FGO世界に転生した一般オリ主くんが生き残るためにリアルガチチャートを組んでRTAを走るお話   作:ペットボトル羊

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 日常プラスα
 後一話挟んでフランスかなぁ……



彼女はとんでもないものを見てしまいました。クズの心です。

 私は、初め、タナカくんは天然(へん)な人だと思った。

 変だけど、悪い人ではなくて、寧ろいい人だったし、コミュ強で、分かりやすく言うと陽キャだった。

 

「いいかい? サーヴァントは、魔術世界における最上級の使い魔で──」

 

 だけど、彼に凄まれた時、評価が曖昧になって、そのままレイシフトしてしまった。

 

「正式名称は“境界記録帯(ゴーストライナー)”。神話や伝説の中で為した功績が信仰を──」

 

 本当に、それから、いろいろあって曖昧なまま危ないところを彼に助けられた。

 だからだろうか。たぶん、私は彼を崇拝──信仰していたんだと思う。

 

「サーヴァントには依り代が必要で、簡単に言うと、マスターが英霊を世界に留める要石に──」

 

 私は、彼を疑うべきか迷いながらも、彼は何でも知っているし、何があってもあらゆる答え(せいかい)を生み出せる人物だと思っていた。

 実際に、そう勘違いするくらいの成果を叩き出していたし、ここら辺は、まあ、しょうがないと思うことにする。

 

「そんなサーヴァントにも、弱点が存在していて──霊核って言ってね。まあ、人体における心臓部だと──」

 

 でも、()()()の彼の吐きそうな表情(かお)を見て、評価が一転した。

 彼は、多くの事柄を知っているけれど──万能ではないのだ。

 当然のことだった。

 彼も人間で、できないことがあって、知らないことがあって──普通に苦しんだりするんだ。

 

「七つのクラスがあるけど、私のオススメは断然キャスターだよ! 何せ──」

 

 彼が凄い人だという認識は変わらない。

 だって、私が、精一杯隠していた苦しみを、彼は簡単に看破して、親身になって聞いてくれたのだ。十分に凄い人である。なんか黒鍵? っていう武器も正確に投げまくっていたし。

……アレ? 私、彼に抱えられたり肩を借りたり密着しすぎでは?

 私は軽い女なのだろうか。……い、いや、私軽くないしおも、……重くもない。彼も羽毛って言っていたからうん、問題は、ナシ。

 

 何を考えているのだろうか。

 

 兎も角、私は、しっかりと現実を見据えることができるようになった筈だ。

 ならば、このまま彼に頼り切る関係にはなりたくない。女が廃る。

 先ず、目標として、私よりも遥かに優れている彼に追いつけるようになろう。友達だし、対等らしいし、それならおんぶに抱っこは嫌だ。

 

「さて。──藤丸君、天才(わたし)が先程述べた内容を簡潔に纏めて復唱してくれたまえ」

「え゛」

 

 え゛。

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、じろりと私を睨みながら指示棒で指し理不尽な要求をした。

 

 私は、今、空いている部屋を利用して彼女の講義を受けている。この部屋は、元々カルデアの魔術師が講義を受けていた部屋で、大学の講堂並みに広い。私とマシュとダ・ヴィンチちゃんしかいないけど。

 私の魔術の才能は殆どないらしいので、そっちは礼装の補助でなんとかして、前提知識を詰めようという方針になったのだ。

 

「ほら、早く早く」

 

 私の顔が焦りで歪む。

 不味い、全く聞いていなかった。専門用語ばかりで頭に入らないから別のことを考えていたのに。

 

「さあさあ! 早くしたまえ、藤丸君」

 

 彼女は、あからさまにニヤニヤしながら私を急かす。

 

 どうやら、授業に集中していなかったことはバレバレだったらしい。公開処刑という名のお灸を据える気か……!

