ヒロインみんな巨乳か爆乳のラブコメ“同人”世界に転生したおっぱい大好き主人公。
 しかし彼は、商業版の健全展開しか知らなかった!
 薄い本ワールド特有の、ちょっとアヤシイ出来事に戸惑いつつ……彼は『たぷたぷ』に溺れていく。かもしれない。

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( ゚∀゚)o彡°おっぱいおっぱい!


黒髪ロング清楚地味JK

 

 

 

「うおっ、デッカ……」

 

 

 ガタンゴトンと揺れる電車の中、どこからか思わず漏れてしまったと言うような呟きが聞こえてくる。

 始発近い早朝。人の数はそれほどでもないが、数人の人影が車内にはあった。

 彼らの視線は一度、声の主の方へと向いて、程なくして()()()へ流れ着く。

 

 

「……っ」

 

 

 無遠慮に注がれる好奇の眼差し。

 微かに震えるのは小さい肩。

 俺は内心で「はぁ」と嘆息を零し、自分の身体を壁にするよう、さりげなく立ち位置を変える。そのあいだ、軽く咳払いすることも忘れない。

 すると、声を漏らしたサラリーマンも、視線を寄越していた同じような数人の人影も、気まずげに顔を逸らしていった。

 きっと、俺を彼氏か何かと勘違いでもしたのだろう。

 

 

「あ、ありがとう、センくん」

 

「ん? べつに。いつものことだろ」

 

「でも、感謝してるのは本当だから。センくん、朝弱いのに」

 

「……気にすんなって。俺も好きでやってんだからさ」

 

 

 欠伸を噛み殺しながらそう答える。

 早朝の電車登校。

 幼馴染だからという理由で選ばれた護衛役。

 いずれも不満は無いし、むしろこの時間を楽しんでいると言っても過言じゃない。

 女子に頼りにされている事実は、男として優越感に浸れもするものだ。

 しかし、少女はやはり負い目を感じているのか、申し訳なさそうにシュンとした。

 

 ──黎崎(くろさき)月稀乃(つきの)

 

 身長百五十五センチ。

 特徴は背中まで伸びた長い黒髪と、黒ぶちのメガネ。

 一言で表せば、『クラスの地味な黎崎さんは実は僕だけが知っているメガネ巨乳美人』ってところだろうか。

 インドア派だから肌も色白で、顔立ちも密かに整っている。着飾れば類まれなプロポーションも合わさって、相当にバケるタイプだ。

 しかし、本人は黒色の装飾品や服装を好み、とにかく目立たない格好を心がけている。

 制服の着こなしも真面目なもので、着衣には一切の乱れがなく、スカート丈は常に適切、黒のストッキングまで着用、防御力は完璧。

 学校指定の紺の制服(ブレザー)を除いて、全体的にはいつも黒色で、こうして字面だけ並べ立てると、どこからどう見回したところで真面目な──地味な女学生にしか窺えない。

 

 が、

 

 

(……やっぱ、デケェよなぁ)

 

 

 油断しているとつい吸い込まれそうになる胸元の吸引力。

 先ほど、乗り合わせのサラリーマンが思わず口から零してしまったように、黎崎月稀乃はとんでもなく()()()な少女だった。

 大きめのセーターを着て隠そうとしていても、内側から溢れるはち切れんばかりの存在主張。

 女性としてあまりにも豊満に育った双つの果実は、他者の、とりわけ男の視線を引き寄せて止まらない。

 動けばぷるぷるっ、歩けばたぷたぷっ。

 噂によると、小学校時点でDカップはあったと言う。

 いまじゃどれくらい成長したのか、男として興味は尽きない。

 

 ──高二、梅雨、もうじき夏。

 

 むしばむ暑さと茹だるような陽射しが迫るこの時期。

 肌の露出が増えるのと同時に、解放的な気分のヤツまで増えてくるからなのか、胸の巨きい我が幼馴染は、周囲からの視線に極めて敏感だった。

 

 だが、それも仕方がない。

 

 十代、思春期、異性が気になるお年頃。

 小学校高学年の頃からすでに発育豊かだった背景を持つ月稀乃にとって、人の混み合う電車は絶えず痴漢のリスクを伴うものだ。

 時間を早朝にズラし人気を避けても、胸以外はごく平均的な小柄な少女。年相応の恐怖心だったりストレスだったりは普通に抱えている。

 そんな事情(ワケ)で、幼馴染である俺がこうしてガーディアン兼壁役として抜擢され、かれこれ二年目になるというところなのだが……

 

 

「じ、実はね? この前、クラスの女の子たちから言われたんだ。

 黎崎さんは、宇佐美(うさみ)くんと付き合ってるの? って」

 

「──ほーん? それで?」

 

「もっ、もちろん、付き合ってないよって答えたよ?

