人類と魔族の何年にも渡る大戦争。両者に尋常じゃない被害を出したこの戦争が、遂に終わりを迎えようとしていた。
「お前が魔王だな!人類の平和の為、ここで死んでもらう!」
「良く来たなあ勇者よ。本当なら少し話をするんだが…貴様らは我らが魔族を殺しすぎだ。後を追って、謝罪させてやる」
憎悪の篭った目で睨み合う両者は、互いの愛剣を抜き、一気に肉薄した。
勇者が持つ聖剣と魔王が持つ魔剣がぶつかり合った衝撃で周囲に甚大な被害を出しながら二人は殺し会う。戦いの舞台となった魔王城は崩壊を初め、瓦礫が降り注ぐもなお、彼らは互いに切り結ぶ。
「死ね!よくも仲間を、家族を殺してくれたなぁ!」
「貴様だって我らの同胞を何万人も、それに、私のリースはお前に…!」
二人は感情を爆発させて、それに答えるように二人の愛剣は力を増していく。
「「お前さえ居なければあああああああああああああああ!!!!!!」」
光と闇がぶつかり合い、星を揺るがす程の衝撃が発生し、魔王城は光と闇に飲み込まれた。
≪魔王視点≫
「魔王様」
懐かしい声に呼びかけられて、私は目を覚ました。私は、魔王の業務をするときに使用していた執務室にいた。そして、
「リース?」
目の前には、部下から勇者に討ち取られたと報告を受けたリース…私の、魔王の側近がいた。
「どうかなさいましたか?」
なんでリースがいる?というか、勇者はどこに?
「いや、なんでもない。勇者は?」
「勇者ですか?まだ何の情報もないはずですけど…。少し諜報部隊の方に掛け合ってみます」
そう言って、リースは私の執務室から出て行った。
どういうことだ?私は助かったのか…?
違う。あの勇者の攻撃はよくて相打ち。少なくとも、私が生き残る事は不可能と断言出来るほどの威力があった。それに、リースが生きている説明がつかない。彼女は確実に死んだ。確かに実際に見てはいないが、忠実な部下だったリースが一年間に渡り音信不通となっているのだ。死んでいるとしか考えられない。
そんな事を考えていると、足音が響いてきた。
「魔王様。流石です!たった今諜報部から勇者が生まれたという報告がありました!」
勇者が…生まれた?
「ちょ、ちょっと待て。それは本当に今すぐなのか?」
「え、あ、はい。ちょうど10分前、ココサ村で生まれた15歳となった少年が神殿にて勇者であることが確認されました。名前はライガ、家名はまだないそうです」
私が二年前に聞いた勇者についての報告と全くもって同じだ。それはつまり…。
ここは、二年前の魔王城?
≪勇者視点≫
「貴方の職業は…ん!?こ、これは…ゆ、勇者!?」
周囲の人の歓声のようなざわめきで俺の意識が覚醒した。
「勇者だって!凄いじゃんライガ!」
「え…」
俺に声をかけてくれたのは、リュア。俺の幼なじみであり、魔王軍との戦いで殺された少女だ。ついつい腕を伸ばして、彼女の肩に触ってしまう。
「わっ。どうしたの?」
突然の行動にあわてふためくリュア。手から伝わって来る体温も、リュアの反応も、全てが彼女が生きていることを伝えてくれる。
「ぁ…ごめん。ちょっとまってて…」
どうしても涙が出てくるのを防げなくて、俺は地面にうずくまってしまった。
「え、どうし…。わかった!そんなに嬉しかったの~?勇者になったこと~!」
調子のいいリュアの声を聞けたことが、俺にはとても嬉しかった。
人類は神によって十五歳になったとき、天職を教えられる。そして今日は、俺が天職を神によって告げられる日であり、魔王軍との戦いに巻き込まれる事が確定した日だ。
俺は今、二年前の教会にいる。