FGO世界に転生した一般オリ主くんが生き残るためにリアルガチチャートを組んでRTAを走るお話   作:ペットボトル羊

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 じゃあ、そろそろ地獄見てもろて。


覚悟を問う邪竜百年戦争 オルレアン
問われるモノ


『全工程 完了(クリア)

 グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

 (せいしん)が霊子の海の奔流に飲み込まれる。深い深い“其処”に沈んでいて、でも、飲み込まれる、とは言ったけど、実態は、全身を温水プールに浸しているような気分だった。自分が、何処とも知れぬ場所を漂っていて、このまま、ずっと此処にいたいなんて思ってしまう。そして──

 

「──レイシフト、成功。先輩、タナカさん、目を開けてください」

 

 マシュの声で、私は漸く視界が暗黒に包まれている──瞼を閉じていることに気づいた。慌てて目を開ける。なんだこれ。何というか、意識は目を開けているつもりなのに──

 

「──わ」

 

 視界目一杯に生い茂る樹木たちに眼を奪われる。私は、衝動のままきょろきょろと辺りを見渡した。盾と鎧を纏って警戒しているマシュと、自然体(リラックス)しているように見える両儀式さん、アルトリアがいて、粗い映像を宙に投射しているタナカくんがいる。どうやら、周りを木々に囲まれている開けた場所にレイシフトしたらしい。取り敢えず、どうしようか、と私は迷っていると、

 

「……皆さん、空を見て下さい」

 

 マシュの、呆然とした声で、強制的に私は空を見上げることになった。

 

「なに、これ」

 

 孔、と言えばいいのだろうか。遥か上空に、巨大な円状の孔が空いている。まるで、星ごと飲み込むブラックホールのようだ。

 

『これは──光の輪……いや、衛星軌道上に展開した何らかの魔術式…? ……タナカ君、これも、知っているのかい?』

 

 ブレている映像に映っている人物──ドクターが、困惑した声を漏らし、タナカくんに問いかける。問われた彼は、特に悩む様子もなく答えた。

 

「知っています。ですが──」

『言えない、のかい?』

「いえ、そうではなく、言う意味がないですね。たぶん、言っても全く信じられないと思います」

 

 それは、タナカくんが信用ならないから、という意味ではなく──単純に、本当に、“アレ”が信じられないくらい馬鹿げたモノである、と告げていた。

 私は、知らず、瞬きどころか息も止めていて、だって、彼が言っていることが本当なら、“アレ”、サーヴァント(最強の兵器)よりも──?

 

「解析はそちらに任せますが、先ず、霊脈の座標を優先してください」

 

 タナカくんの淡々とした声で、現実に引き戻される。……落ち着こう。数えられる程度しか訓練していないけど、忘れたわけではない。彼の言う通り、先ず、霊脈を探し当てて、召喚サークルを設置し、補給物資を受け取らなければならない。

 私は、戸惑うように脈動する心臓をなんとか鎮め、カルデアの解析を待つ。

 

「大丈夫ですか、先輩」

 

 マシュが、心配そうな顔で私に駆け寄る。でも、この子の瞳は揺れていて、つまり、マシュも動揺しているわけで──それでも、他人()を心配している。…本当、情けない先輩(自分)に呆れ返りそうだ。だから、こうしよう。

──私は、勢いよく両手で顔を挟み込むように叩いた。

 

「せ、先輩っ!?」

「おお」

「あら」

「おー」

『……お、男前だね』

 

 三者三様の反応が聞こえたことで僅かに羞恥心が湧いたけど、気にせずマシュに笑いかけて言う。

 

「ごめん、マシュ。もう大丈夫」

「──はい、先輩」

 

 マシュの安堵したような顔を見て、私の胸の奥底で渦巻いていた不安も安心へと転じた。少しは、先輩(マスター)らしくなれたかな。

 私が気持ちを整理するのを待っていたのか、ドクターが優しい顔で解析結果を告げる。

 

『霊脈の座標だけど、朗報だ。真下──いや、()()だよ』

「それは、本当に運がいいですね」

 

