『一体いつから俺の霊圧が消えたと錯覚していた?』
「...チャドの霊圧が......消えた?」
一護に死神の力を譲渡したことで、極刑を受けることになってしまったルキアを助けるために、
多少のトラブルはあれど、副隊長格を退け、順調にルキア救出に向かう一護の前に現れた、新たなる強敵、十一番隊隊長
強大な霊圧を有し、文字通り刃が立たない剣八を前に、逃げ回ることしかできない一護が感じた異変。
共に、尸魂界へ乗り込んだ仲間であり親友、
(...まさか! ウソだろ!! チャドが負けた...!? 死んだのか!? 嘘だ!! あのチャドが負けるなんて.......そんなワケがねぇ!?)
しかし、いくら感覚を研ぎ澄ませても感じ取ることのできない親友の霊圧。その事実が、戦いから逃げていた一護の覚悟を決める。
(そうだ...何をビビってんだ俺は......ルキアを助けに来たんじゃねぇのか? それに、俺が負けたらチャドも井上も石田も、
覚悟を決めた一護は、自ら剣八の前に姿を現す。一護の目に映る剣八は、胡坐をかいて座り込み壁に寄りかかっていた。
「...やっと出てきやがったか。良かったぜ、好きじゃねェんだ...弱えェ奴との追いかけっこはよォ」
一護を視界に収めた剣八は、ゆらりと立ち上がり、刀をぶら下げて一護に問う。
「だが、今更出てきて何のつもりだァ? 死ぬ覚悟でもできたか? それともただ諦めただけか?」
所詮、己の暇を潰す程度にしか認識してない剣八の問いに、一護は勢いよく切りかかりながら答える。
「どっちも......外れだ!!」
それまでどんなに切りかかっても、かすり傷一つつけることのできなかった剣八の体に、一筋の鮮血が迸る。
「...
「俺が死んだら、背中にあるものみんな壊れちまうんでね!! 」
一護にとって、仲間を護るために避けられない戦いが始まる。
一護と剣八の戦いが始まる数刻前、八番隊隊舎付近を進むチャドは、八番隊第三席
「...スマン、スキだらけだったぞ」
「「円乗寺三席がやられた──!?」」
隊でも三番目の実力者がやられたことに、一般隊士が慌てふためく。
その様子を横目に、先ヘ進もうとするチャドの耳に、軽薄そうな声が聞こえてくる。
「ひゅぅ──―っ♪ やるねぇ!!」
女物の着物をはためかせながら目の前に降りてくる、衣笠帽子かぶった無精ひげの男。
「僕は八番隊隊長
「────八番隊...隊長......」
享楽と名乗った男は、どこからともなく舞い落ちてくる花びらを背景に、不敵な笑みを浮かべている。
「そ、ヨロシク♡ フフフ、ンフフフフ...フフ......フ?」
絶えず舞い続け、徐々に数が増えていく花びらに疑問を覚えた享楽は、慌てて頭上に向けて声を上げる。
「うお~~い、七緒チャ──ン! 花びらもういいよー!!」
その声の先、七緒と呼ばれた女性は、尚もかごの中の花びらを撒き続ける。
「七緒チャーン? 七緒チャ──ンってば!? あれ? 聞こえてないのかな? LOVEリー! LOVEリー! なな......」
それでも彼女の名を呼び続け、しまいにはおかしなことを口走る享楽に向け、七緒は残る花びらを一息にぶちまける。
「おおわ~~~~!?」
珍妙な声を上げながら、花びらに埋もれる享楽。
目の前で広がる、というか見せつけられるギャグ漫画のような光景に、チャドは痺れを切らす。
「...悪いが、コントに付き合ってる暇ないんだ。通してもらうぞ」
「なんだい、もうちょとノッてくれてもいいじゃないの。最近の子はつれないねぇ~」
ぶー垂れる享楽を、チャドはバッサリと切り捨てる。
「...先を急いでるんだ、そこを退いてくれ。享楽さん、あんたは悪い人じゃなさそうだ...できれば、あんたとは戦いたくない......」
「参ったねェどうも...喧嘩が嫌はお互い様、だけど、こっちとしては通られても困る。僕も、君みたいな子を傷つけたくはないんだ。なんとか退いちゃくれないもんかねェ」
「...それはできない」
「...そうかい......そいじゃ、仕方ない」
瞬間、空気が張り詰め、今にも、戦闘が始まりそうな雰囲気が漂う。
先に動いたのは、享楽だった。
「呑もう! 仲良く!!」
これには、滅多なことでは動じない流石のチャドも、思わず目を丸くし、口から勝手に疑問をこぼしてしまう。
「............は?」
「イヤイヤ、お互い引くのがダメなら、ここで留まるのも悪くないと思わないかい? なに、ほんの少しの間でいいんだ」
呆気にとられているチャドを置き去り、享楽は朗らかに話しかける。
「今、他の隊長さんらも動いてる。すぐに事態も収束するさ。それまでの少しの間、ここで僕と楽しく......」
「他の隊長...だと?」
途端、チャドの雰囲気が変わり、再び一触即発の空気へと切り替わる。
