FGO世界に転生した一般オリ主くんが生き残るためにリアルガチチャートを組んでRTAを走るお話 作:ペットボトル羊
自室。
俺の部屋──マイルーム。
それと廊下を分ける境界線である扉の前で、俺は立ち尽くしていた。
「どう、しようか」
正直、躊躇している。
何故なら、この境界線を越えた先に──
「両儀式」。
両儀式の肉体そのものに宿っている人格。太極、根源、
原作では、率直に言って、かなり弱い。だが、それは自身の肉体性能だけで戦っていただけで、彼女が本来の能力を奮ったならば──文字通り、世界がひっくり返るレベルの事が起こるだろう。
何故、俺の召喚に応じたのだろうか。
俺は、自らがあからさまに怪しいことを自覚している。
────“貴方、変ね”
あの行動が、あの言葉が、本当に匂いを嗅ごうとし、それが変という意味で言った筈がない。
あの時は非常に混乱したので、適当な演技をすることで疑惑の目が集まることを防いだが──本当は、いったい何の意味が。
くそ、額面通りの意味で何でもできるから──
「あ?」
腕を組んで思考していた俺の全身が硬直する。
──
「ぁ──ぁああ……!」
俺は、両手で頭部を押さえて呻き声を上げ始めた。
鼓動が止まらなくなって血液が加速し続ける。
「──、──ぐ、ぎ」
何でもできるなら。
何でもできるなら。
何でもできるなら。
──ほんとうに、なんでもできるなら。
──だけど、そんな、つごうがいい話が、あるはずがない。
でも、もし、だって、そうなら。
人理焼却どころか、亜種特異点も人理再編も、
いや、それ以前にみんない──
「入らないの? マスター」
「──ぁ、ぇ?」
俯いていた顔を上げる。
眼前に「両儀式」が不思議そうに小首を傾げて佇んでいる。
何故、彼女が
俺は、
「あ……」
──彼女の背後にある境界線は、元々“そう”だったかのように消失していた。
……どうやら、「両儀式」は、あまりに俺が部屋へ入室するまでの時間が長いので、見兼ねて扉を開けて迎えにきたらしい。
「ここはあなたの部屋よ、マスター。遠慮する必要なんてないわ」
「あ、ああ……」
俺は、取り敢えず両手を下ろして反射的に笑みを取り繕うとして──やめた。
自らの演技が
「両儀式」が、踵を返す。
俺は素面のまま、彼女の後を追って妙に懐かしく感じる自室へ侵入した。
「それで、何の話をしようかしら」
「両儀式」は、白いベッドに優雅に腰掛け、
俺は、少し尻込みしながらも、自分の部屋なのに突っ立ったまま重要なことを問いかけることにした。
「貴女は、騎士王との戦闘で、任意でスキルを取得していたが……
絶対にここで、確実に判明させておきたい。
冬木では、「両儀式」の性能を把握するよりもやるべきことが多かったので後回しにしていたが、もうその段階は抜けた。よって、これ以上先延ばしする理由もない。
──本当に、そんな理由か?
……だが、彼女が俺の
クー・フーリンが近寄ってきた時も、俺が指示する前に先頭に立って俺を守ろうとした。
いや、あれは俺のためにやってくれたようだし──
あの時も、それなりに混乱したが──彼女は、間違いなくクー・フーリンを威圧していた。
何故。
「両儀式」からしたら、俺はすこぶる不審な筈なのに、あれほどにあからさまに観察していたというのに、何故好意的に見える反応をしているんだ。
彼女は、確か、原作では今の状況を一時の夢と言っていた。ならば、全て「両儀式」の遊興だったと? しかし、これは、彼/彼女の場合で、俺に当てはまるのか?
情報が足りない。
これ以上、推理を進展させるには、直接「両儀式」から真意を聞き出すしかないだろう。……場合によっては、令呪も視野に入れておかなければ。効果があるかどうかはあまり考えたくないが。
「そうね……」
「両儀式」が、その細長い指を撫でるように唇に添え、両の瞳を軽く天井に向けながら、
……何か、強烈な違和感を感じる。
何か、見落としている気がする。
何だ、何を、何が──俺は、見逃している?
