血しぶきハンター   作:稲月

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第3話 それを喰うなんて正気じゃ無い

 

「んん〜〜〜。…うん!君も合格❤︎ いいハンターになりなよ♣︎」

 

 ——見つけた。

「加速」の業で湿地を突風のように駆け抜けてきた貴方は、遠い前方に目的のゴンが立ち竦んでいるのを確認した。

 そして彼のすぐ傍には、ヒソカが屈み込んで彼に何か話しかけている。

 どうやら間に合ったらしい。何故襲われていないのかは分からぬが、狂人とはどいつも皆気まぐれで理不尽な輩であるし考えるだけ無駄か。

 貴方はとりあえず彼等を引き離そうと、スローイングナイフを投擲しながら突撃する。…避けられたが距離は取らせた。

 

「……!!! まさか、キミが来るとはね♠︎ ようやくボクと遊んでくれる気になっ…っ!!」

 

 ドパアァァァァン!!

 禍々しいオーラを発しつつ喋り出したヒソカに対し、貴方はとりあえず左手に持つ『獣狩りの散弾銃』をぶっ放した。

 隙あらばとにかく銃を撃ちつける。対人の基本だ。

 突然の銃撃、それも広範囲にばら撒かれる散弾に対応しきれなかったヒソカは、咄嗟に横っ跳びで避けたが左腕の先は半ば吹き飛ばされ、掠った右脚も大きく抉られる。

 短銃と同様、貴方の散弾銃の弾1発1発の威力は常人の理外にある。「硬」で急所だけは防いだ様だが、その代償は大きい。

 

「………ッ!」

 

 間髪入れずにステップで接近した貴方は、右手の『仕込み杖』で殴りつける。

 未だ空を跳び、衝撃とダメージの抜けきらないヒソカの首元へ真っ直ぐ向かうその攻撃は、ヒソカがまるで何かに引っ張られるように、彼が先程立っていた方向へと急に転回した事で回避された。

 

 相変わらず気色悪い…。明らかに物理法則を無視した動きに貴方は引いた。

 一瞬見えた様子では、ヒソカの足から繋がるオーラ糸が地面に繋がっており、それが縮むことであのように動いたらしい。

 サトツにつけたオーラ糸を思うに、オーラを物へ付着させかつ自在に伸縮できる能力のようだ。

 なるほど単純だが厄介である。貴方が彼に直接触れるのは避けるべきだろう。

 

 考えながら貴方はまたドパンと散弾銃を撃つ。着地狩りも基本である。

 

 ヒソカは飛んだ勢いでかなり距離を取っており、威力減衰が大きく射程の短いこの銃の弾は防がれてしまう。

 彼もただではやられない。銃撃を防ぎながらオーラの籠った紙切れを4枚投擲してきた。

 貴方は超高速のステップでヒソカを追いながら、それら全てを躱してゆく。迂闊に受け止めるわけにもいかない。

 

 尋常ならぬ速度で近づく貴方を目撃したヒソカは、強烈なオーラを身に纏いながら右手を手前にぐんと引く。

 すれば貴方の背後から、先程投げられた紙切れが豪速で次々と飛びかかる。

 あの時紙切れにオーラ糸が伸びている事を確認していた貴方は、読んでいたぞとばかりに見もせず矢継ぎ早に回避した。

 4つのそれを全て避け切った貴方は、ヒソカに杖が届くまであと僅かの所、そこで猛烈な悪寒を覚えた。

 

 ——!!

 避け切ったはずの紙切れ、それが、貴方の首の頸動脈を目掛けて再び背後から撃ち飛んできた。

 ヒソカは投擲の際、1つだけ2枚重ねで投げつけていたのだ。奇術師とは名ばかりでないらしい。

 勘に従い間一髪で躱した貴方であったが、体勢が崩れたその瞬間へヒソカが猛烈な蹴りを放ち…

 

 ッッガキン!!

 

 杖でギリギリ蹴りを逸らし弾いた貴方であったが、杖にオーラ糸を付けられてしまった。貴方は不安定な体勢のまま、即座に左手の散弾銃をオーラ糸越しにヒソカへ向けた。糸を縮められる前に切らねば。

 銃は3度目の轟音を打ち鳴らし杖に付けられたオーラ糸を絶ったが、ヒソカはまた地面につけていたオーラ糸の縮小で跳び、弾を掻い潜ろうとする。

 既にタネの知れている貴方はそれを予測し偏差で撃ったが、ヒソカはなんと最低限の防御で両腕と半身を犠牲にし、再び紙切れを投擲しながら貴方の懐へ特攻してきた。

 

「ソレ、連発できないんでしょ❤︎」

 

『獣狩りの散弾銃』は短距離での威力と物量を得ると引き換えに、大きな反動と連射が効かないという代償を背負った武器である。

 撃った直後はどうしても無防備になるのだ。たった2回の銃撃でそれに気付き利用するとは。

 貴方は目の前の狂人が持つ類まれな戦闘センスに感心しつつ、銃の反動を利用して体勢を整えようとする。紙一重で間に合うか…!

