IS〈インフィニット・ストラトス〉漆黒の翼の二人   作:夕凪 渚

45 / 45
13.お前を私の婿にする――

 あれから。

 と言っても2日だが。

 

 大気圏突入して帰還を遂げるが、歓喜に酔いしれる間もなく検査検査でまた検査。

 全ての搭乗者保護機能が宇宙空間で完璧に作動するかが問題だったようで。だが、健康に問題なし。不安視されていた被爆もなかった。

 そしてようやく解放されたと思えば、ドイツのTV局からテレビ電話でインタビューの予定が組まれていて。

 世界規模で今までの事が特番を組んで大々的に報道されているらしく、もう既にセシリアはインタビューを済ませたらしい。

「で、どんな事を聞かれるんですかね?」

 時間になるまでTVスタッフを横目に見つつ、ボソリとルーデルが聞いてくる。

「主にインタビューを受けるのはラウラだ。自分たちは必要最低限のみ。不用意な発言はするなよ」

「分かってますよ……」

 よく見れば、ルーデルの膝が小刻みに揺れていて。

「落ち着け、無人機相手にするよりもよっぽど楽だろ?」

「は、はい」

「スタンバイお願いしますー!」

 スタッフさんに呼ばれ、ラウラと目配せして立ち上がる。

 眼帯で左目を覆い、軍帽を手にカメラの前へ出る。

 IS学園の制服で写るものかと思っていたが、IS学園に所属している特殊部隊員と言う立場に加え、特殊部隊の宣伝を兼ねるらしい。

 で、気付けば大尉に昇進していたようで、先ほど肩の階級章を付け替えたばかりだ。恐らく、戦闘が始まる以前に聞いていた兵役復帰時の昇進か。

 撮影用カメラの隣、置いてあるパソコンには配信サイトを通じての映像が映されている。つまり、これを介して――と。何とも安っぽ……もとい。

『ではここで、IS学園と繋いてみましょう!』

 画面向こうの司会の声で、軽く咳をして直立不動の姿勢。軍人としてのスイッチを入れる。

『IS学園に所属している、ドイツ軍IS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」部隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐と、同隊所属篠ノ之頼三中尉とシャルロッテ・ウータ・ルーデル少尉です!』

「敬礼っ!」

 ラウラの号令でビシッと敬礼。直れ、と若干優しい声色の号令で元の姿勢に戻る。

『えー、まずはボーデヴィッヒ隊長、確実撃墜数が合計14機に加え、共同撃墜の弾道ミサイル1……凄い戦果ですね』

「いえ、必死で戦った結果です。気付けばそこまで数が膨らんでいました。私自身も驚きです」

『なるほど……次に篠ノ之中尉、長距離砲撃による撃墜数は20機以上、各所で頭脳となる活躍だったと聞いています。ルーデル少尉も撃墜数は10機近く――3人合わせて40機以上の撃墜数、凄いですね!』