 

「せ、先輩。初歩の初歩ですので先輩なら大丈夫です……!」

 

 マシュが、私を安心させるように応援した。

 

 私は、曖昧に笑ってなんとか誤魔化す。

 ごめん、マシュ。私、その初歩さえ分からないんだ。

 

お黙り(シャラップ)! マシュ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、今度はマシュに指示棒を突きつけ、私語を慎めと注意した。

 

 何でこんなノリノリなんだ。マシュもマシュで普通に納得して黙っちゃったし。

 ど、どうすれば……だ、打開策はないのか。

 

 私の明晰な頭脳が膨大な情報を処理し始め──結論を出す。

 

 有耶無耶にしよう。

 

「だ、ダ・ヴィンチちゃん!」

「ダ・ヴィンチちゃんではなぁい! ()()、と呼びたまえ」

 

 彼女は、かけている眼鏡をくいっと上げながら私の間違いを訂正させようとしてくる。一瞬、照明の光を反射したからか、コ⚪︎ンくんの眼鏡並に輝いたから微妙にイラってきて、私の額に青筋が浮かびかける。

 いや、そんなことはどうでもいい。この面倒くさいサーヴァントをなんとかしなければ。

 

 よし、自称天才だし、煽てるか。

 

「きょ、教授って魔術師の英霊(キャスター)なんだよね?」

「? ああ、そうだとも」

「それなら、教授のす、凄いところ見たいな〜!」

 

 私は、誰が見ても分かるくらい目が泳いでで、棒読みでダ・ヴィンチちゃんを煽てた。

 

 やばい。

 これは、流石にひどい。絶対にバレる。

 

「! ほう、しょおうがなあい! 天才が天才たる所以をみせてあげようじゃないか!」

 

 ちょろい。

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、鼻息荒く興奮しながら教卓を漁り始めた。

 

 さて、どうしようか。このまま放置すると彼女の熱気が冷めてしまう可能性が高いから、なんとかより話を発展させたい。

 何か、いい案が思いつかないかな。

 うーむ……彼女のプライドを刺激できる何か……あ、これにしよう。

 

「教授」

「ん? なんだね、藤丸君」

「教授は天才って自称していたけど、タナカくんとどっちが凄いんですか?」

 

 私は、私の中で間違いなく天才の一人であるタナカくんを引き合いに出した。

 

 完璧だ。

 これなら、ダ・ヴィンチちゃんの自尊心を刺激して、話をより膨らませることができる。これによって、私が講義を聞いていなかったという事実は綺麗さっぱり彼女の頭から消え去るって寸法よ……!

 

「……彼、か」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、ピタリと硬直して呟いた。

 そして、ため息を吐いて教卓を漁ることを止めて、体を起こして私たちに向き直った。

 

「ちょうどいい。彼も、ロマニと今後の予定について話し合っているから此処にはいないし、伝えておこう」

 

「特異点を修復して一日経ったしね」と、彼女は、両手の埃を払いながら襟を正した。

 否応なく私の背筋がピンとなる。いったい、何の話だろう。

 

「私たちが所属している組織──フィニス・カルデアの、彼に対する今後の方針(処遇)だ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、教卓に両手を添えて言った。

 

……処遇、方針。

 タナカくんは、非常に怪しいから味方ではなく敵陣営かもしれなくて、その上、“それ”を確定させる手段もなく、探る時間(よゆう)もない。

 だから、大まかな彼の扱いを決めておこう、という話なんだろう。

 

「カルデアは、現状、余裕が存在しない。故に、私たちは──彼を放置する」

「……はい、一つ質問をしてもいいですか、教授」

 

 マシュが、手を挙げてダ・ヴィンチちゃんに発言許可を求めた。律儀に教授呼びである。

 

「いいよ。なんだい、マシュ」

「あの、タナカさんに脅威を感じないというのは理解できるのですが……放置して、問題ないのでしょうか?」

 

 それは、マシュが組織の決定を批難しているのではなく、純粋に疑問に思っているだけのようだった。

 

 確かに、マシュの気持ちも分かる。

 タナカくんは、不審だけど、信じたいと思える人だ。でも、それはそれとして、組織として集団として、放置していいのだろうか。あと、マシュさんや、彼の目の前で“それ”言ったら駄目だよ。

 

「その疑問は尤もだ、マシュ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、うんうんと嬉しそうに頷いて、マシュの質問に答える。

 

「これから、他の職員にも伝えるが──彼は、()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女は、そう()()した。

