この手のひらで踊れたのなら   作:だふお

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第16話 好きなもの

 進級試験、もとい学年末試験が近づいてきた時期。生徒たちは試験に向けて日々勉強していた。アイザックの所属するレイブンクローの生徒たちは特に誰かに言われるわけでもなく、普段通りかそれ以上に勉強に励んでいた。

 朝食の席で眠たい生徒もいる中で、嬉々として勉学の話をするのはおそらくこの寮ぐらいだろう。近くを通った他寮の生徒がたまに「うげっ」という顔をしていたぐらいだ。

 

 アイザックが一人で軽く朝食をとっていると、ヒューっという音とともに、フクロウ便が現れた。

 

「……私に?」

 

 いつもの光景だったが、その日はアイザックの目の前にも手紙が届けられた。

 宛名を見てみるとグッドマン家、つまり実家からの手紙だった。なにかあったのだろうか、と開けながら考えていると途中で眠たそうな声がかけられた。振り返ればあの朗らかな男子生徒がいて、いつもより顔にしまりがなかった。

 

「おはようアイザック。こっち座ってもいい?」

「おはよう。かまわないよ。……君は、夜更かしをしたようだね」

「正解。ドラゴンの模型をよりリアルに動かす方法を模索していたら遅くなっちゃって」

 

 彼は欠伸をしながらアイザックの横に座った。眠たそうにしていた彼はそれでも自身が昨夜どれほど頑張ったかを力説していた。

 しばらく経ってドナやほかの生徒たちも大広間に着いたようで、二人のいる席を見つけ座り始めた。

 

「そういえばその手紙、見なくていいの?」

「またラブレターだったりして」

 

 アイザックの前方に座る生徒が彼女の手元を見ながらそう言った。それに乗っかるようにバレンタインカードのことを示唆した子は茶化すように笑っていた。

 

「まさか。実家からだよ」

「なにかあったの?」

「さぁ? 朝だし緊急のものではないと思うけど」

 

 何人かで朝食をともにしていたが、アイザックの周りにいた生徒はなにかと興味深そうに彼女の手紙を覗き見ていた。

 

「ん、なにそれ。手紙と……、(しおり)?」

 

 封を開けばビッシリと文字が書き詰められた一枚の紙と、小ぶりの青い花を使った栞が同封されていた。

 

勿忘草(わすれなぐさ)だ。……そうか、もうそんな時期か」

 

 アイザックがぽつりとそう言った。

 この花が自然に咲き誇る時期はまだもう少し先だが、これを送ってくれた屋敷しもべ妖精曰く「我がご主人様には誰よりも早くこの花をご覧いただきたく、開花の時期を早めました」らしい。

 

「アイザックは花の名前もわかるのね。これたしか野花でしょ? 私、呪文は覚えられても花の名前って覚えられないのよね」

「私もこれ以外の花の名前は怪しいよ」

「そうなんだ。栞にしてわざわざ送ってくれるぐらいだし、好きなの?」

「あぁ……、そうだね。物心つく前とかは特に好きだったみたい。今でももちろん好きだけどね」

 

 小ぶりの青い花が主である勿忘草は、この国では森の中や少し湿った道端でも見ることのできる花だ。

 これは後から聞いた話なのだが、どうやら小さいころ、つまりアイザックが前世の記憶を思い出す前のころ、この花のことがとても大好き(・・・)だったらしい。しかし家の周りにはあまり咲いておらず、そのせいで泣きだしたりすることもあったのだとか。わざわざ大人がそこら辺に生えているはずの野花を調達しようとしていたぐらいである。

 

(たしかに綺麗な花だ。なぜか……惹き付けられるような魅力がある)

 

 前世の記憶がある今でも、なにか他の花を特別好きになるということもなく「アイザック・グッドマンはこの花を一途に好いている」と他者からは少なくともそう思われているのだ。

 

「へ〜! アイザックにも好きなものがあったんだね!」

 

 横に座っていたあの朗らかな男子生徒が無邪気な笑顔でそう言った。この生徒じゃなければ嫌味に聞こえていただろうが、いかんせん毒気のまったくない彼の顔を見ればそんな考えも失せるというものだ。

 

「好きなものぐらいあるさ」

「本当? 僕は今日初めてアイザックの好きなものを知ったよ。他にあるの?」

「……ドラゴンの模型とか?」

「それ僕じゃん! も〜教える気ないな、さては」

 

