射手としてこの世界を旅してみようと思います。 作:名無しの射手
本作では他ギルドメンバーもかなり強化されています
「えっ……な、なんですか?」
「わ、私達初心者で、レアアイテムとかなんて何も持ってません……」
「あ、いやそういう変なのじゃなくて……。ええと、ごめんね驚かせて?」
二人の表情にあるのは困惑。それはそうだろう、自分達は初心者で初期装備、レアアイテムやゴールドなどろくにもっていない。そんな相手に対して突然、いかにも汎用装備ではないような装備のプレイヤーが話しかけてきたのだから。
対してリオも驚かせてしまったと反省しつつ、二人に対して悪意もなけれれば変なこともしないと言って、警戒を解いて貰えるように試みる。
「実はね、今ギルドメンバーを探してて。その途中で二人を見かけてたまたま気になって。そしたら、極振りがどうのとか聞こえてきて、思わず声をかけたんだ。 ……あー、そうだ。良かったら近くの喫茶店で話を聞かせてもらえないかな?何か力になれるかもしれないし」
後でリオが冷静になって自分の発言を思い返してみれば、明らかにこれは怪しいキャッチそのものである。そんな気はないにしてもそのことについて後日顔を真っ赤にして猛省し、姉から『どうしたの急に』と言われるのはまた別の話。
二人はリオに悪意がないのを感じ取ったのか、喫茶店への誘いを了承した。自分と姉を重ね合わせたこともそうだが、とにかく放っておけない。そう思いながらリオは二人を行きつけのカフェへと案内した。
◆ ◆ ◆
「……なるほどね」
二人の名前はマイ、そしてユイ。リオが予想した通り双子のプレイヤーだった。そして一層のカフェ。そこで二人から聞いたのは、ある意味最近よくある悩みでもあった。
極振りのビルドは簡単には大成しない。故に、それを志したプレイヤーの大半は心が折れてしまう。
NWOにおいて一般的に人気が高いのは、テンプレビルドと呼ばれるある程度の結果を確実に出せるビルドだ。その大半は極振りではなく、ステータスポイントをそのビルドに応じて丁寧に割り振られている。近接型なら、『鯵天(AGIテンプレ)』、『ストライカー(STR・HP型)』など、遠隔型なら『エンチャンター』『メテオWIZ』『支援魔法師』などであり、中には異色のビルドの『魔法剣士』や『グラップラー』などもあるが、それはどれも結果を残しているビルドなのだ。
基本的に最終的に安定したスキル構成を練れて、自由度もあるビルドが選ばれやすい傾向だったのが最近になって変化してきた。極振りにすればメイプルのように無双できるのではないのかと考えたプレイヤーが多く現れ、テンプレの安牌を選ぶ傾向から極振りの傾向へと変化しつつあるのだ。
マイとユイの二人もその選択をしたプレイヤーだった。しかし極振りのプレイヤーというのは基本的に野良パーティーでは歓迎されない。【AGI】が低く足が遅いことによる進行の遅延、特化による弊害で一撃で倒れてしまったり、逆に火力が極端に低かったり。テンプレビルドでできることができないことにより、野良ではそれが邪魔者扱いされることが多いのだ。
結果、どうなるかといえば。腫れ物のような扱いを受け、PTにも入れず、レベルも上がらない。ソロや特化型だけでの進行は難しく、こちらも同じ結果になる。
「頑張ってるんですが、上手く行かなくて……」
「中々上手く行かなくちょっともう駄目かなって思い始めてて……」
二人を引き止めてよかった、そう思った。
このまま放置していればほぼ間違いなく引退コースだっただろう。ここで引き止められたのは良かったと思った。
「気になったんだけど、なんで二人は極振りを?」
「私達、リアルでは身体が小さくて、力もなくて……それで、こっちではそういうのができたらなって思って」
「うぅ……【STR】極振りって、やっぱり厳しいんでしょうか……」
