FGO世界に転生した一般オリ主くんが生き残るためにリアルガチチャートを組んでRTAを走るお話   作:ペットボトル羊

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 作者が自身の情報量と読者の情報量を混在させてしまった結果、受け入れ難い突飛な展開になり読者を混乱させてしまったことと、主人公の発言の信憑性、説得力を著しく下げてしまったことを謝罪します。
 元12話は少し後に回すことにし、過去話に追加の情報や描写、修正をしましたが、応急処置に変わりはないので今後予告なく修正が入る可能性が高いです。



 作者も主人公と似た失敗をしてしまった……。
 あと、かなり長いです。


限られた情報で説明しよう。なお、その情報は正しいかどうか不明とする

──レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 

 カルデアで召喚された英霊第三号。自称万能の天才。

 カルデア技術部トップであり、変人だが、非人道的な実験を知って激怒するほど善性のサーヴァントだ。

 

 ()は、正直カレとは余り顔を合わせたくなかった。

 理由は二つ。

 

 一つは、出会ったら、俺の肉体(からだ)を調べようとしているから。

 

 もう一つは──

 

────唐突だが、ロマニ・アーキマンは元魔術王ソロモンだ。

 彼は、マリスビリーによって聖杯戦争に召喚され、そのまま優勝した。

 本来なら、聖杯戦争という魔術儀式は、己のサーヴァントを含む全てのサーヴァントを聖杯にくべて世界に孔を空ける、という根源に至るための儀式なのだが──マリスビリーは違った。

 彼は、自らのアプローチで根源に至るつもりだったので、世界に孔を空ける事はなく、巨万の富を聖杯に願ったのである。

 当然、ソロモン王はくべられる事はなく、生き残った。

 だが、聖杯戦争が終決したならば、サーヴァントは大聖杯の補助を受けることが出来なくなる。つまり、サーヴァントの現界のための魔力をマスターが全負担しなければならないのだ。

 遠坂凛(てんさい)でも、殆どの魔力をセイバー(青王)に回す事でギリギリ現界させていたのだ。君主(ロード)であるマリスビリーでも、似たような結果にしかならないだろう。

 ソロモン王は、どちらにせよ座に帰る事が確定していたのだ。

 

 しかし、ソロモン王は、ああしてロマニ・アーキマンとして生きている。

 絡繰は、マリスビリーが、サーヴァント六騎分の聖杯の魔力を使い切れなかった事が関係していた。

 彼はあろうことか、ソロモン王に残った魔力で願いを叶えないか、と提案したのだ。

 結果、ソロモン王は願いを叶え、ロマニ・アーキマンという正真正銘ただの人間になったのだ。その際に、また一悶着あったのだが割愛。

 

 この話の肝は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 けれども、彼は、人理焼却によってカルデアが孤立し、七つの特異点を巡っている間────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

──()()()()()

 

 俺は、元々捨て子だ。偶々、魔術師にしては異端の──一般的な常識を持つ三流魔術師の家に拾われた。そこから、偶然師匠と遭遇して、俺の肉体(からだ)に興味を持った彼女に魔術を教えてもらう事を条件に弟子になったのだが──これも割愛。ちなみに、俺の肉体に大きな違和感を感じて、ソレを論理的に解析しようとしていたが、上手くいっていなかった。

 

 俺は、自身が、実はこの世界に転生したのか転移したのか憑依したのか、それとも前世の記憶でも思い出したのか、正確に判別していない。便宜上転生と言っているだけなのだ。なにせ、気づいたら赤子で、けっこう目立つ道路に捨てられていたのだ。赤子だったならば、転移した可能性はないかもしれないが、創作の世界に気づいたらいたのだ、赤子に若返らせられて転生させた、という回りくどい事をした可能性も十分考えられる。

 

 何れにせよ、俺は恐らく──別次元からの降臨者であるフォーリナーと似た分類なんだろう。この場合、俺は、クトゥルフ神と何らかの繋がりがあるかもしれないが、現在(いま)のところ、干渉や交信を受けた記憶はない。()()()()()()()()()()()()()()、もし、“そう”だとしても、それは考えるだけ無駄だ。

 

 要は、サーヴァントのような超越存在からしたら、俺はどう視えているか。

 

────“はっきり言って変だ”

 

 サーヴァントではないが、立派な化物である師匠は、俺の肉体が何故かは言語化できていなかったが“変”だと言った。

 

────“貴方、変ね”

 

 「両儀式」は、変と言ったがその理由は話さなかった。これは、できれば人目につかないところで聞けばいい。

 

────“坊主、名前は?”