 

 抑止力(カウンターガーディアン)

 確か、人類──世界の滅びの要因を回避しようとする概念的な存在だっけ。あらゆるところで辻褄合わせもしているらしい。

 

「そうそう、そんな感じ。──つまり、彼の後ろ(バック)には“世界の滅びの要因を回避しようとする意思”がついているから、監禁とかできる訳ないし、なら、放置して存分に働いてもらおうって話さ」

 

 それなら、納得も理解もできる。

 凄い存在の支援を受けているのに、肝心な時に戦えませんでしたってなったら、もう、頭が悪いなんてレベルではない。

 

「そういうこと。マシュも理解できたかい?」

「はい」

 

 マシュは、なんて言うか、「はぇ〜」って感じの顔で納得している。戦闘では、あんなに覇気があるのに、そうではない時との差が激しい後輩であった。

 

「さて。伝えるべきことは伝えたし──藤丸君も、彼のことが気になるみたいだから、彼の話でもしようか!」

 

「それはそれとして、後でお説教だよ」と、ダ・ヴィンチちゃんが嘆息しながら、澄まし顔をして内心ほくそ笑んでいた私に釘を刺す。

 

 ぐ、ぐぬぬ。

 私の露骨な煽ては、彼女には看破られていたらしい。分かっていて乗っていたのか。

 説教は確定か……い、いや、マイナスばかりではない。タナカくんが、どのくらい先にいるか参考にはなるはずだ。

 

「先ず、彼の話をする前に、一つ、彼に関する注意事項を教えておこう、藤丸君」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、指を一本立てて私だけに忠告する。

 

 困惑で首を傾げる。何で、私だけなんだろう。

 

「ああ、あれですね……」

 

 なるほど。

 どうやら、マシュは、彼の地雷が何のことか知っているから私だけなようだ。

 

……地雷といえば、私は、一回彼の地雷のようなものを踏んだと思われるけど、ダ・ヴィンチちゃんの言う注意事項と一緒なのだろうか。

 

「既に知っていると思うけど、彼の名前──タナカ、タロウは偽名だ」

 

 そう、実は、彼の名前であるタナカタロウは偽名なのだ。

 けっこう最近で気づいたけど、思い切り嘘を吐いていたのである。

 いや、まあ、確かに一度気づいたら、明らかに偽名だと分かるけど──当時の私は、「はぇ〜、本当に、そんな普通すぎて逆に唯一無二の名前の人が存在するんだ」って思っていたのだ。……ここら辺が、私が能天気だと言われる所以かもしれない。

 

「カルデアにいる人間は、皆、彼の本名を知っている訳だが、」

 

 私、彼の本名知らないんですけど。特異点Fにレイシフトしたとき、彼の本名がアナウンスされていた気がするけど、あまり記憶にないし。

 

「彼、本名を蛇蝎の如く忌み嫌っているから、偽名の方で呼ぶようにしたほうがいいよ。藤丸君」

 

 彼に本名について問いただそうとしていた私の肩が跳ねる。

 だ、蛇蝎の如く? どんだけ嫌いなんだ。……もしや、“アレ(厨二的)”な名前なのか。

……取り敢えず、()()()踏んだ地雷とは違うらしい。

 

「注意事項も伝えたことだし、話を戻そう。……そうだね、これから肩を並べて戦う訳だし──基本的な、彼の情報を教えよう」

 

──私は、彼に追いつきたいと思っている。

 でも、彼は、私なんかより遥か先にいて。

 

「タナカタロウ。魔術協会総本山である時計塔の降霊科所属で、今は、二人しかいないカルデアのマスターの片割れだ」

 

 彼は善人だ。

 私は、そんな彼を好ましい人だと思っていて。

 

「────そして、彼は、“才能の塊”なんて陳腐な言葉では語りきれない程の素質を持っている」

 

 彼は凄い人だ。

 私は、そんな彼を尊敬していて。

 

「サーヴァントの能力に基準(ランク)があるように、魔術協会も、魔術師の才能を大雑把に基準(ランク)分けをしている」

 

 彼は天才だ。

 私は、そんな彼と肩を並べたいと思っていて。

 

