FGO世界に転生した一般オリ主くんが生き残るためにリアルガチチャートを組んでRTAを走るお話 作:ペットボトル羊
地響きが鳴る。
総身を母なる大地に斃れる様に叩きつける。地盤は陥没し、大気は軋み、発する魔力は悪竜の周囲の環境を激変させていた。悪竜が前脚に僅かに力を込め悠々と鎌首を擡げる。悲鳴を上げる自らを支える土壌には歯牙もかけず、燦々と光るその翠眼は、城壁に囲まれた砦に向けられていた。
頸を持ち上げた事で、純黒の鱗に覆われていない胴体──胸部が露出する。淡い浅緑に輝く紋様が刻まれており、令呪を想起させるソレだった。
自然の暴威そのもの様な圧迫感、魔力──真正の
盛大に舌打ちする。その悪竜が四体。四方に陣取っており、悠然と聳えている。最悪の展開とかそういう次元ではない。終わりだ。終焉そのもの。これが
巫山戯るなよ。
オレは、死ぬことは、負ける事は、止まる事だけは赦されない。絶対に、諦めてたまるものか。
渾身の力で歯軋りしながら思考の歯車を回転させる。限界を超えた挙動に抗議するかのように痛覚が訴えるが、無視した。躊躇っている時間など皆無。オレは、すぐさまキャスターと念話を繋いだ。キャスターの了承と、報告も兼ねさせキリエライトとキャスターと二重契約を結ぶ。外法だが、形振り構っていられない。その霊的経路を利用して藤丸とも念話を繋ぎ指示を出した。キャスター単独で前方──東の悪竜の吐息を抑えてもらい、キリエライトと藤丸を南の悪竜の射線上に向かわせ、「両儀式」を指示通りに動かす。だが、敵の言葉を鵜呑みにする訳にはいかない。護衛は必至だ。故に即座に増援を送らなければならない。
残るは、西と北。
不幸中の幸いでそれら二頭の悪竜は此方が近い。たった今、味方になった英霊の幾人かを向かわせる。砦から悪竜への距離が遠過ぎるので攻性に出る事は
「っ、待ってください!」
駆け出そうと身を沈めた聖女を静止させる。その可憐な美貌は焦燥に包まれており、一応オレの呼びかけで止まったが、強張った視線が手短にしろと言っている。が、その程度で怯むならとっくにオレは自殺している。オレは、逆に、睨み返す様に鋭く眼を細め重々しく言った。
「貴女を向かわせる事はできません」
驚愕を露わに聖女は叫んだ。何故、と。そんなの決まっている。訝しむ味方らの視線を流し頑然と言い放つ。
「貴女には、ジークフリートの呪いを祓ってもらいます」
「な、解呪をしている時間などありません! その間に
「
オレは、彼女の惑い、焦り、義憤を無情にも切って捨てた。聖女には、やって貰いたい──為すべき事がある。それは、悪竜の暴虐を凌ぐ事ではない。
「仮にこの窮地を脱しても、“次”が必ずある。貴女のする事は現状の最善でもなければ大局的に見ても愚かな選択だ」
冷徹に意味がないと酷評する。後手後手になるので此処で強引にでも先手を取る準備を作らなければならないのだ。……彼女の行動は理解できる。自らの負の側面を宣う者が、故郷を滅ぼそうとしていて、もう既に一歩手前なのだ。忸怩たる思いなのだろう。だが、そんなもの関係ないと酷薄に告げる。聖女の働き次第で人理の命運が決まるのだから、己の過失、遺恨云々は一旦棄てて従って貰う。血も涙もない自分に冷笑するが、
オレの言い分が理解できるのだろう。聖女は、煮え湯を飲まされたかのように美貌を歪め押し黙る。返答はない。それが、答えだった。
それを確認したオレは、全員を見遣りそれぞれの持ち場を伝える。次いでに皆の真名や宝具も識っている事やカルデアの事も手短に伝えた。
「その配置だと、北の
音楽家──ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが愉快を露にオレの組み分けの穴を指摘する。オレが決めた配置は、東にキャスターと蛇姫─清姫さんと、南にキリエライト、藤丸、モーツァルトさん、西にマリー王妃、鮮血嬢──エリザベート・バートリーさんだ。北に護りや護衛の英霊は配置しない。聖女には、竜殺しの解呪と民草の守護を兼任して貰う。人数が圧倒的に足りないのだ。それに、魔力供給は充分な筈なので護りに徹すれば保つ、と希望的観測を抱いておく。
オレは、モーツァルトさんの指摘にあくまで余裕たっぷりに肩を竦め、
「ええ、問題ありません」
一拍、
「あの蜥蜴は──オレが撃ち堕とします」
なんて大言壮語を吐いたが。