 センくん人気だし、私なんかただの幼馴染だしってっ」

 

「……あ、そう」

 

「う、うん。高校になってから、いつも一緒に登下校してもらってるけど、それも家が隣同士だからで、小さい時から仲良かったから……って」

 

「まぁ……事実ではある」

 

「で、でしょ? ……でもね、そしたらクラスの女の子たち、お、おかしなこと言うの。

 わ、私がセンくんのこと好きなんでしょ? とか、センくんも私が好きなんじゃないの? とか!

 ひっ、ひどいよね? そんなこと、ありえるワケがないのにっ!」

 

「……ハハッ」

 

「……ね? おかしいよねっ?

 私とセンくんとじゃ、ぜったい釣り合わないもん……」

 

 

 月稀乃は引き続きシュンとする。

 俺は乾いた笑みで泣きそうだった。いや、こいつ、どんだけ否定するねん。

 普通そこまで否定しなくてもいいでしょ。

 おっかしいなー! と俺は静かに天を仰ぐ。

 

 たしかに、黎崎月稀乃の言う通り、俺は学校でそこそこの人気がある。

 

 小さい時から女子ウケを意識して、弛まない努力を重ねてきた。

 身体を鍛え、清潔感に気を遣い、世間の流行に目を配っては常に話題に乗り遅れないよう情報サーチも怠らなかった。

 週一で通う空手道場での鍛錬から、精神のほうもまぁまぁ鍛えられたと思うし、勉強はからっきしだが、総合的にそこそこモテる部類に入ったとも思う。

 

 しかし、俺は決してイケメンじゃない。

 

 努力の結果も平均より少し上程度。

 顔はせいぜいが中の上で、メッキを剥がせば大した人間じゃないのは火を見るよりも明らかだ。

 身長百九十五センチという恵まれた体格と筋肉さえなければ、これといって特筆する個性も無い。

 何より、中身はだいぶバカヤロウだ。

 ……だって、

 

 

(俺は! オマエと! オマエのそのおっぱいと! 周りがどん引きするくらいイチャイチャしたいだけなんだよ!)

 

 

 そんなバカでかいおっぱいぶら下げといて、こっちが欲情しないと本気で思ってんのか、アアン!?

 揉んで吸って挟んで捏ねて、アハンウフンないやらしい関係になりたいと小学校から思ってるわ。

 つか、この世界が『たぷたぷ』と分かってからは、寝ても醒めてもおっぱいしか頭にない。

 ああっ、もう! おっぱおっぱおっぱ! おっぱ──っ!

 

 内心の咆哮は、もちろんおくびにも出さない。

 

 宇佐美(うさみ)(せん)

 

 それが、今世において俺に与えられた名であり人生だ。

 ヒロインみんな巨乳か爆乳という、おっぱいラブコメ『たぷたぷ』の主人公。

 現代日本に転生したと気づいた時は、正直かなりガッカリしたものだが、自分の名前が宇佐美千で、隣の家の女の子が、黎崎月稀乃と分かってからは正直興奮で夜も眠れない。

 だってそりゃそうでしょ!

 

 

(──男なら、モノにしてぇよ、おっぱいいっぱい!)

 

 

 ラブコメ世界に主人公として転生して、ヒロインとイチャラブしたがらないヤツ、いる?

 

 

(いねぇよなぁ!?)

 

 

 そんなワケで、俺はかれこれ十年弱、おっぱいヒロインとイチャラブするためだけに男を磨いて来た。

 幼馴染である月稀乃に対しては、早いうちに唾を付けとこうと、最大限優しくしてきたつもりだし、こうしている今だって攻略の一環。

 だいたい、いくら幼馴染だからと言って、痴漢対策に始発近い早朝の電車登校に一年以上も付き合うヤツがいるか?