 

 クー・フーリンは、露骨に興味深そうに観てきた。いきなり襲ってきたのは、低確率だったがない訳ではなかったので驚きはない。面倒なのは、彼の性格や逸話(ケルト)的に、あの行動は普通に面白そうだったから襲った、という事があり得ることだ。もしかしたら、大神(オーディン)の差し金だったかもしれないが──明言しなかったので、確定する術は人理焼却の間は存在しないだろう。

 

────“面白い人間がいるな”

 

 黒い騎士王は、面白いと言ったが、真意を喋ることはなく消えていった。()()()()()()()()と言ったが、普通に考えたら、冠位時間神殿三割、二部最終章七割ぐらいだろう。導き手に関しては──恐らく、カルデアを導くとかそういう意味だと思われる。

 

 全体的に、好意的か悪感情を持たれているかどちらかと言うと、好意的に見えなくもない。

 一応マリスビリーも、俺に興味を持っていたが──彼は、師匠よりかは理解できていないように見えた。

 

──だが。

 

────“君は、“何”からそんなに足掻いているんだい?”

 

 もう一つは、ダ・ヴィンチ女史は俺が抗っていることを疑問に思って()()言及してきた存在の一人かつ、人理焼却で生き残る可能性が高い人物だからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特異点Fから帰還して少し休憩を挟んだのち、俺は、アーキマンさんに指定された部屋に向かっていた。

 

「……」

 

 誰とも、すれ違わない。レイシフトを初めて実行しようとしていたほんの数時間前よりも、人員も時間も全く足りていないから当たり前だ。

 

 ほんの数時間前は、まだみんな()()()()()

 

「──、───」

 

 そして、一見カルデアでよく見る普遍的な扉にたどり着く。

 俺は、認証機に手をかざさず中にいる人物に呼びかけた。

 

『誰だい?』

 

 内側から、女性の声が聞こえてくる。

 深呼吸をする。賽は投げられた。もう後に戻るという選択肢は存在しない。そんなことは、絶対に許されないだろう。

 

「……タナカです」

 

『ふむ────確かに、本人だ。入りたまえ』

 

 “何か”で軽く全身を調べたようだが──情報と合致したのか入室許可が出た。

 

 扉が僅かな駆動音を発しながら開く。

 

 其処は、“工房”だった。

 

 先ず、大小様々な机が目に入った。それらの上には、見たことがない物体や、立体的な画像が現れている。

 次に、奥にガラス戸が付いた統一された大きさの棚があった。中には、多種多様の容器があり、一つ一つにラベルが付いている。

 そして、壁には、人体図や昆虫の図、機械の設計図が貼り付けられていた。

 十中八九、空間拡張されている。やはり、サーヴァントには俺では到底敵わない。俺は、この広さまで拡張なんて逆立ちしてもできないだろう。

 

「ようこそ、レオナルド・ダ・ヴィンチの工房へ!」

 

 黒髪の絶世の美女──ダ・ヴィンチ女史が、両腕を広げるという大仰な仕草をしながら俺を歓迎する。

 

「…………」

「む、何だいその微妙な反応。君、私の工房に立ち入るのは初めてだろう?」

「……確かに、そうですけど」

 

 取り敢えず、仮面は作らず素直に顔を顰める。

 

遊び心(ユーモア)がないなぁ──ほら、ロマニ」

 

 俺が工房に侵入してから、分かりやすく顔を険しくさせていた男性──アーキマンさんの左肩に、ダ・ヴィンチ女史がぼん、と右手を置く。

 

「──タナカ君」

 

 アーキマンさんが、重々しく口を開いた。

 

「君の特異点での記録、拝見させてもらった」

 

 カルデア在籍の魔術師は、特異点に赴く時は其処での記録を録られる。分かりきったことだった。無論、納得されれるかは兎も角、ある程度説明するための材料は用意している。

 

「その上で聞く──君は、何を、いや、()()()()()()()()()()()()?」

 

 アーキマンさんの瞳から、責任者として私情を交えず厳しく詰問しようとする意志と──それ以上に、()()()()という気持ち(おもい)が伝わってきた。

 

 他人と円滑なコミュニケーションを取るために習得したソレだが──まさか、こんな()()があるとは。いや、想定自体はしていたが、経験していなかったというべきだろうか。

 如何にしても、ただ、単純に、莫迦みたいに()()()()()()()()

 

────“長所と短所は表裏一体”

 

