ファーストのご飯事情   作:ヴァルヘッド

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第1話

雲ひとつない青空、響き渡るセミの大合唱、大通りを行き交う群衆の喧騒が、東京の渋谷のスクランブル交差点で信号待ちをしている彼女にはとても鬱陶しかった。

約束の時間まで残り1時間半しかない。

今から昼飯を食ってから目的地に向かうには、あと45分以内には昼飯を終わらせ渋谷駅のホームにいる必要がある。

ハッキリ言って限りなく可能性は低い、いや不可能に違いない。

しかし彼女の目には不屈の炎が宿っていた。

信号が青になるとともにスタートダッシュを決め、後ろで一つに纏められた腰まで伸びる黒髪をたなびかせながら、全速力で目の前から来る群衆の隙間を最低限の回避のみで突き進み、人がごった返す道をスイスイと抜けていく。

人波をこえて大通りから外れて入り組んだ路地を少しいくと、小さなビルの一階に暖簾のかかった食堂が見えてきた。

彼女は人混みの中で走ってきたせいで少し乱れた赤い制服を整えると店の中へと足を踏み出した。

 

暖簾をくぐると、途端に香ばしい魚の焼ける匂いが鼻腔をくすぐる。

店の中はカウンター席とテーブル席があるが彼女は間髪いれずにカウンター席に着く。

そして店員が水を持ってくるまでの間、目の前の厨房の網の上で焼かれているホッケを眺めている。

炭火で焼かれるそれの脂が『じゅうじゅう』と音を立てて少しずつ薄茶色になっていき、これでもかというほどに私の食欲を誘ってくる。

待ちきれなくなりそうだ。

我慢の限界にお腹が『くぅ〜』となったところで定員さんが水を持ってやってきた。

私は店員さんに

「特ホッケ定食一つ」

と一言声をかける。

するといい声で厨房にオーダーが入った。

次の瞬間目の前の網の上に新たなホッケの干物が乗っけられる。

しかし、そのホッケは先程まで彼女が眺めていたいたホッケの倍近くの大きさがあるではないか!

注文した彼女の目の前で巨大ホッケが焼かれていく。

すると徐々に巨大ホッケから今まで以上に濃厚な香りが漂ってくるではないか。

香りだけで胃袋を掴みかかってくるが如くの巨大ホッケの快進撃はまだ止まらない!!

なんと火が通り始め、薄茶色に色付いてくるとともに脂が『じゅっっっわぁぁぁぁ』と溢れ出し、焼けた部分が光沢を帯びたように光り輝いている。

すると巨大ホッケが反転した。

皮が今度は上向きになる。今まで見えていなかった皮の表面は適度に茶色の焦げ目がついていて、溢れ出た脂が皮の上で音を立てて跳ねている。

しばらくするとまたホッケは反転して始めと同じように身を上向きにして焼かれる。

それを何度か繰り返されるのを見ているといつの間にかホッケは網から大皿の上に乗りこちらに向かってくるではないか!

私は我に帰るとこちらに向かってくるホッケを待ち構え臨戦態勢に入る。

目の前に巨大ホッケを乗せた大皿とご飯、味噌汁、浅漬け、そして小皿が乗ったプレートが置かれる。

私は箸を手に取り一言

「いただきます。」

と言ってホッケの身をほぐし、まずは何もつけずに一口。

口の中に入ると同時に身が舌の上で自然とほぐれていき、ホッケ独特の旨味が口全体に広がる。

ハッキリ言おう、このホッケは味の深みというのだろうか、口の中で解けた身からホッケの旨みが口全体に染み渡るとともに、ほんのりとした脂の甘味を感じ、そして旨味とともに余韻となって、身を飲み込んだ後も舌にはホッケの味のインパクトを残してく。

次は醤油を少しつけて食べてみる。

醤油のしょっぱさとホッケの脂の乗った身のほんのりとした甘味とホッケの味の大らかさによって与えられるインパクトは先ほどとは別のものだ。

醤油のしょっぱさによってよりホッケの脂の乗った身の味がより一層引き立つ。

こんな感じで味に浸りながら食事を進めていると、ふと、あるものが目に入りあ私は驚愕する。

そこにはあったのは、あと約10分で渋谷駅のホームに行かなくてはいけないという無情な現実を突きつけてくるデジタル時計だった。

あまりの美味しさに時間を忘れていたようだ。

しかしこれはマズイ……

この店から駅のホームまで最低8分27秒はかかる。

私は急いでホッケ定食を平げると、会計を済ませて店を出る。

そして全速力で人混みの中にかけて行った。

 