 

 

(いねぇよなぁ!?)

 

 

 朝四時起きとかだぞ。

 もう少し惰眠を貪らせてくれよ。

 おかげですっかり早寝早起きが身についちまったじゃねえか。十時には寝るとか前世じゃ考えられませんことよ?

 

 まぁ、それはいい。すべては地味巨乳幼馴染っぱいのためだ。

 

 けれど、これだけ甲斐甲斐しく尽くしているからには、そろそろ見返りのひとつやふたつ、有ったっていいとも思ってしまう。

 具体的には、歩くたびにたぷたぷと揺れまくるそのデカパイを、じっくり丹念に揉ませてもらうとか!

 自分で言うのも何だけど、これだけ特別扱いされてたら、普通、俺のこと好きになるでしょ。

 恋人になれば、おっぱいだって揉み放題。

 だから好きになれ。告白してくれ! 俺はおっぱいをモミモミしたいんだ……!

 

 セーターの上からモミモミ。

 ワイシャツの上からモミモミ。

 スクール水着の隙間からモミモミとかもできたらしたい。

 

 

「ごめんね、センくん……」

 

「──謝らなくて、いいって」

 

 

 なのに、現実はこれである。

 たしか原作だと、黎崎月稀乃は高校に上がる頃には主人公への想いを自覚していて、順当にヒロインレースを駆け始める理想的な第一走者だったはずなのだが……おかしい。

 向かい合う月稀乃の顔からは、俺への甘酸っぱい感情だとか仄かな恋情などは一切感じられない。

 あるのはただ、申し訳なさと肩身の狭さ。純粋なる負い目と引け目。

 挙句の果てに、ただの幼馴染とまで切って捨てられる。釣り合わないとか言うなよ……泣くぞチクショウッ!

 

 ──おおっ、おおっ、なぜだ。なぜなのだ……!

 

 俺は心の中で神を呪った。

 そんな俺を、月稀乃は不思議そうに小首を傾げて見上げてくる。

 純朴なその顔が、今だけは無性に憎らしい。

 顔と雰囲気だけなら、月稀乃は本当に清楚だ。

 黒髪ロングのストレートヘアーも大変よく似合っているし、華奢な体つきは可憐そのもの。

 なのに、胸だけが──制服のワイシャツを突き破らんばかりに成長したパッツンパッツンの胸だけが──あまりに雄の情欲を刺激する。

 

 このおっぱいで地味子ちゃんは、どう考えてもムリがあるでしょ……!

 

 だから俺は諦めきれない。

 幼馴染ということもあって、月稀乃とは幼稚園からの付き合いがある。

 そこから小中と関係を続け、思春期に入って疎遠になりそうなところも、何とか交友を止めずにここまでやって来た。

 そんな月稀乃が、もしも俺とは違う別の男と恋人になったり、ま、まして、揉んだり吸ったりふしだらな行為に及んだりなど……そっ、そんなことは想像しただけで頭がおかしくなる!

 

 ──脳がッ、震える……ッ!

 

 というやつ。

 もちろん、正式に彼氏彼女の関係でないのなら、月稀乃が誰とイチャイチャしようと俺には何の関係もない。

 

 だが違うのだ! そうではないのだ!

 心の中のハ○太郎も言っています。

 

 

(費やした時間と鋼の努力! 寝取られは悪い文明! 寝てから言えとかそんな正論は聞きたかない!)

 

 

 幼馴染なんだから幼馴染は幼馴染とくっつくべきだ!

