魔王と勇者は互い腰に付けた剣に手をかけ、放り投げた。
「さあ。話し合おうか。テーブルと椅子は…ここにだそう」
「おう、助かる」
二人は苦笑しながら、椅子に座り、足を組んで向かい合った。
「私個人としては、この戦争は平和的に終わらせるつもりだ。たった二年で数えきれないほどの民が死んだ。捕虜として捕まり、奴隷となった者達もいた。それを繰り返すつもりは毛頭ない」
「それについては同意だ。こっちだって大量に人は死んでいる。それに奴隷だって「待て」なんだよ?」
「奴隷というのは本当か?私は一応奴隷とするのは辞めるよう言っていたはずだが…」
「それはない。俺は奴隷となった人々をこの目でしっかりと見てきた。まあ、魔族の奴隷も見たがな」
「ふむ…。それはすまなかった。まあそれはこちらで何とかする。まあそれはそれとしてこの戦争をどうやって終わらせる?」
「そうだな…」
魔王も勇者もこの戦争が二年前のこの時点で出した被害を知っている。だからこそ、簡単に終戦とはいかないことを理解しているのだ。それゆえに生まれた沈黙だった。
その沈黙を最初に破ったのは…勇者でも、魔王でも無かった。
「いた~!ライガ。なんでどっかいっちゃうのさ!」
「リュア!?なんでここが…?」
「村中回ったんだよ~?ほんとに大変だったんだからぁ~!」
リュアが息を切らした様子で現れた。
「おい。勇者。その娘は確か…」
「すまん。ちょっと戻して来る」
「え~!ライガ酷い!」
「いや、待て」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるリュアの首根っこを引っつかみ連れていこうとする勇者を魔王が止めた。
「第三者の意見も必要だろう。居させてやれ」
「…感謝しろよ。リュア。この魔……えっと「将軍とかにでもしておけ」この将軍様にな」
「はいっ!ありがとうございます将軍様~!」
調子よく頭を下げるリュアを見て、二人は苦笑した。
「では…リュアと言ったな?貴方はこの戦争はどうすれば終わると考える?」
「えっ!私ですか?そんなの決まっています!魔族を滅ぼせばいいんです!」
「ちょっ!リュア!」
「いい。それは想定通りだ。さて、リュアよ。では、魔族を人族として考えてみろ。それでも滅ぼすか?」
「えっ。それは…どうにかして話し合います。で、どっちも一緒に謝って仲良くします」
「成程。まさに理想論だな。どうだ?勇者。可能か?」
「…可能では、あると思う。一年前…違うな。一年後は…ちょっとリュアを戻して来る」
「えっ」
「そうだな」
「ええっ!」
そのまま、問答無用でリュアを戻してきた勇者は口を開いた。
「一年後、俺がリュアを失ったとき、弱音を吐いた。もう戦争を辞めたい。戦いたくないってな。その時は、俺はもうかなりの有名人で、沢山の人を救っていたからな。共感してくれる人が多くて革命が起きる直前にまでいった」
「ほう?」
「まあ、その前にお前らが攻めてきて、そんなこと不可能だって事になってその計画は白紙になったよ」
「つまり、一年後に限らず、実績があればということか…。それはこちらとしては困る。革命無しではダメなのか?」
「無理だ。政治に深く入り込んでいる教会は人類至上主義を掲げているからな。何なら政治に参加している奴等はだいたい人類至上主義だ」
「…成程。それでは、少し提案があるのだが良いか?」
「なんだよ?」
「互いにガセを流すのはどうだ?」
「ガセ?」
「そうだ。人類には人類が滅亡間際だと。魔族には魔族が滅亡間際だと。そういった噂を流すのだ。そうすれば、互いに終戦を望むのではないか?」
「それはそうかも知れないけど…どうやって?」
「組織を作る。魔族と人類共同、代表は私と勇者だ。戦争終結のため、茶番をする」
「茶番…。国境近くの村でも取り合うのか?」
「そうだ。一度奪い取ったという事実を作り、その情報が流れたら元にもどす。それを繰り返せば、いやがおうでも、力が弱まっていると判断出来るだろう。奪い取っても守れない軍なんて、必要ないからな」
「人類と魔族共同の組織なんて作れるか分からないが…」
「勇者だろう?そのくらいやってみせろ」
「うーん。まあ考えてみるよ」
「では一定間隔で連絡を取り合う事にしよう。私はこの方向で進めて行く。良い返事を待っている」
「そうさせてもらう」
勇者と魔王は席を立ち、見つめ合う。
「最後に一つ」
「奇遇だな。俺もだ」
示し合わせたかのように、二人は同時に口を開いた。
「私は貴様を殺す」
「俺はお前を殺す」
「リースを殺したお前を許さない」
「リュアを殺したお前を許さない」
「「全てが終われば、殺し会おう」」
互いに剣を拾い、二人はその場を去った。