ストライクウィッチーズ 龍殺しの系譜   作:ケーニヒスチーハー

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第23話 撤退支援

 M.S.405戦闘機とウィッチ、敵のしんがりを引き受けたラロスタイプのネウロイの航跡が複雑に絡み合う空中戦がひと段落し篠原は敵機の大多数が引き返した事を確認し上空で集合をかけた。

 

「各員残弾報告」

「川嶋あと弾倉1、75発です」

「こっちはあと一連射でカンバンだ」

 篠原達は残弾が乏しく、リベリオンのウィッチ隊は完全に消耗しきっていた。弾薬を使い果たし行動限界の近づいた彼女たちにこれ以上の戦闘は不可能だ。

《ごめんなさい、私たちはこれ以上は厳しそうです、、、》

「気にしないで。リールで補給を受けて可能なら再出撃して頂戴」

 第8戦闘飛行隊の面々が踵を返し第3戦闘飛行隊の損傷機や弾切れの機の後を追う。

「遠坂さん貴女も、、、」

「いや、俺はまだ飛べる。武器も下の連中から拝借するさ」

 途中、遠坂に視線を向けつつ続ける篠原を制し彼女は頭を振る。

 そこで違和感を覚えた。

「おかしい、地上が静か過ぎる、、、」

 それを聞いた皆が眼下に目を凝らす。

 地上の砲火が少なくなっている。ネウロイが撃退されたからではない。事実、木々の隙間を縫って未だに戦車型ネウロイが蠢いている。

「なんてこった!」

 3人は戦慄した。自分達が空中戦に夢中になっている間に地上の防衛線は食い破られズルズルと後退していたのだ。

 

《ーーーー、援護を求む!当方被害甚大、撤退する!だれか援護を!》

「上空は任せなさい。戦闘機隊の方々もいるわ」

 地上からの無線に応えた直後、川嶋が声を荒げた。

「警戒してください!新たな敵機、北15km高度1000から接近しています」

「なんですって?!」

「この反応は、、、大型1機です!」

「きっついな、、、」

 こちらの戦力は残弾が乏しいウィッチ3人とガリア空軍から援軍として差し向けられた戦闘機隊の残存機10機。駆逐艦に匹敵するサイズの大型ネウロイを相手取るには少しばかり心許ない。

 篠原はネウロイの狙いに気づき歯噛みした。

 戦闘機型ネウロイが撤退したのは損害に耐えかねてでは無かった。

 奴らは篠原たち迎撃に上がった連合軍を消耗させ第二次攻撃隊の爆撃型ネウロイの仕事をやりやすくする為の制空隊だったのだ。

「全機に通達!ヌゾンビル北15km高度1000から大型ネウロイ一機が接近中!燃料弾薬に余力が有る機は全機迎撃に向かえ!」

《第3戦闘飛行隊了解した。これより迎撃に向かう。我に続け!》

 無線を聞いたM.S.405戦闘機が編隊を組み直しネウロイが来るであろう方角に翼を翻す。

「私たちも行くわよ!」

「「了解!」」

 それを追うように遠坂たちもトライアングルをつくりフルスロットルを炊いた。

 

 

 黒煙燻る森の頭上を第一次大戦時の大型飛行船を思わせるデザインをしたネウロイが時速100キロのゆっくりとしたペースで舳先を南に向け飛んでいる。

 最初に会敵したのは戦闘機隊だった。

 彼らは10機の中隊を上方に4機、左右に3機づつ振り分けてネウロイを半包囲した。

 

《全機突撃せよ!》

 飛行隊長の命令がスピーカーから響き同時に敵機に突入する。

 やや早い段階で上方の4機が自慢のクワドラ20mm機関砲と7.5mm機銃の射撃を開始する。飛行船型ネウロイの機首から尾翼にかけて満遍なく銃弾のシャワーを浴びせた彼らはネウロイを掠めるように下方にすり抜ける。だが追い縋って放たれた火線が最左翼の一機の翼をもぎ取り撃墜した。燃える機体からパイロットが零れ落ちパラシュートが開く。

 やや間があって左右の小隊も仕掛けた。

 左側の編隊は規則だった動きでビームの狙いを外しながら接近し翼とプロペラスピナーから眩い光を迸らせる。

 20mm弾と7.5mm弾はネウロイのエンジンとコクピットを模った部位に殺到して黒い装甲を撃ち抜く。そして彼らは衝突寸前まで撃ち尽くしたあと左に急旋回し離脱を図る。