どうやら、話を聞く限り二人はメイプルの影響を受けたわけではないようだ。それに、極振りを選択した理由も以前メイプルから聞いていた理由と少し似ている。どこか似ているな、と思った時。あることを閃いた。
メイプルは【VIT】極振り、対してこの二人は【STR】極振り、つまり。場合によっては途方も無いシナジーがあるのではないだろうかということだ。
「そんなことないよ。私の友達も極振りでプレイしてるし、まぁ……うん。色んな意味で成功してるね」
「そうなんですか!?」
「うん、その子は【VIT】極振りなんだけどね。 ……ねぇ二人共、良かったらうちのギルドに入らない?」
「え?ギルドって……ついこの前実装された、あのギルドですか!?」
「でも……私達弱いですし……。それに、極振りだから迷惑を掛けると思います……」
「迷惑とか全然そんなことないよ。それに、うちの【VIT】極振りの子と絶対相性はいいし、物理攻撃方面完全特化のプレイヤーってうちに今居ないんだ。といっても、今の所確定してるのは私を含めて7人しか居ないんだけど」
「……な、なら。よろしくお願いします!」
「いっぱいご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いします!」
こうして、リオはマイとユイの二人の勧誘に成功した。二人のやり取りを見ていると、本当に昔の自分と姉のやり取りを思い出す。そしてそれを見ていると、とても微笑ましく思うのだ。
合流後、二人は快く迎え入れられた。特にメイプルは大歓迎といった感じで、早速二人と仲良くしていた。二人の加入後、折角なのでということでクロムから全員に対しての話があった。
それは、マイとユイが加入してくれたので、ひとまず第四回イベントまでに戦力強化を図ろうというものだ。レベリングやスキル集めについてはメイプルが立候補した。というのも、【VIT】極振りと【STR】極振りでの動き方を確認したかったというのもあったようだが、とにかくこの2つの極振りは相性がいい。最大火力の矛と、無敵の盾。まさにそれが運用できれば心強いものであった。
しかし、問題はプレイヤースキル面である。マイとユイの武器は大槌。【楓の木】には両手武器を扱うプレイヤーが居ないのだ。そして、完全に火力に寄ったプレイヤーも居ない。サリーは【AGI】寄りのバランス、リオは【DEX】と【INT】複合の遠距離、カスミは【STR】と【AGI】の複合ではあるが武器が刀である。両手武器に対する心得がないメンバーが大半であり、そのあたりのことについてどうするか。そう悩んでいるとねリオはあることを考えた。
一応、イベント前だしダメ元にはなるが知り合いに頼んでみよう。そう思って、メンバーに提案した。
そして後日ではあるが、『第四回イベントの1週間前までなら』という条件のもとあるプレイヤーが二人の指導をしてくれることとなった。
メンバーが集まり、まずは一週間後の第3回イベント。それに向けての準備が始まった。
◆ ◆ ◆
それから数日後。実はこの間にメイプルのマイとユイのパワーレベリングの過程で色々とギルドメンバーが頭を抱え、『ああ、これはメイプル化か……』と思った出来事が起き、とんでもないスキルを二人は獲得していた。【破壊王】と【侵略者】と呼ばれる、火力に特化したスキルであり、この2つが備わったことで二人は常時『【STR】が二倍になり、両手武器を片手で持てる』という状態となった。ただですら火力が高いステータスに、攻撃力の高い両手武器を一人あたり2本。しかも、現在の武器はイズ謹製の特大ハンマー2本である。二人合わせてそれが4本。その火力は凄まじいの一言に尽きた。
その光景を見たサリーとリオは
『特大二刀流』
『普通にジャンプ攻撃のアレできそうだから怖い』
と言ったという。
そんな尋常ならざる火力となった二人は、現在プレイヤースキル向上のためにあるプレイヤーから指導を受けていた。