 常に、口癖のように言っていた言葉だ。ソレは、今までの俺の経験を表してもいたが──そのまま、そっくり返ってきた。

 

────“結果しか知らない”

 

 そうだ。

 俺は結果しか知らなかった。俺は、結果しか知らなかったから──横取りしようと思った。

 その結果が再現魔術。中途半端なソレ。

 愚かだった。俺よりも遥かに優れた魔術師(てんさい)が、百年、千年、洗練し昇華させた()()を、この世界で十数年生きた若造が()()をすっ飛ばして盗み取ろうとするなんて烏滸がましいことだった。

 それでも、止めなかった。

 一番、手っ取り早いと思ったから。時間がなかったから。

 

 その結果が()()()()か。

 

 バチが当たったらしい。

 

 この調子じゃ、今まで俺が言ってきた事が全て返ってくるんじゃないか?

 

──全くもって、わらえない。

 

「──そうですね、」

 

 俺は、心臓の鼓動と共に溢れ出る嫌悪感と、頭痛を抑えつけ──言った。

 

()()()言った通り、俺は三つの要求──懇願しかできません」

「……現状しか話せない、質問は基本的に答えるが答えられないものは“言えない”、最後に信じてくれ、か」

「その通りです」

 

 アーキマンさんは、眉間を押さえながら大きく息を吸って、吐く。

 

「──レフ・ライノール・フラウロスと名乗る存在は、何者だい?」

「現状はサーヴァント以上の存在としか言えませんが──お察しの通りの()()と殆ど変わりません」

「──っ、()()()()()()()?」

 

 彼が、動揺を飲み込みながら確認してきた。

 

「それ以上だと考えるべき、と思っています」

「──な」

 

 今度は、アーキマンさんは抑えきれなかった。ダ・ヴィンチ女史も、大きく目を見開いている。

 

 魔神王は、自らを止められる存在は生前のソロモン王だけだと言ったが、どう考えても単純な魔力量や戦闘能力では魔神王の方が強い。だから、こういう言い方にした。過小評価するよりかはかなりマシだからである。

 

「……詳しく、言える範囲で教えてくれ」

「レフ()()は、彼の王の関係者ですが、単純な戦闘能力は王の生前以上に強いです」

 

 工房が凍りついたように静まった。

 

「……()()()()、何か、抵抗する手段はあるんだね?」

 

 アーキマンさんが、青褪めながらも、()()()()()()()()()()()

 彼からしたら、生前のソロモン王よりも強い相手が待っているのに俺が諦めていないから、必ず、“何か”は()()持っていると思っている。

 

「はい、今は言えませんが──問題ありません」

 

 それは、アーキマンさんを見捨て──途端、強烈な吐き気が込み上げてきたので力づくで抑え込む。

 

 駄目だ。

 

 それだけは、許されない。

 

 今ここで、文字通り全てを吐き出したら、そりゃあ、楽になるだろう。

 

 だが、それを実行したら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()────そんなこと、できる筈がなかった。

 

「──他に、質問はありませんか?」

 

 にこやかに笑えればよかったんだが、生憎吐き気を抑えつけるので精一杯で無表情のままだ。暇があれば、もう少し余裕を持っているように見せることができるようにしたい。 

 

「じゃあ、私もいいかい?」

 

 ダ・ヴィンチ女史が、軽く手を挙げて言った。

 

「どうぞ」

「いろいろ聞くべきことは多いけど、私が一番気になることは一つさ」

 

 ピンと人差し指を一本立てる。

 

「いったいどんな手段を用いてそんなことを知ったんだい?」

 

 やはり、来たか。

 

 カレは、顎に手を添え心底不思議そうに俺の総身を観察している。

 

「ふーむ……、君の噂や情報、経歴は知っていたが──()()()()、彼の王よりも強大な相手のことを知っているなんて、とても思えないかな」

 

 当たり前だ。多分、彼女は一番俺の性質、性格を把握している。

 

「ほんの一端しか話せませんがそれでも構いませんか?」

「ああ、それでいいよ」

 

 ここが分水領の一つ。失敗すると間違いなく終わる(しぬ)

 恐怖を誤魔化すために少し大袈裟に深呼吸をして、口を開いた。

 

「抑止力が関係している、これ以上は言えません」

 

 まあ、嘘は言っていない。転生、憑依、転移、前世の記憶、何にせよ抑止力(カウンターガーディアン)はまず間違いなく関係()している。正直、言葉遊びかつ代案がない訳でもないが──代案は、先ず、確実にボロが出る。ボロが出る前に、信頼され切り捨てられない関係を築かなければならないから、非常に厳しいと判断した。

