≪魔王視点≫
一度、予定を確認するために私は執務室へ戻った。
「お待ちしておりました。魔王様」
戻ると、リースが出迎えてくれる。…大量の書類と共に。
「リース。気のせいかもしれんが、仕事、増えていないか?」
「…。今回の襲撃により、魔王城の役人も重傷を負ったり、家族の療養の為、実家に帰ったりで、ここしばらくはこのぐらいの量が限界です」
どこか光を失った目でそう告げられれば、私は書類に手を付けるしか無かった。
日はすっかり沈み、月が頂点を超えた頃、私の仕事はようやく一段落した。これが、しばらく続く。
「ふふ。ふふふ」
おかしくなりそうだ。
「お疲れ様です。魔王様」
そういいながら、リースは飲み物とちょっとしたお菓子を持ってきた。
「おお、気が利くな。頂こう」
リフレッシュしながら、リースとともに予定のすり合わせを行った。
私達は、しばらくの間、復興と魔族至上主義者への対処をしなければならない。前者はともかく、後者は人類と協力する場面が増えるであろうこれからに、必要の無い者達だ。殺すまでは行かなくとも、無力化は必要だろう。
「さて、そろそろ休むとしよう。リースもすぐに休め」
「かしこまりました」
命令形にすることで、リースが残業することを防いでから、私は寝室へと戻った。
≪勇者視点≫
俺は、王都へと戻ると、一先ずリュアのいる怪我人が集められている仮設テントへ向かった。
リュアは今や王都では知らない人がいないほど有名になり、慕われている。それもそのはず。リュアは王都での魔獣への襲撃に対して、率先して前線に立ち、戦った。聖女でありながら持つ、類い稀なる戦闘センスを生かし、多くの魔獣を葬り、多くの人間の命を救ったのだ。
そんなリュアは、今も聖女としての力を使い、今だ減る気配の無い怪我人達へ回復魔法を使っていた。
「よう。リュア」
「あー!ライガ!もうどこ行ってたの!まだまだ仕事あるよ!」
リュアは、怪我人への処置の手を止めずに、紙を渡してきた。
「これが、王都の役人さんが言ってたやつ!頑張ってね!」
そういうと、リュアはまた仕事に戻りはじめた。いやはや、働き者だなぁ。
リュアに渡された紙には、基本的に被害が大きめの所の瓦礫を退かすといった、力仕事系が多くあった。うーん。よくわかってらっしゃる。
そんな俺が初めに向かったのは、孤児院だった。
この孤児院は、王都の数ある建物の中で、真っ先に襲われた。原因は、間違いなくみゅーちゃんが入っていた事であろう。ちなみに、みゅーちゃんの事については、一部の上層部には話しているが、民衆の混乱を防ぐために秘匿しいる。
瓦礫が散乱するもと孤児院の生き残りはゼロ。マールさんも、孤児院の子供達も、皆死んでしまった。それを悼んで、ちょっとしたお花がお供えされていたりする。
瓦礫を土魔法で造りだしたゴーレムとともに退かしていると、腐った腕が下敷きにされていた。これで、何度目だろうか。
前の世界でも似たような事はあったが、どうしても、こういうのは慣れないなと、肩を竦めた。