帰る場所を探している。   作:初弦

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トゲピーは超可愛い

 人間に化けているときは、服を着る。

 誤魔化せる範囲で自由にする。

 商会の商品は盗らない。

 

 以上しめて三点。約束事。

 

 人間に化けているとき、服をまとうというルールにも、ゾロアはあっさり順応した。

 イチョウ商会の面々相手でも、ひとまず面と向かって問い糾されるような違和感は与えなかった。

 

「その髪結んどいてあげたら?」

「そういえばそうですね」

 

 せいぜいツイリにそう指摘されたぐらいだ。

 

 人間に変化したゾロアの髪は、毛質が細く柔らかく、そして長い。ヒスイ地方標準のゾロアに見られる、細く柔らかな毛質の長毛が反映された結果だろう。人間体でもそうなので、なんとも邪魔っけそうにあっちこっちへふわふわふわ。

 ウォロ当人も髪が長いので、伸びるだけ伸びた髪の面倒さはよくわかる。

 

 軽くまとめて、余っていた麻紐で括ってやれば、見れたものにはなった。

 もそもそと身をよじって、後ろでくくった髪の毛に触れて、ゾロアはしばらく後頭部に誕生した団子をいじっていた。

 

「……結べと?」

 

 ちなみにこれは翌日の朝、ウォロの開口一番の発言だ。

 

 前髪が変な方向に跳ねていて、目が半分開いていない、完全に寝起きな人間を真っ直ぐ見据えて、ずい、と半ば押し付けてくるのでもう遠慮がない。

 だいぶしつこいので根負けして麻紐を受け取ったが運の尽き。毎朝の日課になるとは今のウォロは知らない。

 

 それにしてもこのゾロアはゾロアのくせに懐っこい――あっさり己に背を向けたその黒髪を括ってやりながら、ウォロは改めて実感した。

 

 ギンナンに話を通し、商会の他メンバーと顔を合わせさせても、物怖じしないで見つめ返す。眼力が強すぎて突発開催にらめっこ大会ストレート優勝。次回開催は未定です。

 獣同士だと視線が合うのは喧嘩の合図とも聞くが、害を与える様子もなかった。

 

 警戒心がない、というのも違って、最初から他者に友好的なだけらしい。

 死体で変化の練習はまあさておくにしても、過去にボールで捕獲され、人間と過ごした経験でもあるのか。そこまでいかずとも良好な関係を構築したことでもあるのか。

 

 中身が元人間とかいう予想の斜め上八五°ぐらいを打ち上げていく真実は、もちろんウォロの把握範囲外の話だ。

 

 今日も今日とてかまってかまってとトゲピーが乗り上げてくる。ゾロアはゾロアで、身動きが取れないなりに会話に付き合ってやっている。やり取りを横目で眺めつつ、麻紐で団子を作って、ついでに根元の留め具に金の髪飾りを装着する。

 ちょうどいいので見本に仕立ててやろう、ウォロはにんまり笑った。

 男物の髪飾りはなかなか売れにくい。しかしまあゾロアにしては愛想が良く、化けた姿が中性味の高いこの個体を呼び水に、行き先のコンゴウ集落の長といえば洒落好きな色男。加えて上手く口車に乗せれば売れ行きも伸びることだろう。子ども用の衣を揃えて売りつけるのもアリだ。

 

 彼らは現在、紅蓮の湿地へ向かっている。

 

 経緯としては簡潔だ。純白の凍土から舞い戻ったウォロに、早々命じられたのがコンゴウ集落への出向だった。以上。

 ……早々にというか、本来なら余日があったところを、ウォロが予定任期を大幅に超過して純白の凍土に居座っていたので普通にそのぶん間隔が狭まった、と評する方が適切だ。

 

 Q.それって単にお前がサボりすぎなんだよ案件では?

 A.だいたいそう。

 

 というわけで今回も彼は荷車を一台丸ごと任されている。もうなんでもいいから仕事はしてください。ギンナンの圧が垣間見える。

 

 現在他者の目といえばせいぜいそのへんを彷徨くポケモン程度。ゾロアはこの環境を活かして、人間なり他のポケモンなりに変じる練習をしていた。ついでに、ウォロとともに居るポケモンたちの中でも、ひときわ幼いトゲピーと戯れてもいた。

 戯れる間はちゃんと髪飾りを外すあたり、律儀に約束を守るポケモンである。商品です。そういうこと。

 

 強請られるがままに転がしてやって跳ね上げてやって、強請っておきながら目を回して怒って暴れるトゲピーを適当にあやしている。

 ポケモンは赤ん坊でもポケモンなので、もはや軽い腕比べの様相を呈しているが、このへんはご愛嬌。商品が壊れないように気を遣っているので問題ナシ。

 

 ウォロとしてはその間支度がスムーズに進むので好きにさせている。

 ……というか普通にこのゾロア役に立ちますね、味を占めてしまった人間が約一名。

 

「****。***」

「あ〜寝ましたね? 起こさないでください。寝てるなら乗り物酔いでぐずらないので」

「……**、*****」

「酔いますねえ。腕比べのときや、野生のポケモンと戦うときは、元気そうなんですけれど。自分自身の体を動かすのとは勝手が違うんですかね」

 

 ぴーすかぴーすかと寝息を立てるトゲピーを、荷台に下ろして、わかりやすく表情は不思議そうだ。

 ところでさらっとトゲピーを危なげなく持ち上げる腕力は、さすがにポケモンの身体能力である。大抵の五歳児は一.五㎏前後の重量をボールペンみたいなノリで動かせないんですよね。

 

「****。**」

「んー。ハーブのにおいで紛らわすとか試してますけど、てんでだめですね。ラムのみはある程度効いたようでしたが、うちのトゲピー、どうも酸っぱいものが苦手なので」

「***?」

「……こんらんを回復するきのみ……? ゾロアークの群れの秘伝かなにかですかねー? 気になりますねえ、どこに生えてるんですか? 味のほどは? そもそもこんらんとはどのような定義を指すんですか?」

「****」

「いきなり露骨に誤魔化すな」

 

 髪飾りを装着し、荷車をよじ登る姿に、ウォロは半眼を向けた。そらっとぼけるように視線は頑なに合わない。

 

 ゾロアが〝喋れない〟という報告は、原因は完全に大法螺だが結論だけは正しい。

 構造まで真似るのはどうしても難しいのか、どんなポケモンや人間に化けても鳴き声はゾロアのままだ。練習すればまた別かもしれないが、少なくとも現時点では人の言葉を喋れない。そして多くの人間はポケモンの言葉を聞き取れない。

 

 じゃあなんでウォロとの間で明らかに会話が成立してるかって。

 

 ……人前で喋る愚行は冒さないが、万一ウォロ本人に尋ねれば「うーん、勘ですかね? 気にしたこともありませんでした!」とか即答する。ゼロ円スマイルで。

 たぶん勘だと思いますよ。たぶんね。たぶんたぶん。気にしたこともないわりには考える素振りもなかったとかいやいやそんなことないですよ勘ですってば知りませんけど。


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