降谷零を合法的に眺めたい   作:赤穂あに

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ここをどこだと思ってるんだ?! 米花町だぞ?!!

 

 ノートは取り返したし制服も返ってきたし、言うことなしですわー。とせせら笑っていた土曜日。私はとても機嫌が良かった。お姉ちゃんも機嫌が良かった。みっちゃんは一番機嫌が良かった。なぜなら今日は、みんなで夏休みに果たせなかったパンケーキを食べるという使命のもとショッピングモールにやってきているからだ。

 正直言ってパンケーキはもうどうでもいいし、ここには二度と来たくないという本音があったのだが、みっちゃんに来てくれないの? とおねだりされて断る私ではない。行くに決まってるだろ、はるちゃん張り切っちゃう。

 もっとも、一番張り切らなくてはならないのはお姉ちゃんのお財布なんだけど。人の金で食う食べ物は美味い。しかし、その辺りは私もみっちゃんも常識をわきまえているので、二人揃って中間の価格帯のパンケーキを頼んだ。なんにせよ美味い。

 こんな穏やかな気分で過ごす休日は久しぶりだなあと、新学期に入ってからの己の身の回りの怒涛のラッシュを思い出して震える。やだ、私の身の回り物騒すぎ……? さすがジャパニーズヨハネスブルグ、ここで人は穏やかな日常を送れないらしい。

 その証拠にほら、パンケーキ食べてる別の客がもがき苦しみながら口から泡吹いて倒れた。穏やかな休日とは? お姉ちゃんがみっちゃんの目を覆い隠しながらここには二度と来ないわ……と呻いた。

 

 誰かの悲鳴であれよあれよという間に周りはパニック。素直に帰りてえと思ったけども、誰も救急車を呼ばないし警察に連絡もしないので、バックヤードに乗り込んでさっさと通報させた。悪いが私はケータイを持ってない。スタッフのどもりがひどかったので、結局は受話器をひったくって私が通報したのだけど。

 なるほどな。ヨハネスブルグの住人とはいえ、さすがに人が目の前で泡吹いて倒れればテンパるらしい。ちなみにこんな風に言っているが、私は私で動悸がヤバイのでたぶん冷静ぶってテンパっている。あれで死んでるんだとしたら、私は初めてリアルに人が死ぬところを見たことになる。夕飯食える気がしない。

 ものの十五分ほどで救急隊とパトカーがやってきて、いよいよ現場は騒然となった。どさくさに紛れて帰ってしまいたかったが、今帰ったところで怪しまれるだけなのでやめておく。

 因みに、倒れた客はもがき苦しんではいたが死んでいなかったので、助かる可能性があるそうだ。にわか知識で店の牛乳使い尽くす勢いで飲ませ吐かせを繰り返したが、役に立ってるといい。牛乳に含まれる成分が膜貼ってなんとかかんとか、だった気がする。何で見たかは忘れたが、とにかく生きてりゃなんとかなるよたぶん。

 服を牛乳まみれにしてしまったことに関しては私も道連れなので許してほしい。可愛い服をダメにしてしまってすまない。

「なるほど……、では、あなたと食事中に被害者は急に苦しみ出したと」

「は、はい。しばらく普通に食べたり話したりしてたんですけど、き、急に……あんなことに……」

「じゃあ、アンタなら被害者に毒を盛るチャンスがあったわけだな?」

「わ、私知りません!」

 事情聴取の合間にとんでもないことぶっこむ刑事がいるなーと呑気に眺めていたら、そいつの上司っぽい恰幅のいい刑事さんが「毛利くん!」と言って問題の刑事をたしなめた。

 なるほど、これが毛利小五郎か。刑事時代からこれとは恐れ入る。一般企業だったらクレームクレームそれまたクレームで一ヶ月くらいでクビ切られそうなタイプだな。やはり身内の絡まない彼はポンコツ迷探偵……。いや、今はポンコツ刑事か。

 ともあれ、お姉ちゃんが彼に向ける視線があまりにも絶対零度で怖い。

「はる。あんた、警察官になるのはいいけど、あんな風になったら私が懲戒処分くらうレベルのクレーム入れるから、気を付けなさいよ」

「うっす」

 私が同じことをやったら社会的に死罪に処されるみたいなので、肝に命じておこう。

 

✳︎✳︎✳︎

 

 警察ご一行に足止めされること二時間。ど素人なので捜査が難航しているのかどうかも分からんが、一人一人話を聞いて、ついでにざっくり荷物検査と身体検査をしてるんだとしたらこんなもんかな、とも思う。