「──魔力EX、魔術回路、質/量と共にEX」

 

「魔術師は、基本的に自身の魔術的な性質──魔術属性を所有していて、主だった属性は七つ。

 それは、火・地・水・風・空、の五大元素と呼ばれる五つと、虚・無、の架空元素と呼ばれる二つからなる」

 

「五大元素の中で、(ノウブル)が希少属性で、(エーテル)がそれより稀有な属性だ。

 そして、架空元素である虚数は、それらよりも更に稀有で、数えられる程度の数の使い手しかいない。その上無属性は、魔術協会設立以来一度も扱える魔術師は現れていない」

 

────でも、

 

「一般的に、五大元素全てを扱える才能豊かな魔術師を五大元素使い(アベレージ・ワン)と呼称するが──」

 

「──彼は、魔術協会史上初の()()()()()()()()()()()全属性使い(アルテミット・ワン)と呼称されており、」

 

「────()()()、現代最強最高の魔術師になれる資質を持っている」

 

 彼は、一般人()なんかよりも遥か遠い彼方(さき)に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、来たね。立香」

 

 訓練室(シミュレーションルーム)に入室すると、既に、タナカくんが私を待っていた。彼以外にも、マシュや両儀式さんがいるらしいけど、軽く辺りを確認しても視認できる範囲には私とタナカくんしかいない。

 彼は、私が入室した瞬間に振り返って、私に手を振る。

 

……取り敢えず、彼は、極力質問には答える、と明言していたのだから、私は、彼に駆け寄って質問することにした。

 

「タナカくん」

「ん? どうした?」

「タナカくんって、才能があるって言われたり言われなかったりするけど、どっちなの?」

 

 これは、私の中ではけっこう重要なことだ。

 本人から直接聞くことで、あやふやな評価を受けている彼が立っている場所を、ある程度目算しようと試みているのである。

 

 彼は、私の質問を聞いて目を丸くしていたが、「ああ、ダ・ヴィンチちゃん辺りに聞いたのか」と、破顔し、説明を始めてくれた。

 

「俺に才能があるかないかで二極化するならば、確かに俺には才能があるだろう。でも、俺は()()()()才能がないんだよ」

「? 部分的にって?」

「そうだな……魔術は、基本的に『魔力』、『魔術回路』、『魔術基盤』、『詠唱』の四つの要素が扱うのに必要になる」

 

 タナカくんは、指を四本立てて続ける。

 

「この中の『魔術基盤』──つまり、魔術式に、『魔術回路』が生命力を変換した『魔力』と指令を送ることで式が起動し、『詠唱』を合図にして魔術を行使するという過程(プロセス)な訳だ」

 

「詠唱が必要ない簡易的な魔術もあるけどね」と、彼は補足した。

 

「俺は、この中の指令──まあ、俺の意思が魔術式に上手く伝わらないんだ」

 

 彼は、困ったように肩をすくめ、苦笑している。

 

 意思(めいれい)が、上手く伝わらない? 

 

「理由は分からないけどね。……具体的に言うと、研究や実戦にギリギリ許容できる領域(レベル)で扱える魔術が、まあ、立香には分かりづらいと思うけど──三流魔術師領域(レベル)なんだ」

 

 私は、気軽に聞いたことを後悔した。居た堪れなくなって、顔を俯けてしまう。

 

 だって、彼が在籍していた時計塔は、天才たちの巣窟で、その中で彼は──頂点に立てるほどの才能を持っているのに。

 でも、肝心の魔術行使能力の才能が圧倒的に足りなくて、そんなの、他人から見たら──

 

「……あー、まあ、気にしなくていいよ、立香。確かに、君が想定したように俺はよく嘲笑されていたけど、当時の俺は事情があってその程度のことは気にする余裕がなかったし、それに全員が“そう”だった訳ではないさ」

 

 タナカくんは、困り顔で大丈夫だと告げた。

 たぶん、彼が困っているのは、差別されていたことを明かしたことに困っているんじゃなくて、私が勝手に自責の念を感じていることを察しているからだ。

 彼は、凄い人で、天才で、善人で──でも、聖人(万能)ではないんだ。

 きっと、私には想像もできないくらいに苦しんでいたはずなのに、私のせいでそれを思い出したはずなのに、私に負の感情を抱くんじゃなくて、ただ、本心から気にしなくていいと言っている。

