FGO世界に転生した一般オリ主くんが生き残るためにリアルガチチャートを組んでRTAを走るお話 作:ペットボトル羊
全然進まねぇ……。
人理焼却を未然に防ぐ方法は幾つかある。
代表的なものは三つ。
一つは七つの特異点に一つずつある聖杯と魔神柱(第七はティアマト)を全て破壊する。
しかしこの作戦には欠点があって、仮に成功しても小便王から新たな聖杯と魔神柱が送られる可能性がある。しかも光帯が創られる前に叩く必要があるので、特異点が発生した瞬間かその前にしか実行出来ない。
ぶっちゃけ十割無理。
単独顕現があるので魔法による過去逆行、過去改変、未来跳躍、未来改変も不可能だろう。
ならば神代出身になって現代まで生き残るか?
絶対無理。
神秘は衰退するし、長く生きた幻想種は世界から遠ざかっていく。
この二つを何とかしても千年を軽く超える時間を生きなければいけない。
というかそもそも俺は現代生まれ現代人だ。
よって却下。
二つ目。
生前の魔術王をぶっ殺す。
シンプル イズ ベスト。
ラスボスが弱い時期に奇襲する訳だ。
だが、魔術王(本物)をミンチにしようとすると抑止力が働くし、抑止力を退けてハンバーグにしても辻褄合わせができなければ人理崩壊する。だから魔術王が歴史通りに死亡した後、彼の死体に封印されている小便王を叩くという方法しかとれない。
この場合、小便王は間違いなく抵抗するので原作と同じように魔術王の死体を操って殺そうとしてくるだろう。つまり人類史上最強の魔術師と
絶対無理。
あいつ指輪で魔術無効化するからステゴロじゃないといけないし千里眼EX持っているしもうダメだ……勝てるわけない……。
ラスボスとして完成された小便王はもっと無理だしやっぱり不可能だ。
というかそもそも俺は(ry
ちなみに魔術王を説得するという案はない。証拠を出せないし、生まれた時から王らしいし、おまけに生前の彼は神の傀儡なのだ。神がクソなことはご存じの通りなので神を説得するのもなし。
却下。
三つ目。
この案は一番現実的かつ簡単だ。ついでに現代人の俺でもできる。
レフをレ//フにすればいいのだ。
公式からレフが死ねば人理焼却が起こらないことが明かされている(人理再編が起こらないとは言っていない)ので試す価値が大いにある。相手は現代の魔術師だしこれは買ったな。ガハハ。
ちなみにレフは魔神柱という
ちなみに型月世界は相性ゲーで神秘はより強い神秘に打ち消されるので現代の魔術師では絶対に敵わない。
ちなみに俺は固有結界も魔眼も魔砲も使えないし山育ちでもない。伝承保菌者でもないし封印指定でもないし変革の鐘も鳴らせない。ましてやドラゴンボールも悪魔の実も斬魄刀もねぇ。
一番簡単とは……。
結論。
人理焼却を未然に防ぐのは不可能。やっぱり原作沿いが一番だってばよ。
「ちょっと、そこの貴女聞いているの!?」
オルガマリー所長の怒鳴り声が管制室に響く。
発生源に目を向けると、所長がぐだ子──藤丸立香にキレていた。
原作の例のシーンである。
入館時の霊子ダイブで体調を崩していた藤丸は所長の偉大なる演説中に居眠りをしてしまうのだ。
「……このッ……!」
さて、このまま観察しているだけだと最終的に藤丸がビンタされて追い出される。それでは俺の目的が果たせない。
「オルガマリー所長」
手を挙げて所長に呼びかける。
「……何かしら?」
不機嫌そうに所長が此方に振り向く。ついでに管制室にいる全員の目が俺に集中した。
「所長、そこの彼女は正真正銘一般のマスター候補生です」
今更その程度で怯むわけでもなく、淡々と口を動かす。
「そんなこと、見たら分かります」
