルさんやサリーさん以外で接触された方は居ますか?会話をされた方、とか」
考える。出てくるのはカナデ、カスミ、クロム、ミィ。だが、この中で戦闘風景を見られているのはミィだけである。クロムとは交戦になってないし、カナデとはゲームをしただけ。カスミとも戦っていないし、直接しっかりと話したのはイベント後半だけだ。
他に誰か居ただろうか。そう考えて――居た。一人、戦闘風景を見られている人物が。
「居ます、一人だけよくわからない方が。 あの人はドレッド、と名乗っていました」
「それですね、間違いなく」
キョトン、とリオは首を傾げた。だが、リオ以外の反応はそれぞれ異なっており、サリーは驚いたような顔を。リリィは腑に落ちたようにしていた。
「えと、あの人が何かあるんですか?」
「……リオ。リオは私ほどまとめ記事とか見てないから知らないだろうけど、ドレッドは第一回イベントの二位だよ」
「ほえ? えぇっ!?」
リオはサリーほどNWOの情報を集めていない。ペインの名前だって、たまたま第一回イベントの一位はペインというプレイヤーだったと聞いたくらいだ。ミィの名前も同じで、イベント開始前にウィルバートとクロムから前回四位だったと聞いていたから知っていたのだ。
メイプルが三位、ペインが一位、ミィが四位。それぐらいしか知らなく、他の入賞者の名前は知らなかったのだ。
「というか、私そんな話聞いてないよ?いつ会ったの?」
「……まさかこんな大事になるなんて。実は、姉さんが二日目にダウンしてた時、あのエリアで敵対プレイヤーと交戦して。その時に会った」
「あー……あの時かぁ。つまり、その時にドレッドとも戦ったの?」
「ううん、あの人は私の戦闘を見てただけ。それに……ちょっとあの場で戦うのは不味い気もしたし、すぐにあの人撤退もしたんだ」
合点がいった、というように今度はウィルバートが推察を述べていく
「ペインは第一回イベントの入賞者や知り合いと組んで第二回イベントに参加していたらしいです。つまり、そこにドレッドさんが居たのでしょう。リオさんと接触してその後に撤退、戻った後にその話がペインにいったのでしょう。そして、イベント後にペインがリオさんに興味を持って探し始めた。大体こんなところでしょう」
大体の予想はついた。だが、どうしたものかとリオは考える。
ドレッドからペインに話が言ったのは間違いないだろう。そして、ペインが個人的に自分を探している、ということも。
このまま放置してもペインと鉢合わせするのは時間の問題だろう。もし、彼が自分に要件があるなら早めに済ませたい。
話を聞く限り、ペインは礼節を弁える人なのだろう。だからギルドの力は使わずに、出来るだけ自分の力だけでこちらを探しているのだとも取れた。
もし、【集う聖剣】がギルド単位で自分を探していればそれは大事になっていたかもしれない。だが、そうしないように彼は配慮してくれているのだろうとも取れた。
この問題についてどうすべきか。リオは考えていると
「教え子が困っているのです。なら、私も動きましょう」
突然、ウィルバートがそんな事を言った。そして、リリィを見ればやれやれといったようにしていた。
「どうでしょう。ここは、私とリリィも同行するのでペインに会ってみませんか?」
問題の解決案として、彼はそんな方法を提示した。
一月と少しくらいぶりでしょうか、お久しぶりです。作者多忙期突入、加えて別件でも忙しくなり書き溜めすら投稿する余裕が取れず。なんとか少し時間を取れたので更新をしました。もう暫く多忙期が続きそうです。その間に投稿はできずとも、ストックは添削前のものだけでも作れたらなぁ……と思っている次第。 休 み を く れ 。
そんなこんなの作者の生存報告。防振り二期までに第四層の終わりまでかければなぁとか思っていましたが、あまりの多忙さにちょっと難しくなってきたかもしれない。とはいうものの、なんとか本腰を入れたいところ。