【異伝】ファイナルファンタジータクティクス   作:12club

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枢機卿の怒り

side:クレスティア・アルヴァン

 

 私は今、ライオネル城の応接室の前で待機しています。

 理由? 勿論中で繰り広げられている謀略を聞くためです。

 

「おい、こんな所でどうした? クレスティア」

 

「シッ!」

 

 指を口元に立ててクラウスさんを制止します。

 せっかくのこの謀略劇を妨げるのは残念どころか命すら失いかねますからね。

 

 

 

「……その盗まれた宝石を取り戻すためにお姫さまを囮に使おうって魂胆か」

 

 

 

 ガフガリオンさんの声です。

 さてさてどうやら聖石のことはぼかして伝えているようですね。

 

 

 

「聖職者の考えることじゃねぇな」

 

「なんだと! この野郎! そっちがあの小僧どもを取り逃したりするからこんなことになったんだろうが!」

 

「こっちの手違いには違いねぇが、オレの責任じゃねぇンだよ!」

 

 

 

「野郎……速攻裏切ってきやがった」

 

 憤慨しながら走り出そうとするクラウスさんを一応、制止します。

 

「どこへ行くんですか?」

 

「決まってるだろうが! アグリアスさんに知らせてくる!」

 

「むぅ、せっかくのブレイブストーリー。聞かなきゃ損でしょうに」

 

「おまえは来ないのか!? クレスティア!」

 

「ちょっと静かにしてくださいよ。中の話が良く聞こえないじゃないですか」

 

 

 

「やめなさい、ルードヴィッヒ。ダイスダーグ卿には約束どおり、オヴェリア王女を引き渡しますよ。こちら側の意志でもありますしね」

 

 

 

 こっちのこの声はドラクロワさんですね。

 

 

 

「ただ、王女誘拐の真相を知る者たちを始末しなければならないと困るのはそちらではないのですかな?」

 

 

 

 さっさと駆け出していくクラウスさんは放っておいて、私は中の声に耳を傾けます。

 

 

 

「宝石を盗んだ者も彼らと行動を共にしています」

 

 

 

 好々爺然とした話し方は以前と同じですが、だいぶきな臭くなってます。

 

 

 

「王女を囮に使うだけで、あの者たちを一網打尽にできるのです。一石二鳥ではありませんかな……?」

 

「たしかにそのとおりだ。だが、万が一ってことがある!」

 

「ずいぶんと弱気ですな」

 

「"用心深い"って言ってもらいてぇな」

 

 

 

 ガフガリオンさん、強面の割には慎重な性格してますね。今さらですけど。

 

 

 

「戦場で生き延びるには慎重すぎるぐらいが丁度いいンだよ」

 

 

 

 しばらく中が沈黙に支配されます。

 

 

 

「わかりました。回避策をとりましょう」

 

 

 

 ドラクロワさん、ガフガリオンさんの作戦採用です。

 

 

 

「更に、確実に罠にハマってもらうためにエサもまきましょう」

 

「いいだろう。エサにはあの女が丁度いいな」

 

 

 

 どうもアグリアスさんたちを当て馬にするようですね。南無南無。

 

 

 

「それから、やつらの始末はオレに任せておきな。そこにいるヤツよりは安心だぜ!」

 

「なんだとッ!」

 

 

 

 ルードヴィッヒさん、うるさいですね。何も出来ない小物なんですから少し黙ってくれませんか。

 

 

 

「よいでしょう。貴方にお任せしましょう」

 

「猊下、本気ですかッ!」

 

 

 

 いい加減ルードヴィッヒさん、自分がこの場にそぐわない人物だってこと理解できてませんね。空気を読んでくださいよ。

 

 

 

「では、頼みましたよ、ガフガリオン殿」

 

「任せておけ。宝石も取り返してやるさ!」

 

 

 

 咄嗟に置物の飾り鎧の裏に隠れます。

 部屋から出てきたガフガリオンさんが目の前を通り過ぎていきました。

 

