君の歌が聴きたくて   作:大三元国士無双

10 / 17
幕間:愛する者への想い

 私には大切な人がいる。

 一人は私と同じく芸術を愛する人であり、よき理解者で。

 彼女へと送った私の作品の感想を聞くのが楽しみで仕方ない。

 そして、もう一人は地球育ちの男の子で。

 何時も笑っていて、何時も私たちを喜ばしてくれる素敵な人。

 

 宇宙ステーションへと派遣された私たち。

 執行部隊の構造体の方々に守られながら、考古小隊は前へと進む。

 聞いていた話では、此処の調査をしてくるだけの任務だけど……。

 

 歴史的に価値あるものを持ち帰り保管する。

 この宇宙ステーションにも貴重な物が存在する。

 私たちの任務は、そういった類の物を後世へと受け継いでいくことで。

 その過程で、私は色々な景色などを見られた。

 

 地球は思っていたよりも静かで。

 それでいて、残酷なまでに命を奪っていく。

 まだ見たことはないけど、氷の大地や汚染された場所など。

 人間が住むには危険な場所も沢山あるという。

 そんな場所を私はこの目で見て、一緒に戦う兵士の方々を記憶していく。

 それが構造体になった私のもう一つの任務だから。

 

 空中庭園で今も暮らしている二人は元気かな。

 最後に送った記録映像は無事に届いただろうか。

 二人が喜んでくれたのなら良いけど。

 

 私は不自然なほど静かなステーション内を歩く。

 すると、同じ考古小隊の仲間が声を掛けてくる。

 それは私が何かを思い出して笑っていたからで。

 何が面白いのかと興味がありそうに尋ねてきた。

 そんな彼女からの質問に私は大切な友人たちの事を思い出していたと伝える。

 

「……ふーん。男か」

「え? 何で、分かったの?」

「そりゃねぇ。恋する乙女って感じだから」

 

 揶揄うように笑う彼女。

 私は頬が一気熱くなって、視線を激しく彷徨わせた。

 そんな私へと彼女は「まぁ頑張れ」とだけ言って。

 再び前を見ながら、先導する執行部隊の隊長に何かを伝えていた。

 

 構造体になって彼と会って。

 彼は私を拒絶することなく受け入れてくれた。

 優しく抱きしめてくれて。その温もりは未だに覚えている。

 初めて会った時から、彼の心に私は惹かれていた。

 それに気が付いたのは、割とすぐのことで。

 彼が真っすぐに私を褒める言葉を言ったからこそ自覚できた。

 

 その日から、暇さえあれば彼と会って。

 彼が喜んでくれることを私は必死に考えた。

 話すことも好き、笑いあうのも好き、彼の温かさも好きで。

 彼と共に過ごす時間が私にとって愛おしかった。

 

 でも、私は戦場に行くことをやめなかった。

 

 私が有名になって、脚本を手掛けた劇場で。

 兵士たちを招待して劇の感想を聞いてから、私はこの道を決めていた。

 何も知らない小娘が書いた戦争を主題にした劇場。

 それを見た彼らは激しい憎悪の炎を滾らせながら、私の劇を滑稽だと言っていた。

 戦争を美化して、死んでいく構造体に輝かしいストーリーがあって――違う。

 

 本当の戦いは、そんなに美しいものではない。

 その兵士には分かっていた。

 死にゆく者が全て、納得のいく死を迎えられる訳ではないと。

 死にたくないと泣き叫び、受け入れられない死を無理やり受けさせられて。

 それでも彼らは、そんな現実を直視しながら生きていた。

 

 まだまだ経験は少ない。

 でも、地上の戦場へ出る度に、私はあの時の兵士の怒りを理解しつつあった。

 完全には分からなくても、きっと理解できる筈。

 もしも、この作戦から帰った時は、勇気を出して書いてみるのもいいかもしれない。

 少しばかりの休暇を貰えると聞いてたから、短編なら書けるはずで。

 それをアイラやユウジに読んでもらいたい。

 

 アイラは何て言うだろう。

 面白いと言って喜んでくれるかな。

 ユウジは、子供のように目を輝かせるかもしれない。

 感情豊かな男の子だから、この物語も気に入ってくれる筈だ。

 私は頭の中で既に出来上がりつつある構想に笑みを浮かべる。

 

「もうすぐだ。気を引き締めろ」

「――はい」

 

 言われた言葉に、全員が反応する。

 もうすぐ、このステーションにおいて重要な場所につく。

 何が待ち受けているか分からないけど、きっと人類にとって重要なもので

 それを持ち帰れば、人類の反撃に貢献できるだろう。

 私は喉を鳴らしながら、緊張の面持ちで歩を進める。

 