なんとか間に合った……

流石に列車に乗り遅れた時は「ついに終わった」と思ったが意外となんとかなるもんだ。

次回からはこんなことしたくはないな。※しないとは言ってない

それにしてもこんな商業ビルの地下で何をしようというのか、物騒な物もった人たちがわんさか居る。

 

現状私がいるのは東京某所にある大型商業施設の地下駐車場。

今回の任務は休日で賑わう大型商業施設の地下駐車場で行われる武器取引の現場を抑えること、注意事項として武器商人を取り押さえることと、武器の現物の確保することの二つがある。

 

支柱の物陰に隠れて現場を監視する私の後ろには今回のバディのセカンドの子が一人と、右隣にある支柱の方には今回の部下になったセカンドの子がペアが一組。

取引相手がまだ来ていないからか奴さん達は警戒を続けている。

ここに来て監視を始めてから10分が経つ。

もうなんか足が疲れてきた。

早く取引相手さんきて来んないかな、なんて気が緩み始めた時だった。

車の近づいてくる音がする。

全員に気配を殺すように指示を出す。

2台の紺色の大型バンが取引現場の前で止まると中から青いツナギ姿の男達が出てきた。

あれが今回の取引相手だろう。

相手の警備の注意がツナギの男達の方にあらかた移ったのを確認すると、右隣の支柱にいるペアに指示を出し、私たちも彼女達とは反対の壁や物陰に沿って、取引現場の近く、相手を狙いやすい位置にまで着く。

向こうのペアも位置に着いたようだ。

向こうと此方、双方の準備ができたことを確認してカウントダウンを始める。

「3、2、1」

カウントダウンが終わるとともに一斉に上体を起こして射撃を始める。

銃を構えいる者から順に撃っていく。

視界の中に映る全ての相手の姿を確認し、優先順位をつけて正確に相手の腕の関節を狙っていく。

3人目の関節を撃ち抜き無力化に成功したところで、取引対象の銃を回収しようとしているツナギの男達に向け発砲。

腕の関節を狙わず肩を撃ち抜き武器の回収をできないようにする。

また、私が物陰から狙撃を続けている間にバディのセカンドは前に出て、私が無力化した相手を的確に処理していく。

反対側にいたペアは事前に指示した通りに車をパンクさせてから、車の周りにいた連中を処理しているようだ。

今回の任務は今のところはスムーズに遂行できている。

相手方も既に半数以上が倒され、残っているのは武器商人と取引相手のリーダー格と思われる男と彼ら二人の周りで私達に応戦する7人のみ。

なんとか無事に終わりそうだ。

………

……

 

なんなく残りの相手も片付け終わり、武器商人と取引相手のリーダー格を確保。

その後チームメイトの状態確認を行い問題がないことがわかったので本部に連絡。

武器商人とリーダー格が回収されたのを見届け、今回の任務は終了。

なかなかスムーズに終わった任務だった。

任務が終了してすぐに私以外のチームメイトは本部の寮へ帰っていった。

私はというと、浅草にある自分の家に帰るのだ。

本来DA本部に所属しているはずの私がなぜ寮ではなくこんなところに住んでいるかは………

まぁ、過去に色々あったとだけ言っておこう。

 

ここに住んではや9年になるがここはいい街だ。

浅草寺の仲見世通りの方が年中観光客で賑やかで意外にうるさそうに思えるかもしれないが、意外と観光地から少し離れると夜は静かな住宅街だ。

下町だからか、近所仲もよくさせてもらっているし、交通の便がいいのも利点の一つだ。

他にも毎月さまざまなお祭りが行われるのも魅力だろう。

特に浅草神社の三社祭の神輿を担ぎ町中を渡御する様は圧巻だ。

まぁ、スーパーやホームセンターが少なかったり、祭りの時は人がごった返したり、夜は意外と治安が悪いこと以外は何も不便はない……いや、結構不便かも……

………それを補っても有り余るほどの魅力が詰まったこの町が好きだ。

そんな私の町に向かう帰り道を、今日も歩いていく。




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