 完全に姿が消えたのを確認して、私は再び応接室の扉に耳を傾けます。

 

 

 

「猊下、なにもあのようなヤツに……!」

 

 

 

 ガタンと音がします。ドラクロワさん、椅子から立ち上がったようです。

 

 

 

「おまえは何度もしくじった。その責任をとってもらいましょう……」

 

「げ、猊下、な、何を……!」

 

 

 

 打撃音。

 そして呻くような野太い断末魔。

 

 それを聞いて、私はほくそ笑んでました。

 

 クスクスクス……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:アグリアス・オークス

 

 私はあてがわれた部屋で剣の手入れをしていた。

 椿油(つばきあぶら)を浸した布で剣を撫でる。

 それを掲げて見て手入れの出来に満足した。

 カチンと剣を鞘に納める。

 

 ふと私の部屋の前を走り寄る靴音が聞こえる。ライオネルの騎士のものではない。

 

「アグリアス様!」

 

 突然、入ってきたのはアリシアとラヴィアンだった。

 

「緊急事態です! ドラクロワ枢機卿が裏切りました!」

 

「っていうか、最初っからダイスダーグ卿と結託していた模様です!」

 

「何だと!」

 

 届けられた一報に私は驚きながらも憤慨して、その場に立ち上がった。

 

「城中の騎士たちが私たちを捕らえようと迫っています! ご指示を!!」

 

「オヴェリア様はご無事か!?」

 

「そちらには既にクラウスさんが向かっています!」

 

「私はその援護に向かう! おまえたちは至急ライオネル城から退避しろ! ここで無駄死にすることはないッ!!」

 

「ハッ!!」

 

 私は仕舞った剣を手に、部屋の外へと駆け出した。

 アリシアとラヴィアンは反対方向のライオネル城入口へと向かう。

 

 オヴェリア様にあてがわれた部屋はライオネル城尖塔の頂上。この時のために逃げ道を塞いでいたか。

 

 

 

 尖塔の手前、私の前を遮ったのは。

 

「はいはーい、アグリアスさん。大ピンチですね。城の入口までご案内しましょうか?」

 

 クレスティアだ。私は直感した。コイツは私の敵だ、と。

 

「……どけッ!! クレスティアッ!!」

 

「そうはいきません。オヴェリア様を連れ出そうってことでしょうけど、もう上にはガフガリオンさんが来ていらっしゃいますので」

 

「ならば押し通るッ!!」

 

 私は剣を抜き放ち、鞘を脇に放り捨てた。

 

 クレスティアも剣を抜く。私こそ近衛騎士団の団長を務めているが、相手は曲がりなりにもベテランの傭兵だ。油断も隙も無い。

 

 突撃した私の剣がクレスティアの剣に重なる。

 上部を取った。マウントはこちらにある。そう思ったがその瞬間。

 

 キィン!

 

 音を立ててクレスティアが剣を弾いて間合いを取った。だが先手はいただいた。このまま一気にその首、叩き切る!

 

 上段に掲げた剣をクレスティアの右側から振り下ろした。その剣を。

 

 ヒュガッ!!

 

 クレスティアの足が動いた。そう思った瞬間、私の手がしたたかに打ちのめされ、剣が宙を舞う。私の剣が遠くの地面に突き立った。

 

「お得意の剣も体術には弱いみたいですね。傭兵としての生活が功を奏して、ほら、御覧の通り」

 

 バケモノか……!