「――お姉ちゃん!」
「うん!いきますッ!」
古い古城を思わせるフィールド。そこには三人の影が存在する。
黒の髪の少女、マイ。白の髪の少女、ユイ。
そして、その二人から攻撃を受けている人物がいる。
「……ほう、いいねぇ。息があってきた、いいことだ。だがッ!」
プレート装備に背中には両刃大斧の大男。不敵な笑みを見せたそのプレイヤー、ドラグは踏み込んできた二人を一瞬だけ確認する。
そして、動いた。
マイは頭上から、そしてユイは背面から攻撃を行った。しかも、そのタイミングはほぼ同時。メイプルとのレベリングで獲得した【破壊王】と【侵略者】による基本的な火力増強、その火力を乗せてイズに作ってもらったクリスタルハンマーに付与されているスキル【体積増加】を発動し、攻撃を叩き込んだ。
普通ならば、同時に二箇所への対応を要求され、しかも二人は【STR】極振り。まだレベルが低いと言っても、スキルの効果で数値上はかなりのものとなっている。その一撃を貰えば並大抵のプレイヤーではひとたまりもない。
だが。
「え、きゃあっ!」
「わ、わわわっ!」
ドラグはそれに対応してみせた。しかも、"武器を抜いていない状態で"。
まずドラグは地上から攻撃してきている、ユイの攻撃。クリスタルハンマーを素手で受け止めた。正確には、槌の部分を回避して手持ちの部分を力任せに押し返した。そのまま押し返すようにしただけで、ユイが弾き飛ばされ、地面に尻餅をついた。そしてマイもまた、空中で振り下ろしたハンマーを残った片手で止められ、そのまま空中で揺さぶれられ。『わー!わー!揺れるー!』と暫く叫んだ後、まるで猫などでも降ろすように地面へと降ろされた。
「うぅ……今のはいけるかなと思ったのに……」
「相手はトップランカーのドラグさんだよ……そう簡単に行くわけないよお姉ちゃん……。でも、いい感じだったと思ったんだけど……」
「ははっ、そんながっかりすることないぜ? 最初に比べると格段によくなってる。あー、まあ。あれだ。確かに掛け声は大切だ。味方や自分の相方を鼓舞することに繋がるし、俺もたまにやる。けどな、それは同時に相手に対して情報を与えるんだよ。すぐにとは言わねぇが、将来的には目の合図だけで今の連携を出来るようになるといい感じだな。まあ、二人の息の合い方はすげぇいいからすぐできるようになるだろ」
「は、はい!」
「がんばります!」
何故ドラグが二人を指導しているかといえば、数日前に遡る。それは、リオが二人の指導役としてドラグに頼めないか、とペインに相談していたからだ。
リオは紆余曲折あったが、大型ギルドとのコネクションを持っている。現在トップギルドと名高い【炎帝ノ国】に【集う聖剣】。ランカーギルドとして最近勢いを見せる【ラピッドファイア】。そして現在はイベントなどでの敵対状態ではなく、平時だ。【集う聖剣】は加入条件に一定レベルと装備を条件としており、【炎帝ノ国】もまた条件付きである。だが、だからといって新規プレイヤーに対して何も考えていないわけではない。それぞれのギルドでは最近のNWO新規層が増えて、良くも悪くも魔境化していることに思うことがあって、大規模ギルドとして何かしらの取り組みを考えていたほどだ。
そんな中、突然リオからの連絡が来てペインは驚いた。リオやサリーと仲のいいフレデリカが『なんで私じゃなくてペインなのー!』と変な所で怒っていたりしたが、『ギルド関連だからペインさんのほうがいいかなって……』と返される一面もあった。そんなこともあったが、突然頼みたいことがあると言われてギルドホームに来て貰えば、その内容は『ドラグさんにお願いしたいことがある』だった。というのも、ランカーレベルでの大型武器の使い手がドラグしか居ないのだ。しかも、彼に近いバトルスタイルのプレイヤーもランカーに居ないという状況だった。