 

 代案──神から啓示を受けている、と言う案が非常に厳しい理由は大きく一つ。

 

 啓示は、目的地へ向かうための最適な道を根拠なく選択できるスキルだが、当然俺は最適な道を選択することなんて出来ない。今日大きく実感したが、俺は失敗することで漸く学べる人間なのだ。加えて、俺は、各特異点にどんなサーヴァントが召喚されているのかは覚えているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、さすがに覚えていない。

 冬木のように近代の特異点ならば、地形や地名を調べることは可能だと思われるが、時間がなかったのと、第一特異点からカルデア側の支援を受ける事ができるので、俺個人で調査するよりも断然効率がいいと判断したからだった。

 

 以上のことから、確実にボロが出ると考えた。

 ボロが出るという事は、疑われることと同義で────つまり、人類悪が目覚める。

 そんなチキンレースを第一特異点からしなければならないのは、“難しい”なんて領域ではない。しかも、ヘマをする可能性が極めて高いというオマケつき。

 

 更に追加すると、仮に全てが上手くいった場合、俺は何処とも知れぬ神の代弁者だと崇められるだろう。

 考えてみてほしい。そもそも、カルデアに招集された人間は、藤丸を除いて各分野の天才たちなのだ。要するに、()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 原作では、藤丸は一般人故に、人類滅亡がどれくらいの規模(スケール)なのか、最初は把握できていなかった。だから、深く考えずに人類最後のマスターという大役に着く事ができた。

 だが、彼らはどうだ?

 生き残った人類はカルデアしかいない現状を理解できてしまう。かつ、自分たちが仕事を投げ出せば──いや、失敗すれば人類は滅亡する。

 彼らは、聡明だ。聡明故に、その双肩にかかる責任(プレッシャー)に耐えられない。原作で、アーキマンさんがカウンセリングをしていなければ、潰れていただろう。

 

 そんな状況で、最適な道を選べる人間が現れるとどうなる?

 

 彼らは、俺を崇め、讃えるだろう。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 彼女は、一般人かつ俺と同じマスターだ。つまり、俺はこの上なく分かりやすい比較対象で──彼らや、若しくは藤丸が比較を始めると全てが台無しになる。

 原作の通り善良な人物たちだと確認はしたが、恐らく、人類悪が顕現しなかったのは、藤丸が未成年かつ一般人、そして唯一人だけのマスターだったことと、彼/彼女の人徳、という様々な幸運が重なった結果なんだろう。

 

 代案を総評すると、成功しても失敗しても人類悪が目覚める。

 

 ならば、本案はどうなるか。

 

 本案は、俺の正体に繋がるかもしれない情報を断片だけ提出することで、相手に俺が何者なのか予測させるという案だ。

 これなら、俺の正体が定まらないかもしれないので藤丸との比較という現象が発生しなくなる可能性が高い。

 だが、不確定要素が非常に大きすぎるという欠点を抱えている。つまり、()()()()()()()()()()()()()()

 ある程度絞れなくもないが──それは、百ある展開(パターン)を八十に絞るだけなので、それなら他にリソースを費やした方がいい。

 その上、俺が何者か絞れないという事は、あらゆる疑心や不満、不安が俺に収束するということを示しており──一応、布石は撒いたが、諸刃の剣になってもなんらおかしくはない。

 

 総評すると、本案は──正真正銘、何が起きるかわからない、“失敗したら死ぬ”運ゲーになる。

 

 代案も、本案もどちらも困難(じごく)であることに変わりはない──だけど、これ以上のものは、思いつかなかった。

 

「ふむ、……抑止力は、世界の破滅を察知すると何らかの“形”で介入すると聞く。その“形”が偶々君だったということか……?」

 

 ダ・ヴィンチ女史は、俺が何も答えるつもりがないことを察して、考えを纏めるためにブツブツと呟きを漏らし始めた。

 冬木のときの三つの要求が、やっと本来の役割をこなし始めている。

 

……正直、抑止力は俺を監視はしているが、干渉はできない──なんてセイレムと似た状態になっている可能性も大いにある。何らかの手段でそれが判別したら──止めよう。俺は、“選んだ”のだ。失敗したら死ぬのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺は、ただ、成功する確率が最も高いと判断したものを選べばいい。

 

「対象を必ず上回る数値で現れるならば──君が全く諦めていないことも、理解はできる」

 

 納得はしていないらしい。

 

「だが──矛盾が発生する」

 

 その通りだった。

 

 カレは、腕を組んで目を細めて俺をみる。

 冷や汗が、こめかみから垂れるが──表情(かお)には出さない。

 落ち着け。彼女はまだ杖を取り出して敵対する意思を明確に露わにしたわけではない。……くそ、「両儀式」(セイバー)を連れてこないことで、カルデアに危害を加えるつもりはないとアピールしたつもりだが、付け焼き刃かつ裏目に出るか……?