「ならば、彼女が入館時の霊子ダイブで昏睡していたことはご存じですか?」
所長が眉をひそめ、レフを呼び寄せて確認をし始めた。
所長の端正な顔がどんどん歪んでいき、仕舞いには青ざめる。この様子では藤丸がどうやって
──型月主人公である藤丸立香は一般人である。
実はゴム人間だったり内なる虚がいるわけもなく、本当に一般ピーポーだ。
そんな彼女が何故
普通に拉致されてきたのである。
黒幕はレフで、彼はレイシフト適性を持つ人間を世界中からカルデアに集めてカルデアごと爆殺しようとしているのだ。要は目障りな奴らを一気に潰そうとしている。
哀れ藤丸は巻き込まれたのだ。
「拉致とか犯罪じゃない……国連と時計塔に睨まれているのにわざわざ付け入る隙を与えるなんて……」
所長が頭を抱えているが、まあ彼女の今の悩みに興味はないのでさっさとスキップである。
「所長」
「……ッ、な、何かしら?」
好意的に見えるように口角を僅かに上げて、目を細めることでにこやかな表情を人為的に作り出す。
もう、無意識レベルでできるようになった技術だ。
慌てて取り繕う所長だが、ぶっちゃけ彼女が小心者なことは周知の事実である。知らぬは彼女だけだった。
「彼女は体調が優れないようなので、一足先に俺が彼女の自室に案内しますよ」
「え、で、でも」
「大丈夫ですよ、彼女は魔術師ではありません。説明も後で済ませたらいい。先ずは彼女を休ませるべきです」
「……う」
「大丈夫、俺に任せてください」
今まで
「わ、分かりました……」
渋々頷いた所長から視線を逸らす。まあ、人類は滅亡するので任せるもクソもないけどな(外道)。
「立香、立てるか」
「ぅ……ん」
藤丸は一応立てたがフラついていた。
普通に危ないので彼女の肩を支えながら廊下へと向かう。
こうして俺は地雷原(直喩)から脱出した。
「あはは……、ごめんタナカくん」
眠気が覚めた藤丸が申し訳なさそうに俺に謝った。
場所は廊下、彼女の自室へと案内中である。
「気にしなくていい。実をいうと俺も所長の話は長いと思っていてね、眠くてたまらなかったから渡りに船だったんだよ」
適当なことを言って藤丸の罪悪感を和らげる。ちなみに俺の名前はタナカ タロウ、偽名である。
「ショチョウ……」
「お察しの通り、此処カルデアで一番偉い人だよ」
「……本当に申し訳ない」
「なぁに、所長は小心者だから問題ないよ」
アハハ……、と藤丸が曖昧な笑みを浮かべた。
沈黙が満ちる。
「……少し、聞きたいことがあるんだけどいい?」
と、彼女が躊躇いながら、しかし意を決して俺に話しかけた。
──へぇ。
彼女からは一歩も引くつもりがないという気迫を感じる。
どうやら俺の不自然なところに気づいたらしい。さすがは型月主人公といったところか。だが俺も一歩も引かない。何せ生死が懸かっているのだ。例え人類が滅亡しようとも俺は止まらないだろう。
「────ソレ、何?」
困惑している彼女の視線が俺の右手が持っている『ソレ』に突き刺さっていた。
「
「……フォウって、あの?」
「そう、あのモコモコしたナマモノだよ」
「……何でそんなの持っているの?」
「集めているんだよ」
「集めているの!?」
藤丸が驚愕している。何を驚いているんだ。藤丸が倒れていた入口にはフォウがいることが分かっていたので、せっせと獣の足跡を集めながら向かっていたというのに。一週間のログインで一個はマジ少なすぎると思います。
「アレって足跡を集めていたんだ……いや、ログインって、何!? ログインボーナスのことなの!?」
「そうだよ。安心しろ、チケットはまだ実装していないけど呼符は貰える」