 わざとらしく「怒ったぞ!」とでも言いたげに彼が頬をプクッと膨らませれば、周りにいたレイブンクローの生徒たちは笑った。

 その様子を見て「今年入ったレイブンクローの一年生は例年と比べると少し仲がいいらしい」という噂がまことしやかに囁かれるのも無理はないな、とアイザックは思った。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 進級試験が近いからか休む暇なんてなく、特にハーマイオニーと仲のいいハリーとロンは彼女が開いた勉強会により、最近はニコラス・フラメル以降ご無沙汰となっていた図書館での勉強を再開していた。

 

 そんな勉強漬けの生徒が多いホグワーツでは疲れているような生徒が多く、朝食をとる大広間ではハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がすみの方に固まって座っていた。

 つい最近まではやっとのことでわかった『ニコラス・フラメル』と『賢者の石』についてが会話の内容を占めていた。しかしハグリッドに賢者の石がスネイプに狙われていると伝えても「大丈夫だ」の一点張りで、彼らは行動に移すこともできず、モヤモヤとした気持ちで日々の生活を過ごすことしかできなかった。

 

「イースター休暇の前だっていうのに宿題が多すぎるよ」

「下級生は例年そうだって言ってたのあなたじゃない」

「可能性だよハーマイオニー。誰もあそこまで多いと思わないじゃないか!」

「まだかわいい方ってマクゴナガル先生もおっしゃっていたわ。それと、来週から増えるってね」

 

 しかしその日の朝は違うようで、ハリーは朝食の席とはいえ、なにやら決心したようにロンとハーマイオニーの方を向いていた。

 

「ねぇ、二人とも。前に僕がアイザックとスネイプが話をしていたって言ったの覚えてる?」

 

 ハリーはあの晩(・・・)の話をしていた。スネイプとアイザックが歩きながら夜に話をしていた、という内容であった。

 夜の出来事を翌日の朝にロンとハーマイオニーに伝えたが、そのときに聞いたハーマイオニーは思わず顔から血の気が引き小声になっていた。それもそのはずで、目の前にいる同級生が透明マントを使って寮を抜け出していただけでなく、あのスネイプとアイザックの会話を盗み聞きしていたと言っていたのだから。

 

「うん……覚えているよ」

「ハリー。この場であまり話さないほうがいいわ」

 

 夜になって寮に帰ったとき話し合いましょ、と小声でそう言ったハーマイオニーの言葉にハリーは緩く首を横に振った。

 

「最近またスネイプとアイザックが話していたのを見たんだ。話していた時間は短かったけど、何回も」

 

 地下の魔法薬学の授業後ならハリーも納得はしていたが、たまにふと廊下の反対側を見ればアイザックとスネイプが話していた、なんて状況があったのだ。

 

「あの夜の、スネイプとの会話を聞く限りではスパイとかではないと思うけど、アイザックは『傍観者は楽だ』って言っていたんだ!」

「んぐ……それがどうしたんだよハリー」

 

 寝起きのせいかあまり頭の回っていないロンがトーストを口に含みながらそう問うと、ハリーは声を一段と小さくしながらも強い口調で話し始めた。

 

「彼女は怪しい。君たちもそう言ってただろう? スネイプの味方ってわけでもなさそうだけど、どっちの味方でもないってことはスネイプが賢者の石を盗むことを知っても、誰にも言わないってことだ……だから、」

「だから……?」

「アイザックを、巻き込もうと思う」

 

 ハリーの言葉にロンとハーマイオニーは息を詰めたあと、交互に見やった。どうやらロンはハーマイオニーに何か言ってほしそうな、ハリーの案を止めてほしそうな視線を出していた。

 

「私は……いいと思うわ。彼女、話してみたら意外と話しやすいもの」

「でも、あのグッドマンだよ? 関わるのはやめておいた方がいいって」

「彼女ならもしかしたら、盗むことを阻止できるような情報を持っているかもしれないわ」

 

 ハーマイオニーはロンの助けと非難の混じった視線から顔を背け、ハリーへと賛成の意味を込めて頷いた。

 

「ハリー。それにハーマイオニーも。グッドマンの家族を知っているだろ? 関わらないほうがいいよ。絶対やめたほうがいい」

 