 聞き取りが筒抜けなのは非効率だと感じるが、人の話を聞いて気付くこともあるだろうし、オープンな感じでやるのは一般的なのかもしれない。ただし米花町に限る、みたいな。

 しかも今日は土曜で、ここは人気ショッピングモール内の人気のパンケーキ屋さんだ。お昼時とは少し時間がずれているとはいえ客は多く、その分聞き取り対象も多い。

 その上、やってきた刑事は被害者の連れを躊躇なく疑い、騒ぎの最中偶然バックヤードに居たため何が起きたのか理解出来てないスタッフを怪しいと恫喝し、人命救助のため通報やら牛乳洗浄をおこなった私を犯人だろうとなじった。たった今私は紙面で読んだトンチンカン推理で指差される健全一般人たちの心境を理解したわけだが、なんなら一生知らなくてよかった。隣ではお姉ちゃんがブチ切れてる。

「はあ?! あんた、警察だかなんだか知らないけど、なんなの! うちの妹がしたのは人命救助! 感謝されこそすれ、犯人呼ばわりされるいわれはないわよ!!」

「だーかーら! 毒盛られたって知ってること自体が怪しいんだよ! 通報やら牛乳やら、高校生ができる対応じゃねーだろ! うさんくせえ!」

 それは我ながらちょっと思った。

「ふざけんな! だったらいつ、妹が毒持ったのか言ってみなさいよ、ええ? あんな顔も知らない赤の他人、いつ近寄ってどうやって怪しまれずに一服盛ったわけ?」

「それは今から鑑識が証拠を」

「証拠より論を先に持ってくるな! これ以上ふざけたこというなら出るとこ出てやるから覚悟しろよ!!」

「お姉ちゃん、落ち着いて……」

「落ち着いていられるか! 社会的に殺してやる!」

 とうとう口調がやばいところまで来たので、みっちゃんと二人掛かりでなだめる。どうどう。そんなことしたって聞く人間ではないだろうということをなんとなく理解しているので、私の心中は非常に凪いでいる。

 疑われるのはいい気分ではないが、証拠もないし実際無実なので捕まるとは一ミリも考えていない。なんならお姉ちゃんがヒートアップの結果、公務執行妨害というよく聞くしょっぴく口実のアレで捕まらないかの方が不安だ。

 そうなった場合も、店にいる人間の証言があれば無罪放免にはなるだろうが。そもそもそんな事態に陥らない方が望ましい。

 一通り聞き取りが終わり、関係ないと判断された人間からちらほら帰宅が許されていく。もちろん私は許されていない。毛利小五郎いつか刺すと胸に誓いながら、お姉ちゃんとみっちゃんは帰っていいと言われた。露骨に疑われすぎててつら。人助けなんてするもんじゃねえなこの世はクソ。

 いやでもいくら私とはいえ目の前で人が苦しんでたらね? 助けてあげようぐらいは思うんだよ?? 今困ってる私を助けてくれる奴はいねえけどな! この世はクソ。

「二人とも先帰ってていいよ。大丈夫大丈夫、犯人じゃないし普通に終わるよ」

「申し訳ない。思い出したくはないかもしれないが、倒れている時の状況を詳しく聞かせてほしいので、ご協力をお願いします」

「ほら、頭ぱっぱらぱーなのはあの人だけだよ。大丈夫だって」

「私、帰らない」

 ここに来てわがままを言い出したのはみっちゃんだった。ちょっと半泣きである。そりゃまあ自分の希望で私をパンケーキに連れてきたわけだし、気が気じゃないんだろう。ある意味、みっちゃんとしてはいつも通りな対応なわけだが、私もお姉ちゃんもいい加減こんな生き地獄みたいな現場からは可愛い妹を引き剥がしたい。