 

 

 

 飛んで来た紙切れは貴方の顔スレスレを通り過ぎ、ヒソカは残る右脚に全てのオーラを込めた。そのオーラの濃密さたるや、並の使い手では触れるだけで腕が弾け飛ぶだろう。

 赤黒く光ってさえ見えるその脚で、ヒソカは貴方へ回し蹴りを放った。

 …かと思いきや、彼は貴方に届くかという手前ギリギリで突如重心を大きく変え、その場で右足をぐるんと、怒濤の如く旋回させた。

 

 その右足の先に繋がるは、縮むオーラ糸に引かれ尋常ならぬ速度で旋空する紙切れ。

 ヒソカの脚からオーラ糸を伝って全エネルギーを受け取ったその薄っぺらな破壊兵器は、途方もない威力で貴方の元へ。

 

 

 

 ッスパン———

 

 刹那の攻防の結果。

 それは、僅かに軌道を反れて遠く彼方まで飛んでいく紙切れと、右脚を膝から完全に断ち切られ地に墜つヒソカの瀕死の姿であった。

 対する貴方の右手に掲げられるは、蛇腹に伸び繋がった鋭利な刃を晒す、鞭の様に変形した『仕込み杖』である。

 

 蹴りの直前に投げられた紙切れ、前回と違いオーラ糸の無いように見えるそれにも、極限まで薄く隠蔽された糸が伸びている事に貴方は気づいていた。

 ヒソカの狙いを予期した貴方は、絶好のタイミングで杖を変形し、強靭な鞭の刃でオーラ糸と脚を纏めて切り捌いたのである。

 糸が切れ制御を失った紙切れは貴方へ届かず、残ったのはオーラの殆どを使い果たし満身創痍の奇術師のみであった。

 

 

 ◆

 

 

 気を失って地に伏すヒソカをさっさと燃やしてしまおうと近付く貴方は、彼のポケットから何やら聞こえる事に気づいた。

「ピピピ」と鳴るその携帯電話を取り出した貴方は、コールに出てみる。

 

「あ、もしもし? やっと出た。早くしないとそろそろ合格者が締め切られそうだぜ。」

 

 ヒソカの友人だろうか。男の声で話し出す。どうやら彼も受験生のようだ。

 貴方はとりあえず挨拶した。申し訳ないが貴公の友人は燃やさねばならないとも。

 

「………キミ、誰? どうしてこのケータイを持ってる? 」

 

 貴方は簡潔に説明した。自分は被害者で、襲われたので仕方なく返り討ちにした。この狂人は燃やして葬る。

 なお貴方は正直に話しているつもりだが、実際のところ今回ヒソカが襲ったのはゴンたちであり、貴方はむしろ襲いかかった側である。まるで話も聞かないで。

 

 電話の相手はヒソカが負けたことに半信半疑のようだが、とにかくヒソカは商売相手であり殺されると困るらしく、出来れば2次試験会場まで生かして持ってきて欲しいと貴方に頼んだ。

 貴方は自分にメリットがないからと断ろうとしたが、依頼として金は(ヒソカが)払うと言うし、ここまで再起不能にすればもう絡まれもしないだろうと思い受ける事にした。落とした手足も持っていこう。これも売れるかも知れない。

 

 

 

「ウィロルドさん!」

 

 電話を切るとゴンが貴方へ駆け寄ってきた。

 彼のいたところには男が2人いる。片方は頬を林檎のように腫らして気絶しているようだ。

 ゴンが会場へ来た時に共にいた者だった筈だ。なるほど彼らを救いにヒソカの元へ駆けつけたのか。

 

「助けに来てくれたんだよね、ありがとう! …その、ヒソカはどうするつもりなの?」

 

 依頼を受けたので生かして連れて行くと貴方は答え、それよりも時間が無いとゴンへ伝えた。

 貴方はヒソカを持って先に行くが、ゴン達は問題ないかと確かめる。

 

「大丈夫! 自力で乗り切るよ。ウィロルドさんも気をつけて!」

 