 だんだんと小さくなっていくロンの声はハリーとハーマイオニーの意思の固まった表情を見て、もっと小さくなっていった。二人の様子にロンは今にも「ゲェッ」と言いたげに顔をしかめた。だがその表情にはどこか恐怖が見え隠れしているようだった。

 

「……それでも、やってみなきゃ分かんないよ」

 

 ロンの弱々しい反論に対して、ハリーは決意したようにそう言って豪快にベーコンかぶりついた。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 そうと思えば即行動、と言うようにハリーはアイザックを捕まえるために、昼時になるべく人の多い所でアイザックを呼び止めようとした。そうすれば「あまり目立ちたがり屋ではない彼女は素直に来てくれるだろう」とハーマイオニーの考えからだ。

 しかしどうやら件のアイザック・グッドマンは珍しくも一人ではなく、昼食を一緒に食べるのか他のレイブンクロー生と一緒だった。

 

「どうするんだよハリー。見ろよ。敵意むき出しだぜ、あれ」

 

 まさか集団でいるとは思わず、ハリーもロンもハーマイオニーも一瞬たじろいだ。

 しかもその女子も男子も含む集団は久しぶりにアイザックと昼食を食べたがっていたのか、主に女子生徒からのあからさまな「邪魔な人たち」という視線を三人が浴びてしまったのもそれに起因する。

 

「アイザック、その、少し話したいことがあるんだ」

 

 ハリーが勇気を持って集団の中心、いや奥の方にいるアイザックに話しかければ、それよりも先に目をつりあげた女子生徒が前へと出てきた。

 

「はぁ、ポッター、あなた見て分からないの? 私たち今からここの大広間で昼食を食べようとしてるのよ。久しぶりに、皆で」

「君には聞いていない。ねぇアイザック、少しだけでいいんだ……君は傍観者、なんだろう?」

 

 レイブンクローの高飛車な様子の女子生徒に向かって好感度なんて考えずにハリーがピシャリと言い放てば、あっけに取られたようにその子は一瞬のうちに黙った。

 そして件のアイザックはというと『傍観者』という言葉に対して油断をしていたせいかわずかな反応をしてしまっていた。

 

「なんのこと?」

 

 その様子を見逃さなかった三人はアイザックが整った眉をピクリと動かしたあと、いつも以上に顔に張りつけたような笑顔をこちらに向けてきたことに気がついた。しかし、深い青色の目はその鋭さを増していた。

 

「うっわ……」

 

 思わずこぼれた、というようなロンの素直な反応にハリーもハーマイオニーも同意見だった。ゾッとした、それ以上の言葉が見つからないほど、彼女の笑顔は先ほどの反応とは違いすぎる完璧な笑顔だったのだ。

 この案を提案したハーマイオニーの頭には失敗の二文字が踊っていた。タイミングが悪かったのもあるが、いま彼女と話せなければ、きっとこれからは今回のようにハリーたちと出くわした時のために誰かと一緒にいる確率が高くなるだろう、と予想してのことだった。

 

「ハリー、いったん……」

「ねぇアイザック」

 

 ハーマイオニーが「いったん引きましょう」と小声でハリーに言い終える前に、ハリーはアイザックをもう一度呼び止めた。

 

「君はまたそうやって、嘘をつくのかい?」

 

 ハリーが怒りの表情でアイザックを睨みながらそう言った。ロンはハリーの肩を掴んでオロオロとし、ハーマイオニーは「ハリー落ち着いて」と繰り返し小声だが皆にも聞こえるような声でそう言っていた。

 

「あぁ僕もすっかり騙されたよ。疑ってはいたけど君を一度でも信用していた事が嫌になる!」

 

 唐突にそんなことを言い出したハリーに、横にいたロンもハーマイオニーも驚いた様子でハリーを凝視していた。

 昼時の大広間の付近というのは人が多い。だが今回、アイザックを含むレイブンクロー生は遅めに大広間にやって来たのでほとんどの生徒はいま昼食を食べている。

 それでも人はチラホラといてハリー・ポッターとアイザック・グッドマンという、いまのホグワーツで最もホットな二人が揃っているのをチラチラと見ていた。スネイプなら喜んで減点をしに来るだろう。

 

「そうだよね、君はなんたって『稀代の天才詐……」

「ハリー、ハリー・ポッター。それ以上はやめておけ。君の品位を著しく下げることになる」

 