 

──純粋に、今の状態の自分を私は恥じた。

 私は、彼に追いつきたいのだろう。それに、私と彼は友達で、“親しき仲にも礼儀あり”と言うように(ともだち)に不快な思いをさせたならば。

 

 やることは、一つ。

 

「はい、ストップ」

 

 私は、彼に謝ろうとして顔を上げて──眼前に掌をかざされて、止められた。

 

「わ、え、な、なんで?」

「このまま君が俺に謝ったら、俺は本当に気にしていないのに、()()()()()()()()()()君を謝らせてしまったって負い目を感じてしまう」

 

 彼は、私の視界を遮っていた掌を退けて──優しく、微笑んでいる。

 

「だから、貸一つで」

「……なにそれ」

 

 私は、呆気に取られていたけど、ただ、おかしくて、顔が綻んでしまう。

 

「いい顔になったじゃないか」

「そうかな」

「ああ。それに、俺に負い目なんて感じなくなるくらい立香には訓練を頑張ってもらうから、覚悟するように」

 

 私の顔がピシリと固まる。

……た、タナカくんは、優しいし、教え方も上手いから、だ、大丈夫だよね……?

 

「教え方が上手い、ということは、相手の領域(レベル)に合わせることが上手い、とも言える」

 

 つ、つまり?

 

「つまり、君がどこまでできるのか完全に把握しているから、ギリギリまで頑張ろうか」

 

 そう言って、彼は、私がギリギリ視認できるくらいの速さで彼の拳が当たる間合いまで踏み込んできた。

 

「ちょ、まって、心の準備が!」

 

 私は、取り敢えず、抗議しつつ、死に物狂いでお腹に迫る拳を横に跳ぶように避ける。

 

「待てと言われて待つ敵はいないさ」

 

 開いた距離を、彼はまた、私が辛うじて見極めれる速さで詰める。

 迫り来る鬼教官。

 私は、恐ろしいその姿を視界に収めながら、訓練室に来る前の会話を思い出していた。

 

 あれ、これ走馬灯?

 

 

 

####

 

 

 

「この前の疑問に答えておこうか」

 

 私の部屋に、マスターとそのサーヴァントたちが集まっている。全員いることを確認した彼は、私に顔を向けて言った。

 

「この前の疑問?」

 

「十割勝てる策を練らないのかって思っただろ?」

 

 たしかに、そう思った。

 

「先ず、覚えていてほしいのは、必ず勝てる策は策ではなく、蹂躙(ゴリ押し)だ」

 

 ごり押し。ゴリラ。

 

「そもそも、策を練るということは、盤上をひっくり返したいから練るわけであって、ゴリ押し(正面)で勝てるならそっちの方がいい」

 

 それは、なんで?

 

「正面戦闘は、地力の差がそのまま反映される。だから、地力が上回ってさえいれば安定して勝てるんだ」

 

「対照的に、策は不安定だ。緻密に練れば練るほど効果は上がるが、その分脆くなる」

 

 なるほど、だから大雑把な方針だけ決めたんだ。

 

「いや? 違うけど」

 

 あるぇ?

 

「『これ』って最強の個人(サーヴァント)には、適用されるかは微妙だからね」

「それは、いったいどういう意味なのでしょうか?」

 

 マシュが、質問する。

 

「サーヴァントは唯一無二の(宝具)を持っているからね、いつでも盤上をひっくり返せるわけだ」

 

 え、それじゃあ勝てないんじゃ……。

 

「そういう訳でもない。宝具を使わせずに封殺する場合(パターン)もあるし、宝具(それ)を使われた上で、全部凌駕する場合(パターン)もある」

 

「要は、サーヴァント戦っていうのは、宝具という策が全ての“流れ”を握っているのさ。

 それを、サーヴァントたちはみんなよく理解しているから、マスターがやることは、基本的に大まかな方針だけ決めて細かいところは相棒に任せるってことになる」

 