 

「本当に“そう”ならば──未曾有の事件(じんりしょうきゃく)が起きる前に、レフたちとやらを殲滅したらいい」

 

 抑止力の性質を知っている者なら、容易く至る答え(しんり)だった。

 

 緊張で喉が渇く。

 恐怖で指先が痺れそうだ。

 不安で瞬きすらできない。

 

 もう、何度吐き気を抑え込んだか。

 

──まだだ………まだ、想定の範囲内。

 

 俺は、目敏く気づかれないように唾を呑み、口を開いた。

 

「今回は、例外──特例です」

「へぇ、何故?」

 

 ダ・ヴィンチ女史が作り物のように──真実、作り物なのだが──整った片眉を上げる。その宝石のような瞳は更に薄く細められていった。

 

 何故。

 

 端的なソレに、全ての疑念疑惑疑心が詰まっている。

 

 ここで納得させなければ……!

 

「そもそも、レフは末端──いえ、()()()()()()()()()

「群体?」

「はい、彼らは群体という性質を有している故に──上下の階級はなく、切り分けた一部も直ぐに復活する」

 

 カレの疑惑に満ちた表情が崩れる。

 

「──っ、それは、群体を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──不滅だと?」

「その解釈で問題はありません」

「………成程。レフを()()()()()()()()()から、殺さなかったと……」

 

 それだけは、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺は、()()を認めたら──

 

「訂正させてください」

「──む、…何を?」

「──俺個人には、レフ一人さえ消滅させる力は全く所有されていません」

 

──きっと、もう──立つことすらできない。

 

「君個人…………抑止力の補助、若しくは力の譲渡がされた訳ではなく、借り受けたと言いたいのかい?」

「特例ですので」

 

 明言はできない。勝手に、都合よく、解釈してくれ……!

 俺の体感時間が、何分にも何時間にも延ばされ──永久にも感じ始めたとき、

 

「──ふむ。厳しい条件が、あるみたいだね」

 

……! ほぼ、理想通りの返答──解釈。

 これなら──!

 

「──だが、」

 

「まだ、足りない」

 

 一瞬。瞬きの間、片時だけ──表情(かお)が強張ったことを自覚した。

 

 脳が人体の限界を越えた速度で情報を処理し始める。心臓が爆発的に鳴り、血液を押し流し始める。それによって、全身の体温までも上昇していき──

 

「どうして、こんな回りくどいことをする?」

 

──急速に冷やされていった。脳は通常の処理速度に落ち、頭痛を訴えるだけで、心臓も嫌悪感を生み出すだけで、鳴る回数自体は平常に戻っていく。

 

 成程。そういえば、今は、人理焼却が始まったばかりなのだ。

 まだ、敵に拠点が、本拠地があることを把握していなかったらしい。

 

 俺は、平常──無表情のまま説明した。

 

「抑止力は、群体──敵に、敵の本拠地に直接干渉できないんです」

「本拠地だって!?」

 

 今まで、黙って静観していたアーキマンさんが声を荒げた。

 

本拠地(ホーム)が在るならば、今すぐにそこを叩けば……っ!」

 

 彼の気持ちは大いに理解できるが──愚かだと、俺は断じなければならない。

 

「無理だ、Dr.ロマン」

「だがっ、やってみなければ分からないだろう!? 僕は─」

「──ほら、落ち着いて、ロマニ」

 

 ダ・ヴィンチ女史が、この工房に侵入したときのように、アーキマンさんの肩に手を置く。それによって、彼の責任が、焦燥が、和らいでいっているのが詳細に分かった。

 

「……ぁ、ご、ごめん。早計だった」

 

 アーキマンさんが、冷静になっていく。

 

 原作の彼よりも、多分、余裕がない。いや、()()()()()()()()()()──こうなったのか。

 

…強烈な不快感が喉を迫り上がってくるが、より強い力で抑え、続けた。

 

「今は圧倒的に戦力が足りないし──なにより、人理焼却自体の原因は特異点にあります」

「……それは、どういう意味だい?」

「敵は、特異点の発生の要因を細工して送り込んだだけで、直接人類を滅ぼした訳ではありません」

「あくまで、人理焼却を消去するには、特異点を修復しなければならないのか…」

 