 横から突然しゃしゃり出て来たポッと出の間男に奪われるなど、そんなのは我慢ならない。

 この一年、身を粉にして月稀乃の貞操を守ってきたのも、それが嫌だからである。

 黒髪清楚地味実美人な幼馴染っぱいは俺のものだ。誰にも渡したくない。

 脳破壊は、新時代の処刑方法に数えていい。

 

 

(くっそ〜、どうにかして俺に惚れてくんね〜かな〜……)

 

 

 なお、俺は仮にもラブコメ主人公なので、軽率に誰かへ告白したりはできない。

 そんなことをしたら、個別ルートに入ってひとりのおっぱいしか触れないかもしれないじゃないか。あまりにもリスクが高すぎる。

 

 ……まぁ、現状、そのひとりのおっぱいすらまともに触れるか怪しいのだが。

 

 

(恋愛って、難しいなぁ……)

 

 

 トホホ。

 

 

 

 

 ꧁꧂ ꧁꧂ ꧁꧂

 

 

 

 

 私は自分のカラダが嫌いだ。

 生涯、好きになることはないだろう。

 

 黎崎月稀乃は小学五年生の時、そう思った。

 

 自分が周りと比べて、成長が早いことには小さい時から気づいていた。

 女子は男子に比べて身長が伸びるのが早い。

 月稀乃は低学年の頃、同年代の女子に比べて誰より高身長だった。

 それが自慢でもあり、嬉しくも思っていた。

 

 けれど、高学年になって胸や尻、全体的に丸みを帯びて行くカラダの変化を知った時、それまでの感情はクルリと反転した。

 

 月稀乃の発育は、あまりにも早熟だったからだ。

 

 クラスの女子たちに比べ、誰より大きく膨らみ始めた双つのおっぱい。

 その成長は凄まじく、六年生になる頃にはDカップのブラジャーが必要だった。

 クラスの男子たちは、まるでコンビニに並べられたマンガ雑誌の表紙を飾る、水着のグラビアアイドルみたいだと月稀乃をからかい。

 女子もまた、嫉妬と羨望からか、まるで乳牛ねとあからさまな陰口を叩いた。

 

 でも、それらはまだいい。

 

 問題だったのは、周囲の大人──とりわけ、男性から注がれる視線だった。

 同い年の子どもから何を言われようと、所詮は子どもの域を出ない。

 月稀乃自身も子どもであるから、彼らがどういう思考でものを考えているかはある程度想像できる。

 

 しかし、大人は違った。

 

 腕力も体力も、体格だって遥かに勝る男性。

 通りすがりの高校生から、スーツを着たおじさんまで。

 彼らはそれまで、月稀乃に対し単なる子どもを見る視線だったはずが、ある日を境に不気味な感情を視線に込め始めた。

 好奇と欲望、奇異と興奮。

 もはや彼らにとって、月稀乃は『子ども』でなく、『女』であると否応なく分からされた。

 全身に突き刺さる下劣な視線、視線、視線の数々。

 それらは露骨に月稀乃の胸や素肌へぶつけられ、幼い少女にとって恐怖以外の何ものでも無かった。

 

 ……無論、これは月稀乃の考えすぎなのかもしれない。

 

 だが、ある時、決定的な事件が起こった。

 

 痴漢である。

 

 中学生になり、とうとう思春期の真っ只中に入り、月稀乃の胸はさらに大きくなった。

 身長はゆるやかに成長の速度を落としたというのに、胸や臀部ばかりがどんどん肉付きを増していく。

 心は未成熟な子どもなままなのに、肉体は異性へのセックスアピールを猛烈に主張した。

 男子の視線と反応はより明確になって、ひどい時は不良の男の子たちに冗談交じりに追い回されたことも。

 それほどに、月稀乃のカラダは同年代離れした代物と化していた。

 

 だからだろう。

 

 その日の朝、満員電車の中で、月稀乃は痴漢に遭った。

 相手は誰か分からない。

 怖くて声を上げる勇気も無かった。

 ただどうしようもく、恐ろしさだけが月稀乃を震えさせた。

 時間にすれば十分から二十分。

 痴漢は背後から月稀乃の尻や腰元を撫で回し、最後に言った。

 

 

「またね」

 

「ヒッ」

 

 

 ねっとりとした壮年の男性の声だった。

 だから──結局、その日は学校に行けなかった。

 急いで家へ帰り、心配する母の声にも振り向くことができず、自室の奥でひとり泣いた。

 自分のカラダがイヤでイヤで、見知らぬ男性が全員怖くてたまらなかった。

 それからだ。月稀乃が異性を遠ざけ、とにかく目立たない格好を選ぶようになったのは。

 痴漢との遭遇が決定打となり、男という存在を受け入れられなくなった。

 中学時代の登下校は、すべて両親の送り迎えに支えられている。

 それも結局、半分程度の出席数だったが。残りはほとんど、家から出ることも無かった。

 