「それに、サーヴァントの動きを全部追って逐一指示を出す、なんて無理だしね」と、彼は締め括った。

 

 策を綿密に練ることで脆くなることを嫌ったんじゃなくて、そもそも策を練る意味がないのか。

 

「既に“有る”からね。補足すると、今回は大雑把でよかったけど、全部が“そういう”訳ではない。これから先、策を練らなければならない場面は必ず来る」

 

「だから、()()()が来たら、みんなで意見を出し合って話し合おう」

 

 みんなって……作戦を立てるという分野においては、タナカくんが一番抜けていると思うから、適材適所って言葉があるみたいに、タナカくんに任せたほうがいい気がする。

 

「いいや、俺だけの認識(してん)だと駄目だ」

 

 彼は、そう断言して。

 

「いいかい。怪しい奴()に指揮権を預けることが駄目だという理由もあるけど──それ以前に、みんな、0%から100%勝てるように努力している。でも、俺は“ズル”をしていてね、最初から90%から始まっていて、そこから100%を目指せばいい」

 

「だけど、どれだけ必死になっても、10%の差を埋め切ることはできないことが多かった。0から80上げることができる天才(にんげん)は大勢いるのに、俺は10の差を埋められない。たぶん、これが俺個人の“限界”なんだ」

 

 そう彼は自嘲した。

 

「だから、頼りにしている」

 

 胸が、熱くなる。

 だって、並び立ちたい友達に頼られているのだ。嬉しくないはずがない。

 

「と、いうわけで」

 

 彼は、空気を変えるように手を叩いて。

 

「マシュは、霊基が馴染むまでセイバーと模擬戦。セイバーは、マシュにアドバイス」

 

 私は?

 

「──立香は、“流れ”を感じ取れるようになってもらう」

 

 

 

####

 

 

 

「考えごとなんてけっこう余裕があるな、立香。あ、無理して答えなくていいよ」

 

 私は、訓練室に大の字になって寝そべっていた。肩で息をしていて、滝のように汗を流している。全身を巨大な疲労感が包んでいて、指先さえ動かしたくない。

 

──彼がやったことは単純だった。

 彼は、私が全力で回避しようとしたら躱せる速度で、四肢を使って攻撃してきたのである。ちなみに反撃はあり。そんな余裕なかったけど。

 分かりやすく言うと、体術の訓練みたいだった。

 

「ふーむ。予測通り、運動神経は高い方だけど、一般人の範疇だったな……はい、これタオル」

 

 感謝を込めた視線を彼に向けながら、受け取ったタオルを顔にかけて、そのままの体勢で息を整える。超しんどい。

 

「はっ、はっ………これを続けたら、“流れ”を掴めるようになるの?」

 

 流れ。

 彼が言う戦いの流れ。

 

 人間もサーヴァントも、全力戦闘を長時間続けることはできない。故に、どこかで緩めなければならない場面がある。音楽のように、盛り上がるところと抑えるところが戦闘にもあるらしいのだ。

 それが分かるようになろう、という訓練だ。タナカくんは、ある程度わかるらしい。

 

「いやぁ、正直微妙かな」

 

 あるぇ〜?

 

「この訓練で、俺が好む流れ(リズム)は分かるようになるかもしれないけど、それが敵の流れを掴めるようになるのかはね……そもそも、敵によって戦い方は違うし」

「え゛」

 

 それじゃあ、この訓練はいったい……。

 

「まあ、全部が全部上手くいく訳じゃないさ、他の案もあるしね。それに、経験とは思わぬところで効果を発揮する」

 

「例えば、今回の訓練で、マシュの気持ちがそれなりに理解できたんじゃないか?」

 

 マシュの、気持ち。

 

──マシュは、素人()でも分かるくらい、戦うことを恐れている。

 あの子がそれを自覚しているかどうかまでかは分からないけど、恐れていることは間違いない。

 でも、それでも、私を、私たちを──守りたい。たぶん、その一心で戦いに身を投じている。

 先輩()には、なんとなく分かる。あの日、タナカくんが私に言ってくれたように──それは、尊いことで、凄いことだと。

 

