聖女のヒーローアカデミア   作:日々廃

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聖女と物語の始まり

 ――――朝。

 窓の外から聞こえてくる喧噪が次第に大きくなっていく中、少女は目を覚ました。

 腰まで伸びた金の長髪を煩わしく思いながらも、手慣れた様子で梳いている様は、さながら絵画のように美しく幻想的であった。

 髪を梳き、大きく三つ編みにして纏めた後、おもむろにテレビのリモコンへと手を伸ばしその電源ボタンを押した。

 

 『本日出現した引ったくりを行った巨大な(ヴィラン)ですが、本日デビューとなったMt.(マウント)レディによって無力化されました。この事件における被害は――』

 

 

 まだ朝早いというのにはきはきとニュースを伝えるアナウンサーに尊敬の念を抱きつつ、ニュースの内容について考える。

 

 Mt.レディのデビュー。

 それは他の人間からすれば、「また新しいヒーローが出てきた」という感想しか出てこないだろう。

 事実、月に数人のペースでヒーローは誕生している。彼女も()()()()を知らない一般人であったなら、同様の感想を抱いていつも通りの日常を繰り返していたのだろう。

 しかし、彼女はこの世界のことを知っている。自身のいる世界が、週刊誌にて連載され、アニメ化を果たした有名作品である『僕のヒーローアカデミア』の世界であることを。

 

 

「とうとう、物語が始まるのですね……」

 

 

 彼女もその作品を愛読していた一人のファンであり、原作キャラと話すことができるかもしれないという高揚と、これからの戦いへの不安を感じながら、彼女は“個性”を発動させる。

 見る人によって解釈が変わってくるであろう絶妙なデザインのキャラクターが描かれたTシャツと、ゆったりとしたショートパンツというどこにでもいそうな少女の服装は瞬く間に甲冑を模した服装へと変化し、手元には長柄の旗が現れる。

 

 

「私の“個性”でどこまで通用するかはわかりません…………ですが、仲間となれたその時には…………」

 

 

 少女は立ち上がると、手に持っていた旗を回す。

 ただでさえ扱うのが難しい長柄の武器。しかも少女の持つそれの先端には旗までついているため、扱うのは相当難しいはずである。しかし、少女は慣れたように旗を回す。その様子から彼女が旗の扱いに熟練していることがわかる。

 その動作は彼女にとってはルーティンのようなものになっていた。

 彼女に“個性”があることが分かってから、彼女は自身の力を十分に扱えるように努力していた。

 そして、彼女の動作がまさに終わるその時――

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 

 そうして、少女の一日は陶器の割れる音から始まった。

 

 

 

 

□ □ □ □ □ □

 

 

 

 

 床に落ちた花瓶の破片を片付けて、私は家を出た。

 やっぱり、室内で振り回すものじゃないな……。旗の扱いには慣れたつもりでいたけど、油断するとすぐにこれだ……。

 今朝のニュースを見てテンションが上がったせいでもあるな……。

 

「はあ……」

 

 予期せぬ出費に深くため息をつく。

 

 しかし、しかしだ。Mt.レディのデビューということは、今日オールマイトと緑谷出久の出会いがあるはずだ。

 

「ふふ……」

 

 思わず頬が緩んでしまう。

 何を隠そう私は転生者である。

 前世ではどこにでもいる普通の男子大学生だったが、『僕のヒーローアカデミア』という作品は愛読していた。アニメだって当然見ていたし、単行本だって出るたびに買っていた。最推しである葉隠れちゃんの顔が出てきたときはあまりのテンションの上りように友人から割とガチめの「気持ち悪い」をいただいたものだ。

 

 だが、いくつかの問題点もあった。

 一つ目は私というイレギュラーがいること。

 捕らぬ狸の皮算用と言えばそれまでだが、もし私が雄英に入学したとき、原作のキャラのだれかが弾かれてしまうのではないかということ。

 

 二つ目は私が女に生まれたことだ。

 これに関しては私が前世で性転換モノの作品や二次創作などを好んで読んでいたこともあり、早いうちに適応し、今ではすっかり女性らしい言葉遣いや仕草などもできていると思いたい。

 