 タナカくんが、驚いたかのように僅かに目を丸め、声を溢した。そして、私に顔を向けて、マシュに盾の設置を要請するように頼む。基本的に、サーヴァントに命令できるのは、そのマスターだけというカルデア独自の規則(ルール)に則っているからである。

 はいっ、とマシュが元気よく答え盾を設置する。それを確認した私たちは、二、三歩離れ物資を待つ。やがて、盾が召喚特有の光に包まれた。光が収まると、様々な物資──というか、殆ど武装や礼装、がある。

 

「……やっぱり、乗り物は間に合わなかったか」

 

 タナカくんが残念そうに呟く。それを拾ったドクターが、『レオナルドは他にやることが多いからね……』と、影の功労者であるダ・ヴィンチちゃんをフォローした。当初、現地探索をする私たちは、情報収集するために“脚”になる物を欲してダ・ヴィンチちゃん(万能の天才)に依頼し、彼女も快く受けたのだが──後に、某偽名のマスターのある要求によって、その余裕は崩れ去った。

 

 “ダ・ヴィンチちゃん、黒鍵の代用品とかサーヴァントにも効く武装を作ってくれませんか?”

 

 万能の天才ならできますよね、という煽り文句に抗えなかった彼女は、結果、過労死した(死んでいない)。某マスターが言うには、サーヴァントを倒せる物ではなく、効く程度で十分だから問題ないだろう、たぶん、らしい。一応、彼がカルデアに反旗を翻す可能性も考慮しなければならないのだが、ドクター曰く、マシュとアルトリアがいるのでそこら辺は気にしなくていいようだ。

 そのような事情があって、乗り物は用意できなかったのだが、別になくても問題はないよ、とは某魔術師の言である。私の体力を増やす訓練にもなると呟いていたので、私的にはダ・ヴィンチちゃんには早急に乗り物を作って欲しい。お願いします。

 某──タナカくんが、専用(私は使えない、他三人は使う必要がない)の概念武器を黒い空間──虚数空間(ポケット)──に突っ込んでいく。彼が使う虚数空間は、通常のそれより容量や出入り口が小さいという制限があるらしいので、その分数で補っていると言っていた。

 彼は、籠手のような礼装を両手にはめて、ドクターに確認をとる。

 

「ドクター、集落がある地域は見つかりましたか?」

 

──私たちカルデアは、特異点修復のために、三つの踏むべき段階(ステップ)を作った。

 

 一、現地の民に接触。

 

 これにより、特異点の異常を確認できて、それに、タナカくんの情報との正誤の確認も取れる。第一特異点では、“竜の魔女”と名乗るジャンヌ・ダルクが、悪竜(ファヴニール)飛竜(ワイバーン)、サーヴァントを使役して各地を焼き尽くしている、と彼が言っていた。正直、竜種についてはゲームや漫画知識しかないので、いまいち危機感が湧かない。

 

 二、未確認(はぐれ)サーヴァントと接触し、可能ならば味方に引き込み、不可能かつ敵対行動を取ったら基本的に排除。

 

 敵陣営は基本的に聖杯を所持している。それによって、理論上無限の戦力を保有していると言っても過言ではない、らしく、現状の戦力では、天地が逆さまになっても勝ち目がないらしい。だけど、保有できる戦力には限りがあるようで、現状は限界値(その)状態だそうだ。

 だから、現界していると思わしきサーヴァントと接触し、戦力に加える。理想は、正面戦闘を成立させる程度(レベル)の質と数の戦力確保、と彼が言っていた。次いでに触媒を貰う予定のサーヴァントもいるらしい。

 

 三、決戦

 

 彼が言っていた()()()で、大まかな方針──つまり、誰が誰を相手するか決める。最終的な決定権はドクター。場合によっては、タナカくんか私に現地指揮権を貸与する。この段階に到達する頃には、敵の情報も大体出揃うらしいので、思ったことは積極的に言ってほしい、らしい。素人()なんかの意見が必要なのか疑問だけど、断る理由もないし、思いついたことは、一応何でも言うつもりだ。

 私たちは、方針、もしくは作戦が決まったら決戦に赴く。想像を絶する苦難が待ち受けていると思われるから、令呪などは躊躇いなく使うべき、という感じだ。

 

 以上である。しっかり覚えているので、あの日々は、少なくとも間違ってはいなかった、と私は確信して少し顔が綻んだ。

 