「……え、えぇ」
何と今なら初回二週間ログインで聖晶石最大396個! 100連以上回せるぞ。(当たるとは言っていない)
「え、遠慮しておくよ…」
「お得なんだけどなぁ」
再び沈黙が訪れる。
俺たちは、無言のまま二人で横に並んで広い廊下を歩いていく。何の話題を出そうか。それなりに話せるようになったと自負しているが……藤丸の様子を観察しながら考えよう。
藤丸は、少し困惑していたが、途中からチラリチラリと俺を横目で見始めた。…バレバレなんだが……これが、主人公? いや、分かりづらい人間よりは断然いいんだが。
彼女が俺を盗み見ることを止めた。そして、しっかり此方に顔を向けて本当の疑問を口にした。
「あのさ……タナカくんも魔術師なの?」
「そうだよ」
特に隠すことでもないので躊躇いなく自分が何者であるか明かす。まあ、言葉だけではいまいち信じられないと思われるので実演もするか。
俺は獣の足跡を仕舞って掌に収まるサイズの火の玉を出現させる魔術を起動した。
ぼう、という音と共にまるで人魂のような炎が現れる。
「おお……!」
藤丸が目を輝かせた。彼女の気持ちはよく分かる。だって俺もそうだったし。
「や、やっぱり詠唱とかあるの!?」
「あるよ。──滲み出す混濁の紋章・不遜なる狂気の器──」
「いや、タナカくん死神じゃん」
「おお、俺が見えるとは。立香は死神の素質があるねぇ」
顔を合わせる。
そうして、互いに吹き出した。
「……気を使わせちゃったかな?」
「はは、むしろ当たり前だよ。だって君が此処にいるのも、所長にキレられたのも全部此方の不手際だ」
そう、当たり前なのだ。
彼女は被害者だ。だというのに、唐突に人類の命運を背負わされ、地獄へと進んでいく。
彼女は、無邪気に、普通に、カルデアは平和なところだと微笑んでいる。全て、俺の意図通りの反応だった。
────何処かで、◼️が欠ける音が聞こえた気がした。
「此処が君の自室だよ」
「……えぇと」
彼女の自室を指差す。
──彼女は一人なのだろう。
彼女の理解者足り得るのは異聞の妖精國の二人だけなのだ。
「これに手をかざせば扉が開くよ」
たぶん、今の俺は、誰からもいい印象を与えられる微笑みを浮かべていると思う。
うん。
藤丸も特に警戒していないから、これが正しいんだと実感する。
──俺は彼女を利用する。
死にたくないから。
生きたいから。
全部ぜんぶ、利用するのだ。
「──立香」
「何?」
「君はこれから、笑い、怒り、苦しみ、悲しみ、嘆くだろう」
藤丸とは目を合わせずに、言う。
「安心しろとも大丈夫とも心配するなとも言わない。
──ただ、俺たちは
「俺は、君の隣に立って君を支えるよ」
「……は、恥ずかしいこと言うね」
──肝に銘じろ。
これから、俺は救えた筈の命を全て捨てる。最後の人類になるカルデアを騙す。
俺は英雄じゃないのだろう。
俺は主人公じゃないのだろう。
俺は、典型的な己の利益だけを求める
「……な、なんか! この扉イメージと違うなぁ!」
「カルデアが特殊なんだよ」
「……そうなんだ」
──この先は地獄だぞ。
「おお、ホントに開いた」
──ああ、くそ。
思い上がりも甚だしい。
ほんの少し。
ほんの少し、雀の涙だが。
────この時の俺は理解していなかった。今まで築いてきたモノを総てぶち壊すということは、いったいどういう意味を持つのか。
俺は、
「はい、今使ってまーす……って誰だキミ!? ──あっ、ボクのショートケーキがぁ!?」
藤丸の自室には推定30歳独身のゆるふわ不審者がいた。
オリ主くんの本名は来たばっかのぐだ子以外普通に知っています。