多分続かない。
日本の某所。今は廃れ、打ち捨てられた映画館。
誰も覚えていないその映画館は、ある男の手によって素敵な改装を施され、グランドオープンされた。
その男の為だけの映画館として。
男が貸し切りのシアターで、山盛りのポップコーンを口いっぱいに頬張りながら、スクリーンにかけられた映像を眺めている。
懐かしむようで、それでいてギラギラと狂気を秘めた瞳が、スクリーンの光を反射していた。
『カメラ…よし。ライトもバッチリ…いや!角度が4°、高さは1.5㎝足りない…よし。
やあ、未来の──残っているか分からないが──映画館のスクリーン前に座る諸君。
取り敢えず、自己紹介から始めるとしようか…
私の名前は
もしかしたら、既に私の映画を観た方も居るのではないかな?今のところ映像におこしたのは、“イカレ野郎とサイコゾンビ”だけだが、遙か昔の愛されるべき低予算映画フレーバーマシマシの映画は、きっとカルト的人気を誇っていると思う…
ていうか実際金が無くて低予算だったし
おっと、そんなこたぁどーでも良かった!この映像は、私が最高の映画監督になるまでの実録ドキュメントさ。
独立したばっかで、何時までかかるが分からんがね。
次の映画は…そうだな。さっきのイカレサイコは確かに最高の要素を詰め込んだ映画だったが、まだパンチが足りない、もっと爆発が必要だ。
爆発ッ!爆発ッ!FOOOO!
…大昔に、毎週日曜に放送していた特撮ヒーローものだって、最高たる所以は爆発ッ!なのさ。
さーて、題名はどうしようか?』
そこからは、その男が仕事にいそしむ姿が映った。
ハチャメチャに遊んだり、静かに映画を観たりして、アイデアが生まれた。
頭を抱え、悩みながら脚本を仕上げた。
漫画みたいに書き込んだ絵コンテも描き上げた。
ものすごい剣幕で怒鳴り散らかしている場面もあったし、とても嬉しそうに映像の完成をクルー全員で祝っている場面もあった。
でも、どんな場面だって、誰もがこれ以上ないくらい幸せな表情で仕事に取り組んでいた。
「ああ、全く懐かしい。若くて、未熟だった。確かにライトはズレていたが、その修正じゃあまだ足りん、右にあと5㎜位置をずらしていれば、陰影の印象が雲泥の差さ。まだ時代劇をしっかり履修していなかった…クソッ、クソ…」
ひとりごとを呟きながら、男がガリガリ爪を噛む。ありありと悔しさが滲み出る表情が顔に浮かんだ。
すぐに心の中で、「イカれ具合は変わらんがな。」と付け足したが。
突然、場面が移り変わった。
「…ここだ。ここが、私の、
まるでクリスマスにプレゼントをもらったクソガキみたいに、目をキラキラ輝かせた。
『あっが、お゙、オ゙ぉ、ぐううあう』
次の場面に映っていたのは、怒りと悲しみに塗れながら、暗くて、隙間風が吹き込む廃墟で悶え苦しむ男だった。
撮影に使った血糊なんかじゃない、本物の、自分のと誰かのが混ざった血。
大小ある傷の中でも目を惹くのは、歯がむき出しになった顔。両頬の肉が、紙を破るようにひき裂かれていたのだ。
尚も苦しむ映像が続いた。
その感情は、何から来ているのか。スクリーンの前の男は知っていた。
喪失感と…誰から向けられたかも分からないエゴ。
『あが、っうあう、おあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!』
そこら中にゲロをブチまけたり、血が出るまでコンクリートを殴り、爪で引っ掻いた。
もはや言葉にすらならない怒りをひとしきり──殆ど無駄だったが──発散した後。
男がカメラに向き直った。
以前から、その映画好きは狂人の域だった。
冗談で「イカれてる」なんて呼ばれた。
でも、もうその瞳は、冗談抜きで狂っていた。
『何故だぁ。何故だ何故だ何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故なんだァ!』
男がまたも激情した。
カメラのレンズに数滴の血液がかかった。
『何故ッ!私はっ、映画を撮っただけじゃないか!?』
『別に昔ゃあ珍しくもなかったッ…!
