クソゲー世界に転生してしまったTS魔法少女ちゃんは今日も生き残りたい 作:守次 奏
由希奈にされるがまま、服屋に連行された俺がなにをしていたかというと、ひたすらあいつが見繕った服を着せ替え人形の如く試着していたわけだ。
かなりガーリッシュな服をチョイスされたこともあって、別に恥ずかしくもない……わけじゃないんだが、こう、なんとなく抵抗がある、もやもやした感情を抱きながら、俺は内股になってスカートの裾を下げていた。
いや、やっぱ恥ずかしいというか大胆すぎるわこれ。
世の中の女子高生諸君は膝丈上までスカートを短くしているが、露出する肌面積とスースーしたこの感じに違和感を覚えないんだろうか。
そんな具合に強がりながらもミニスカートの丈と悪戦苦闘している俺に由希奈が手を差し伸べてくれたかどうかといえば否だ。
ご丁寧にも気恥ずかしさに震える俺の写真を撮って、「じゃあ次のコーデ行っちゃいましょうかー!」なんて、満面の笑顔でガーリッシュな服をひたすら持ってくる始末だった。いやまあ、そんなもんだろうと思っちゃいたがな。
「うへへ……普段はクールな先輩にこんな弱点があったなんて思いもよりませんでしたねー」
「……そろそろ、此方としては勘弁してくれるとありがたいのだが……」
「なに言ってんですか先輩! 先輩のおみ足はなによりも強力な武器なんですからもっと見せていかないと! この筋肉と脂肪が程よく調和した太ももと、そしてキュッて引き締まったおっきなお尻……うへへ、黄金比ですね」
太ももに頬をすり寄せながら由希奈は言った。
どこのなにが黄金なのかは全くもってわからんが、誰の尻がデカいんだ、誰の。
いやまあ確かに葉月やこよみたちと比べて密かに脚太いと思ってたけどさ。改めて尻がデカいと言われると、なんか複雑な気分になるのは身体に引っ張られてるからか?
完全にご満悦でセクハラモードに入った由希奈だが、コーディネートに関しては言葉通りなに一つ邪心がないというか、「西條千早」という素材を引き立てようと全力投球してるのは確かだ。
てっきりかなり丈の短い、ローライズ気味なホットパンツとか持ってこられるもんかと思ったらそんなことはなかった。
あくまでも由希奈は俺をコーディネートしつつ、気恥ずかしさで悶え苦しんでるところが見たいだけらしい。欲望に正直なんだかそうじゃないんだかよくわからんな。
「……其方は此方をどうしたいのだ?」
「決まってるじゃないですかー、今風なめっちゃガーリッシュなコーデで可愛いとこ見せてきましょうよー、クールな先輩とのギャップは主に私に需要があるんで、うへへ」
「……欲望がダダ漏れになっているが」
欲望というか涎というか、なんかそんな感じのが由希奈の緩み切った顔面からは垂れ流されていた。
クール系ってわけじゃない……いやそれは「俺」の話であって「西條千早」の話ではないんだが、まあ中身が変わってようと、外面はそんな感じの美少女なんだから仕方ない。
お硬いイメージを抱かせる、凛とした女が急に可愛い全開な格好をすれば、そこにいわゆるギャップ萌えを見出す心もまあわかる。見出される側としては散々だが。
だが、少しだけだとしてもそれで由希奈が抱えているのであろう複雑な思いが和らぐっていうんなら、人身御供になるのもやぶさかではない。
実際、「ゴースト」絡みで由希奈は結構なストレスを抱えていると見てもいいだろう。
それはきっと本人が口に出さない限り解決しないことで、俺が先回りしたところで信頼を失うだけだ。
なんせ当人が誰にも打ち明けてない秘密というか、蓋をしておきたい感情に土足で踏み入るような真似だからな。
他の転生者とやらがいたとして、訳知り顔でそんなことされたら俺だってキレる。
俺の身体を使った着せ替え人形遊びにはもう満足したのか、二、三着ほどのコーデを試着させて、由希奈は満足げにふんす、と鼻を鳴らした。
「どうですか、これが生まれ変わったスーパーアルティメットガーリッシュ先輩です……!」
由希奈曰くスーパーでアルティメットらしいそのコーデは確かに色合いこそシックに寄せてきている。
だが、スカートの丈はきっちり膝の上、そしてゆったりとしたチュニックの上から淡い色合いのロングコートを重ねることで、格好良さと可愛さをきっちり引き立てていた。
