SmileYこと、ロドニー・ジャック・ゴールディングと彼の妹の話をするとしよう。
セシリーは絵本が大好きだ。
特にNutmegという作者の本が好きだった。王子さまの絵本も、その作者のもの。
Nutmegの本は必ず翻訳者がOreganoなのも、少なからず好きな理由だ。きっとこの作者と翻訳者は友達なんだろう、仲良しなんだろう、セシリーはいつもそう思いながら彼らの絵本を手に取っていた。
ぺらり……ページが優しく捲れる。
冬の森、待ち合わせをするクマさんとウサギさんの物語。
森のみんなから怖がられていたクマさんが、森の人気者なウサギさんと遊ぶことになり待ち合わせをしていた。
森で一番大きな樹の下で待ち合わせ。クマさんはそこに待ち合わせの時間よりも早く着いていた。
けれども、どれだけ待ってもウサギさんはやってこない。
ぺらり……またページが捲れる。
からかわれたんだろうか…そう過る思いをクマさんはぶんぶんと頭を振って否定する。
冬の森にちらちらと雪が降ってきた。寒いなぁ、なんて思いながらクマさんはじっとウサギさんを待っていた。
もう、何時間経つだろうか。けど、どれだけ待ってもウサギさんはやってこない。
ぺらり……ページが捲られた。
くしゅん、と凍えたクマさんがおおくしゃみ。するとどうだろうか、樹の裏側からウサギさんが飛び出てきた。
大きな樹の裏でお互いが見えていなかったのだ。
寒さに凍える二人は、一緒に暖かいご飯を食べに行きましたとさ。
ぱたん、と優しく絵本が閉じる。
「セシリーは、本当にこの2人の絵本が好きなんだね」
「好きじゃないわ、大好きなのよ!お兄様も分かるでしょ?」
いつものようにセシリーは木陰の下でローディの脚に座りながら読み聞かせを聞いていた。
大好きな兄の、穏やかな声で聞く絵本の物語は彼女にとって至福の一時だ。
一冊、本を読み終えればローディがゆっくり、優しく本を閉じる。その音を聞いてセシリーは絵本の世界から現実の世界へと戻ってくるのだ。
「そうだねぇ……この2人の絵本はボクも大好きさ。」
「うんうん!」
ローディの言葉にセシリーは“そうでしょそうでしょ”と自慢気に微笑む。
自分の大好きな本が、大好きな人に認められたのがよっぽど嬉しかったのだろう。上にいる兄の顔が見えるように仰け反りながら、背中を倒す。軽い体重を後ろにいる兄に預ければ返ってくるのは頭を撫でる優しい掌の感触だ。
「私ね、夢があるの。将来、ぜったいにこの2人にお礼が言いたいの。素敵な絵本をいつもありがとうって! お手紙でもいいけれど、でも、出来るなら直接言いたいの!」
「それはいい夢だね。なら……そうだな、セシリーが今よりも大きくなって、身体も丈夫になったらそうしよう。海を渡って、その2人の所へ言いに行こう。“素敵な物語をありがとう”って。」
「うん!」
ローディの言葉にセシリーは満面の笑みを浮かべる。自分の夢が否定されなかったから、外に行くことを反対されなかったから。
大好きな兄はいつもそうだった。使用人たちと違って、否定しない。いつか、必ず、叶えてくれると言ってくれる。
暖かい掌で彼は頭を撫でながら、ゆっくりと語りかける。
「その頃にはちゃんと言いに行けるように、ボクもその2人がどこにいるかを探しておくよ。」
「えへへ。ありがとう、お兄様!」
木漏れ日の下で交わされた小さな約束だった。
けれども、2人にとってはとても大きな約束だ。
2人はお互いの小指を合わせると小さく結んでおまじないをする。
日本からやってきた知り合いに教わった、約束事のおまじないだ。
この夢が、この約束が叶いますように、と