≪魔王視点≫
「そういえば魔王様。メルについてはどうなさるのですか?」
「む。そうだな…」
執務の後、リースとまったりとしていると、思い出したかのようにリースはそう尋ねてきた。
メルは学園へと通わせる計画のために、様々な準備を進めていたが、なんか予想よりはるかにはやく人類と魔族が和解できたせいで、初めの目的そのものが無くなった。別にメル自体積極的に学園へ行きたいというわけではないだろうし、悩みどころだ。
「うーむ」
「魔王様。お困りのようでしたらメルに選ばせますか?もともとメル自身の人生なわけですし」
リースはそういうが、そういうわけにもいかない気がする。
「それはそうなのだが、私の命令によって、メルの生活は大きく変わってしまっただろう?それを突然変更してしまうと、さらにメルの負担になってしまわないか?無責任な気もしてしまうし」
「でしたらなおさらメルに選ばせるべきです。やりたく無いことを仕事だからと我慢するには、余りにも若いです」
ごもっともな事を言われてしまう。
「そ、うだな。じゃあ明日、このあたりの時間…は夜が遅すぎるな。朝早くに時間をとろう。リース。頼んだぞ」
「かしこまりました」
翌日、朝食へ向かうと、そこにメルがいた。
「魔王様のお仕事のお時間を少しでも確保するため、このような方式でどうでしょうか」
「あ、ああ。それでいい」
私は朝食は静かに取る派なのだが、まああの仕事量では、下手すればリースとのまったりとした時間も無くなってしまうし、まあいいだろう。
「じゃあメル。話しなさい」
「え、えっと…。私は人間世界との関わりは、余り持ちたくないです…」
消え入りそうな声で、メルはそう告げてきた。
「ほう?ということは、外交官とか、それすらも避けたいのか?」
「は、はい…」
「なぜだ?」
「え、えーっと、その、あの…」
口をもごもごさせながら、メルは言い淀んでる。それを見たリースが、ため息をつき、前に出た。
「これについては、私は正確な情報を掴めていないのですが、先日、ちょっとした問題を起こしてしまったらしいのです」
「ほう?」
「あ、それは…!」
止めようとするが、リースの口は動きつづける。
「えーどうやら、こちらの領で復興の手伝いをしている人間に対し、失礼な態度を取ってしまったみたいです。それに周りが食いつき、気がつけば無視できないような喧嘩になったそうで…。もうすでに、その場にいた兵士が解決したらしく、魔王様には報告は届かなかったと思われます」
「あ、えっと…ごめんなさいぃ」
おっとそう来たか。これは…。
「メル。詳細を話せるか?」
「はい…。えっと、手伝ってくれた人に対して、えと、労おうと思ったんですけど、テンパっちゃって、間違えて、よくやったって…。その、そして、周りが笑ってて、変なこと言っちゃったと思って、必死に反論してたら、皆私を睨んでて…」
「「あー」」
詳細を聞き、リースと一緒に頭を抱える。初めはまだ悪ふざけだと思われてそうだが、後から多分相当やばいことを言ったみたいだな…。
「リース。これは教育が必要そうだな」
「そうですね…。勇者に、いや、学園に協力を促してみましょうか」
真面目なはずのメルがこういうことを起こしてしまうとは…。差別意識というものを一刻も早く撤廃していかないとだな…。
≪勇者視点≫
「かんぱ~い!」
リュアの掛け声で、復興のために働いていたボランティア達が、一斉にジョッキを掲げた。今日は、しばらく終わりのこない復興作業の休みの日として、十日に一度開かれる飲み会の日だ。誰でも自由参加で、料理を持ち込んだり、屋台を開いたり、何をしてもオッケーである。そんな飲み会で、人気No.1のリュアが始まりの音頭を取ることになったのである。ちなみに未成年は水だ。つまり、俺とリュアは水だ。別に勇者である俺はなんともないし、リュアは魔法で簡単にアルコールを飛ばせるから別によくても、そこらへんは気をつけている。
「ねーねー!ライガ!一緒に食べよ~!」
「あいよ」
元気いっぱいのリュアと一緒に、会場を見回りながら、ご飯を貰う。勇者とリュアであるので、皆こぞってわけてくれるので、とてもぽかぽかした気持ちになる。
「いや~。ライガすごいねぇ。まさか魔王と和解するなんてねぇ」
「いやいや、リュアの方がすごいよ。ここまで誰からも愛されるなんて、信じられないよ」
「えへへ~」
恥ずかしそうに、うりうりと頭を押し付けて来るリュア。前の世界でも良くやられていたが、やはり慣れない物で、軽く心拍数が上がってしまう。
「む~。でも、もうすぐ学園が再開しちゃうね」
「まあ、強くなるには学園が1番だしなによりまだまだ俺達は力をつけないといけないからな」
学園は魔族との戦争が無くなっても、存続することが決まった。しかし、目的は兵士の育成ではなく、魔獣の倒し方やマナーなど、冒険者育成施設となるようだ。あの、俺に冒険者のイロハを教えてくれたカミルさんが手紙でそう言っていた。
「あ!そうだ。気になってたたんだけど、ライガはどこでその剣を手に入れたの?」
そうしてリュアが指差すのは、少し黒が混じった旧聖剣だ。限界突破を使ったときは新聖剣の方だが、基本的に旧聖剣で魔獣を殺していた。やはりこっちの方が切れ味がいいしね。
「んー。道で拾った」
未来から持ってきたとか、馬鹿げた事と一蹴されるだろうから、適当に流す。
「へー!そんなもの落ちてるんだねぇ」
マジか。信じやがった。
「まあそんなことより、今日は楽しむか!」
これ以上掘り下げられると、リュアでも気づけるような嘘をついてしまいそうなので、話を切り上げ、楽しむことにした。
「そうだね!」
貰ったご飯を片手に、リュアは笑っていた。