スニーカー履いてるせいで微妙に決まってないものの、ロングブーツとかあれば絶妙に映えるな。それはそれとしてやっぱりミニスカートはそわそわして落ち着かんが。
「ふむ……なんだか生まれ変わったような心地だな」
一回実際に生まれ変わってるけどな。
そんな冗談はともかくとして、俺は自然とそう呟いていた。
ちゃんとファッション関連のサイトとか見て参考にこそしているつもりだが、多分自分一人じゃ絶対に辿り着くことができないであろう発想と、それを裏打ちする熱意が感じられる。
要するに、客観的に見れば「西條千早」と「可愛い」の掛け算として限りなく正解に近いものを由希奈は出してきたということだ。
葉月がここにいれば、似合うメイクとかも考えてくれたんだろうか。
どっちにしても、生脚を露出することへの抵抗感というか気恥ずかしさを勘定に入れなければ百点満点、散々着せ替え人形にされた俺ですらそう思うレベルだ。
「ですよねー! いやはや、先輩のクール系な顔つきを引き立てながらミニスカを履かせる……中々このミッションは難易度高かったんですよ?」
「……此方としては、ミニスカートにこだわらなくてもよかったのだがな」
「私がこだわりとして譲れないんですー」
そうか。確かにどうしても使いたいパーツがあったらそれを活かすためにアセンをどうするかは考えるよな。
そういう意味じゃ気持ちはわからんでもない。
ただこれなあ、ミニスカートなあ。
身を翻して丈の短い裾を押さえていると、ぱしゃり、とシャッター音が響く。
どうも由希奈は俺のもじもじした仕草を記録しておきたいようだが、店員に肩ポンされないように気をつけろよ。
いっそタイツでも履けば少しは抵抗感も薄れるんだろうか、と思ったが、由希奈のこだわりが生脚にあるんだから、秒で却下されそうだ。
まあ、たまにはこういうのもいいだろう。
流れ的に、次はロングブーツを買いに行くんだろうな。
今履いてるスニーカーは、このコーデとあまりにもアンバランスすぎる。
「次は靴、といったところか?」
「わーすごい、先輩、大正解です!」
「さすがにこの格好とスニーカーでは釣り合わないことぐらい此方でもわかる。任せたぞ、由希奈」
「了解でーす、それじゃブーツ買ったらちゃんとこのコーデに着替えてくださいよ?」
「……善処する」
一旦更衣室のカーテンを閉めて、脱いだ服を受け取ると嬉しそうに、弾んだ様子で会計に向かう由希奈の後ろを苦笑と共に俺は歩く。
ああうん、コーディネートのバランスとかはともかく、やっぱジーンズにスニーカーの方が色々と落ち着くわ。
例えるなら洋食屋のお高い飯と実家で食べる飯みたいな、そういう味わいの違いがある。
「由希奈」
「なんですか、先輩?」
「……少しは、肩の力を抜くことができたか?」
鼻歌混じりにセルフレジへと向かっていた由希奈を呼び止めて、俺は問いかける。
表にこそ出しちゃいないが、「ゴースト」の一件について由希奈としては相当思うところがあるはずだろう。
だからこそ、俺が人身御供として着せ替え人形になることでそのストレスが発散できてたらな、と、そう思っただけだ。
「あちゃー……バレてました?」
「……一応は、な。詳しくは此方もわからん。だが、其方がなにかを抱え込んでいることぐらいはわかる」
「あはは、まあ……そっかー、先輩には気付かれちゃってたかぁ」
気付かれたというか知ってた、だがな。
こちとら前世の知識で魔法少女たちの趣味や好物、身長体重にスリーサイズ……はどうでもいいとして、抱えてる事情も知ってるんだ。
それをストレートに口にしたら怪しまれかねない、というか確実にそうなるだろうから、推測という体で話しているんだが。
「んー……そうですね、私も観念しました。でもでも、乙女の秘密を打ち明けるんですから、ちゃんとブーツ買ったらミニスカ履いてくださいよー?」
「……了解した」
どの辺が観念してるんだかよくわからんが、謎のミニスカ推しを渋々受け入れて、交換条件として身の上話を引き出すことはできた。
由希奈が抱えているものが、誰かに話すことで和らぐような苦しみだとは思っていない。
それでも、笑顔の仮面を被り続けなくていいように、少しでも力になれたら、ほんの一欠片でもその痛みを分かち合えたらと、そう思うだけだ。あるいはそう、願うだけだった。
多分特定スキルのために専用装備を組むような感覚