 ──ただ、ひとりだけ。

 

 たったひとりだけ、月稀乃の恐怖の対象外となる男子がいた。

 

 宇佐美千。

 

 彼は、一言で表せば、ムードメーカーな男の子だった。

 幼稚園の頃から隣同士の家で育ち、小さい時はよく一緒になって遊んだ。

 どちらかと言えば大人しく、真面目な性格の月稀乃に比べて、彼は真反対とも言える性格の持ち主だ。

 運動ができてお喋りも好きで、勉強は本当にできないけど、決して不真面目というワケじゃない。

 クラスでの立ち位置はハッキリ言って人気者。

 習い事で空手をやっているらしく、道着姿の彼はけっこうカッコイイ。

 幼馴染という間柄でなければ、きっと関わり合うことも無かったはずの人種だ。

 

 そして、彼は昔から月稀乃に優しい。

 

 本当に、不思議に思うくらい、優しかった。

 

 クラスメートにホルンスタインだ何だとからかわれていた時など、

 

 

 ──はいはい! 注目注目!

 

 ──げっ、なっ、なんだよ、宇佐美。

 

 ──見たまえよ、俺の筋肉! どうだ!?

 

 ──は? どうって……

 

 ──この胸筋を見よ! おっきいだろ! 触っていいぞ!

 

 ──いっ、いやだよ! 気持ち悪ぃ!

 

 ──は? 触れよッ! ほらッ!

 

 ──ギャッ、ギャー! 宇佐美がなんかキレたー!

 

 

 ……と、自分のカラダを使って、強引にクラスの空気を変えてくれたことがある。

 その他にも、女子にイジメられそうになった時は、さりげなく女子たちの気を引いて月稀乃を逃がしてくれたり。

 あやしい男性教師に、放課後、密室の生徒指導室でムリヤリ迫られそうになった時は、窓をバットで叩き割ってわざと大問題を起こすことで、男性教師をそれどころではなくさせた。

 彼は、いつだって月稀乃を助けてくれる男の子だった。

 

 ハッキリ言って、ヒーローそのものである。

 

 高校に進学し、これからはさすがにひとりで登下校できるようにならなきゃとなった時も、「なら俺が一緒に行くよ」と両親に話までつけてくれた。

 月稀乃がこうして、再び電車に乗れるようになったのも、すべては彼のおかげだ。

 

 もちろん、幼馴染という関係に甘えすぎていて、彼に相当な負担を強いている自覚はある。

 

 だけど、それでも、月稀乃は密かな想いを止められない。

 この登下校は、すべて彼の善意から始まったものだけど、その時間を、小さな幸せを、いつまでも続けていきたいと強く願ってしまう。

 彼に守ってもらっている。守ってくれる。その充足は、とても心地がいいから。

 

 

(──私、黎崎月稀乃は、宇佐美(セン)くんが好きです)

 

 

 彼以外の異性は考えられないほどに、月稀乃は恋をしてしまっている。

 何故だろう? いくら幼馴染だからといって、彼もまた男性であることには変わりがないのに。

 百九十五センチという大柄な体格、男らしい筋肉質な上背、短く刈り上げられた髪。

 どれも苦手な男性の最たる特徴であるにもかかわらず、それが彼というだけで、スっと心に安心感が広がっていく。

 近くにいて欲しい。傍でずっと見守っていて欲しい。

 家族のなかでは、そう、父親に向ける信頼感に通じた感情がある。

 もしかすると、月稀乃にはファザコンのケがあるのかもしれない。

 

 ……とはいえ、それをまさか、当の本人に打ち明けられるはずはない。

 