 右翼側の3機は彼らほど幸運では無かった。

 接近を試みた段階で長機が被弾し落伍すると残りの2機はまだ遠いにも関わらず撃ち始めた。狙いも甘く射弾はその殆どが空を切り更に離脱直前、更に一機がコクピットに直撃を受けて撃墜された。

 7機に撃ち減らされた戦闘機隊が攻撃を終えた直後、篠原隊が真正面から突っ込んだ。

「いい?私と紅莉栖さんがコアを探すから貴女はそれまでシールドで援護して!」

「分かった!」

 遠坂は眼前にやや大きなシールドを張りその後ろで2人が銃を構える。それぞれ篠原が100発、川嶋が75発の残弾数であり1発たりとも無駄撃ちが出来ない。だが隠されたコアを探すには勘で撃たなくてはならない。

 そこで篠原はまだ銃撃されていない右下面に狙いを定める。

「行くわよ!」

 相対速度も鑑み敵機との距離が700mを切ったところで撃ち始める。ネウロイの応射は遠坂のシールドで防ぎながら尚も撃ち続ける。完全にすれ違うと右180度旋回して今度は追いながら撃つ。

 そして敵機の下面中央を撃ち抜いた時、赤い結晶が姿を現した。

「川嶋全弾消耗!」

「私もよ、遠坂さんお願い!」

「任された!」

 嫌な音と共に射撃を止めた2人に代わって遠坂が一気に前に出る。

「食らえ!」

 だが

「危ないっ!」

 引き金に指を掛け今にも撃とうとした瞬間大量のビームが遠坂を襲った。

「ぬおっ!しまった!」

 咄嗟にシールドを張りながら横滑りし回避に成功したものの回避運動で狙いがずれ最後の5発は虚しく空を切った。

「弾切れだ!」

「なんて事、、、」

《全機もう一度仕掛けるぞ!》

 ウィッチ3人が弾切れになったことを知った戦闘機乗り達がどうにか特定できたコアの位置に攻撃を加えようと再突入を計る。

 だが激しい砲火で接近すら出来ない。

《だめだ、弾幕が厚すぎる》

《畜生め!べらぼうな弾幕張りやがって!》   

《やられたっ!脱出する!》

「みんな無茶はしないで!」

「こちら独立飛行隊第一中隊!支援を、支援を求めます!」

 次々と被弾し脱落する友軍機に篠原が悲鳴を上げ、川嶋が必死に無線で増援を呼びかける。

《こちらシャルルビルメジエール基地、滑走路が復旧し基地機能の一部を回復した!これより増援を送る!30分後に到着予定》

「それじゃ間に合わない」

 30分もあればあのネウロイは爆撃を始めてしまうだろう。

「武器を探してくる!」

 そう言って遠坂は降下していった。

 目指す先にはロマーニャ軍が撤退した陣地跡。

 

 陣地跡まで降り立った遠坂はホバリングしながら武器弾薬を探した。

「何か、何か武器は無いか?」

 やがてお目当ての物を見つけた。

「これなら」

 重いがために後退の際放棄されたゾロターンS-18対戦車ライフル。20mm弾を使用し戦車の装甲を貫けるこの銃なら奴を屠れるだろう。

 近くに落ちていた背嚢に予備の弾倉3本を放り込み背中に担ぐ。更にM38短機関銃と戦車のハッチについていたM38車載重機関銃をもぎ取った。

「待ってろよこのすっとこどっこい」

 両手で銃を持ち上げスロットルをWEPまで上げる。

 睨むは高度1000をまだしぶとく飛んでいる飛行船型大型ネウロイ。

 

 

 上空では必死の防空戦が展開していた。

 とはいっても弾切れの篠原と川嶋に出来る事は少なかった。それでも彼女たちは味方の損害を軽減するためにシールドを張りながら敵機の手を伸ばせば触れられるような衝突ギリギリのラインを飛びネウロイの砲火を吸引した。その隙にガリア空軍機が機銃弾を撃ち込む。しかし彼らの多くも既に一機辺り60発の機関砲弾は使い切っておりネウロイの再生速度を上回る打撃は与えられない。