『ああ、本当に幸先がいい! 直ぐ近くにドンレミという村がある!』

 

 ドクターが、若干高揚しながら周辺の地形を解析した成果を私たちに伝える。彼からもたらされた良い知らせは、みんなの士気を上げ──

 

「──あれ、タナカくん、どうしたの?」

 

 タナカくんだけが、気難しい顔で押し黙っていた。彼は、私の疑問にも満たない指摘を受け、

 

「……いや、何でもない。行こう」

 

 頭を振って、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──うそ」

 

 廃墟、と言えばいいのだろうか。何かに灼かれたような焼け跡が多数あって、建物と呼べる物なんて一つもなく、全部炭のように黒くなって煙が上がっていた。

 地獄とか、冥府とか、この世の終わりとか、そんな陳腐な表現じゃなくて。

 

 もう、終わった“後”だった。

 

「ロマン」

『……生命反応はない。……ごめん』

 

 タナカくんが、平坦な声でドクターの愛称を呼ぶ。ドクターは、タナカくんの意図を察し、痛みを堪えるような声で答えて、ぽつりと謝った。タナカくんは、ロマンのせいじゃないと、感情が伺えない声で言い、アルトリア、両儀式さん、マシュ、それぞれに声をかけている。

……どうして、ドクターは謝ったんだろう。タナカくんの言う通り、ドクターに非はないのに。

 私は、ただ呆然と案山子のように突っ立ていることしかできなくて。

 

「立香。全員に確認したけど、生き残りはいない」

 

 私は──一瞬、タナカくんが何を言っているか分からなくて、次に脳が理解を拒んで、最後に、()()()()縋るように呟いた。

 

「まだ……生存者、がいるかもしれない」

 

 何を言っているんだろう。カルデアに──みんなに、余裕(じかん)なんてないのに。此処で道草を食うわけにはいかないのに。

 間違いなく大局を見据えることができていない、素人以下の願望(いけん)だった。

 だというのに、私の、愚かな、逃避による願望(いけん)を聞いたタナカくんは──ただ頷いて。

 

「みんな、離れすぎないように手分けして探そう」

 

 何を? という言葉が喉から出かかって、慌てて抑え込む。……ただ、何も考えたくなくて、臆病者のように震える脚を動かして、前に踏み出す。ふらふらと覚束ない足取りで歩いて、目に入った焦げた残骸に近づいた。私は、生憎気づいていなかったけど、みんな、一言も発さずに各々が率先して動き出していたようだった。

 

「ぁ……」

 

 何も考えずに黒い木材だった物の表面に触れる。ソレに物体を掴んだような感触はなく、指先に跡だけ残して大気に同化するように霧散した。それは、まるで私の心境を表しているようで。

 

「────」

 

 誰かが、どうしてこんなに、先程見た孔のように──空虚な気持ちになっているんだろう、と呟いた。

 どうして。

 たしか、冬木ではこんなことにならなかったのに。

 

 誰か()の脳が、思考の沼に沈んでいく。彼に教わった通りに、要因を、原因を、現時点の自らができる範囲で列挙していって。

 判明する。それは──たぶん、()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

 呆と、指先から掌全体を見遣る。その行動に大した意味なんてなく、ただ付着した物から背けただけだった。

 

 自分が、冬木で戦えたのは。

 

 余裕がなかったから? たしかに、余裕がなかった。

 現実が見えていなかったから? たしかに、現実が見えていなかった。

 逃避していたから? たしかに、逃避していた。

 じゃあ、余裕ができたから、現実が見えたから、逃避することをやめたから。

 

 “短所は長所にもなるし、逆もあり得るってわけさ”

 

 いつかの、冬木での彼の言葉が脳裏に蘇る。これが、代償(短所)──? 

