闇物語-邪王真眼恋説-   作:であであ

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Last episode. 誰も知らない別れ

六花のことを思い続けて、どれくらい経っただろうか。いや、きっとそんなに長い時間は過ごしていない。だが、初めての初恋に浮かされたアンクには、とても長い日々を過ごしたような気がした。一度は自分から遠ざけようとした相手、その人が恋人と2人きりでいるのを、陰からこっそり眺めている。初恋が芽生えたあの日から、一度も想いを伝えられたことはない。だから、今日伝えようと決意を抱いた。だがその一方で、2人を見つめるアンクの心は、耐えがたい苦しみに侵されていく。そして、もう少しで限界を突破しそうなところで、2人のデートは幕を閉じた。

 


 

「いつまでこんなこと続けるデスか!」

 

「うるさいわね。ちょっと黙ってなさいよ!」

 

「あの2人、さっきからずっとあんな感じだね〜。」

 

「…。」

 

すっかり日も暮れ、デートを終えた勇太と六花は、川沿いの空き地にあるベンチに腰掛けていた。邪王真眼の反対、蒼い瞳に夕日を写す六花。その様子をアンクたちは、先と同じように陰から眺めていた。

 

「さぁ、もうすぐその時だ…。」

 

「…本当に、するの?」

 

「当たり前だ…。そう言う運命、だからな…。」

 

六花に告白する決意を抱いたアンク。その時が刻々と迫り、若干の興奮状態にあるのが表情から見て取れる。結果は分かり切っているというのに、告白というのは、こんなにも心にくるものなのか。初めての体験に、様々な感情が無い混ぜになる。

 

「…アンク!あれ!」  

 

そんな時、急に声を張り上げ指を刺したのは丹生谷だ。その両隣にいる凸守とくみんも、同じ反応をしている。そして、彼女が指し示す方向に目を向けると、

 

「…ヒューマギア、いや、マギアか…。」

 

丹生谷たちが反応したのは六花たちの方、そこにいる、まさに彼女たちに攻撃を放とうとしているマギアだった。だが、アンクは特に焦る様子もなく、何くわぬ表情を彼女たちに見せた。

 

「これも、運命だからな。そして、今こそがその時だ。」

 

既に未来視でマギアが現れることを知っていたアンク。そして、ついに訪れた運命の時に、興奮と緊張ではやる心を落ち着かせ、刹那に風が吹く。それは、アンクが瞬間的に六花たちの元に向かった証拠で、マギアが放った攻撃から2人を庇うように両手を広げたアンクが、勇太と六花の前に現れた。

 

「…!アンク!」

 

「あいつは俺が倒す。攻撃が消滅するまで耐えてくれ。」

 

攻撃の衝撃に目を伏せる2人。そして、今まさに、命を呈して彼女を守っているこのタイミングで…、

 

「六花!俺は、お前のことが…!」

 

「好きだ!」と声が出かかって、ふと思った。本当にこれで良いのかと。このまま運命通りに物事が進んで、一体誰が幸せになる。六花たちは気まずくなり、アンクだって、ただただ虚しいだけ。誰1人として、幸せになんてならない。

 

「…。」

 

あぁ、自分は何で馬鹿なんだろう。こんなこと、考えなくても分かったはずなのに。今、自分にできるのは、運命の言いなりになることでは無い。六花に、告白することでは無い。今この瞬間、否、これからずっと、この2人を…、みんなを…、

 

「守り抜くことだ!」

 

勢いよく言い放ち、それと同時にマギアの攻撃が鮮やかに弾け飛ぶ。そして、命を奪い足らしめる攻撃が消滅したことに気づいた勇太と六花が顔を上げる。

 

「悪かったな2人とも…。もう大丈夫だ。お前らは、俺が守る…!」

 

「な、なんかよく分かんないけど、取り敢えずよろしく!」

 

「アンク…、邪王真眼であるこの私が、力を貸そう…。」

 

アンクの、自分にしか分からない謝罪に勇太は不思議そうな顔。そして、調子が戻ったことを何となく察した六花が、自分の力を与えようと「はぁー…!」とアンクに向かって、何か特別な力のようなものを放出している。その様子に、こんな時でも変わらないなとアンクは苦笑し、ベルトを腰に巻き、そして、驚いた。

 

「これ、は…。」

 

取り出したプログライズキー、それが進化していたのだ。それが、今まさに与えられた六花の力によるものなのか、原因は不明だが、何故か満足そうな六花のドヤ顔を見て、そう言うことにしといてやるかと苦笑し、ボタンを押す。変身が、始まる。

 

『Chaos dominate…authorize!