 問題は三つ目である。

 私がこの世界に転生して得た“個性”の名は『裁定者(ルーラー):魔力変換』。

 魔力変換。これはその名の通りありとあらゆるものを魔力へと変換できる“個性”だ。ただし、生物は変換できない。

 私からすればぶっ壊れもいいところだが、その実この個性は単体では活かすことのできない個性である。災害救助や、その瓦礫の片づけに使うことができるかもしれないが、超常の力が一般的となったこの世界では、“個性”の台頭とともに魔術が廃れてしまったこの世界では、体に溜まった魔力を発散する手段がないため、すぐにキャパオーバーになってしまう。

 確かに、未だに魔術を使う者もいるようだが、その人が魔力変換の個性を持っていなければ意味がないのだ。

 しかし、もう一つの裁定者(ルーラー)に関しては頭痛の種である。

 ルーラー。

 それはFateシリーズにおける英霊のクラスの一つであり、今の私の元となっている英霊のことである。

 個性の能力は、英霊ジャンヌ・ダルクの力を得るというものである。英霊の力を持つ私にとって、魔力変換というもう一つの個性はまさに鬼に金棒と言わざるを得ない能力である。

 どうやら私は研究所で作られた実験体のようで、魔力を崇拝する教団によって、『魔力変換』という個性を有効活用するために作られたようだ。

 その実験の過程で個性の組み合わせによって『裁定者』という個性が完成し、魔力変換と結合されたようだ。

 

 これが狂戦士(バーサーカー)のような攻撃特化の英霊ならヴィラン予備軍待ったなしだが、ジャンヌ・ダルクという防御に重きを置いている英霊になったのは、おそらく世界によるバランス調整的なものが図られたのではないかと思う。多くの魔力を食らうが故に行動を制限させられるらしいバーサーカーが、魔力変換なんて力を得たら金棒なんてものでは済まないだろう。

 

 私がこの世界で目を覚ました時には既にジャンヌ・ダルクとしての肉体が完成しており、私は培養槽の中にいた。

 その時はまだ意識がはっきりとしておらず微睡んでおり、私の意識がはっきりする頃には既に私を作った組織はヒーローによって壊滅させられていて、私はヒーローによって保護された。

 

 その後、私に対する聴取や簡単な学力検査によって中学校までの学習は理解できていると認定され、私は今年の受験で高校生になることができるようになった。これはつい一年前のことで、受験まで10ヶ月をきったので、そろそろ勉強やら何やらを始めなければいけない。

 目指すのは雄英ヒーロー科一択だ。

 

 

 おっと、目的地に着いたようだ。

 確か足りない食材や調味料を買いに来たんだっけ。あと花瓶。

 今朝の出来事のせいか今日はやけに考え事が多いなぁ。

 

「ありがとござっしたー」

 

 やる気のない挨拶を聞いて私は店を後にする。

 そのまま特に何もないまま帰宅。

 

 

「……やることがないですね」

 

 受験勉強をしなければならないとはいえ、前世の私は大学生であり、高校受験程度の問題にそうそう躓くこともない。

 保護されたときに受けさせられた学力検査によって、中学校までの教育課程を終えたと認定されている私は、学校にも通っておらず、バイトをすることもできないのでかなり暇なのである。

 

「そうだ、サーヴァントを召喚しましょう」

 

 唐突にそう思い立った私は、床にテキトーにそれっぽい魔法陣を書き、触媒なんてものは当然持っていないため、盛りに盛った自撮り写真を触媒にして詠唱する。

 

()に銀と鉄。()に石と契約の大公。

 降り経つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる(とき)を破却する。

 

 

 ――――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 

 誓いを此処に。

 我は常世(すべ)ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 

 汝 三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

 

 

 ふっ、決まったぜ……!

 そもそも聖杯戦争でもなんでもないため、サーヴァントが召喚される心配もない。ただ私がやりたかっただけである。

 前世では家族が家にいたためにできなかったが、全力で詠唱するのは気持ちがいい。

 

 さて、片付けるか。

 私が魔法陣を片付けようと近づくと、魔法陣は光りだした。

 

「えっ、ちょっと待って、なんで――」

 

 思わず声を上げるも、魔法陣は構わず光りを放ち、光が視界を埋め尽くした。

 光が収まると、私の書いた魔法陣の上に一人の女性が立っていた。

 

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しま…………は?なんでアンタが私を召喚してるのよ?」

 

  

 ……えぇ…?なんか召喚できちゃったんですけど…………


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