Continue to NEXT WORLD.../SIREN2(サイレン2)/SS 作:ドラ麦茶
「……お前らみたいなのがいる限り、俺は、何度でも現れる」
写し世と現実世界の狭間という本来は存在しない世界で、須田恭也はふたつの敵と対峙していた。ひとつは、夜見島の屍人共を束ねる顔の怪物、もうひとつは、闇人共を束ねる異形の生物だ。すでに、島にはびこっていた屍人や闇人は殲滅した。残る敵は、この二体だけだ。
まず動いたのは顔の怪物だ。身体を丸め、転がりながら突進して来る。恭也の身体の数倍はある巨体だ。激突すれば、猛スピードの軽トラックに撥ねられるようなものだが、恭也は恐れず、刀を手に走る。刀身が青い炎で燃え上がった。両手で頭上に構え、転がる怪物に向けて振り下ろす。その一閃で、巨大な顔の怪物は真っ二つに裂け、恭也の左右に分かれて転がった。怪物がどれほど高い治癒能力を持っていようとも、聖獣が宿る焔薙に斬られた者は無事ではすまない。ふたつに斬り裂かれた顔の怪物は、しばらくうめき声をあげながら節くれだった無数の足をもぞもぞと蠢かせていたが、やがて動かなくなった。
恭也は異形の生物を見る。異形の生物は忌々しげに歯を噛みしめながら、しかし、闇雲に突撃はせず、宙に舞い上がって距離を取った。決して刃が届かない位置に留まり、頭上に広がる赤い海に向かって、甲高い声で鳴く。その鳴き声に応じるように、海面が大きくうねって盛り上がった。それが鋭い槍となり、恭也へ襲い掛かる。恭也は右へ跳んでかわす。異形の生物は続けざまに鳴き声を上げた。次々と水流の槍が生まれ、恭也を襲う。恭也はかわしながら、ポケットから宇理炎を取り出した。頭上に掲げ、生命力を注ぎ込む。恭也の生命力は全てを消滅させる炎となり、異形の生物の真下から柱となって燃え上がった。炎の柱が、宙を舞う異形の生物を包み込む。身を焼かれた異形の生物は、悲痛な叫びと共に地面に落ちた。それでも、首をもたげ、憎々しげな目で恭也を睨む。
そこへ、恭也が刀を振った。
断末魔の悲鳴と共に、異形の生物の首が、地面に転がった。
闇の住人どもを殲滅した須田恭也は、一人、立ち尽くしていた。これで、いくつの世界の闇の住人を殲滅しただろう、もう覚えていない。これから、いくつの世界の闇の住人を殲滅するのだろう、それも判らない。
――殲滅せよ。
声が聞こえる。それは耳に聞こえたのか、あるいは頭に直接響いたのか、それも判らない。
ただ、その声に従い、次の世界へ向かうしかない。
すべて消さなければならない。たとえ、どれほどの時間がかかろうとも。それが、
――――。
あの
あの娘とは、誰だ?
…………。
……美耶子。
そう、美耶子だ。美耶子と約束したのだ。
だが、それも仕方がない。長く戦い続けてきたのだ。記憶が曖昧になるほど、長く。
時々、不安になる。この戦いは、いつまで続くのか。いずれ俺は、全てを忘れてしまうかもしれない。
美耶子の名前も。
美耶子の顔も。
美耶子と過ごした数日のことも。
そして、美耶子と交わした約束も。
いや、そもそもこれは、美耶子との約束なのだろうか? 戦い続けることを、美耶子が望んでいたのだろうか? もう、なにも判らない。戦い始めた頃は常にそばにあった美耶子の気配も、もう遠い昔に消えた。美耶子の気持ちを確かめることはできない。その声を聞くこともできない。その姿を見ることもできない。いずれ、声や姿を思い描くこともできなくなるだろう。長い戦いの果てに、美耶子との約束通りあいつらをすべて消したとしても――もう二度と、彼女に逢うことはできないのかもしれない。
それでも。
――殲滅せよ。
その声に突き動かされ、恭也は戦い続ける。
地面が揺れる。頭上の赤い海が波打つ。世界が、崩壊する。
足元から光の柱が現れて、恭也を包み込んだ。
――殲滅せよ。
恭也は、また、次の世界へ向かう――。