 が、みっちゃんは私が帰れない限りテコでも動かないだろう。仕方がないが、犯人を吊るし上げるしかなさそうだ。はあ、面倒くさい。

「被害者のことではないんですけど、気付いたことあるので言ってもいいですか?」

「ぜひ。なんでもいいので仰ってください」

「スタッフのお兄さん」

「えっ!あ、はい、ぼ、僕ですか?」

「そうですそうです。お兄さん、被害者が倒れた時バックヤードにいて、何が起きたのか分からなかったって言ってましたよね?」

「は、はい。と、いうか、あなたも、僕が、バックヤードにいたの、知って、ますよね?」

「ええ、はい。電話かけろ! って怒鳴り込んだの私なので」

 救急車と警察呼べ! と言ってバックヤードに乗り込んだのは間違いないので、そこはしっかり肯定する。大事なのはそこではない。

「なんで理由を聞かなかったんですか?」

「えっ」

「『何故私が警察と救急車を呼べと言った理由も聞かずに通報しようとしたんですか?』と聞いているんです」

「それ、は、あなたの、剣幕が、すごくて……」

「それでも、なんで? の一言くらい、普通出ますよね?」

「ぼ、くを、疑ってるん、ですか? 自分から、目を、そらすため、かも、しれません、けど、ひどいんじゃ、ないですか?」

「別に、そらしてませんが。私の容疑は紛れもなく冤罪なのでそらす必要もないです。あなたこそ、質問に対する答えが曖昧では?」

「僕が、犯人だって、証拠は!? あるんですか?」

「それを探すのは私の仕事じゃないですが、例えば、そうですね。被害者に食事を持ってきたのがあなたなので、一服盛る機会があったとか?」

「彼に、サーブしたのは、僕だけじゃ、ないだろ!」

「え?」

 小さく疑問の声を上げたのは女性スタッフだった。その顔は思いっきり何言ってんだこの人? と書いてあり、声につられた男性スタッフとお互い困惑の顔で見つめあう。

「な、なに?」

「あのお客様、男性なんですか?」

「あ……」

 思わず漏れた声がもはや自白のようなものだ。

「あれ? よく分かりましたね? 被害者が男性だって。綺麗にお化粧をして、髪を内側に巻いたショートボブの、ロングスカートを履いていた人を、よく男性だって気が付きましたね?」

「そ、れは」

「そもそもおかしいですね? あなたは、何が起きていたのか分からなかったと話していたのに、どうして被害者がその方だって分かったんです? フロアで悲鳴が上がっても出てこようとせず、通報が終わってもやはりバックヤードに引っ込んだままだったあなたが」

「な、なんだよ、まるで、僕が犯人みたいに……!」

「その通りです。論より証拠、簡易的な身体、荷物検査で見つからなかったとすると……肌着の中か、靴下や靴の中、ですかね? おっと、顔に出やすい人ですね。一番ありえそうな証拠だと毒の容れ物ですかね? まあ証拠はあなたが持ってるようなので、観念してお縄に頂戴してください」

 地面に四つん這いになった男性スタッフは、あいつが悪いんだ……と、刑事ドラマみたいに動機を語り出したが、興味ないので「じゃああとよろしくお願いします」と恰幅のいい刑事さんに一言断ってさっさと帰った。帰り際にようやく気付いたけどあれ目暮警部だな。いや、まだ警部じゃないかもしれないけど。

 

✳︎✳︎✳︎

 

「はるちゃん、すごい! 探偵さんみたいだったね」

「いやー、私がなりたいのは警察官なんで探偵はちょっと……」

 この世界の探偵はおそらくろくな奴がいないだろうし、という台詞は飲み込む。というかそもそもホームズもろくな人間ではないので、探偵になるイコール人としてクズになるという方程式が存在する可能性すらある。もっとも、今日という日を思い返せば警察官ですらという話になるが。

「そういや、なんで男だって分かったの?」

「え? たぶん近くで見れば大体気づくと思うよ」

 苦しげなうめき声は低かったし、床に倒れた時に横に流れた髪の毛は改めて見れば露骨に顎のラインを隠していた。喉仏もがっつり出てたし、関節も骨ばっており、見れば見るほど男性だった。たぶん私でなくても近くでじっくり見れば気付けた。あれで分からないんだったら、いくらなんでも第一印象に惑わされすぎだ。

「そうなの? すごいわね。あんなクズ警察官の一員になるくらいならいっそ探偵でいいんじゃない?」

「お姉ちゃんがものすごく根に持ってる……」

「私は警察なんて信用しないわ、今日決めた」

「私もああいう人ばっかりなら、ちょっとなー……」

 たった一人の刑事の言動により、姉妹間での国家権力の信頼が地に落ちた。なるほど、だから警察官だけではないけど、そういう聖職者であることを求められる職業っていうのは日頃の行いも大事なんだなぁ。媚びへつらえとは言わないけど、さすがにさっきの態度はないわな。

