ダンジョンで英雄を騙るのは間違っているだろうか? 作:モンジョワ〜
とても静かで、綺麗な人だった。
いつも一人、部屋の隅でよく本を読んでいる人だった。
体を蝕む病から余り動けない彼女、退屈だろうから俺は冒険した日は必ず彼女に話をしにいっていた。あまりはしゃぐなといいながら、それでも聞いてくれるのが嬉しかったし、何より大切な時間で……。
そして自分は。
そんな静かで綺麗で、冷たいけど温かく、家族を守ってくれる彼女が好きだった。
いつも自分を気にかけてくれて、俺の事を救い続けてくれた彼女が大好きだった。
一人だった俺を救ってくれたこの人に恩を返そうと、何度も頑張った事を覚えている。
……鍛錬でボコボコにした俺の事を慣れない手つきで治療したのを覚えている。
家族を不器用ながらも愛していたあの人の事を覚えている。
何度も何度も俺に勇気をくれたあの人の事を――俺は忘れない。
忘れちゃいけないんだ。
◆ ◆ ◆
夢から覚めて気がつけば朝だった。
昨日は朝に寝たのを覚えているしどうやらまた一日ほど寝ていたらしい。
傷はもう痛まない、それに魔力も相当回復しただろう。
「【この身は英雄に非ず、されど英雄と為らん】」
魔法を使う。
自分に許された彼になるための変身魔法を。
目の色が変わる。
服装が替わる――気配が変わる。
シャルル・ファルシュからシャルルマーニュへと己を変える。
「さてさて、流石に四日も帰ってないとなると皆が怖いし帰ろうか」
リューに何か用がある時には紙を使ってくれと言われていたからそれに、帰るありがとう……とだけ書き置きを残し俺は窓から外に出て行った。
悪いかもしれないが、これ以上家族を待たせるわけにはいかないから俺は黄昏の館に向かう。
アイズ達は無事だろうかとか、フィンは怒ってないかとか、ロキは揶揄ってこなければいいなとか、一度家族の事を考えると止まらなくなるが、館に着く頃には俺は割と吹っ切れていて、逆に明るく行こうという思いで――。
「皆帰ったぞー!」
と……門番に門を開けて貰い入ってすぐにそう叫ぶ。
すると、誰かが黄昏の館の入り口から見覚えのある金髪の少女が顔を出した。
「あ……えっと、お帰りシャルル」
「ただいまアイズ、それと悪かったなフィリア祭」
「別にいい、シャルルが無事だったなら。それでどうしたの?」
「えっとぉ……そうだ立ち話もなんだしホームに入ろうぜ」
「……分かった」
そう言って本拠へと帰り、俺は先にロキに会うために彼女の自室を目指したんだが……なんだか、黄昏の館が騒がしいのだ。何だと思い、ロキの元に行けば俺が寝ていた間の事件を聞かされた。
「了解ロキ、調教師の赤髪の女に気を付ければいいんだな」
「頼むで、フィンの見立てではLv.6程の力を持ってるらしいからな」
「分かったとにかくただいま」
「ん、おかえりシャルル。それで……何があったんや?」
いつも閉じている細い目を開けて俺に何があったかを聞いてくるロキ。
彼女は神だ。つまりは嘘をつけない――だから誤魔化しても意味が無いし、無駄に不安にさせてしまう可能性がある。だからここは正直に言うしかないな。
「ちょっとオッタルと戦ってきた」
「……なんでなん?」
素直に言えば何してるんだこいつと言わんばかりの顔でロキは言う。
自分でも無理があるというか……こいつ大丈夫か? と思われても仕方ないが、事実オッタルとは戦ったのでこう言うしかない。
「いやちょっと……色々あってぇ」
「ほんまなにしてん? でも嘘は吐いてないみたいやしぃ……というかそれで三日も寝たんか?」
「それはもうぐっすりと」
「アホや……アホがおる」
心底頭が痛そうに……頭を抱えテーブルに肘をつきながら何かを考えそして――俺がトドメを刺した。
「まあ、それで結構無茶して……まあこんな感じ?」
「なぁシャルル」
「なんだロキ?」
「二日謹慎や――ダンジョン行ったら玉潰すで」
「あ、えっとぉ……まじ?」