 アーキマンさんの表情(かお)が歪み、自らの拳を強く握りし始めた。……彼の腑が、煮えくり返っているのが伝わる。

 

「はい、それに、俺は本拠地が在ることを知っているだけで、座標は分かりません」

「そうなのか……場所を判別させる方法はある、と思っていいんだね……?」

「ええ。人理定礎値が一番高い──第七特異点にソレがあります」

「ほう、人理焼却(じけん)が起きないと、遭遇することすら成立しないから──故に特例か」

 

 ダ・ヴィンチ女史が、納得したように声を漏らす。

 

……何とか、乗り切った。

 全身の力が抜けそうになるが──どうにか、留まる。

 

「……よかった。まだ、活路は残されている」

 

 アーキマンさんが露骨に安堵の息を漏らした。それを見たダ・ヴィンチ女史が、悪どい笑みを浮かべ彼の脇腹を肘でつつき始める。

 

「ちょ、真面目にやってくれ、レオナルド……」

 

 あからさまにげっそりした表情を浮かべるアーキマンさんの背を軽く叩きながら、ダ・ヴィンチ女史は朗らかに笑って言った。

 

「いやぁ、なに。あのロマニがこんな肩肘を張っているなんて感慨深くてね。……──じゃあ、話を纏めようか」

 

 彼女が両手を軽く叩き、纏める。

 

「君が話せる事は限られているし、それが合っている保証もない。

 君の知識の出所は、抑止力が関係()している。

 君は敵をなんとかする手段を有しているが──厳しい条件がある。

 敵の本拠地の座標は第七特異点で判明する。

 人理焼却を解決するためには、各特異点を修復する必要がある」

 

 特に否定する要素はないので、沈黙を保つ。

 

「決まりだ。私たちは、人理定礎値が低い特異点から──第一から第七まで順に攻略しつつ、戦力を収集する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

####

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……彼に、今後の方針を話してよかったのかい?」

 

 彼──タナカが去った工房で、ロマニ・アーキマンが、ダ・ヴィンチに不安そうに疑問を発した。

 その発言を聞いたカレは、少し意外そうに声を漏らし──そして、安心させるように微笑んだ。

 

「ふふ、心にもないことを言うんじゃないぜ、ロマニ。……君、責任者として彼を疑うべきだと思いたいみたいだけど──本心は、違うだろう?」

 

 ロマニは、複雑そうな表情(かお)を浮かべるだけで、否定も肯定もしなかった。

 

「まあ、安心したまえ。彼がカルデア側か敵側か、それとも第三陣営か──どちらにせよ、相手をする余裕も必要もないさ」

 

 ダ・ヴィンチはゆっくり歩き出し、適当な椅子を引っ張り出して優雅に座った。彼女は、ロマニと対称的で、全く焦らず自然体(リラックス)している。

 

「……その心は?」

「簡単なことだよ。彼には、カルデアと敵対する度胸も気概も意思もない。自暴自棄にならなければ何も問題を起こすことはないだろう──それに、彼が本気でカルデアを壊滅させようとセイバーをけしかけたら、私たちは、最大限努力してなお相打ちで終わる──つまり、敵対が発覚した時点で人類滅亡さ」

 

「ならば、牙を剥く可能性なんて考えるだけ無駄ということになる」

 

 “何せ勝てないんだから”そう言い括って、カレは眼鏡をかけて資料を閲覧し始める。

 だが、ロマニは納得いかなかったのか険しい表情のまま沈黙していた。

 

「なんだい。ロマニ──いや、カルデアの職員(スタッフ)は、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ダ・ヴィンチは怪訝そうに疑問を呈した。

 それはカレだから──ダ・ヴィンチ(第三者)だからこそ言えることだった。

 

「……君は、彼と余り交流していないから彼の優秀さを知らないかもしれないが、」

「露骨に避けられていたからね」

「彼の肉体(からだ)をしつこく調べようとしてたからだろ……──それでも、噂とかくらいは知っているんだろう?」

 

 カレは、別の資料を側にある机の棚から引っ張り出して読み上げ始める。

 

「ふむふむ。◼️◼️──ああ、彼、本名嫌いなんだっけ。タナカタロウ、降霊科所属だが、どの学科にも顔を出していた異端児。いや、彼スゴイよね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──それは、」

「彼の師匠、性格、血統、欠陥の才能と様々な要因が関係しているが──一番は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり、毒にも薬にもならないから、放置されていた。

 