「......失言だったかねェ、どうも」
「事情が変わった......享楽さん、今すぐそこを退いてくれ」
「......嫌だ、と言ったら?」
結局、戦いを避けられない状況に、チャドは珍しく溜息をこぼす。
「......残念だ、享楽さん」
「できればあんたに、この力を使いたくはなかった」
所詮は人間の旅禍の少年、享楽のチャドに対する評価は、つい先ほどまでその程度だった。
確かに、第三席の円乗寺を退けたことには驚いた。
彼の言う
ましてや、人間の子供がそれを打ち破るなど、まさしく偉業といっても過言ではない。
それでも、人間にしてはといったところだ。
霊圧も副隊長には僅かに届かず、並みの副隊長ならば、多少の傷こそ負いはするものの、鎮圧することができるだろう。
瀞霊廷を守護する護廷十三隊の隊長格とは、天と地以上の差がある。
隊長格からすれば、人間の子供の相手など、赤子の手をひねるより簡単なものだ。
事実享楽も、真面目にチャドの相手をする気はなく、チャドの体力が底をつくまで攻撃をかわし続けるか、一瞬で気絶させるつもりであった。
────そのはずだった。
しかし今、自身で下した評価を疑問に思う現象が起きている。
首にかけたペンダントを地に置いた、目の前の旅禍の少年から、霊圧を全く感じなくなったのだ。
仮に、霊圧を抑えていたとしても、全く感じないということは有り得ない。
たとえ、生まれたばかりの赤子であっても、死に瀕し弱々しくなった状態でも、限りなく霊圧がゼロに近いということはあれど、霊圧を全く感じないということはない。
それが、副隊長にギリギリ届くか否かの霊圧を有していた少年から、全く霊圧を感じなくなったのだ。
その事実が、護廷十三隊総隊長を務める
(......妙だねェ、全く霊圧を感じなくなるなんて。たかだか旅禍の少年と思ってたけど、ちょいと面倒なことになりそうだよ)
心の中で悪態をつきながら、享楽は目の前の少年に言葉を投げかける。
「うちの三席君を倒した君は確かに強い。でもさっきの実力じゃあ、いいとこ副隊長が限界だ。隊長格のボクを相手にするには荷が重いんじゃないかい? 悪いこたァ言わない。帰った方が身のためだよ」
その言葉に旅禍の少年は答えない。
しかしその目は、此処を退くことはないと、強く享楽を見据えている。
「......やれやれ。参ったねェ、どうも」
その様子に、享楽は別の問いを投げかける。
「なんでそうまでして譲らないのさ。キミの目的はなんだ? 何のためにわざわざ
「......朽木ルキアを助けるため」
今度は少し間をおいて、旅禍の少年は答えた。
しかし、その答えは、享楽の腑に落ちるものではない。
「ルキアちゃんを? 彼女が現世で行方不明になったのは今年の春でしょ。短いよ、薄い友情だ。命を賭してまで尸魂界にくる理由には、到底思えないねェ」
そんなものじゃないはずだ、と言外に再びの答えを促す享楽。
その様子に、普段は寡黙な旅禍の少年は、ゆっくりと語り始める。
「......
「俺は力の加減が苦手だ。限りなくゼロに近い1か、100かしか出来ない。しかも最初は、常に全開だった...... 意図せず周りに被害を及ぼす俺は、いつも独りでいるようになった」
「そんな俺に、
そう言って旅禍の少年は片膝をつき、先ほど地に置いたペンダントに触れる。
「これを身に着けているとき、俺の力の大部分が抑制される...... そうして、不必要に誰かを傷つずに済むようになった俺は、何物にも代えがたい
「
再び立ち上がった旅禍の少年は、変わらぬ眼差しで、享楽を見据える
「充分な理由だ......俺が命を賭けるのにそれ以上は必要ない」
どうやら旅禍の少年は、確かな覚悟を持って尸魂界に来ているようだ。
しかし、それ以上に享楽の気を惹いたのは、ペンダントを着けているときは加減しているといった内容のセリフ。
仮にその言葉を鵜吞みにするならば、いまは全力で享楽に向かっているということ。
にもかかわらず、一向に霊圧を感じ取ることはできない。
(分からないねェ? 三席以上副隊長未満の力が、100の内の1にも満たなくて、霊圧を全く感じない今が全力だと言うのかい? もしそれがホントだとしたら、最低でも山じぃ以上ってことだ。冗談にしても笑えない話だねェ)
そんなこと思いながらも、とある仮定が一瞬頭をよぎる。
力を持たない大多数の人間が、死神や
もっともその仮定は、目の前の旅禍の少年が、隊長格と比較しても次元を異にした存在だと言ってるようなものである。
聞けば誰もが一笑に付すようなその仮定を捨て去り、「参ったねェ、どうも」と口癖のごとく呟きながら享楽は旅禍の少年に向き直る。
「そこまでの覚悟があるのに、帰ってくれなんてのは失礼な話だ......仕方ない」
先ほどまで浮かべていた軽薄な笑み消し、享楽は腰に差した二振りの刀を構える。