 貴方はゴンへ『確かな遺志』を示し、ヒソカを担いで駆け出した。サトツの気配を追えば確実だ。

 瀕死の人間とその千切れた手足を持って走る貴方の姿はどうみてもイカれていたが、貴方にその自覚はなかった。

 

 

 ◆

 

 

「カタカタカタカタ…」

 

 やはり狂人は狂人を呼ぶのだろうかと、目的地のすぐそばで貴方は思案していた。

 貴方の目の前では、ヒソカの友人らしき顔面が針だらけの異常者が、気絶するヒソカを受け取っている。

 さっき携帯電話で話した相手は普通の綺麗な声であったと貴方は記憶しているが、とてもこの顔からあの声が発されていたとは思えない。というか会ってからはまともに喋りすらしない。これが彼で合っているのか?

 貴方はちょっとこの針抜いてみたいとも思ったが、彼を怒らせて戦闘となるのは得策でないし、依頼達成の報酬である小切手を受け取るとさっさと距離を置く事にした。

 

 

 

「ガルルルルルル……ゴルルルルルル……」

 

 無事2次試験会場へと辿り着いた貴方は、地の底から鳴るような獣の唸り声が響く建物の前でその時を待っていた。

 一体どのような化物が飛び出すのか、おそらく試験は彼奴を狩ることだろう。ハンター試験に相応しい課題だ。

 貴方が感じ取るに、中の獣はなかなか巨大な存在であり、おそらく念も扱える。かなりの強敵であろう。

 不可解なのは、もう1つ人間の存在も中に感じることだ。こちらも念使いだし、まさか獣の飼い主か何かだろうか。

 いずれにせよ、今この獲物とまともに戦えるのは己と顔面針狂人ぐらいのもの。遠慮なく血祭りにあげてしまって問題ないはずだ。

 貴方は久方ぶりにどっぷりと血に酔える予感を覚え期待を膨らませていた。試験開始は正午、あと数分である。

 

「おーい、ウィロルドさーん! 間に合ってよかった!」

 

 ゴン達が間に合ったようだ、貴方は安堵した。

 頬を腫らした男も途中で目覚めたのか、自力で歩いている。

 無警戒でにこやかに貴方へ駆け寄るゴンに対し、金髪の青年は少しの警戒を向け、長身の男は貴方が誰か分からないという顔をしている。

 

 ちなみに試験を待つ人混みの中では、貴方の周りにだけ不自然に穴ができている。

 いかにも死にかけな人間と腕や足を抱えて血塗れでやってきた貴方は、それはもう驚愕と奇異の目で見られた。

 抱えていたのがあのヒソカだとわかった暁には、もはや誰も近付かず目も合わせず、祟り神か何かに対するような対応を取られている。

 

 謎の唸り声や試験の予想について貴方がゴンと談笑し始めると、彼の連れ2人も近づいてきた。

 

「失礼。先程は命を救っていただいた事、誠に感謝する。私はクラピカという者だ。」

「レオリオだ。悪ィな、オレはさっき何があったかよく覚えてないんだが、とにかくあんたに助けられたのは確かだ。ありがとな!」

 

 貴方も自己紹介を返し、礼は不要であると答える。ただ友人を救ったに過ぎない。狩人の友は協力し合うものだ。

 幾らかの会話を交し、彼らは貴方へ少し打ち解けていった。

 

 

 

「よ。どんなマジック使ったんだ? 絶対もう戻ってこれないと思ったぜ。」

「キルア!」

 

 キルアも無事に着いていたようだ。念能力者を除けばおそらく受験生でも1,2を争う実力者だ、当然か。

 年長2人と話を続けていた貴方はそこで、クラピカから幻影旅団という盗賊団について何か知らないかと問われたが、しかしそのようなものを貴方は知らない。力になれず済まないと返した。

 

「ウィロルドのニオイをたどったーーー!? つーかどんなニオイだよ、この距離でも全然わかんねーけど。」

「うーん、オレもなんて言ったらいいかわかんないけど…。ウィロルドさんは、満月みたいな香りがするんだ。」

「月ィ!? お前…やっぱ相当変わってんな。」

 

 少年たちは楽しそうに盛り上がっている。そろそろ試験も開始の時間だ。

 

「……つーかさ、マジで何があったんだよ。あいつ、ボロ雑巾みたいなヒソカを抱えてきたんだぜ。ゼッタイ、ただモンじゃねぇって。」

「ウィロルドさんはオレ達を助けてくれたんだよ。びっくりするほど強かったんだ!」

 

 一体いかなる獣が現れるのかと胸を躍らす貴方は、小声で話す少年達の会話には気付かなかった。

 

 

 ◆

 

 

 貴方はつくづくがっかりして、げんなりと森を歩いていた。

 いざ始まった2次試験は、まさかの料理が課題であったのだ。貴方が期待した凶暴な獣など待ち構えておらず、ただ巨漢が腹の虫を掻き鳴らしていただけだったのである。期待はずれもいいところだ。

 

 それのみか、事もあろうに巨漢の課した料理は豚の丸焼きであったのだ!