「で、偶々彼を見出したマリスビリー・アニムスフィアがカルデアに引き抜いた、と」

「その、通りだ」

 

 ロマニは、苦々しい表情を隠しもしないまま肯定した。

 ダ・ヴィンチはそれに気付きながらも指摘はせずに淡々と続ける。

 

「カルデアに所属してから、マリスビリーの一存で“Aチーム筆頭候補”に抜擢されるが、彼が死去してから他の幹部によって降格され、それによってカドック・ゼムルプスが昇格。だが、彼はどのチームにも配属されることはなく、その知識量に期待し、()()()()()()()()()。事実上、魔術師としては期待していないとの宣言。正に、栄華を誇った王国が転覆するが如くだ!」

「──茶化すな、レオナルド」

「別に嘲笑している訳じゃないさ。──その異色の経歴故にか、カルデアに在籍している一般人や魔術師、どちらにも顔が聞き、よく緩衝材になっていたらしい」

 

 カレは、資料──タナカの経歴を読み終わったら、適当な机の上に置いて言った。

 

「この他にも、時計塔時代に嫌がらせで死徒退治に同伴させられていたみたいだね。その折、偶然にも成り立ての上級死徒と遭遇。彼以外全滅したが、居合わせた代行者と協力して討伐に貢献と。──おかしいと思わないかい?」

「…………何が?」

 

 ロマニは、首を傾げる。彼は、()()()()()()()()()()、としか思わなかった。

 それを確認して、ダ・ヴィンチは己の違和感が確信に変わりつつあった。

 

 カレは、心底不可解だと言わんばかりに眉間に皺を寄せる。

 

「何か、おかしいかな……?」

「かなり変だね。……天才(わたし)からしたら()()()()()()()()()()()()()()()

「確かに、彼の魔術の才能は欠陥だけど──他の分野は間違いなく天才そのものだろ?」

()()()

 

 そう言って、ダ・ヴィンチは自らを指差して見解を述べた。

 

「私が言うのもなんだが──天才は、大なり小なり性格に難を抱えている。しかし、その割には()()()()()()()()()()()()

「? ……別に凡庸ではないと思うけど……曲者揃いのAチームの間に入れるんだし、噂の一つには、ヴォーダイム君を魔術談義で仰天させたなんてある」

「──やはり、私の認識(してん)と、君たちの認識(してん)では大きな隔たりがある」

 

 彼女は、椅子から立ち上がりぶつぶつと呟きながら歩き回り始めた。

 

「彼は、どうやったのかは知らないが親しい相手に自らを大きく見せる術に長けているが──」

「レ、レオナルド?」

「──親しくなればなるほど相手を理解していくだから」

「おーい」

「彼は一般論を好む傾向があるが──」

「レオナルド」

「健全な肉体に健全な精神が宿ると聞くが──」

「レオナルド!!」

「おっと」

 

 ロマニの怒声で、ダ・ヴィンチはピタリと止まった。

 彼は、呆れながらも彼女の考察を聞き出そうとする。

 

「で、何が分かったんだい」

「──順を追って、説明しようか」

 

 彼女は、指を三本立てた。

 

「一つ、彼を肉体は兎も角、性格──()()は凡庸だ。だが、彼は様々な悪意に晒されながらも、あの特に変哲のない性格を保てている」

 

「今日、初めて彼を詳細に観察し、特異点Fとの記録と照合したが、カルデアで広まっていた噂の超人のような人物像とも合わないし、演技をしている様子も私たちの前ではなかった」

 

「これらのことから、彼は常に暗示をかけているか、もしくは理想の人格でも作ったか、あるいは余程我慢と努力したか、それとも人に合わせて演技をしているか────いっそ、全部試したか」

 

「二つ、健全な肉体に健全な精神が宿るという格言があるが──彼は、その肉体に反して精神は平凡だ。要は、チグハグなんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という表現が一番しっくりくる」

 

「三つ、彼は、己の知識が抑止力に関係していると言っていたが、明言することを避けていた。別に嘘は吐いていなかったから───恐らく、抑止力は関係はしているが、それはか細い関係なんだろう」

 

「三つを統合して考えると、今の彼は、抑止力によって平凡な精神──魂と知識と“何か”を後付けされた状態で、それを何らかの方法で守っている。でも、抑止力からはもう既に放置されているんじゃないか」

 

 工房が静まり返った。

 

「………幾つか、質問をいいかな」

「どうぞ」

 

 ロマニは、神妙な面持ちで問いかける。

 