 宇佐美千は人気者の男子だ。

 翻って、黎崎月稀乃は地味で陰気なメガネ女子。

 たとえ厚意はあったとしても、好意はないだろう。

 彼はあくまで、幼馴染だから月稀乃に優しくしてくれていて、二人の関係はその特別性がすべてだ。

 客観的に考えて、月稀乃のようなめんどくさい女を、彼が好きになる道理がない。

 ただでさえ、こうして迷惑をかけてもいる。

 そのうえ好きだ何だと告白したら、優しい彼のことだ。こちらを傷つけないよう、精一杯いろいろと悩んでしまうだろうし、とても困らせてしまう。

 

 だったら、月稀乃は黙って、今のままの関係を続けていきたかった。

 

 

(なのに……ハァ……私、なにやってんだろ)

 

 

 ガタンゴトンと揺れる電車内はもうじき目的の降車駅まで着く。

 大柄な彼はその体格を活かして、なるべく周囲の視線を集めないよう、依然、気を遣って壁役となってくれているが、気まずい空気は無視できない。

 

 それもこれも、月稀乃がさっき、妙な話題を口にしてしまったからだ。

 

 ああ、いったいどうして、あんな話をしてしまったんだろう……?

 クラスの女の子が、月稀乃と彼を恋人関係だと邪推しているだなんて。

 ひょっとして、まだどこかに()()があるのだろうか。

 だとしたら、これほど恥ずかしいことはない。

 こんな私でも、まだ脈はあるんじゃないか? って、わざわざ探りを入れたようなものだ。

 まったく、なんて浅ましい女なのだろう!

 苦笑いを浮かべた彼の顔を見れば、答えなど分かりきっているのに。

 

 ……そりゃ、月稀乃だって年頃の女の子だ。

 

 痴漢に遭う前までは、少女漫画のような恋にはそれなりの憧れがあったし、物語と自分を重ねて、都合のいい妄想をしたこともあった。

 幼馴染でヒーローな彼を好きになって、高校に上がってからは毎日のように守ってもらって、無意識の内にこの関係を()()してしまったって、多少は仕方がないとも思っている。

 

 好きなのだ。彼が。

 

 だから時折、どうしても自分の中の女が顔を出して、大好きな彼とステキな関係になれたらと想像してしまう。

 

 けれど、月稀乃には自信がない。

 

 彼にふさわしいパートナーたる恋人になるには、自分には魅力が足りていないと思う。

 オシャレも苦手だし、メイクも苦手。

 唯一、女性らしい起伏に富んだカラダこそ類まれなものを持っているが、紳士的で優しい彼は、いちいちそんなことで女性を判断しないだろう。

 ならば内面で勝負だと思っても、月稀乃はそっちにも自信がない。

 快活でハキハキ喋る彼と違って、月稀乃はオドオドうじうじとしてしまう。

 きっと今だって、彼は内心呆れているはずだ。

 

 

(……ハァ)

 

 

 そう、月稀乃が落胆し、ガックリと肩を落とした時だった。

 

 

 ──ガタンッ! キキィッ……!!

 

 

 と、電車が唐突に急停止をかけた。

 その衝撃で、月稀乃は「わっ!」と倒れそうになる。

 前方には吊り革に捕まる彼──ダメ、止まれない。

 月稀乃はそのまま、勢いよく彼の胸へ飛び込む形でぶつかってしまった。

 突然の急停止。

 彼は咄嗟に、「うおっ!?」と驚きながらも、月稀乃を庇おうとしたのか、たくましい腕が力強く少女を抱き留めにかかった。

 ガッシリとした感触が、月稀乃を拘束する。

 

 

(あ──っ)

 

 

 ドキンッ!

 その瞬間の、あまりの多幸感。月稀乃は文字通り、心臓の弾む音を聞いた。

 それから、一秒、二秒、三秒──永遠とも思える一瞬が経過し、しばらくして、緊急停止ボタンが押下された旨のアナウンスが耳へ運ばれる。

 空手で培った体幹だろうか。彼はわずかにたたらを踏んだだけで、即座にバランスを取り戻した。

 

 だが、そんなことは、もうどうでもよかった。

 

 二人は密着し、まるで恋人のように抱きしめ合い、月稀乃は彼を、彼は月稀乃を。

 互いに見つめ合った姿勢で、停止している。

 

 ──そこで、月稀乃は見た。

 

 

「……セン、くん? だ、大丈夫?」

 

「オッ──────あ、ああ。大丈夫」

 

 

 宇佐美千が、顔を真っ赤にして動揺していた。

 平静を装っているが、幼馴染である月稀乃にはありありと分かった。

 いま、彼は、月稀乃を抱き留め、強く密着したことで、凄まじく動揺しているのだ。

 ──それすなわち、月稀乃が異性として意識されている何よりの証拠!