 

 …豚、豚だと。さては脳喰らいに中身を吸い尽くされでもしたのか。

 頭蓋には夥しい目玉を生やし、薄汚い口で耳障りな叫びを上げては突撃してくるあの悍ましい獣を、よりにもよって丸々焼いて喰らおうと言うのだ。

 いくらいえども正気を疑わざるを得ないではないか。いや、あの腹の轟音といい、やはり人間を騙る狂った獣に違いない。ヌメーレ湿原から人の皮を被ってここまでやってきたのか。丸焼きに滅却すべきは彼奴の方なのでは。

 貴方は少々錯乱しつつも、そういえばこの地方の豚とはあのような冒涜的な姿形ではないのであったと思い起こし、(すんで)のところで踏みとどまって森へ豚を探しに来たのであった。

 

 早速貴方の目の前にそれらしき獣が現れた。鼻が異常発達しただけの別段特徴もない大きな生き物だ。

 グレイトスタンプと呼ばれるその豚は、貴方と目が合った途端に叫び声をあげて猛突進してくる。

 どうして豚はやたら突進したがるのか、貴方はその習性に疑問を呈しつつも突進を寸前で躱し、木に激突して動きを止めた豚に対して素手のままその尻へ溜め攻撃を放った。

 そしてダウンした豚に対し、その体内へと腕を突き破る。貴方の手に伝わるは温かな臓物の感触。

 豚が耳をつん裂くような苦痛の叫びを上げるのも意に介さず、掌のそれを強く握った貴方は、勢いよくその(はらわた)を引き抜きぶち撒けた。

 

 血と臓物を噴き上げる豚の死骸の傍で、その赤いシャワーを全身に浴びる貴方は大層ご満悦であった。

 どうして豚への内臓攻撃はこんなにも爽快なのだろうか。ブチ抜く度に寿命が伸びる心地がする。

 しばらく余韻に浸った貴方は、自分の返り血を洗い流し、中身の空になった死骸を丸ごとこんがり焼いてから持ち帰った。

 

 どうやら貴方が最後であったらしい。豚の丸焼きを持ってきた貴方は、巨漢もといブハラへとそれを受け渡す。

 

「おっ、これは血抜きもワタの処理もイイ感じだ! んん〜うまいうまい!! 1番を決めるならキミかな!」

 

 貴方の個人的な趣味趣向で偶々そうなったとは露知らず、ブハラは貴方の料理を絶賛した。

 それにしてもとんでも無い大食漢だ。やはり人間では無いのか…?

 全く他人のことを言えない貴方が再び失礼な疑いを掛けていれば、今度はメンチによる次の課題が発表された。

 

 

 ◆

 

 

 スシ………。貴方にはさっぱり聞いたこともない。

 メンチ曰く調理台の道具やニギリズシなる単語がヒントらしいが、まともな料理などまるでしたことのない貴方には珍紛漢紛なのであった。

 

「ニギリ…か。だいたい料理のカタチは想像がついてきたが、肝心の食材が全く分からねーぜ。」

 

 共に調理台まできたクラピカとレオリオと共に、貴方は頭を捻らせる。

 

「具体的なカタチは見たことないが…文献を読んだことがある。確か……酢と調味料をまぜた飯に新鮮な魚肉を混ぜた料理、のはずだ。」

「魚ァ!? お前、ここは森ん中だぜ!?」

「声がでかい!!」

 

 な、何…だと………。

 魚? いま魚と言ったのか。……信じられん、狂っている。発狂しているに違いない。

 貴方は魚というものに対して、尋常ならない苦手意識を抱えていた。正確には貴方が強烈な忌避感を持っているのは「魚人」や「魚犬」であるのだが、水場に住みヒレを持つ時点で貴方に取っては到底許し難い存在であった。

 

 かつてヤーナムの悪夢の中で、命を落とす度に夢で目覚めては挑み直す事を数え切れぬほど繰り返した貴方であったが、最も心折れ挫けそうになった正真正銘の地獄こそ「漁村」であったのだ。

 そこら中に跋扈する青白くぬめる肌の魚人達、その中でも巨体を誇る瘤あたまの魚人は、貴方がもう2度と相見える事のないように請い願う化物のひとつである。

 井戸の中を彷徨うあの悍ましい2体の瘤あたまは、おそらく最も多く貴方を殺して見せたであろう忌忌しい仇敵だ。

 それを置いても、地を埋め尽くす冒涜的な軟体生物、何度も秘密を守りに殺しに来る教会の刺客、果ては上位者ゴースの遺児まで、貴方にとって苦々し過ぎる記憶が数多く残る悪夢の村である。

 

 貴方は心底苦悩した。己に魚を食い物にしろというのか……!