この激情を、スクリーン前の男は大笑いで鑑賞していた。本当に景気の良い笑い方で、防音機能のない映画館の外で響けば、森がざわめくほどだろう。
「そうさ…この男は、映画を撮っただけだ。ただし、運が悪かった。それこそ“ダイ・ハード”みたいにな」
ひとしきり笑った後、手もとの古い新聞に目を傾けた。
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映画監督、クルー皆殺し
先日、●●県×●市の山荘において、個人映画制作チーム「東木映像研究制作クラブ」の、リーダー兼監督である東木映撮(29)を除くメンバー十六名が、遺体で発見された。警察からの発表によると、遺体の第一発見者は連絡が絶えたことを不審に感じた山荘の管理人で、発見時には死後13時間が経過していたとのこと。
警察はヒーローと連携し、映撮氏を容疑者として、行方を追っている。
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チーム内の不和、爆発したか
現場をともにしたA氏によると、「かなり監督は映画に対して厳しくて、そのことになると誰にも当たりが強かったように感じましたね。暴言は当たり前でした」とのこと。
専門家は、今回の事件は、山奥の山荘という環境もあってか常に顔を合わせる現場だったこともあり、口論や喧嘩のストレスの行き場が全くない状態が続いた結果の感情の爆発で起きてしまった可能性が高いと分析している。
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『復讐…か…』
ぽつり、呟く。
『して、どうする?』
皆、死んでしまったのに。
『帰る場所もない』
無実の罪を着せられて。
『あっても、帰れるわけがない』
その後、本当に自分の手で人を、ヒーローを殺めてしまって。
『これじゃあ復讐ものの映画を撮ったって、ヒーローにはなれない』
ヒーローに追いかけられる側なのに。
ヒーローには〈心〉が必要だ。俺の心は壊れてしまった。残るのは…
「そう…ヒーロー
『………そうだ、悪役だ。
突如頭に落ちた雷、悪魔の囁き。
『悪役なら!なれるじゃないかッ!?』
『まだ!俺は!映画を!撮れる!』
裂けた口が、上顎と下顎が離れるのではないかと心配するほどに、歪な笑みを浮かべた。
スクリーンの中の男も、前の男も。
『そうだ…コイツを、俺の!最高傑作にしてやる!ストーリーは、こうだ───』
「『俺が、英雄に殺される』」
『大ヒット、間違いなし!なんたって、俺の遺作だからなぁ!』
あーっハッハッハッ!
トチ狂った笑いが流れ、映像は終了した。
その映像は、もう自伝なんかじゃなかった。映画界に、そして犯罪史に名を刻む敵の、前日譚。そして最悪の敵が、最高の英雄に殺される物語の、予告編となった。
笑いは響き続けた。何時間経っても。
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次の日、新たな敵がセンセーショナルなデビューを飾った。
CG以上の爆発と破壊力は、ありとあらゆる人間を恐怖に陥れた。
その敵はたった一度の事件で“ネームド”となった。
名付けられた敵ネームは…
『ムーヴィル』
人物紹介
東木映撮(開始時29歳、原作開始時49歳)
敵ネーム『ムーヴィル』(ムービーと悪魔がかかってる)
自称元映画監督。敵と化すまでは日本の低予算映画界でカルト的人気を誇るチームのリーダーだった。誰よりも映画を愛し、作ることを愛した男。
クルーたちとの仲は良好そのもので、お互いに尊敬しあっていた。特に映撮はリーダーシップと才能を全員から認められ、その妥協を許さない情熱は手抜きをしたクルーに自分の努力不足を自覚させるほどだった。
(A氏の発言は偏向報道。あのあとに、「でも皆ホントに仲良しだったな~」と続けて語っている)
あるとき制作した、ヒーロー映画の悪役に焦点を当てた映画がチーム最高の映画となる。
しかし、余りのクオリティと主人公の過去やヒーロー側の腐敗の描写も話題となってしまい、当時の公安に目をつけられてしまう。
結果、チームはたまたま買い出しに出ていた自分以外が直属ヒーローに殺され、自分も襲われた。
しかし、ショックで変質した『個性』の行使で、両頬を裂かれつつもヒーローを殺してしまうこととなる。
この殺人から完全に狂気に取り憑かれ、『自身を悪役とし、悪行を重ねヒーローに殺される』という映画の制作に着手した。
勿論、爆発は本物、エキストラはその場に居る者の強制参加となる。
個性『MAD』
映撮が自分の一番好きな映画から取った。元は『テンション』という、深夜テンションになればなるほど身体能力が上昇する頭のおかしい個性だった。10%20%と調整する。
〈心〉が壊れたことにより、上限100%の枷が外れる。現在は250%まで可能。
因みに『MAD』の5%は、『OFA』の10%。
…流石にオールマイトよりは弱いぞ!次期伝承者よりは強いが!
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