 私も、怖かった。

 だけど、それは、守られていた上の恐怖で──今日は訓練だったけど、体一つで、避けるだけでも、タナカくんに私を害する気がなくても────凄まじく恐ろしかった。

 

「──立香」

 

 彼が、私の名を呼んだ。

 

 顔にタオルをかけているから分からないけれど、()()()

 たぶん、彼は真剣な表情(かお)をしている。

 

「理解するということは、()()()()()()()()()()()()()

 

「共感するということは、より深い理解に繋がり、やがて、支え合う(協力)に繋がるようになるだろう」

 

 ああ、彼が、言いたいことがよく分かる。

 

 本当に、

 

 私の()()も後輩も、どっちも凄いなぁ────だから、胸を張って並べるように、なりたい。

 

「タナカくん」

「なんだい?」

「私、この訓練──頑張るよ」

 

 そっかと、彼は嬉しそうに呟いた。

 

「立香。隣、座っていいか?」

「? いいけど……その」

「ああ、それなりに距離を空けるよ」

 

 私の意図を汲み取ってくれた彼は、たぶん、手を伸ばしても届かないけど、声は簡単に届くところに座っている。

 

「急にどうしたの?」

 

 彼が、一言断って寄ってきたということは、何か大事な話でもあるのだろうか。

 

「いや、なに。俺は兎も角、君がこの(たたかい)で得るべきものを伝えておこうと思ってね」

「得るべきもの?」

「そう。それは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 汗を訓練室に併設してあったシャワー室で流して、カルデアの礼装(ふく)に着替えた私は、目の前のスライドした扉を跨いだ。

 

「お、君が最後だよ、藤丸君」

 

 ドクターが、私を歓迎する。

 周囲を見渡すと、彼の言う通り、マシュ、ダ・ヴィンチちゃん、タナカくん、両儀式さん──みんながいた。

 

 召喚室。

 一度、特異点Fで見たSFチックなアレである。全体的に薄暗くて、幾何学的な光り輝く紋様が、召喚地点を中心にして円を描くように宙に浮かんでいる。

 

 やっぱり学園都市なのでは?

 

「前回は切迫していたから詠唱や魔法陣を描いてもらったけど、今回から、基本的に此処で英霊召喚をするから、聖晶石を置いて呼びかけるだけでいいよ」

「そうなんだ」

 

 私は、意外そうに声を漏らした。

 初めて召喚するのだ、私もタナカくんみたいに「天秤の守り手よ!」って言いたい。オサレな詠唱は、みんなやりたいのだ。

 

「はい、聖晶石」

 

 ドクターが、三つの巨大な虹色の金平糖を手渡してくる。掌で覆いきれないそれを、私は器用に三つ両手で持った。これ、けっこう大きい割に軽い。

 おー、と感嘆の声を上げながら金平糖を弄ったり、中を見通そうとしたりする。虹色で硬いということしか分からない。

 

「ちょ、藤丸君。それ、カルデアのなけなしの電力を利用して作った聖晶石(やつ)だから……!」

「あ、ごめん。ドクター」

 

 慌てるドクターに素直に謝って、召喚地点に目を向ける。

 

 召喚地点──マシュの宝具(たて)が設置された側に向かって、私は歩みを進めた。

 

 英霊召喚。

 タナカくんと同様に、私も触媒がないので縁召喚である。彼が言うには、私と相性のいい英霊が召喚されるらしいけど──いったい、どんな英霊と私は相性がいいのだろう。

 

 聖晶石を、あの時見たように、見よう見真似で盾に設置する。

 そして、盾から大きく五歩以上離れた。

 召喚室に集まっている全員が、私を守るように集ってくる。万が一、非協力的な英霊が応じた時の保険だ。

 

「──ふう」

 

 大きく、深呼吸をすることで、体の緊張を外に吐き出す。

 

「まあ、君の縁なら大丈夫だよ」

 

 タナカくんが、私を安心させるためにか穏やかに笑って私を見ている。

 

「先輩、何があっても私が守ります」

 

 黒光した鎧ではなく、白衣を纏ったマシュが、ふんすと張り切っている。

 

「……」

 

 両儀式さんは、慈愛のこもった瞳を向けるだけで何も言わない。

 