 アイザックが手を上げて静止の意味を込めた言葉を言えば、ハリーはまだなにか言いたげそうな顔をした。ロンとハーマイオニーの方が少し顔色を悪くしたようで、ハリーをなだめていた。

 

「分かった、話そう……すまない昼食はまた今度」

 

 アイザックはそのまま集団でいたレイブンクローの生徒たちに向かってそう言えば、彼らは一部ではあるがハリーたちを睨みつけながら今にも悪口を言いそうな様子で大広間に入って行った。

 

「早くここからずらかろう。先生たちが来たら厄介だ」

 

 その言葉に促されて、四人はなるべく人気のない場所へと移動した。先頭にアイザックが他三人を率いるように歩いていて、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は固まって彼女の後ろを歩いた。

 

「……上手くいったね」

 

 移動している途中、まるでイタズラが成功したかのようにハリーがアイザックに聞こえないほどの声量でロンとハーマイオニーにそう耳打ちをすれば、二人は驚いた表情でハリーを見た。ハリーの顔には先ほどまでの険しい表情なんてなく、褒めてと言わんばかりの表情だった。アイザックがその様子を見れば「スリザリンが候補にあがるわけだ」なんて思っていただろう。

 先ほどの啖呵はアイザックが話し合いに応じてくれないと悟った、ハリーの完全な独断だった。

 

 この三人の中で彼女の性格を少しでも多く知っているのはハリーだった。それは言語化できるものではなかったが、彼女を動かすには効果覿面であることに変わりはなかった。

 ハリーはこう考えていた。彼女はおそらく、もうこれ以上『悲劇のヒロイン』なんてものになりたくないのだろう、と。初めて会う人がなめてかかってくるからだとか、話のネタにされるだとかそこまで詳しくはわからないが、そんな風に考えたのだ。

 

「それで、なんの用かな」

 

 大広間からさほど遠くない人気のない場所に着いたとき、アイザックはまるで「無罪だ」とでも言いたげにゆったりとした様子でそう言った。

 

「アイザック。君はニコラス・フラメルについて知っていたよね?」

「有名だからね。一応は」

「賢者の石については?」

「それこそ錬金術の正史上、最も有名な至宝。ひいては魔法界でも一等危険なものだからね。まぁ、知っているよ」

「ほらやっぱり!」

 

 主にハリーからの詰問に、アイザックは三人が考えていた以上より早く、そして拍子抜けするほどニコラス・フラメルを知っていたことも、賢者の石を知っていたことも認めた。それはもうあっさりと。

 アイザックの「これでいいだろ」と言わんばかりの様子にハリーは声をあげたあと、重いため息をついた。

 

「……なんで。なんで嘘なんかついたんだ」

「色々と理由はあるけど端的に言えば、また裁判所送りはごめんだからだ」

 

 するとアイザックの「裁判所送りはごめんだ」という言葉に、三人ともハッとした表情を浮かべた。それはアイザックの冤罪事件を少なからず知っている人たちの反応だった。

 嘘をついたといっても「ニコラス・フラメル? 知らない」ぐらいのものだったが、よっぽどニコラス・フラメルについてわかるか分からないかという情報が彼らにとって課題だったんだろうな、とアイザックは思った。

 

 実際、アイザックは傍観者もそうだが『他者』になりたがっていた。必要に駆られれば手伝うこともやむなし、なんてこともなく、平和に過ごしたい。そう思っていた。

 そのことを分かって貰うためにはあと一息だろうか、なんて考えてまた彼女は言葉を続けた。

 

「私はまぁ、冤罪と言えども未成年だから一応裁判所に監視されている身でね。それにグッドマン家の新当主だ。何かと目をつけられているからホグワーツでやらかしたら退学、最悪の場合アズカバン行きだろう」

「そんな……」

 

 ──まぁ、嘘ではあるが。

 

 ハリーたちは一様に眉根を寄せて息を詰めた。そんな同情をしたような顔にアイザックは特に何も感じなかったが、一年生である彼らには効いたようだった。裁判所だとか犯罪なんて単語とは無縁の世界にいたからこそだろう。

 実の所、そんなことは一言も言われていなかった。アイザックが想像した『魔法省の最悪な対応の一つ』ではあるが。アイザックがホグワーツで人を殺したり、違法な魔法生物を売りさばいたりしたりなどの犯罪を犯さなければそんなことにはならないだろう。