「そもそも、それは彼の精神が平凡だと仮定した推論だろう」

「そうだね。でも、天才(わたし)は彼が凡人だと確信しているよ……!」

 

 両手を腰に当て、上体を微妙に反らして“はっはっは”と笑う余りにも自信満々なダ・ヴィンチの姿に、ロマニは二の句を告げれなかったがなんとか持ち直した。

 

「抑止力は、何で態々そんなことを?」

「さあ? “この方法が一番手っ取り早いです”って感じでやったんじゃないのかな。それにこの推論、彼の情報があっている前提だし」

 

 “嘘を吐かなくても誤魔化す方法は幾らでもあるしねぇ”と悩ましげに彼女は言った。

 

「……肉体と魂は同質でなければならない。もし、彼の精神が後付けなら、拒絶反応を起こすか、そもそも肉体を操作できない筈だ」

 

 ロマニが、質問を続ける。

 

「そこが謎なんだよねぇ……まあ、拒絶反応抜きに考えたら──昔の彼は知らないが、今の彼は、たぶん()()()()()()()()()()()()()

「絶妙?」

「そう、黒鍵をあの威力で投擲できる程度(レベル)で馴染んでいるが、本当に、僅かに、どこかズレている筈だ。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「魔術基盤に指令を送ることが上手くいっていないのか……」

「そうだね。だが、どんな手段を用いたのかは知らないが、特異点Fでは二流程度まで上昇していた」

 

 彼女は、興味深そうな表情で特異点Fの記録を閲覧し始める。

 

「彼の固有? 魔術である再現魔術もかなり異質だねぇ……まさか、あんなものを持っているとは」

「それは、僕も気になっていた。彼と()()()の魔術属性を扱える現代の魔術師は存在しないから何とも言えないけど、レオナルドからしたらどう見える?」

「そうだねぇ……専門家からしたらどう思う?」

 

 そう言って、彼女はニヤニヤしながらロマニを見た。

 

「──あり得ない」

 

 はっきりとロマニは、おかしいと断じる。

 

「彼が再現したモノは固有と思われる魔術の劣化品だった」

「おや、それならいいんじゃない?」

「分かっているだろう。一族由来や魔術特性、起源由来の固有魔術は、同じ一族か、特性や起源を持っていないと再現どころか扱うことすらできない」

「そうだね──だから、一部だけでも再現しているのはおかしい」

 

 ロマニが、眉間を押さえてため息を吐いた。

 

「これも、抑止力が関係しているのだろうか……」

「ま、どういう理屈なのか非常に興味深いが、余裕ができた時に聞くべきだね」

「それはそうだけど……」

 

 ダ・ヴィンチは肩を竦め呆れながらロマニを見る。

 

「心配症だねぇ……あー、やだやだ、司令官になんて死んでもなりたくないね」

 

 彼女は心底嫌そうな表情をしていた。

 

「もう死んでるだろ……」

「おっと、そうだった」

 

 ロマニがジロリとダ・ヴィンチを睨むが、彼女はどこ吹く風と言わんばかりに明後日の方向へ口笛を吹いている。やがて、彼女が全くタナカを問題視していないことに、ロマニは物申す気も失せ、全身を脱力させ嘆息した。

 

「──ロマニ」

 

 ダ・ヴィンチから声をかけられたロマニは、疲れた表情をあからさまに前面に出して返事をする。

 

「何だよ」

「私は、彼を凡人だと言ったよね」

 

 彼女は、ロマニと顔を合わせずに特異点Fの記録を読み返しながら淡々と続ける。

 

「話は変わるが、彼は私を除いたカルデアに所属している全ての人間と仲を深めていた」

「────何が、言いたいんだ?」

 

 ロマニは、ダ・ヴィンチが何を言いたいのか察しながら、表情を、声を険しくしていく。

 

「いや、なに。彼、友人をほぼ全員見捨ててのうのうと生きている訳だけど、(ぼんじん)の精神は耐えられるのかな?」

 

 

 




 オリ主の認識が、ダ・ヴィンチちゃんと他の人間で違うのは、オリ主が仲がいい人にはBLEACHのヨン様と似たことを実行したからです。

 ・成り立て上級死徒──名無し。月姫世界だとワンチャン二十七祖に入れるんじゃね? くらいの強さだから、普通にオリ主は絶体絶命になったが、偶々カレー先輩が颯爽と助けてくれた。色々あって、オリ主が囮になり、カレー先輩が頑張って圧殺した。


 ちなみに、オリ主の本質に気づいていなかったAチームのクリプターは、カドックとオフェリアだけです。

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