ときは少し巻き戻り、場所は大湊鎮守府。ここは第二次大戦中に大湊警備府として建てられ、海上自衛隊大湊基地となり、今や日本最後の鎮守府になった。
旧横須賀、呉、佐世保、舞鶴の大艦隊から北方警備隊などの弱小艦隊まで、全ての艦娘が集結している。わずかに生き残りのイージス艦の姿も紛れているが、その艦上に翻っているのはZ旗。
もう後がないのだ。大艦隊の整備・運用を行うことができる「鎮守府」はここを除いて存在しない。残っている基地はドック1つを備える警備府が北海道にわずかにあるだけ。
「不安にゃしぃ…」
「大丈夫、きっと大丈夫だよ睦月ちゃん・・!」
励ましあう吹雪と睦月。前世で沈んだ時の記憶が言いようのない敗北の気配を訴えているのか、艦隊全体の士気は低い。
そんな中、長門が前に出てこちらへ向き直る。しんと静まり返る陸奥湾、遠くからの深海棲艦の呻き声とわずかな波の音が響くのみだ。
「聞けぇい!日本国の存亡は各員の奮励努力にかかっている!負けるから戦わないのか!?座して二度目の死を待つのか!?否!我ら護国のため舞い戻りし戦艦、総玉砕の覚悟でこの国を守るのだ!!」
「「「「「応!!!!」」」」」
鼓舞に応え、艦隊全員の顔つきが変わった。・・・まぁ後方にいる提督の半数ほどは青い顔をしていたが。
偵察機から敵発見の報が入ってきた。確認したすべての深海棲艦が湾内に侵入した瞬間、決戦が始まる。
「一番偵察機通信途絶!」
「蒼龍航空隊全滅!」「飛龍航空隊、被害甚大!制空権を喪失しました!」
航空戦は敗北、それもそのはず敵には空母軽空母合わせて8隻、に対してこちらは正規空母2隻。勝てるわけがないっ!
「来るぞ!総員、対空戦闘用意!」
空を埋め尽くすような・・・とはいかないが、100機を超えるたこ焼きの群れが艦隊に襲い掛かる!
「ぴゃぁ!?」
「ふぁっ!?」
「きゃぁあ!」
駆逐艦を中心に被害が拡大していく。が、彼女らの必死の奮闘によって主力艦への被害は最小限に済んだ。
「怯むな!敵艦隊を射程に捉え次第撃ち始めるんだ!・・・全砲門開け!撃て―!」
長門・陸奥・伊勢・日向の4隻の戦艦の主砲が一斉に火を噴いた。爆炎に包まれる敵艦隊、煙が晴れたときそこにあったのは、損害こそあれど艤装はほぼ健在で殺意をたぎらせる深海棲艦の姿だった。
その中にはタ級、ル級といった戦艦の姿もある。日は既に落ち、イージス艦から打ち上げられる照明弾と探照灯の明かりだけが頼りなので見逃している敵艦もいるかもしれない。
そんな中、勇敢な艦長が乗る一隻のイージス艦が増速し、敵艦隊へ突っ込んでいった。四方八方に照明弾を打ち上げてミサイルをありったけ撃ちまくり、敵艦隊と自イージス艦の姿をくっきりと浮かび上がらせて―――
集中砲火を喰らい、大爆発を起こして轟沈していった。
この時、遥か彼方で映し出された一隻の小さな船のことには誰も気には留めなかった。その前にいた30隻を優に超える深海棲艦に絶望し、戦意を滾らせ、勇猛果敢に攻めて散っていったイージスの敵討ちに燃えていたから。
一方そのころ。
「わーお、ヤマトダマシイ・・・探照灯点けて敵艦隊照らして集中砲火ってのどっかで聞いた話だな。なんにせよ南無南無。あとこっちの位置バレて無いよね?」
遥か彼方、湾の入り口の船の上。そんなことをつぶやきながら双眼鏡をのぞき込む一人の青年の姿があった。
「トツゲキィー」「カクレロォォォ」
妖精さんから相反することを言われているが、「はいはい、本格的に交戦始めたらねー。背後から奇襲しかけるよー」と返して虎視眈々とその時を狙う倉太 海晴、その眼には覚悟の炎が宿っていた。
そして、その時は来る。
「ちょっとまずったな…どうしよう」
「伊勢!大丈夫か!?」
「日向‼魚雷来てるよ!」
「回避!面舵!面舵だ!」
軽巡・駆逐は大半が戦列を離れ、戦艦でさえも損害が目立ってきた頃。満を持して主人公の登場だ。
side:倉太 海晴
「今だ!機関全速、焼けついても構わねぇ!目標、敵艦隊!突撃いいいいいい!!!」
「マカセロー!」「マッテタゼェ、コノトキヲヨォ!」「ヒトアバレシマスカ‼」
改造した集魚灯とゲーミングカラーのLEDを光らせ、爆音でパ〇レーツオブカリビアンのEDを流し、颯爽と現れた対空砲付き漁船。
敵艦隊後方、艦載機を飛ばせない空母を狙って12.7mm4門が鉄の雨を降らせる。
ダダダダダダダッ!ガッガガガガガガガガガ!