「でも、はるちゃんが警察官になるなら、私ははるちゃんは信用するよ」

「みっちゃん……!」

「他の人はその人の対応で考えるね」

「そうだね、それが正しいね……」

 言外で基本方針として警察そのものを信頼しないと言っているようなもんだが、私自身も別に警察組織を信頼しているわけではないのであまり突っ込まないことにする。十年後くらいに元凶の刑事がめちゃくちゃメディア露出するようになるんだけど、二人はその時まで覚えてるかなぁ。

 

✳︎✳︎✳︎

 

 米花町やばい。

 今更すぎるかもしれないけど本気でやばいぞこの町。ドミネーター欲しい。犯罪係数測ってほしい。潜在犯をしょっぴいてほしい。あっでもそれだとほぼ間違いなく私がしょっぴかれるのでやっぱりドミネーターは無しで。話が逸れた。

 殺人未遂の嫌疑をかけられた翌日……、まずこの時点でやばい。昨日パンケーキ食ってたと思ったら店内で人が泡吹いて倒れたばっかりだというのに、昨日の今日でまた事件である。

 控えめに言ってやばいし、大げさに言えば海に沈めた方が治安のためだと思う。そうだここをアトランティスにしよう……。推しが日本平和にしたいって奮闘する未来は尊いけどまずは米花町を滅ぼすところから手がけた方がいいと思う、割とマジ。

 で、今日。お母さんに醤油が切れたから買ってきてほしいというささやかな願いに応えるべく、勉強の息抜きを兼ねて家から出てみたら変態がいた。どう見ても露出狂ですありがとうございません早急に死ね。しかもその露出狂は私ではなく幼気な少年少女にイチモツを披露している。よし、殺そう。

 男の子が女の子を背に隠して「あっち行けよ!」と応戦しているがそんな乱暴な言葉は変態をつけ上がらせるだけだった。私の位置から見える横顔がこの世のものとは思えないほど気色悪い。性犯罪者は本当に死ね。

「おい、おっさん」

「あれ? 君もおじさんとあそ」

「日曜日の真っ昼間から汚ねえトラウマ子供に植えつけてんじゃねえ! ぶっ殺すぞ!!!」

「ごっ……!」

 顎を粉砕してやるつもりで上段回し蹴りをぶち込んでやれば、鈍い音と声を漏らして男は沈んだ。情操教育によろしくないのでコートの前ボタンを律儀に全部止めてやる。

 警察を呼びたいが、あいにく私はケータイを持ってない。理由が底辺すぎて非常に親にねだりたくないが、そろそろケータイの購入を視野に入れるべきかもしれない。たぶん言えば買ってもらえるだろう。なんならみっちゃん持ってるしな。

 でも百十番通報用の端末とか……普通にやだ……。米花町は魔境。

「オレ、ケータイ持ってるよ」

「へ?」

「お姉さん、ケータイ持ってないんだろ? オレ、警察よべるよ。でも、オレがしゃべっても信じてもらえないと思うから、代わりに話してくれる?」

「え、あ、うん」

 なんだこの幼稚園児……と、ひっそりおののいている私をスルーして男の子は服の下からネックストラップに吊り下げられた子供用の小さいケータイを取り出す。確かそういうタイプのケータイには防犯ブザー機能付いてたと思うんだけどなーという野暮は黙っておく。非常時にそんなもん冷静に使えるやつなんてそうそういない。この子も落ち着いているように見えるけど、たぶんテンパったままなんだろう。

 恐ろしいことに電話帳に百十番が登録してあったその子のケータイから警察に通報、十分もしないうちにパトカーとお巡りさんがやってきて変態をドナドナしてくれた。

 少年少女が精神状態を確認されている横で、私は過剰防衛に説教を食らったのだけど解せぬ。お巡りさんが私の身を案じた上で話を切り出していなかったら反論してたところだ。久々に女の子扱いされたのでほだされたとかではないです。着実にゴリラの道を歩んでいるけどそれは推しのはずなのでたぶん気のせい。

「では、ご協力ありがとうございました。くれぐれも、無理はしないように!」

「かしこまりましたぁー」

「僕たち、本当にお家まで送っていかなくて大丈夫かい?」

「うん、父さんたちには電話したよ」

「そう……。日が明るいうちでも、気をつけるんだよ」

「ありがとう、おまわりさん」

「ありがとう、バイバイ」

「はい、バイバイ」

 穏やかな笑顔を浮かべて、紳士的なお巡りさんはパトカーに乗って帰っていった。確実に私ではなくお姉ちゃんやみっちゃんがエンカウントするべき人材だったなと思う。余裕で昨日の警察組織の失態()を挽回できたのに。残念。