 

「で、誰がどこに押し通るんですって?」

 

 私は無手になって、突き立った剣の方を見た。

 

 遠い。取りに行けば間違いなく背中から斬られる。

 

 どうすればいい……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:クラウス・マッケンロー

 

「オヴェリア様!」

 

 オレはノックもせず、オヴェリアの部屋を蹴り飛ばした。内側に()ねたドアの先には、キョトンとしたオヴェリアがベッドに座っている。

 

「どうしたのです? いったい何があったのですか?」

 

「緊急事態です! 枢機卿が裏切りました! 今、城中の兵がここに押し寄せてきています!!」

 

「どういうことです?」

 

 一刻を争う事態に、オヴェリアは気付いていない。ガリガリと頭を掻いてオレは「あー七面倒くせえ!」と声を荒らげた。敬語を使う暇もない。

 

「いいか! ドラクロワの奴がダイスダーグと手を組んだ! 城の兵があんたを捕まえようとしている!! さっさとここから逃げるぞッ!!」

 

「ちょ、ちょっと待って! もう少し詳しい事情を」

 

「言ってる暇はねえ! ここを抜け出したら詳しく話す! 不敬の罪はそれから受けてやる! 急ぐぞ!!」

 

 その背後から唐突に声が聞こえた。

 

「おいおい、王女の近衛騎士ともあろう奴がそンな無礼な口を利いていいのかい?」

 

 ガフガリオンだ。

 おい、ここでコイツと一対一、しかもオヴェリアを守りながらかよ!

 

 他に成す術はない。オレは剣を抜いてオヴェリアを庇うように立ち塞がった。

 

「小僧が一丁前にナイト気取りか? 悪いが容赦はしねえぞ」

 

「うるせえ!」

 

 裂帛の気合を込めて正眼の構えから剣を繰り出す。

 ガフガリオンはヒュっと口笛を吹きながらそれを躱して。

 

 ザンッ!!

 

 オレの右肩を深く斬り裂いた。

 利き腕をやられ、剣を取り落とす。

 

「クラウス!」

 

 オヴェリアが悲痛な叫びを上げた。

 

「小僧、おまえに用はねえ。逃げたけりゃとっとと逃げな。おまえは大事な()()なンでな」

 

 傷を負ったオレをよそに、ガフガリオンがオヴェリアに近付き、その腕を掴んだ。

 

「イヤ! 離してッ!!」

 

「うるせえよ」

 

 ドスッとガフガリオンの手がオヴェリアのみぞおちを打つ。昏倒したオヴェリアを連れて、悠々と尖塔から姿を消した。

 

「ちっくしょう……!」

 

 オレは斬られた傷を圧して、フラフラと尖塔を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:クレスティア・アルヴァン

 

 さすがアグリアスさん。王都で培った型通りの形式ばった剣ですね。残念ながら一対一ならガフガリオンさんはおろか、私にも(かな)わないと思いますよ。

 

 とりあえず彼女には逃げて餌になって欲しいので、これ以上の戦闘は控えたいのですが……

 

 そう思っていた折、私の背後からガフガリオンさんが姿を現しました。

 

「おう、待たせたなクレスティア」

 

「ホントですよ。今まさにアグリアスさんを殺ろうかどうか迷っていたところです」

 

 まあそんな勿体ないことはしませんけどね。

 

「後ろからは近衛騎士の一人も来ている。さっさと事を済ませるぞ」

 

「は~い」

 

 そう言って、私とガフガリオンさんは気絶したオヴェリア様を伴ってこの場を離れようとしました。

 

「ま、待てッ!!」

 

 アグリアスさんが制止しようとしますが、制止するのは私たちの方です。

 

「あンまり物騒な動きはするンじゃねえぞ。王女の命が惜しけりゃな」

 

「ぐッ……!」

 

 ぐうの音も出ないってのはこういう事ですかね。そんなわけで私たちはオヴェリア様の拉致に成功して。

 彼女を連れて地下室へと向かいました。牢獄ってほどでもない部屋ですが、何もないよりはマシでしょう。

 

 

 

 

 

「さーて、オヴェリア様も地下に放り込んだところですし、次はどうします?」

 

「アグリアスたちは逃がした。オレが斬った小僧も一緒のはず。後はラムザに任せとくか」

 

「信頼してるんですね、あの子を」

 

「ここの騎士が奴らに勝てると思ってないだけだよ」

 

 言いながら私たちは悠々とライオネル城から出ていきました。

 

 もうすぐ会えるよ、キラ。

 

 クスクスクス……


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