 私は、膝を、崩れ落ちるように地べたにつけた。

 まだ、拒むように何も感じない。

 可笑しいな。

 私、成長したんだと思ったのに。

 私、覚悟を決めたと思ったのに。

 私、任せてって言ったのに。

 

 全部──錯覚で、勘違いだったのかな。

 

「──、」

 

 でも、目の前の残骸(ゲンジツ)が、目を背けるのは許さないと訴えている。でも、それをしかと受けても、脳どころかあらゆる臓腑が拒絶した。

 

──これが、滅び。

 

 ぽつり、と呟く。しかも、これ、人理焼却の一端にも満たないモノなのに、明らかに死臭が濃、

 

「──ぇ?」

 

 脳が警鐘を鳴らす。

 心臓が自らに注目を集めるかのように叫ぶ。

 血液が沸騰しているみたいに熱くなっていて、まるで意識を逸らそうとしているみたいだった。

 

 人間は、好奇心の権化だ。

 禁忌、禁断──やってはいけないことを、(りせい)が外れたかのように求め、世に詳らかに明かす。

 当然、私もその例に漏れなくて。

 

 すんすんと間抜けな獣のように嗅ぐ。

 何て、言えばいいのだろう──いや、これ、たぶん、直感的に理解(わか)る。

 

 これ、人がや────

 

「──ぅ、ぁ?」

 

──誰かに、強引に肩を引き寄せられて、ゴツゴツした固くて暖かい壁に押しつけられる。

 

「今は──何も考えなくて、いい」

 

 少し、乱れている声と鼻腔をくすぐる優しい、安心する匂いに身を任せて──私は意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きました? 立香」

 

 誰かが目前にいる。

 でも、視界が狭くぼやけていて、たぶん、女性の輪郭だ、ということぐらいしか分からない。次いで、後頭部が人肌に触れているかのように暖かい。そして、体が仰向けになっていた。

 まるで、深い微睡みから醒めたかのように体が微妙に怠くて、まだ夢心地で──ん?

 

「すみません。本当は、マシュがやりたがっていたのですが、彼女は守る英霊(シールダー)なので」

 

 視界が、だんだんと正常(クリア)になっていく。それによって、正面の女性(しょうじょ)の顔もはっきりとして──衝動のまま、上半身を起こした。

 

「私、どのくらい寝てた!?」

 

 周囲の様子を確認しながらアルトリアに問い詰める。側に、人一人より余裕で太い木が聳え立っていた。そこまで確認して、漸く木陰にいることに気づく。

 私は、現時刻を確かめるために、頭上が木の葉で覆われていることを気にもせずに空を見上げた。重なっている葉の隙間から、空は、人類が滅んでいるのに、憎いくらい雲一つない快晴なことが分かって。私が起きたことを察知したのか、複数の──たぶん、みんなの足音が駆け寄ってきていて。

 

「あ、立香、待っ」

 

 私は、アルトリアの静止の声も聞かず、勢いよく立ち上がって──ばちんっ、と目の前で火花が散って、全身が飛び跳ねた。

 

「わっ」

「はい、落ち着こうか」

 

 いつの間にか側にいたタナカくんが、僅かに指先を帯電させながら優しく言った。何故か、彼の言葉が胸に染み込むように伝わり──私の中の焦燥や不安が和らいでいく。それを見計らっていたのか、彼が、私の疑問を氷解させるように笑って言う。

 

「五分も経っていないから、安心していいよ。立香」

 

 五分。

 一分一秒も無駄にできないのに、そんなに時間を無為に消費してしまった。

 その事実に、私の中で和らいでいた焦燥や不安が肥大化し──

 

「──今、“時間を無駄にした”って考えただろう?」

「うぇっ」

 

 タナカくんが、私の胸中、というか思ったことを的確に当てた。私の心を見透かした彼の物言いに、私は、驚きのあまり声にならない声を上げる。気分は、迷彩服で潜んでいたのに頭を撃ち抜かれた(ヘッドショットされた)狙撃手である。いや、蛇に睨まれた蛙?

