≪魔王視点≫
執務室へ転移すると、リースが待っていた。
「魔王様。緊急の報告が」
「分かっている」
大方、予想通りだ。念のためリースに私の直属の部隊を預けておいたのが効いたことを祈っておこう。
「被害が最も甚大なのは?」
「それらの情報は既にまとめてあります」
リースが差し出して来た紙には、地図とともに被害と現状が記されている。当たり前だが、都市部より辺境の地の方が被害は大きい。
「リース。辺境の辺りはすべて私がなんとかする。リースは私の部隊を率いて都市部を中心に解除してくれ」
「かしこまりました」
リースが部屋に出て行くのを待たずに、私は転移した。
そこから、私はこの世界を飛び回った。場所によって優先順位をつけながら、その場にいた魔獣をすべて始末していく。
所々、過剰とも思えるような数の魔獣を相手している村もあった。たかが、数十人程度の村が都市部を落とすのに十分な程の魔獣と戦う。偶然…いや、あの娘の言い方的に必然なのだろうが、そんな村の半分は間に合わず、残り半分は壊滅は防げたが、ちょくちょくその村の英雄が殺されるなど、悲惨な結果となった。
多くの命を救えたが、同時に多くの命を見捨てた。すべてが終わった時、私は再度決意した。
必ず、魔獣を滅ぼしてやる。
≪勇者視点≫
学園への報告のため、一度俺は学園の前に転移した。
広大な敷地を持つ学園。その入口にはたくさんの木々が植樹されていて、緑あふれた芸術的な景観を作り出している。そんな王都の有名なスポットとなっている入口は、普段の景観を無くしていた。
「は?」
血の臭い。絶え間無く響く悲鳴と怒号。人類で最も発展していて、誰もが憧れを持つ王都は、地獄を表現しているかのような有様となっていた。
そこで、気がついた。
「時間稼ぎ…!」
わざわざゆっくりと魔獣を帰し、自らを敵と言っておきながら質問に答える。それは、俺達では取り返しのつかないようにするための時間稼ぎだったのだ。
そんなことを考えている間に、また一人、命が消えていく。
「落ち着け」
辺りを見渡すと、学園の制服を纏った少年少女が魔獣を一体一体削っている。
「おりゃゃゃゃゃゃあああ!!!!」
特に、あの体格に見合っていないハンマーを軽々しく振り回し、傷ついた人を癒す少女、リュアは最前線に立ち、複数の魔獣に対して善戦している。
仲間が稼いだ一分一秒を、無駄になんかできる訳がない。
聖剣を抜き、ペンダントを首につける。
「足を止めるな」
聖剣が光を纏い、それが腕を伝って全身に染み込む。
「一撃で仕留めろ」
代償と言うかのように、大量の魔力が消えていく。
「皆を守れ」
一つの思いから、頭に浮かんだ言葉を口にする。
「【限界突破】」
白い閃光が、世界を駆け巡った。それは、どうしようもないくらい理不尽に命を奪い、拾っていく。
まさに、勇者という名に相応しい、化け物の誕生だった。