Progrize!The chaos increases as you fall into despair

Chaos darkness!When I fall,the shine disappears.』

 


 

それは、『装着』ではなく完全なる『融合』。飛電の技術とアンクの闇、そしてアンク自身とが1つになり、変身は遂げられる。

 

「消えてもらうぞ…、マギア!」

 

『Chaostic Impact!』

 

装填されたプログライズキーを再び押し込む。それと同時に、マギアを掴む無数の手が現れる。未だ不完全であるヒューマギアの影が、地に引きずり込もうと、マギアを掴んで離さない。そして、身動きの取れない状態のマギアにアンクはゆっくりと近づき、渾身の蹴りを入れる。その力に耐えきれず、マギアは爆散。こうして、勇太と六花のデートは今度こそ、幕を閉じたのであった。

 


 

深夜、みんなが寝静まった頃。ベッドに寝そべり、プログライズキーを掲げて、1人呟く。

 

「これが、共同作業と、言うものなのか…?」

 

プログライズキーの進化。否、元のプログライズキーは手元にある故、新たなプログライズキーの出現と言った方が正しいか。それが六花の力で成されたものなのかは分からない。でも、もしそれが本当なら、六花と戦ったも同然と、アンクは優越感に浸り、1人でニヤつく。それと同時に、このままの気持ちでいてはいけないと、強く思った。そしてアンクは、輝く月夜の下、ある決意をする。

 


 

先日のマギア騒動が終わり、再びいつも通りの日常が訪れる。いつもの騒がしい面々が結社に集まり、もちろんその中にアンクもいる。

 

「ねぇねぇアンク。結局小鳥遊さんとはどうなったのよ。」

 

先日の一件を全て見ていた丹生谷が、ニヤニヤしながらアンクにその後を問うてくる。だが、その問いにアンクが見せたのは怪訝な表情で、

 

「どうなったとは、どう言うことだ?」

 

「いやだからね、告白するぞーって言ってたのに、結局しなかったからその後なんかあったんじゃ無いの?」

 

恋愛話好きな丹生谷が、アンクと六花の間に何かしらあったことを期待して、詰め寄ってくる。だが直後、その嬉しそうな顔は、驚きの表情に変わる。

 

「告白?俺が、六花に?何のことだ。」

 

「…えっ、だって…、小鳥遊さんのこと、好きだって…。」

 

「いつ俺がそんなことを。」

 

「私に言ったじゃない。」と言おうとして、声が詰まる。嘘を、付いているようには見えなかった。でも何故?つい先日のことを、こんなに綺麗に忘れることがあるだろうか。予想外の出来事に1人混乱する丹生谷。そして、あることを思い出した。それは、デートに向かう車の中でのアンクの一言。「記憶を消せば良い」という一言だ。それを思い出した瞬間、まさかと、そう思い、もう一度アンクに目を向ける。何食わぬ顔で会話を交わすアンク。いつも六花を追っていたその目は、今日はしっかり話している相手のことを捉えていて。

 

「…悲しすぎるわよ、そんなの…。」

 

悲嘆の感情を込めて呟く丹生谷。その呟きはアンクには届かず、自動販売機へと向かう勇太と共に教室を出て行く。事実、丹生谷の想像は正しく、対象の記憶を操作、又は削除する術を自らにかけたアンクに、六花を好きになってからの記憶はなく、それ以降の記憶は都合よく書き換えられている。これが、みんなを守ると決めたアンクの決断であり、最も望ましい道であった。

 

「新たな出会いが…始まる…。」

 

2人並んで歩くアンクの耳に、勇太とは違う声がした気がした。だが、その声はアンクの足を止めることが出来ず、気のせいだと思ったアンクは、そのまま歩き続けた。次の出会いが刻々と迫っているということを、気にすることもなく…。

 

《了》




〇能力解説

・記憶操作
対象の任意の記憶を操作、削除または全ての記憶を操作、削除することが出来る。操作したり削除したりした記憶を元に戻すこともできる。自分に術を適用することもできるが、その場合術を使った記憶も忘れるため元に戻すことはない。

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