 そんな混乱している私を他所に、タナカくんは、珍しく、にやりと悪戯が成功した子供のように笑みを深めて言った。

 

「『うぇっ』って言ったね。聞いたか、ロマン?」

『ああ、聞いた。ばっちり記録もしたよ!』

 

 何故かドクターに話を振ったタナカくんは──って、

 

「い、今の記録したの!?」

 

 年頃の乙女が出してはいけない声を上げさせただけではなく、記録もするなんて、なんて卑劣なんだ……! 信じていたのに、ドクター……。

 

『いや、言わせたのタナカ君だよね!?』

「罰として、ドクターが、隠れて食べていた高級和菓子の隠し場所広めておくね」

『それ、もう広めて、ていうかなんで知って──え、み、みんな、何でコッチ見て、れ、レオナルド? 肩に置いたこの手は、』

 

 『アーッ!』というドクターの悲鳴を横目に、私は、みんなの顔を一人一人見て言った。

 

「みんな、ごめん。迷惑をかけて」

 

 私の謝罪に、みんなは穏やかに笑って次々に言った。

 

「いえ、大丈夫です。むしろ、僅かに消耗していたので、この休息は渡りに船でした、先輩」

 

 微妙なフォローをするマシュに困ったように苦笑して。

 

マシュ(彼女)の言う通りよ、藤丸さん。気にしなくていいわ」

 

 包み込むように微笑む両儀式さんに心の底から感謝して。

 

「そうですね。立香はもっと太々しくなるべきです」

 

 安心したように破顔するアルトリアに胸が暖かくなる。

 

「はは、構わないさ。それに──」

 

 タナカくんが、一拍置いて、

 

「──君の行動は、間違いなく正しい(最善)だよ」

 

 彼の眼は、私を捉えていて、透き通っていて、だけど、何を考えているか分からなくて、何処を見ているのか分からなくて。

 私は、困惑と共に呟いていた。

 

「最善……?」

「ああ。カルデアは、人理を滅ぼした敵の元へ至る最善を掴まなければならないのではなく、」

 

「目の前の最善を掴まなければならない。世界を救う戦い、ってのはそういうことなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

####

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行軍する。

 目的地は、ヴォークルールという名称の砦町だ。ドンレミでは現地民と接触できなかったので、其処から最も近場で人が集まる場所を俺とキャスターの使い魔で探索したのである。正直、俺の使い魔は性能が低いので、使う意味があるのかと尋ねられたならば、ない、としか言えないが、念には念をだ。誤算というか、思わぬ収穫だったのがキャスターが使い魔を扱えたことである。確か、キャスターは独自(マーリン)魔術というなんちゃって魔術で、使い魔は使役できないと勝手に思っていたのだが……これも、“知識”による先入観か。よくよく考えたら、英霊になってからマーリンに師事しているので、使い魔程度難なく作製したりできて当然である。

 キャスターは、「マルちゃん」という名の一般的な鴉を使役していた。元々、師であるマーリンから借り受けたものらしいので、本来の力を発揮できないとか。

 

 マーリンは鴉の使い魔を扱えたのか、と益体のない事を考えながら、チラ、と藤丸を一瞥する。

 

 彼女は、少し息を乱していて、こめかみ辺りにも汗が滲んでいた。

 当たり前である。十kmは余裕で歩いたのだ。休憩は挟んだとはいえ、日中かつ一般的な身体能力しか持たない彼女ではこの行軍はキツかろう。だが、慣れてもらわなければならない。いずれ、北米を物理的に横断しなければならないし、乗機が常に存在するなんて都合のいいことなんてあり得ないのだ。この程度で根を上げたら人理修復など夢のまた夢である。

 もっと時間がほしい、と切実に胸中で呟く。時間さえあれば、俺の扱える魔術もやっと協力できるようになったダ・ヴィンチ女史の技術で増えるかもしれないし、藤丸の訓練の量も増える。それに、根本的なもの──即ち、精神的余裕が生まれる。それさえ充実していれば、比較の獣が顕現する可能性も減るし、単純な失敗(ミス)も減る。良い事ずくめだ。

 

 一年。

 

 世界を救うのにかけられる余りにも短い時間制限(タイムリミット)。加えて、藤丸、キリエライト、アーキマンさんの成長も不可欠。そして、失敗したら死ぬ。

 俺は、皆に悟られないように僅かに嘆息した。

 成長、と一言で言っても、具体的な数値があるわけではない。基準も存在しないし、しかも、物理的なものではなく精神的という曖昧なものだ。当時、人理修復を決意したばかりの俺は、この事に大変頭を痛めていたものである。

…しかし、長い長い熟考の果てに、俺はある基準を作ることに成功した。

 