 大丈夫。ここまでで浸蝕体はほとんどいなかった。

 いたとしても、執行部隊の精鋭が難なく倒して。

 この先にあるものを調査し終えれば帰れる。

 

 そう思っているのに――妙な胸騒ぎを覚えていた。

 

 行ってはダメだと言っている気がする。

 引き返せと誰かが言っている気がした。

 誰なのかも分からない。でも、ユウジの顔が脳裏を過る。

 悲痛な顔で私を見る彼は――

 

「……あれは何だ」

 

 気が付けば、中心部へと侵入していた。

 巨大な輪っかのようなものが周りを飛び。

 その中心に位置する何かが妖しく光り輝いていた。

 遠くからでも感じる嫌な気配に、誰もが足を止めていた。

 でも、隊長さんは皆を鼓舞して先導していく。

 私たちは重い足を動かして、隊長さんに付いていった。

 

 

 ##

 

 

 私が間違っていた。

 

 簡単な任務だと安心して、眠れる獅子を起こしてしまった。

 中心にあったものは高濃度のパニシングの塊で。

 どんなに攻撃しようとも破壊できなかったあれは、執行部隊の構造体を蹴散らしていった。

 何とか破片だけを回収して、私たちは急いで退避する。

 でも、そんな私たちを逃がすまいと今ままで隠れていた浸蝕体が道を塞ぐ。

 後ろからは猛烈な勢いで、このステーションの案内役が迫ってきて。

 

 一人また一人と、仲間たちが倒れていく。

 

 私は必死に走った

 走って走って、隊長さんたちの願いを背負って走る。

 もう誰もいない。私だけになってしまった。

 体中は傷だらけで、胸には回収した”破片”を抱えている。

 仲間たちが命を賭して手に入れた大事なサンプルだ。

 何としてでもこれを持ち帰らなければ、仲間たちの死が無駄になる。

 

 私は無我夢中で走って――

 

 何とか通信室まで来る事ができた。

 急いでとある資料のデータをアップロードする。

 知らない人間であればただのノイズだと吐き捨てるもの。

 でも、アイラであればこの意味に気づいてくれる筈だ。

 最後の希望を捨てる事無く。私は救援を待ち続ける。

 

 そんな私の後ろから気配を感じて。

 振り返れば、コロリョフと呼ばれるステーションの案内役がその目を赤々と輝かせていた。

 私を敵だと認識して襲い掛かってくる。

 私は何とか攻撃を避けながら、最後の手段に出た。

 

 この破片は渡すわけにはいかない。

 仲間たちから託された想いを無駄にしてはいけない。

 私は破片を自らの体内に無理やり埋め込んだ。

 痛みに顔を歪ませながらも、何とか破片を隠して。

 その隙に手足を拘束された私は、キッとコロリョフを睨みつける。

 

《盗ンダ物ヲ返シテクダサイ。イイ子ニナッテクダサイ》

「……可哀そうに。本来の貴方の仕事はこんなことじゃなかったのに」

《? コロリョフハ正常デス。盗ンダモノヲ返サナイナラ》

 

 コロリョフは二本のアームを使って私の左腕を引きちぎった。

 循環液が辺りに飛び散り、激しい痛みで意識海が乱れる。

 私は絶叫しながら、襲い来る痛みと恐怖に耐える。

 コロリョフは左腕にサンプルが無いことを知ると、今度は右腕を切断してきた。

 

 まるで、解剖実験のように私は分解されていく。

 意識海が大きく乱れて、金切り声が響き渡る。

 私は涙を流しながらも、最後まで希望を捨てなかった。

 必ず生きて帰る。生きて帰って、貴方に――

 

「……愛し、て、る」

 

 体をバラバラにされながら、私は愛しい人を想った。

 今も帰りを待ってくれる彼の元へと届くように。

 ありもしない未来。ただの人間である彼が、私を助けに来ると思ってしまう。

 そんな事でも考えなければ、パニシングに汚染された意識が保たない。

 

 きっと来てくれる。彼は約束してくれた。

 私が迷った時は、必ず迎えに来ると。

 私は笑み浮かべながら、天を仰ぎ見る。

 そんな私の顔を真っ赤な目の化け物が覗き込んできて。

 ぎちぎちと自らのアームを態と鳴らしながら、私の恐怖を煽ってきた。

 

 愛している。どんな姿になろうとも――貴方だけを。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。