 嘘も方便であるし、とアイザックは彼らの様子を横目で見ながらそう思った。とんだ嘘つきだ。そしてハリーはそんな彼女の性格をうっすらと見抜いていたようだが、今回は見抜けなかったようである。自ら嘘を伝えることはなくとも、質問された場合に嘘をつく性格であると。

 

「でもニコラス・フラメルについて知ってることを教えてくれても良かったじゃないか!」

「ハリー、魔法界というのは意外と怖い所だ。ニコラス・フラメルについての情報源が私だと言ってみろ、必ずどこかでねじ曲がって『アイザック・グッドマンがハリー・ポッターを誑かした』とでも言われるのがオチだ」

 

 情報を渡さなくてもきっちりレールの上を歩いてくれるだろうし、なによりダンブルドアがそれを望んでいるだろうし、過度に情報を渡しても自身が疑われるだけだ、とアイザックは踏んでいた。

 そう言えばやっと落ち着いて来たのか、先程よりもハリーはこちらの言葉に耳を傾け始めているようだった。

 

「それでも……、学校にある賢者の石がスネイプに狙われているんだ!」

「そうか。賢者の石が学校にあるなんて、そりゃ大変だ。聞かなければよかった」

 

 聞かなければよかった、と言いながらアイザックは少し伸びた髪の隙間に手を伸ばし耳をふさぐ仕草をした。その動作におちょくられているようで、ハリーはわなわなと体を震わせた。

 

「なぁハリーわかったろ? グッドマンも関わりたくないってことさ」

 

 二人の様子を見たロンは内心喜びながらそう言った。

 ハリーとしては「価値を計り知れない代物がスネイプという悪の手に渡ろうとしているのに、そんなに悠長にしてられるの!?」というところだった。

 じゃないとあそこまで怒らないし、素晴らしい正義感だ、とアイザックは感心したように目の前の少年を見た。もし記憶があってアイザック自身がハリーになったときやっとあんなに必死になれるかもしれない。

 

「……っと、これは君のもの?」

「あぁ悪いねミスター・ウィーズリー。その栞は私のものだ。ありがとう、感謝する」

 

 これで話は終わり、とでも言いたげにアイザックが立ち上がったとき、本の間から屋敷しもべ妖精からもらった栞が床に落ちた。

 

勿忘草(わすれなぐさ)ね。綺麗だわ。もう咲いたの?」

「見ただけでわかるなんてさすがだねハーマイオニー。これは私の家で早めに咲かせたみたいなんだ。おそらく魔法で」

「そんなこともできるのね。その花が好きなの?」

「あぁ……まぁ、好きだよ」

「へぇ意外ね。あなたにも好きなものがあっただなんて」

「ハハ。レイブンクローの子たちにも言われたよ」

 

 アイザックは軽く笑いながらロンから栞を受け取り、時間にしてわずか数秒ほど栞を眺めて今度は大事そうにローブのポケットへとしまった。

 会話が終わってしまいそうな様子を見て、ハリーは最後にまた口を開いた。

 

「……アイザック」

「なぁハリー。君たちが聞いてくる時点でなにかあるなって、私は最悪の場合を想定しなければいけなかったんだ。そして蓋を開ければこれだ」

「僕たちが最悪って……なら君はなんなのさ」

「君の言っていた傍観者(・・・)ってやつとかかな。それに実際そうだろう? 今も危険な橋を渡ろうとしている」

 

 そう言われればハリーはなにも言い返せなかった。口を閉じ、拳は握られていた。

 

「まぁ、そうだな。実際に賢者の石が盗まれようとしない限り今回のことは君たちにはどうしようもない」

「そうだけど……、」

「いまはグリフィンドールの才媛であるハーマイオニーと試験に向けて勉強に集中するべきさ」

 

 図書館とかにちゃんと通ってね、とアイザックは三人の顔をそれぞれ見ながらそう言い放った。

 

「だから私は何も聞いていないし、何も知らない」

 

 最後に強い口調でそう言えば、ハリーはやっとアイザックを解放した。

 アイザックが大広間に戻る前にハリーは「ごめん」と謝罪の言葉を述べた。それに「いいよ」と彼女が言ってもやはりなにかしらの後ろめたさがハリーにはあるのか、目を見て話しはしなかった。

 

 


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