「いや、……やっぱり無理か……?」
北の城壁の真上。其処で仁王立ちして遥か先に屹立している悪竜を解析と並行して遠視する。結果、黒い騎士王と同じ原理で天然の魔力鎧が形成されている事が判った。『対魔力』ではないので魔力が込められた物理攻撃も場合によっては遮断するだろう。その余りの魔力密度に戦慄したオレは、情けない弱音を吐いた。どうやってダブル竜殺しはあんな怪物を仕留めたのだろうか……甚だ疑問である。悪竜が尻尾を振るだけで地形が変わっているのだが。
適当な事を考えて自然体を意図的に作る。
そもそも、オレは
つまり。
悪竜には、虚空を盛大な花火で彩って貰うとしようか。
悪竜が両翼を威圧するように広げる。瞬間、大気が歪む程の魔力がその
「はっ……たかが蜥蜴が」
舐めるなよ。
失笑する。
ただの強がりだったが、己を奮い立たせるには十分。
『マスター』
『何時でも大丈夫よ』
それは吉報だ。十割邪魔が入るだろうが──成功しなければ、最終的に魔力が切れて人類滅亡だ。是が非でもセイバーには悪竜をぶっ殺して貰わなければならない。
令呪を掲げる。全く、これの原型を作った御三家の頭のおかしさがよく分かる。零から同等条件でこれを作れなんて大金積まれても
故に、◼️用させて貰う。
「令呪起動。セイバー、北の悪竜の死の点の傍に転移しろ」
直死の魔眼。
生きているのなら、神様だって殺してみせる。
なら、
令呪の一画が、鮮血の如く赫く輝き──弾ける。
奇跡が、為った。
「
みしり、と◼️臓を握り潰す
同時に口ずさむは、呪いの一節。彼の
──ならば、何を恐れることがある。
片膝を地べたに付き、右掌を悪竜の
砲身は己自身。
弾は自前の
だってそうだろう?
六騎契約を結ぼうがカルデアの電力が無かろうが関係がない。
この程度──枯渇させたきゃせめて
「
──魔術師は魔術刻印を所有していない。それは、彼を拾った家の刻印が適合しなかったり、師の他者から奪った刻印らも適合しなかったりと色々
「
──魔術刻印とは、謂わば先達の魔術師らの叡智の結晶である。歴代の魔術師らは、先祖が研鑽し精錬した魔術を刻印という
だが、
「……循環
「───
「三層凍結展開。全再現術式、待機───!」
ところで、全く関係ないのだが。
ある人形師曰く──“おまえの魔術回路は、
右掌の眼前に展開される三層の魔法陣。己の魔力を吸収、蓄電する一層、吸収した魔力を加工する二層、射角を調整する照星を担う三層。それらを虚空に留めたまま、只管に待つ。
今回の魔砲は威力重視ではなく、速度重視、命中重視である。高密度に圧縮された魔力は絶大な破壊力を生み出すが、その分外部の微弱な刺激にさえその形を保てない程脆い。ましてや、相手は狡猾で強大な竜だが──人間を個で識別するのではなく群で観ている。
「なに、失敗したら死ぬ
恐怖で身が竦む。しかし口角を上げる。
目の前の竜もそうだが、こっちの魔力も一歩制御を見誤れば爆発四散だ。スプラッタ映画並みに酷い惨状が生まれるだろう。
引き延ばされる
口元が引き攣り、冷や汗がこめかみに垂れる。
確信する。
やっぱり──オレは、英雄じゃない。
魔砲使いのように鉄壁の精神がある訳ではない。
人形師のように暴虐無尽な性格がある訳ではない。
発火の魔術師のように一本の鋼の芯がある訳ではない。
五大元素使いのように信念に従う訳ではない。
宝石魔術使いの貴族のように誇り高い訳ではない。
時計塔の講師のように理想の背を追う訳ではない。
証明の魔術師のように足掻いている訳ではない。
現代の戦乙女のように前を向いた訳ではない。
いまを生きる精霊のようにたった一人の愛する者がいる訳ではない。
面倒見の良い修験道の使い手のように開き直った訳ではない。
変革を望む好敵手を名乗る者のように人の身に余る大志を抱いている訳ではない。
魔女の末裔のように手が届かないソレに手を伸ばし続ける訳ではない。
虚無の天才のように意味のある事しかしない訳ではない。
オレがやっている事は──後ろ暗い、逃避だった。
は、と嘲笑が溢れる。
ない、ない、ない──ないない尽くしだ。
本当に、オレに相応しい
『タナカ君!』
──
オレは凡人でクズだから。
たぶん、あっさり影響を受けて変質する。
変質するという事は、
儘ならないな。
理解して経験にするだけして、共感はばっさり一刀両断できないのだろうか──?