「大マジや、少しでもダンジョン行く素振り見せたら分かっとるな?」
まじか、やばい。
俺帰ったらすぐにアイズ達とダンジョン潜る気でいたんだが……これ絶対ロキは本気だ。
マジでダンジョンに潜れば潰される。目が本気だった。というか、反論したらヤル目をしてた。
「イエス・マム!」
「分かったのならええ――とりあえず、ステイタスの更新はするから後は二日間は絶対に安静や」
「了解……散歩ぐらいならいいよな?」
「そんぐらいならええけど……それとうちちょっと用事あるから出てくるで」
「分かった……行ってらっしゃいロキ」
◆ ◆ ◆
そしてその翌日、大通り沿いの喫茶店にロキはフィンを連れてやってきていた。
本来ならフィンは、二日程前に起こった『リヴィラの街』の事件の後始末に追われていたのだが、ロキにどうしてもと言われて彼女と共に行動する事になった。
「堪忍なフィン、せやけどどうしても外せへん用事があってん」
「別にいいよ、アイズ達の事はリヴェリア達に任せたからね……それで、誰と会う気なんだい?」
「すぐ分かるで……よぉー待たせたか?」
ロキ達が喫茶店に足を踏み入れた瞬間感じるのは時間が止まったような静けさ。
この喫茶店にいる客の誰もが心を何処かに置き忘れ、口を半ば開きっぱなしにし、全ての視線を一カ所に集めている。彼等が魅入っているのは、窓辺の席で静かにその身を置いてる、紺色のローブを纏った神物――美の神と呼ばれるフレイヤだった。
「いえ、少し前に来たばかりよ」
「態々来て貰ってすまんなぁフレイヤ」
「別にいいわよ、私達の仲じゃない」
彼女の元に真っ直ぐと足を運び、気さくに声をかけたロキ。
フィンはそのまま座るロキの後ろにつき、警戒しながら神フレイヤを見やる。
「それで、何の用かしら?」
「……そういえば今日はオッタルおらんの?」
いつもこの女神と共にいる猛者の姿がない事を指摘するロキ。
それに少し顔を顰めたフレイヤは、少し間を開けてからこう続けた。
「オッタルなら今ダンジョンよ、久しぶりに潜ってるみたいなの」
「――シャルルに受けた傷はええのか?」
「問題ないわ、エリクサーを使ったもの」
「そか……知ってるのなら話は早いわ、この落とし前、どうつけるつもりや?」
空気が変わった。
抑えてはいるものの怒気からか『
普段から仲はいい神に対しては甘いロキからは考えられない程の気迫……そしてその怒気にフィンは帰ってない彼の事もあり、何があったのかを察した
そして一瞬だが、女神を睨んだ。
大切な家族が帰っていなかった原因を知ってしまったからだ。
「あの子は優しい子や、無意味に戦うわけがない。自分……何しでかす気や?」
「怖いわね、でも私だって想定外だったのよ。ただちょっと足止めしてとお願いしただけなのに……まさかあそこまで――」
「御託はええ、それともなんや――そんなに戦争したいんかフレイヤ」
「貴方と戦争したらただではすまないわ、だから今回は私に貸し一つという事でどうかしら?」
「ふざけとるんか?」
「いえ、本気よ。彼を傷つけるつもりは私にはなかった。本当に足止め程度を想定してたのだから今回はオッタルの事も考えて痛み分けという事で手を打たないかしら」
真剣な目でロキに対してそう伝えるフレイヤ。
そのまま数秒間睨み合いが続きロキは怒気を抑えることなくこう言った。
「――貸し二つや、ただし次うちのファミリアに手を出したら許さんからな」
「肝に銘じとくわ――それと、神友である私からの忠告よ、早くなんとかしないと壊れるわよ彼」
「ッ――分かっとるわ、そんな事」
最後に伝えられた忠告に……苦虫を噛み潰したかのような顔でロキは言いこの場は解散となった。
アストレア・レコード編のシャルルみたい?
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書け
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別にいい