 冒涜的にも程がある。教会の腐った上層部達ですら、あの悪夢は封じるに留め手を出さなかったのだぞ。

 人とは何と罪深きものか。

 しかしこれを乗り越えねば試験には受からない。

 プロハンターとなるための試練としてはこれ以上のものはないだろう。覚悟を決めるか…!

 

 貴方が頓珍漢な葛藤と戦っているうちに、いつの間にやら他の受験生達はみな川へと向かい居なくなっていた。

 

 

 ◆

 

 

(ワリ)!! お腹いっぱいになっちった。」

 

 青白く銀色に反射する鱗の悍ましさをどうにか堪え、頭を真っ二つに断たれた血塗れの川魚を貴方が調理場へ持ち帰ってきたちょうどその時。

 メンチは腹が膨れたと言って試験を終了してしまった。

 

 貴方は絶望した。己の苦労が泡と消えた。上位者でも鳥肌は立つのだということをこの日貴方は初めて学んだのであった。

 それにしても、合格者無しとは驚いたものだ。厳しい試験とは聞いていたが、まさか料理の味で不合格にされるとは。

 来年の試験には徹底的に料理の練習を積んだ上で臨むべきか…。

 しかしやはり、問題は魚だな。あの悍ましさといったら形容し難い。苦手克服にはどうするべきだろう。

 ここはシンプルに、ひたすら大陸中の魚を狩り尽くして耐性を得るのが手っ取り早いだろうか。いやそうか! そもそもこの世の魚を綺麗に絶滅させれば料理に使おうなどという戯言を宣う輩もいなくなる!

 

 電話でキレ散らかしているメンチを他所に、貴方は今後1年の料理特訓計画もとい魚類抹殺計画を練っていた。

 

 

 

 ドゴオオオンン!!

 

 大きな破壊音で貴方は我に返った。見れば受験生の1人がメンチへ激昂し暴れ出している。

 

「今回のテストでは試験官運がなかったってことよ。また来年がんばればー?」

「こ………ふざけんじゃねェーーー!!」

 

 試験官相手に無手で殴りかかった受験生は、ブハラに蠅のようにはたき飛ばされた。

 

 ふむ、楽しそうだな。

 ブハラの巨大な腕がちょっとだけ羨ましくなった貴方は、その腕で赤蜘蛛を叩き潰す様を想像して、少し胸の空く思いをした。

 狩っても狩っても無限に湧いて出てくるあのしつこい存在を軽く潰せたら、さぞ気分がいいであろう。

 

「どのハンターを目指すとか関係ないのよ。ハンターたるもの誰だって武術の心得があって当然!!」

 

 !……これは。

 考え事をする貴方を余所にメンチが受験生へハンターの矜持を説く中で気付く。遥か上空に感じる強者の気配に。

 間違いなく、貴方が上位者となってから知る中で最も高い実力を持っている。只者ではない。

 

 〈それにしても、合格者0はちとキビシすぎやせんか?〉

 

 高い空を飛ぶ飛行船から声が届く。

 その何者かが急降下でこちらへ向かっているのを認識し、貴方はつい出来心でその着地予想地点へと未だ手に持つ首無しの魚を投げ付けた。

 

 直後、そこには赤く生臭い花火が咲いた。

 




ヒソカの内臓をぶち抜きたいのを我慢して書きました。
武器のチョイスはなんとなくです。

誤字修正非常に助かります。
感想や評価も励みになります。大感謝

念能力に関しては基本ブラボの狩人の能力が使える感じです。
そのうちちゃんと設定も出したいと思います。



『スローイングナイフ』
細かいギザ刃のついた投げナイフ。
大きなダメージが期待できるものではないが、うまく使えば牽制と翻弄に威力を発揮する。

『仕込み杖』
刃を仕込んだ硬質の杖。
仕掛けにより刃は分かれ、まるで鞭のように振る舞うこともできる。

『確かな意志』
狩人のジェスチャー。
片腕で低くガッツポーズを取る。

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