「敵空母撃沈を確認!次!空母護衛艦隊へ転進!」
そのままの勢いで空母護衛艦隊へ襲い掛かり、イ級の脳天を砕いて砲撃を避ける。機関から黒煙が上がるが、恐らく過負荷が原因だと思われるので無視!
装甲なんてないので近くに榴弾が落ちたら即終了のオワタ式システム・・・テクニカルとでも何とでも呼べ。事実だ。
「ヒャッハァー!最高だぜ!」ババババババッ
敵の弾を避けるため右に左に揺れる船体、狙いなんてあった物じゃないが誤射のリスクにさらされる味方などいない、むしろ四方八方敵なので撃てば撃つだけ当たる!
「魚雷だ!取舵一杯!」「アイサー」
気が付けば敵陣ど真ん中、ガラスは割れ船体にはわずかずつながら銃痕や焦げが増えてきた。
それでも撃つ、ひたすら撃つ。
キルカウントが20を超えたころ、艦娘側前線も押され気味だったのが膠着状態に。
倒した敵の数を数えるのをやめてすぐ、深海棲艦の湿った砲撃音に交じって艦娘のものと思われる乾いた音が混ざるようになってきた。
が、敵の再編成が進んだのか、機銃掃射や一斉射が増え、遂に―――
「カンビニヒダン‼カサイハッセイ、シュツリョクテイカ‼」
オーバーヒートしていた主機はあっと言う間に炎上、足が止まってしまった。そうなるともはやただの的である。
迫る無数の雷跡、砲弾も向かってきている。
「これまでか…総員退艦!」
そう叫んで、最後にお前だけは道連れにしてやると言わんばかりに一番シルエットが大きい敵艦に銃身を向けて引き金を引いた。
ゆっくり沈みゆく船体、すでにどこかから浸水しているのだろう。4門のうち一つが弾詰まりを起しているのに気づく。敵戦艦、いや巡洋艦か?どちらでも構わないが、恐らく海晴の命を奪うのに十分すぎる大きさの砲弾がこちらに飛んできている。着弾まであと3秒くらいか…?
そこまで思考して、ふとこの世界に来た時のことを思い出した。
(すまない倉太、君から継いだこの体、ここで使い潰s)ドカーン‼
side out
船体中央に直撃弾。敵が非装甲なのをわかっているのか、しっかり榴弾だった。
大きくえぐれた木造の船は、バッテリーが水に沈んで駄目になるまで集魚灯を灯し続けていた。
敵は旗艦を失い撤退に入る。追撃しようにも機関をやられて速力が出ない艦娘たち、このまま逃げ切られてしまうのだろうとだれもが諦めていた。
窮地を救った英雄の仇が取れないことを悔しがった、その時。艦娘にとっては不思議な―――この状況を作り出したものにとっては必然の―――ことが起こった。
撤退する艦隊が陸奥湾の出口に差し掛かったころ、深海棲艦は次々と触雷して爆散したのだ。生き残りの足が止まるがそこに追撃艦隊が到着する―――――
「なに!?あの漁船の生存者がいる!?重症なので一刻も早い処置が必要だと!!?くっ、追撃は中止だ!人命救助急げ!・・・何?陸奥湾を出る前に敵殲滅完了?今はいい、兎に角救護班急いでくれ!」
後に陸奥湾海戦と呼ばれる日本の反攻の第一歩。その立役者は妖精さんらの手助けもあり何とか一命をとりとめ、のちに提督として日本の前線を大きく押し上げることとなるが、それはまだ先のお話。