復興作業が一段落したという事で、魔王と勇者は久しぶりに集まり、のんびりと話していた。
「どうよ。そっちは」
「そうだな。今のところ復興は進んでいるが、一部の魔族の人類への態度の改善が難しいな」
「のを使いすぎだろ」
「…人類にも差別主義の輩がいるだろう?それはどうしているんだ?」
「あーどうなんだろ。あんまりわかんないけど、喧嘩はよく見るから特に改善とか考えている奴すらいねぇんじゃねぇかな」
「ほう。なら改善の為の活動を打診してみるとしよう」
「ま、いんじゃね」
そこから、どうでもいいことをぺらぺら話したかと思えば、突然勇者が言った。
「魔獣。どうするんだ」
「どうするとは?」
「どっちがみゅーちゃんを抑えて、どっちが魔獣を倒すんだ?」
「ああなるほど。私としては、あの人の魔獣を二人で抑えてるのが妥当だと思っている」
「?じゃあ魔獣は他に任せるのか?…それは、犠牲が出るんじゃ?」
「それを承知しての事だ。私や勇者が魔獣を壊滅させたように、おそらくだが、あの人の魔獣も似たようなことを人類や魔族に対してできるのだろう。だから、それを放置する方が犠牲は出る」
「それは分かってるよ。でも、なんで二人なんだ?」
「なにがあっても、あの人の魔獣を止めるためだ。あれを見逃してしまうのが、一番まずい。それに、人の魔獣を殺すことができれば、この戦いは終わる」
「無理だよ」
魔王がそう言ったとき、勇者でも、魔王でも無い声が響いた。すぐに振り返ると、みゅーちゃんは笑顔でニコニコとしている。無言で、魔王と勇者は戦闘体制に入った。
「わ~!待って待って。戦わないよ!今回は、やり直しについて教えてあげようってだけだよ。だからお兄ちゃんも魔王さんも落ち着いて!」
しばらくの睨み合いの後、魔王と勇者は剣を下ろした。
「うんうん。ありがと!」
「そんなことより、どういうつもりだ」
「ふぇ?」
「やり直しについて教えて、そっちに何の得がある?」
「んー…」
みゅーちゃんは人差し指でほっぺを突き、首を傾げながら言った。
「お兄ちゃんと魔王さんが何も考えずにやり直ししたら、真実を知ったとき後悔するだろうからね!優しさだよっ!」
「「…」」
「簡単に言うとね。この世界をやり直すには、この中の三人の内、誰でもいいから死ねばいいんだよ!守るべき対象が生きている状態でね!」
「は?」
「ちょっと難しい話になるからよく聞いてね!私達、いや、魔王、勇者、人の魔獣はそれぞれ、魔族、人類、魔獣を守るために生まれた存在なの!その存在の核として、強大な力を世界より与えられ、守る。その強大な力の代償に、その役割を請け負う者が死ぬと、同時にその種族は崩壊する。そして、世界は滅びる」
「ん?話が飛び過ぎじゃ?」
「えっとね。じゃあ一つ一つ説明するとね。世界が私達へ力を与えようとしても、どうしても普通の人類や魔族、魔獣じゃ、器が足りない。暴走してしまうんだ。そこで、世界は人類という概念そのものに力を与え、実体化させた。それが勇者。だから、勇者が死ぬことは人類という概念を失ったことと同義であり、人類は滅ぶんだ」
「…え?」
「そしてもう一つ。世界が滅ぶっていう所だけど、魔力を持つ生物が死んだら世界に還るというのは常識だよね。私たちは、その魔力が余りにも多過ぎた。死んでしまうと、余りにも大量の魔力が世界に流れ込んで、魔力の暴走により天変地異が発生する」
「…だとしたら、私達の種の絶滅は、他の種への絶滅も意味するということか?」
「いや、魔王が死ぬ前に魔族が全員死ぬとかだと、そうはならないよ。守るべき者を失った私たちは役割を終えて、長い長い時間をかけてゆっくりと力が世界に還るから、世界に一度に大量の魔力が流れることはないんだよ。故に世界は滅ばない」
「世界が滅ぶ事とやり直しにはどんな関係が?」
「世界が滅んだ時、神様は新たに同じ世界を作る。思考も癖もなにもかも同じ存在を。理由なんて分からないけど、それは事実だからね!」
「というわけで!私はお兄ちゃんと魔王さんを殺せない!お兄ちゃんと魔王さんも私を殺せない!やり直しにはお兄ちゃんと魔王さんの大切を、すべて失わなければならない!これが言いたかったの!ばいばい!」