「そいじゃ一つ、命をもらっておくとしようか」
その戦いは一方的であった。
背中に『八』の数字を刻んだ隊長羽織をはためかせ、その両手に携えた斬魄刀で、息つく暇もないほど怒涛の攻撃を仕掛ける享楽。
瞬きの間すら許さない攻撃の嵐をすべて紙一重で回避する、浅黒い肌をした旅禍の少年チャド。
一瞬のようにも数刻のようにも感じるほどの激しい攻撃の手が止まり、互いに距離をとる。
果たして追い詰められていたのは、絶えず攻撃していた享楽の方であった。
(どうなっているんだい? 初撃はあの異形の右手で弾かれた。そしてその後は全部ギリギリで躱されている。もしかして、さっき言ってたことは冗談じゃなかったってことかい)
すでに斬魄刀の始解は開放している。
それでも尚、旅禍の少年に有効打を与えられていない状況に、内心で冷や汗をかく。
(やれやれ、ボクの卍解はこんなところで使うわけにはいかないし、とんだ貧乏クジ引いちゃったねェ)
なんとか打開策はないかと考えている享楽に、チャドが言葉を投げる。
「......これが最後だ享楽さん。そこを退いてくれ」
どこか悲痛な表情を浮かべながらそう言う旅禍の少年に、享楽は諭すように言い返す。
「馬鹿を言っちゃいけないよ。もう刀は抜いたんだ。どちらかが死ぬ以外、この戦いを終わらせる道はないよ──」
「──それとも君は、命を賭ける覚悟は出来ても、命を取る覚悟は出来てないのかい?」
その言葉を受けた旅禍の少年は、静かに目を閉じた。
時間にしてほんの僅か。
そうして再び目を開けた少年は、享楽に言葉を返す。
「......そうだな、あんたの言う通りだ、享楽さん」
そう言った旅禍の少年の右腕から、青白い光が迸る。
その光が徐々に力強くなっていくと同時に、隊舎を取り囲む壁が淡い光を発しながら崩壊していく。
(尸魂界の建物は全部霊子で出来てる。それが形を保てなくなって崩れていくなんて、よほどの霊圧がその結合を歪ませてるってことだ。なのに、ボクはまだこの子から霊圧を感じられない。まさか、この子は本当に......!?)
信じがたい事実に唖然とする享楽に向けて、旅禍の少年はその右腕を構える。
「俺は命を取る覚悟ができていない。だから享楽さん──」
「──できれば死なないでくれ」
願うように享楽に言い、旅禍の少年が必殺の一撃を繰り出そうとした。
────その時。
「享楽隊長! 伝令です!!」
それまで、目の前の受け入れがたい戦いを、呆然と見ていた七緒の声が響く。
「九番隊、東仙隊長によって旅禍と思わしき
(......石田............岩鷲)
その伝令を聞いた旅禍の少年は、動きを止めた。
その様子を見た享楽は、少年に問いかける。
「どうする? お仲間さんは捕まっちゃたみたいだけど、このまま続けるかい? ボクとしては、君も大人しく捕まってくれると嬉しいんだけどねェ」
その言葉は、実質脅しのようなものである。
旅禍とは、尸魂界に不法侵入した罪人の通称。
残りの仲間の居場所を聞き出すために、拷問される可能性もゼロではない。
力を解放したチャドにとって、今すぐ享楽を倒して救出に向かうことは出来るが、その間に危害を加えられない保証はない。
「......捕まった二人に危害を加えないで欲しい」
そう言って、チャドは構えを解いた。
享楽は初めのような軽薄な笑みを浮かべ、それに答える。
「君が捕まってくれるっていうんなら、お安い御用さ。ボクの権限で、絶対に危害を加えないよう約束するよ」
その言葉を聞いたチャドは、地に置いたペンダントを再び身に着け、享楽のもとへ歩み寄る。
享楽が拘束具を着ける様を横目に、チャドはポツリと言葉を漏らす。
「......正直、少し安心した」
「おや、どうしてだい?」
「あんたみたいな良い人に、力を振るうことにならなくて良かった...と思っている。」
「ボクは言うほど良い人じゃないんだけどねェ~。ま、それについては同感だよ」
もし、あれが放たれていたら。
享楽だけでなく、七緒も無事では済まなかっただろう。
そんな思いを胸に、チャドの言葉に同意した享楽は、計り知れない力を秘めた旅禍の少年を連れ、牢獄へと歩みを進めた。
【おまけ】
ノイトラ
「おれの鋼皮は十刃最硬、そして俺が、十刃最強だ!!」
魔神の一撃!!(ら・むえるて)
チャド
「俺は、お前以外の十刃と戦ったことはない。だが確かに、お前が今まで一番硬かった。」
どうも、ググプランゴです。
衝動で書いた作品、後悔はしていません。
ただ、多少言い回しを変えたものの、大幅な原作コピーに引っかからないか心配です。
そして、本作で一番すごいのはアブウェロ。
兆が一くらいの可能性で、似たようなものを書いてる人がいるかもしれないので、あまりにも類似点が多すぎるなどあれば、教えていただけると幸いです。