 それは、特異点に現界している全てのはぐれサーヴァントに接触、或いは味方にする、という基準(もの)だった。

 

 カルデアの戦いは、旅に例えられることがしばしばある。まあ、各時代(ターニングポイント)に赴くのだから、間違っていないし、むしろ的確だ。旅ならば、出逢いと別れによる人間的成長と相場は決まっている。故にこのような基準を作ったのだが──

 

『大変だ、みんなッ!』

 

 強化した肉眼で砦町と思われる影を捉えた時、アーキマンさんが切迫した声を張り上げる。それにより、全員に緊張が走った。

 

 嫌な予感だ。

 呼応する様に脂汗が滲む。

 嫌がらせの死徒退治で培った第六感が告げている。かつて、成り立てとはいえ上級死徒に遭遇した時のような絶望が待っていると。

 あの時のように、「弓」(シエルさん)が偶々助けてくれる、なんて天が味方する訳でもない。

 

 俺は、短く尋ねた。

 

「何が?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!』

 

 それ以外に亜竜種の反応多数! とアーキマンさんが付け足す。

 強化の比率を変え、全体を俯瞰するように視るのではなく、一部だけ精度を上げる。捉えた。飛竜(ワイバーン)。確認できるだけでも五十以上。

──サーヴァント同士の交戦、飛竜五十。

 ()()()()()()

 アーキマンさんの事はよく知っている。故に、原作(知識)よりも余裕を得たことによる正確な現実把握、それから生じる焦燥も加味しても、彼の焦りは些か大袈裟過ぎる。

 

 即ち。

 

()()()()()()()()()?」

『嘘だろ……!? ()()()!!』

 

 十騎。

 眉を顰める。幾ら魔神王が製造した聖杯とはいえサーヴァントを十騎も召喚して使役できるのか。アレはアインツベルン(聖杯戦争)の模倣だぞ。それに、原作(知識)では竜の魔女を加えて敵の手勢は最大十騎だった。尚且つ、交戦という単語。

 思考を纏める。交戦という事は、戦闘が成立しているという事の証左であり、蹂躙している訳ではない。つまり、数は拮抗している可能性が高く、最悪を想定しておくと──順に、敵七対味方三、六対四、五対五。

 

 背筋が冷たくなる。

 原作(知識)では、カルデア一行は序盤に聖女と出逢い、それから王妃、音楽家など様々な仲間(サーヴァント)が集っていき、最終的にキリエライトを除いて七騎になっていた。その間、彼らは各地に滞在や放浪をして滅びに抗っている。そして、彼らは基本的に二人組で行動しており。

 

 これが何を意味するか。

 

「──!」

 

 瞠目する。

 此処からでも感じ取れる莫大な魔力反応。しかも、宝具ではなく、召喚による魔力。更にサーヴァントよりも遥かに多い。ということは──

 

『──幻想種、まさか、いや、本当に、──悪竜(ファヴニール)だッ!!』

 

 確信して、怒号を発した。

 

「立香、口を噤んでいろッ!」

 

 え、と急を要する事態に付いていけていない藤丸を無理矢理抱え上げ、疾駆する。サーヴァントに指示を下す時間さえも惜しい。疾走する俺に追従するように三騎が駆けていることを戦闘用に切り替えた感覚で捉え、僅かに安堵して──気を緩めている自らを胸裏で叱責した。

 

 突っ走りながら、俺はアーキマンさんに問いただす。

 

「ロマン、何騎同士が交戦しているか判るかっ」 

 

 三つ巴などの他の可能性は彼方に放棄する。その方が億倍マシだからだ。

 

『魔力反応から察するに──恐らく、五対五だ!』

 

 くそ、と零す。

 はぐれサーヴァントが過半数集まっている。その上、悪竜(ファヴニール)の投入。それは、逆転の一手である竜殺し(ジークフリート)が討たれているかもしれなくて。無辜の民の生き残りが其処にしかいないかもしれなくて。

 

「最悪だ」

 

 竜の魔女()が特異点崩壊に王手をかけようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 fgo漫画版見たら分かりやすいけど、マジでファヴニール頭おかしい……それを一騎討ちで倒したすまないさんも頭おかしい。

 視点比率変更しそう。

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