九頭竜高校四方山話   作:ムーさん@南条P

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工芸のジェイソン先生

 

九頭竜高校の技術教師、ジェイソン・ステイサムの朝は早い。

 

ピピピ ピピピ ピピピ

 

時刻は朝5時、規則正しく音を立てる目覚まし時計を慣れた手つきで止めれば、むくりと巨体を起こして布団から出る。

顔を洗い、歯を磨き、自炊した朝食を摂る。いつものルーティーンだ。

 

寝間着を脱いでいつもの愛用している作業着へと着替え、出勤する準備を整える。

着替え終われば最後にホッケーマスクを被って準備が完了する。

アガリ症な彼を気遣って最初の生徒たちがプレゼントしてくれた、ジェイソン先生の自慢の宝物だ。

 

ホッケーマスクを被ると「うん!」と頷いて車に乗り込む。

そのまま出勤する。片道十数分ほどでつける近所だ。

 

「おはようございます、皆さん。」

 

低く落ち着いた声で挨拶する。挨拶の相手は花壇の花たちだ。

園芸部の生徒たちが丹精込めて世話をしている植物たちに挨拶しながら、一頻り声を掛けていく。人相手なら緊張するが、植物相手ならアガリ症にはならないらしい。

ホッケーマスクの下で微笑みながら、花壇の花を眺めて玄関へと歩いて行く。ジェイソン先生が校舎に着く頃はほとんど誰もいないのが定番だ。

居るとしたら宿直の先生か西ローランド、あとは朝練の生徒らくらいだろう。

 

「あ、ジェイソン先生! おはよーござまーす!」

 

「あ、お、おはようございます…。」

 

威勢の良い生徒の挨拶に少しビクっと震えながらも挨拶を返す。これでも新人教師時代に比べればマシになった…らしい。

昔は生徒の挨拶に対して顔を隠したりしていたという。

朝の爽やかな空気の漂う校舎を歩けば、たどり着いたのは3階の工芸室だ。

職員室という彼の空間もあるのだが、やはりここが一番落ち着くらしい。

 

木材とうっすらとしたボンドの匂いが漂う工芸室は彼の庭のようなものだ。

今は窓際に鹿の皮が吊るされている。学園長に頼まれて解体した鹿のそれだ。

工芸室の棚には、チェーンソーで1本の木材から削り出した木彫りの熊といった置物や、先生お手製の鹿の剥製

などが飾られている。

きちんとホコリも被らずに並べられていることからも、ジェイソン先生の几帳面な性格が垣間見えることだろう。

 

「ふぅ…今日も、頑張ります…よ!」

 

ニッコリとホッケーマスクの下で微笑むと大きく深呼吸する。

九頭竜高校の先生で一番大きな体の持ち主、でも一番の小心者な彼はこうして1人、一番落ち着ける工芸室で自分を鼓舞する。

人見知りで恥ずかしがり屋でアガリ症。でも皆に工芸の楽しさを伝えたい一心で彼は教壇に立つ。その顔には、昔の生徒から貰った一番の宝物、ホッケーマスクがいつも一緒だ。

 

 

 

 


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