「このままじゃジリ貧ね」

 シールドを張りながら篠原がぼやいた。そこにありったけの武器弾薬を拾い集めた遠坂が上がってきた。

「悪い時間がかかった!ほら銃を持ってきたぞ」

「よくやったわ!」

「ありがとうございます!」

 篠原は車載機銃を紅莉栖はM38短機関銃をそれぞれ受け取り使い勝手を確かめる。初めて使う武器だが名銃なだけあってすぐに手に馴染む。これならいけそうだ。

「最後の戦いよ!ついてきなさい!」

「「了解!」」

 3人はネウロイから一旦距離を取った後、高度を下げる。

「コアの位置は覚えているわね?」

「ああ勿論だ!ネウロイの下面中央やや右だろ」

「その通り、紅莉栖さん私たちで全力で援護するわ」

「はい!分かりました!」

「戦闘機隊の皆さんもどうかもう一度力を貸してちょうだい!」

《勿論了解だ》

《美人の頼みは断らない主義なんでね》

「お上手ね、礼を言うわ」

「行くぜっ!攻撃開始!」

 遠坂の気合いを込めた一言を合図にし3機のウィッチと4機のM.S.405が高度を速度に変換しながら接近、ネウロイの下腹に潜り込む。

 直後凄まじいビームの洗練が浴びせられるが彼女たちは怯まない。

 シールドでビームを防ぎつつ手にした武器でこちらに指向する火点を一つまた一つと破壊する。戦闘機隊も散開し砲火を遠坂に集中させないように注意を引く。

 そして敵機のコア予想箇所から100mを切った時、遠坂がゾロターン対戦車ライフルを放った。

「くたばりやがれ風船野郎!」

 口汚い台詞と共にセミオートで撃ち出された20×105mm弾は狙い通りの場所に吸い込まれる。この距離なら35mmの装甲貫徹能力を持つ徹甲弾はその威力を遺憾無く発揮してネウロイの体表に火花と白い塵を咲かせる。

 5発目を撃ちきりリロード、更に5発を撃ち込んだ。

 そしてもう一本の弾倉を空にしたところで黒い装甲板が砕けコアが白日の元に晒された。

「見えた!」

 ネウロイは防御砲火で身を守ろうとするがこれは篠原と川嶋が二重に張ったシールドで防ぎそのまま突入する。

「終わりだ!」

 最後の弾倉を装填した遠坂が狙いを定める。そして大きく激しい発砲音が響いた。

 5発全弾がコアに命中、瞬間ネウロイは巨体を散らばせ破裂した。

 あまりの白い結晶の多さから周囲に一瞬雪景色のような光景が広がる。

「やったわ!」

「良し!」

「やりましたー!」

《Vive!》

《よっしゃぁ!》

 各々喜びを露わにし口々に叫ぶ。

 南の空からは続々と増援部隊も爆撃機や攻撃機を伴い到着してきた。

 あとは彼らの仕事だ、篠原たちはこの戦闘で命を落とした全ての人に向けて敬礼を送り、リール基地に戻るため針路を北西へ向けた。

 

 

 

 この日、チェンタウロ戦車師団は玉砕を免れた。しかし損害が大きくアリエテ機甲師団との併合をもってその長きに渡る歴史に幕を下ろした。

 

 そして人類は更なる苦境に立たされることになる。

 

 

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 ホ一〇三12.7mm機関砲並びにマ弾に関する性能報告書

 

 ホ一〇三12.7mm機関砲に関して

 ホ一〇三はオリジナルのM2重機関銃と比較して砲自体が一回り小型軽量でかつ発射速度に勝るものの、代償として弾頭が2〜3割軽いので、威力と初速で劣っている。しかしその欠点を考慮してもM2の一番の欠点である大きく重い点を克服したホ一〇三は実戦に充分な能力を有しているといえる。

 

 マ弾に関して

 威力に関しては申し分なく20mm機関砲弾に匹敵する破壊力を持ち高発射速度のホ一〇三と併せることで絶大な火力を提供出来るが、弾頭の機械的信管の信頼性が乏しく射撃訓練中に2回銃身内で腔発が発生しその他発射直後の早期炸裂も少なくない頻度で発生している。

 信管の早急な改良を強く求める。

 

 独立飛行第一中隊隊長 篠原弘美大尉の報告

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イスパノスイザはストパンの世界だとクワドラという会社名らしいですがゾロターン社は特に記載がなかったのでそのままの名称で登場しています。

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