「そうだ、これなら分かりやすいわ」
彼女は、控えめに両手を合わせ、顔を
──そうだ。
「両儀式」は、
「私は、たぶん、“魔法
何だよその
何で、俺にも分かるくらい頬が僅かに赤くなっていて、声も少し震えていて、緊張を、していて────まるで、
「あ、私もマスターに質問して、いいかしら……?」
「両儀式」が、
「え、あ、ああ……」
唐突なそれに、俺は生返事をすることしかできなかった。
だというのに、
「私、
“あ、これ、質問じゃないわよね……!”と、ふつうに慌てている
かちり、と
「なま、え……偽名だけど、答えたと思う、が?」
俺は、震えた声で“そう”漏らすことしかできなかった。
「違うの、マスター」
そう、
「あなたの
──まさか。
────“あなたは、だれ?”
アレが、そのままの、文字通り、額面通りの意味を持つとしたならば。
「…その、マスター。やっぱり、嫌かしら?」
──彼女の、機嫌を損ねるわけにはいかない
そう考えた俺は、正直、かなり、非常に迷ったが。
「……誰にも、言わないでくれるか?」
結局、
「誰にも……ええ、二人だけのひみつね、約束するわ!」
そんなに嬉しそうにしないでくれ。
元の、前の、俺の名前はべつに特別でも、特異でも特殊でもないんだ。
「……。──、──、だ」
意を決し、誰にも伝えたことがない俺の
「──、──。……ええ、ぜったい、忘れないし、言わないわ」
彼女は、両手を組んで胸に持っていく。
その
「両儀式」。
太極、根源、
様々な言葉で表すことができるが──全ての“それ”に共通することがある。
「両儀式」は、疑う余地もなく、紛うことなく全能で、何でもできるし、
“あなたは、だれ?”
彼女にとって、全ては些事で、既知なのに。
それが、覆された。
たぶん、天地どころか、星がひっくり返っても起こらないことが、彼女の中で起こったのだ。
いったい、どれほどの衝撃だったのだろう。
何者にも縛られることはなく、真実自由だった彼女が、
全てを理解できるからこそ、何もする意義を感じない。
彼女は、何を想って、何を感じて、何を期待して──俺の
俺には、推し量ることすらできなかった。
「……あ、ごめんなさい。次は──くんの番だわ」
俺たち二人だけしかこの空間にいないからか、「両儀式」は、心を歓喜に震わせながら
──たぶん、彼女はその身に纏う、純白の、穢れのない着物のように“白”なのだ。
“なにもの“にも縛られておらず、“なに”にも影響を受けておらず、“なに”も知らないから──“白”なのではない。
“なにもの”にも縛られることはなく、“なに”にも影響を受けず、“すべて”を知っているから──“白”。
故に“
おそらく、彼女は初めて、“
──ならば、彼女を己の
誰かが、嘲るように俺を誘惑した。
心臓から表れた欲望が、血液のように中心から末端まで行き届き──最後に、脳の中枢まで到達して。
────
後から表れた憎悪が全部塗りつぶしていった。
全部、全て、
ふざけるのも大概にしろよ。
愚かにも程がある。
馬鹿も、休み休み言え。
そんなことをしたら、してしまったら──俺は。
一生赦さない。
「
女の子ではなく、少女ではなく、乙女ではなく──聖母のような、慈愛溢れる声で。
「あまり、無理をしては駄目よ?」
「両儀式」は、俺の部屋から彼女に貸し与えられた部屋へ帰っていった。
「…………」
何も、思い出せない。
いや、思い出せるのだが──正確に言えば、
恐らく、「両儀式」が俺に干渉したんだろう。
だが、今は、それを考える必要はない。
「だれも、いない」
俺の探知にも感知にも、何も反応がない。
そして、今日やるべきことも終わった。
つまり、
──俺は、
正真正銘、独りで。
──ゆっくりと、無機質な床に膝をついた。
次回、例のシーン(マイルド)。