 月稀乃自身の顔も、みるみる内に真っ赤に染まっていくが、だとしてもこれは大きな発見だった。

 

 

(……あ、あれ? もしかして、私)

 

 

 チャンス、あったりする……?

 月稀乃はゴクリと、高鳴る心音を感じながらゆっくりと唾を飲み込んだ。

 間違いない。彼はあきらかに年頃の少年らしく、月稀乃のカラダに狼狽えてしまっている。

 普段、何事にもおおらかで紳士的な彼が、不意を突かれて見せる素の表情(かお)

 

 

(──あっ、ダメだよ、ダメだよセンくん……!

 私、そんな顔されたら、いろいろ止まらなくなっちゃうよ?)

 

 

 なぜって、黎崎月稀乃は、宇佐美千限定でどんな恥ずかしいことでもできてしまう女の子だから。

 月稀乃はためしに、バランスを崩した風を装いつつ、どさくさに紛れてムギュっ! とおっぱいを押し付けてみた。

 とてつもなく恥ずかしいが、彼だからできる。

 すると、

 

 

「ッ」

 

(やっぱり!)

 

 

 顔の赤みがググンッと増した。

 それに伴い月稀乃の豊かな胸もいやらしく彼の胸板に押し潰れるが、脳内で弾ける分泌物が加速し、月稀乃はキュンキュンとトキメキの嵐に飲まれそうだった。

 

 ──センくんが、私のカラダで、ドキドキしてくれてる!

 

 なら、この先はいったい、何が待ち構えているのだろう?

 もしかして、勇気を出せば出すだけ、楽しいことになるのだろうか。

 もしそうなら、それはステキだ……とってもステキだ……!

 

 ──カチリ、とスイッチの入る音がする。

 

 少女は気づけば、ハァハァと荒い息を零していた。

 

 

 

 

 ꧁꧂ ꧁꧂ ꧁꧂

 

 

 

 

 ……その一方で、宇佐美千の胸中はパレードの真っ最中だった。

 

 

(ハアアァァァァァァルレエエエェェェェェエエエルヤアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ──ッ!!!!)

 

 

 主はいませり! 主はいませり!

 幼馴染のたぷんたぷんなおっぱいをガッツリ体感できたラッキースケベに、男は先刻、神を呪っていたことも忘れ、賛美歌を歌い上げたい気持ちで一杯になっていた。

 

 

(Yeah! Yeah Yeah Yeah!!

 黒髪清楚JKメガネ地味巨乳幼馴染っぱい最高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!)

 

 

 最低である。

 

 

(おっしゃあっ! なんかよく分かんねぇけどナイスだぜ電車! なんか月稀乃もいい感じに真っ赤になってるし、これは来たんじゃねぇのッ!?)

 

 

 フゥ! フッ! フゥ!

 おっぱいに頭をやられているバカヤロウは、著しくIQの低下した思考で叫ぶ。

 

 

(やっぱラブコメってのはこうじゃねぇと! うおおおおぉっ! 俺はやるぜ! やったるぜぇぇ! あそれっ、イッチャイッチャ! あそれっ、イッチャイッチャ! フゥ!)

 

 

 しかし、彼は知らなかった。

 ヒロインみんな巨乳か爆乳のおっぱい学園青春ラブコメ『たぷたぷ』──

 胸の大きい女性のサービス的シーンに特化した青年向け恋愛ジャンル作品。

 けれど、それは、あくまでも商業版の話。

 オリジナルは同人版で、R-18の作品であることを。

 薄い本特有の、あーんなことやそーんなことが巻き起こる世界観だということを!

 

 さぁ、彼の明日はどこにある!?

 

 

 


たぷたぷ


 

おっぱい学園青春ラブコメ・

あまあま・ラブラブ・巨乳・

ハーレムエンド(同人版)

 


 






続くかどうかは不明です。


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