ドラグもまたリオのことをペインとフレデリカから聞いて知ってはいた。実際にリオが顔を合わせてみると、熱血な兄貴肌という印象であり、すぐに打ち解けることが出来た。そこでリオが頼み事をしてみれば、ドラグは第四回イベント一週間前までという条件、そして『まあ、後は今度高レベル帯の地域の探索に協力してくれりゃそれでいいか。いいよなペイン?』という話が出て、ペインがそれを了承。リオも断る理由がなかったため、それを了承した。
そして、ドラグが協力して貰えることになってドラグの教えを聞き逃すことなく忠実に二人は聞いていた。リオから紹介された時は最初、とても怖くて二人抱き合って泣きそうになっていた。流石のドラグもその時はそれを見て『……俺、そんな怖いか?』と、困り、同時に少しショックだったという。
しかし、実際に話し、教えてもらっているといかにドラグというプレイヤーが親切で心優しいプレイヤーであるのかを二人は理解してきた。戦い方こそ豪快そのものだが、自分達の動きをちゃんと見てくれており、それを基にしっかりと向き合ってアドバイスしたり、持ち味を活かすにはどうしたらいいのか考えてくれる。マイとユイがこの指導役を信頼するのに、そう時間はかからなかった。
「おっしちょっと休憩しながら座学だ。いいか?お前達二人の最大の武器は、その息の合い方だ。連携ってのは狩りでも対人でも両方において重要だ。それが自然体で極めて高い練度で出来ているのは非常に強い武器だし、実際俺もイベントであたったらこえーな。考えてみな、相手がもし一人ならばお前ら二人の攻撃力をほぼ同時に受けることになるんだぜ? 並大抵のタンクであればそれは耐えられないし、その突破力はありとあらゆる状況下で強力な武器になる」
そして、と続けていく。
「まあ、お前達はまだ未熟だ。けどな、未熟ならその最大の武器を使ってそれを補えばいい。一人でできないなら、もうひとりが力を貸す。相手が強敵ならば、さっきみてえに息を合わせて、相手の対応先を増やし、混乱させ叩き潰す。極端な話だがよ、【STR】極振りってのは、体力とかにステータスを回してる両手武器ビルドとかと違って一撃当たればお終いだ。だからお前達なら最大の力を、最高の速度で、最善のタイミングで叩き込むことが理想だな」
ドラグはは更に知識を教えていく。そして、この二人はきっといい人材に育つだろうと感じた。いつかは自分の敵になるかもしれない。だから何なんだ、と彼は思う。
自分が教えて、後続がそれを活かしてもっと強くなってくれれば嬉しい。そして、そんな後続が自分に向かってくると考えればきっとそれは面白い。これでは自分もペインのことを言えないな。そう思ってドラグは苦笑した。
ということで、マイユイ加入とイベント直前くらいまでお送りました。本作では他ギルドメンバーも強化されています。単純に作者の中では対人戦やMMOでのトッププレイヤーというのは、才能がぶっ飛んでいるか知識と実力と経験でそこまで上り詰めたかのどちらかだと思っています。そう考えると、NWOトップランカー陣は才能やセンスの面でもかなりしっかりしていてもおかしくないと思った結果がランカー陣の強化。
マイユイはスキルがぶっ飛んでいても経験、才能、知識が全くない状況なのでまあメイプルレベルの規格外でもない限りランカーとは対峙してもきついだろうなという結論。実際、ドレッド相手にいい線は行っても敗北しているというシーンもありました。
まあ、経験と実力が反映されている本作トップランカー陣に教育を受けてトンデモにはなるんですが。
続けて作者の近況。いややっぱり時間がほしい。前にお盆くらいに時間とれてやったーと思ってたらまた多忙な日々。もう年末ってうせやろ?
まあそれでもやりたい構成とかは色々あるので、ちまちまと書いて行けたらなぁと……。これからも不定期更新ですが、どうぞよろしくお願いします。
感想・評価などもらえると作者がとても喜びます。それでは、また次回お会いしましょう。