アーキマンさんから
怨敵が如き竜を睨む。
たぶん、眼が合った。
そして。
悪竜がその猛威を奮わんと──蜃気楼のように消失した。
「──は?」
思わず間抜けな声を漏らし、目を見開く。混乱で脳が整理していた情報が一斉に逃げ出し──同時に轟音と嵐の如き熱量を感知した。
辺りを見遣ると、北の悪竜以外の怪物は、問題なく暴風を晒して──それを味方らが防いだらしい。遅れて宝具展開による魔力吸収が起きている事を知覚する。まだ魔力に余裕があるとはいえ、この吸われる疲労感や倦怠感が消える訳ではないので、オレは一瞬立ち眩みながらも思考を加速させ、
『マスター、何の妨害も入らなかったわ』
セイバーの
置き土産。
何の妨害もない。
「──まさか」
竜の魔女のあの言葉は揶揄でもなんでもなく──文字通り、そのままの意味だったと。
全身が総毛立つ。一つの神話の、伝承の頂点に立つ英雄が死に物狂いで斃した
どうなっている。
幾ら何でも聖杯一つで悪竜をポンポン生み出せる訳がない。仮にそれを可能にしたとしても維持魔力も莫迦みたいに必要な筈。魔術の等価交換の原則はどうなっている。釣り合っていない事は明白だ。それに、よくよく考えたら悪竜が五体いるという事は、竜殺しも五人いるはずで。シグルドとかジークフリートとか色々悪竜現象を鎮めた竜殺しはいるが、単純計算して大英雄が五人いるという事か……?
混乱に次いで困惑。それでも
『
「本物じゃない?」
セイバーがぽつりと
正直全く理解できなかったので、セイバーの言葉の意味も解らず素直に反芻した。ついでに展開したままの魔法陣を消失させ、加工した魔力も己の魔力に還元する。還元しきれなかった魔力は、大自然に同化する様に虚空に消えた。
本物じゃない。
だが、最初に召喚された悪竜と全く変わらない圧力や魔力を後の四体にも感じた──いや、待て。竜種の頂点が四体同時に襲ってくる事態に気が動転していたが、どうして最初の悪竜を退去させた? 退去させる事なく、三体追加召喚するか、五体同時で殲滅したらいい。竜の魔女が遊んでいる線もない訳ではないが……。くそ、妖精にでも誑かされたか? いや、アーキマンさんからオレのバイタルは正常な事が判っている。だが、オレの感知もカルデアの機器も騙した可能性もあり得る。
セイバー、詳しく教えてくれ。
そう口に出そうとしたが、再び轟音と業火の熱を感じ、後回しにするべきと決断する。
取り敢えず、妨害がないならば、無駄に令呪を消費する理由もない。
オレは、狐に化かされた様な不気味なしこりを胸に残したまま、セイバーに指示を出した。
そして、時間はかかったが──砦に目立った被害も無く悪竜たちは、
竜の魔女が砦を蹂躙する前日譚だった。
####
「流石にこの程度じゃ死なないわよね」
オルレアン。現代では、フランス中部にある都市。この時代のオルレアンも、聖女の処刑により活気溢れる
しかし、一つの居城を除いて──全て、根刮ぎ灼き払われてしまった。
黒々とした大地。
何処にでも顔を出す雑草すら縮こまる具合の荒廃。
溢れ出る生きたまま灼かれた生命の怨霊が、嘆きと怨念の合唱を繰り返していた。
オルレアン城と名付けられた悪魔の如き様相の真黒な居城。その謁見の間。
壮麗な装飾で包まれている大広間。壮健ならば、王の威光を齎していた其処は、蝿すら裸足で逃げ出す程静まり返っている。その中でも一際異色に輝く──血に濡れた玉座。其処に、竜の魔女が愉悦の笑みを浮かべて居座っていた。
魔女は玉座の主ではない。ならば城主らは何処に消えたか。
答えは、明白だった。
城主も、その部下も、使用人も──玉座に映える
「ジル」
魔女は聖杯を媒介にして観ていた景色を消し、彼女が最も信頼する忠臣の愛称を呼んだ。途端、魔女を除いて無人の間に忽然と巨漢が現れる。
「おお、どうしました。我が聖女よ」
幾重にも重ねたローブと貴金属に身を包んでいる男性。その異常に広く剥かれた眼を喜悦に歪ませ、魔女に微笑んでいる。その異色な風貌と相貌が合わさって──根源的恐怖を呼び起こす、悍ましい
魔女は、そんな彼に欠片も怯まず忌々しげに舌打ちをする。
「遅いです」
「申し訳ありません。我が盟友と語り合っておりまして」
「またですか……特異なクラスで現界したからとはいえ、余り関わらないようにした方が賢明だと思いま──」
「──酷いな、魔女様」
謁見の間、その入口。光が差さない、深い深淵の様に
「おお、どうしましたか。我が盟友」
──話は変わるが。
何故、魔術師が語る
「いやね、聖処女を凌辱するのも面白そうだし、新しい聖杯戦争を始めるのも面白そうだと思ったけど」
それは極僅かな、されど大きな違い。
夢の続きか、あるいは果て無き煉獄か。
これは、偽りだらけの──。
「もっと面白そうなものを見つけたんだ」
絶大な悪意が、牙を剥く。
邪竜百年戦争 オルレアン 『救国の聖処女』
絶殺悪竜戦線 ヴォークルール 『◼️の王』 開幕