「安心したまえ。こっちはサーヴァント三騎だし」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、具体的な数字を出すことで、私の緊張を和らげようとしてくれている。

 

「じゃあ、頼むよ。藤丸君」

 

 ドクターの言葉を合図に私は、

 

「お願いします。私と、私たちと────戦ってください!」

 

 ()()()に呼びかけた。

 

 あの時と同じように聖晶石に光が灯る。

 そして、()()()()()()を描きながら、それを大きく拡げた。

 

「運が──いいのか、これ?」

 

 タナカくんの困惑した声を聞き取る余裕は私にはなかった。一度見たとはいえ、この圧倒的な魔力に慣れるなんて一般人()には早々できないからだ。

 目の前で、拡がった光が、まるで伸びきったゴムのように急に()()に収束する。

 一点にいきなり収斂したせいか、肌に刺すように飛び散る輝きを、腕で目を覆うことで防いでいたら──

 

「こんにちは」

「え゛」

 

──視界を覆っている腕の先から、素朴な印象の少女の声が聞こえた。あと潰れたカエルのような声も聞こえた。

 光が収まっていることを確認した私は、腕を下ろして──荘厳な装飾の杖を持っている少女が、立っていた。

 同時に、私の目前に──“魔術師”が描かれた黄金のセイントグラフが現れていて、それを優しく両手で受け止める。

 

「キャスター、()()()()()()()()()()

 

 少女──アルトリアは、黒い騎士王と似た顔だが、全体的に青と白の配色が多い。

 先ず、目に入ったのは、白を基調としたミニスカート。その次に、腰回りにある青いベルトとくっついている片手剣。更に、胸元を覆う大きな青いリボンと二の腕辺りまで隠している青いローブを羽織っている。最後に、星のように輝いている金髪の上に青い帽子があった。どことなく航海士が被りそうな帽子に似ている、という感想を抱いた。

 

「あのぅ……その、あまりジロジロ見ないで頂けると……」

 

 アルトリアが、頬を羞恥に染めながら目を逸らしている。そんな彼女の恥ずかしそうな声を聞いて、私は再起動した。

 

「ご、ごめん! 初めての召喚だったから」

 

 誰も臨戦体勢をとっていないことを確認して、急いでアルトリアに近寄りながら謝り、セイントグラフをポケットにしまって私は右手を差し出した。

 

「──。ああ、あなたがわたしの召喚者(マスター)ですね。差し支えなければ、お名前を聞かせてくれませんか?」

 

 アルトリアは、僅かに驚いたように目を丸めて、私の握手に応じてくれる。

 なんとなく、気の合いそうな予感が握り合う手から胸に到来して、私の顔が安堵で綻んだ。

 

「藤丸立香、立香でいいよ。未熟者だけど、今後ともよろしく」

 

 英霊召喚すると伝えられた時から、私はこの台詞を言いたかった。生憎、東京が崩壊するどころか世界が滅んでいるけど。

 

「ええ、はい。よろしくお願いします、立香」

 

 握手が終わったら、私は、アルトリアの道を譲るように退き──みんなを紹介しようとした。

 

「たぶん、事情は知っていると思うから、先にみんなを紹介──どうしたの?」

 

 アルトリアが、じっと一点を見つめている。彼女の視線を辿っていくと──

 

「……」

 

──そこには、顔を強張らせたタナカくんが佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 妖 精 眼って知ってる?

 ・魔力EX──カレー先輩より多い。でも使い切ったことがない。

 ・全属性使い(アルテミット・ワン)──独自設定と独自解釈の塊。空属性と無属性も同上。フラットと似たようなことができるが数段落ちる。

 ・指令が上手くいかない──簡単に言うと、三流以上の魔術に指令を送り込むと馬鹿みたいに発動に時間がかかる。三流魔術を発動させるにもけっこうラグがある。しかしなんとかできるらしい。

 オリ主が封印指定になっていないのは、基本的に青崎姉のおかげです。次いでに、オリ主は、根源に至れる可能性がありますが、個人だけでは絶対に時間が足りなくて、なおかつ、オリ主は根源に触れることを恐れているので、実質可能性/zeroと変わりません。

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