「お姉さん、助けてくれて、ありがとう」

「ありがとう、これ、あげるね」

 ようやく喋る余裕が出来た女の子に、お礼と称した折り紙のチューリップをもらう。ええ、可愛い……。困惑する可愛さである。ロリよりおっぱい派だけど今だけロリコンになれる可愛さ。

 努めて笑顔で「ありがとう」と言って受け取ると、女の子は照れたように笑った。あー、これはいけませんね。そりゃ変態に絡まれます。心配だし家まで送ってあげようかな、いやでも親に連絡したって言ってたな……こっち来るまで待ってるか。

「お姉さん、おつかい終わったんだろ? 早くかえんなくていいの?」

「……なんでおつかいに来たって思ったの?」

「しょうゆ入った袋しか持ってないし、おサイフもケータイも持ってない人、そんなにいないよ」

 なるほど、目ざとい。なんだこいつ本当に幼稚園児か? もしかしたら発育不良の小学生の可能性が……? あったとしても、やはりこのレベルで目ざといのは恐ろしい。将来の夢はお巡りさんが探偵かなー? あははははーーーーーーーあああああああ???!!!

「新ちゃん! 蘭ちゃん!」

「あっ! 母さん!」

 こ、いつ! 工藤新一か!!?! そして女の子は毛利蘭!! やって来たおかんは藤峰有希子!! うわああああああ全員顔がいいーーーーーー目が潰れるーーーー!!! 初めて推しを生で見たときと同格のヤバさが私を襲う。網膜が受信の限界値超える。死んでしまう。

「……お母さん来たね、私は帰るよ」

「うちの子たちがお世話になりました! よければお礼がしたいんだけど」

「いや! 大女優に何かしてもらうほど立派なことはしてないんで! 結構です!」

「あら? 変装してきたんだけどおかしいわね……?」

「美人はそんなもんで隠せませんよ! それじゃあ! あ、あと少年、私がおつかいなのは正解だけどケータイは普通に持ってないよ、変な奴には気を付けて! お嬢さん、チューリップありがとうね! 部屋に飾るね!」

「バイバーイ!」

「バイバイ!」

 もはや何を口走っているのか自分でも分からないが、とりあえず逃げるのが正解なのは確定。ただでさえヤバすぎる米花町にいるというのに、あんな事件ダイソンと同じ場所にいていいわけがない。命がいくつあっても足りない。具体的に覚えてるのはほとんどなくても、彼に関わること自体がヤバいというのはいくらなんでも覚えてるし忘れられるわけがない。

 忘れられるわけがないのだが。

「……顔見てもちっともわからんかった……!」

 私が覚えてるのは二次元の話であって、今私が生きてるのは当然、三次元だ。立体だしリアルなのである。完全に間違った表現になるが、実写化してる。

 初見で降谷零を降谷零と認識できたのだって、金髪褐色CV古谷徹っていうあまりにもあまりにわかりやすい特徴があったからだ。そういや昨日の毛利小五郎と目暮警部も見ただけじゃ全然わからんかったな……。マジか……。

 

 エンカウントが死ぬほど怖いので、工藤新一の顔は忘れないようにしようと固く誓ったのだが、悲しいかな、米花町はそんなに広いわけではないので、結論として今までなら気付かずにいられただろうエンカウントに気付けるようになってしまっただけだった。公安になるまで私は死なねえぞ……!

 

✳︎✳︎✳︎

 

「石村、おはよう」

「……おはよう。ちょっと聞いていい?」

「なに?」

「死ぬほど会いたくない相手が同じ町内に住んでると仮定して、会うくらいなら死ぬってなったら、どうする?」

「……どうするって、どっちを?」

「どっちでもいいけどより現実的な答えが欲しい」

「自分が遠くに行くしかないんじゃないか?」

「デスヨネー。県外進学か……でも東都の大学出ておきたいんだよなぁ……」

「仮定の話じゃないのかよ」

「盛ったけど現実の話だね」

「……盛ったの後半?」

「流石の私も死ぬくらいなら会う腹くくるわ」

「誰だよそいつ……」

「死神だよ……」

「はあ??」

 




主が高一だと新一くんと蘭ちゃんが年長時に出会った原作と思いっきり矛盾してるけど二次創作だしセーフ。日付と曜日の矛盾があっても同じようにスルーしてください。年代以外はほぼ間違ってるぐらいの気持ちで読んでネ!

因みに普通にしゃべってるけどしゃべってるだけでまだ全然仲良くないです。

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