「隊長と同じように……必死だっただけです。自分に出来る事を最大限に発揮し、IS学園を――いえ、世界を護るために」

「わ、私も同じです。隊長や中尉と比べるとまだまだですが、出来る事をやったつもりです!」

 当たり障りなく、かつアピールも忘れずに……と。

 ちょっと詰まったが、ルーデルもきちんと答えられた。何ら問題ないだろう。

『はい、ありがとうございます。シュヴァルツェア・ハーゼがある限り、何人たりとも我が国の領土を侵すことは出来ないでしょう!』

 いやいや言い過ぎ、と顔には出さず心の中で突っ込む。

『さて、議会や国内ではドイツ連邦共和国功労勲章を! との意見に溢れていますがそれについて隊長、一言をお願いします』

「もしも、功労勲章と言う栄誉を受けられるなら謹んでお受けします。しかし、勲章が無くとも今こうして世界があること自体が最大の勲章です。それだけで……十分です」

 TV画面に映る中継画面のラウラが微笑んで。

『なるほど……ありがとうございました。以上IS学園より、ボーデヴィッヒ隊長と篠ノ之中尉、ルーデル少尉でした!』

 TV画面が切り替わり、自分たちの姿が消える。

「以上です、ご苦労様でした!」

 スタッフさんの声で息を吐き、スイッチを切る。

「お疲れさん、二人とも。ラウラは完璧だったし、ルーデルも良かったぞ」

「頼三も、な」

「場馴れですか……流石は隊長と中尉です。私は、疲れました……」

 そうでもないさ、とラウラは返す。

「だな。さて、戻ろう。生活リズムを取り戻さないと直ぐに学校が始まるぞ?」

 そう。

 非常事態は解除され、IS学園に駐留していた各軍も明日までに退去を完了する。

 そして、11月1日を持ってIS学園は元に戻ることとなった。

 割と近くに住んでいる生徒はもうすでに寮へ戻ってきており、徐々にだが元に戻ってきている事を実感させられる。

 時間は短かった。全て合わせても1週間はなかった。

 しかし――ずっと戦っていたような気もする。1年くらい……。

 

 

 

 

 学園を紅々と彩っていた紅葉は役目を終えたかの如く散り、今は雪が学園を白く彩っている。

 あれから1カ月以上過ぎているが、あの戦いの事がまだ新聞のどこかに載っている。

 

「まさか、(まどか)が転校生としてやってくるとはなぁ」

「あぁ。親がいなくなった今では教官しか頼る人間がいない、と言うのもあるだろうが――割と、普通な人間な気もするがな。問題はきっとあの親だったのだろう」

 ふと、立ち寄ったアリーナで織斑姉妹の演習を眺めている。

 サイレント・ゼフィルスはサイロ内での発見を装ってイギリスに返され、あとは自分とラウラ、千冬さんが洩らさなければエムは円に戻れる。

 エムが操るのはラファール・リヴァイブで、千冬さんは打鉄。あれ以来シャルが暮桜を返そうとしても拒んでいるらしい。

 聞いた話では、これから先――卒業後、シャルはデュノア社との関係を断ち切るだろうし、その時ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡは返却することになるだろう。

 優秀な搭乗員を失いたくないと言う意味と、千冬さんがシャルを義妹として認めた、と言うことらしい――と。

 

 

 戦闘を経験した後だから余計か、今がとても静かに思える。

「静か、だな」

 ラウラも同じことを考えていたようで、ポツリと言葉が響く。

 アリーナから出ようとした最中。。

「ああ……寒いし、早く寮に戻るか」

 積もった雪をギュッギュッと踏みしめつつ。もう5時を過ぎるが、妙に明るさを感じる。雪のせいだろうか。

「じゃぁ、ほら。マフラー……巻いてやる」

 自分の前に来て、手をめいっぱい伸ばして自分の首にマフラーを巻くラウラ。

「出来た――寒くない、だろ?」

 笑みを浮かべたかと思うと、ギュッと抱きつかれる。

「……どうした?」

「――――こうやっていると、暖かいんだ。今生きている事を、実感できる……」

 まさか、戦闘ストレス反応が今になって出てきたんじゃないだろうな……?

 不安が頭をよぎる。

 

「なぁ頼三。私は決めたぞ」

 自分に抱きついたまま、顔だけを上げてそう言ったラウラに何を? と返して。

「この先、卒業した後のことだ……」

 抱き返そうと思ったと同時、不意にラウラが離れる。

「後2年と数カ月だけ待ってやる。ふむ……少し、屈んでくれないか?」

 言われるがまま、膝を曲げて少しばかり屈む。

「これでいいか?」

「ああ――」

 何をされるのか皆目見当がつかないまま少しの間。

 そっと、ラウラの白くて小さな手が、自分の頬に添えられる。

「お前を、私の婿にする――」

 静かに飛び込んできたラウラを受け止めつつ、唇と唇がそっと触れあう。

「決定事項だ。異論は認めんぞ……」

 白い頬を真っ赤に染めて、吐息を感じる距離で静かに紡がれる言葉。

 してやられた。

「参ったな……自分から言うつもりだったのに」

「ふふふ、バカ」

 至近距離でのやり取りにドキドキしながら。

「――ラウラを、自分の嫁にする。異論は聞かない」

「異論なんてない……愛しているぞ、頼三」

「自分もだ。ラウラ――」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。