≪勇者視点≫
朝、日差しが出たばかりなのに、村はやけに騒がしかった。賑やかというよりは慌ただしく、まるで緊急事態でも起こったみたいだ。
…とりあえず、外に出てみよう。
俺は勇者となったのだ。もし荒事なら、率先して前に出ないと。そんな思いで外に出ると、思いもよらぬ光景が広がっていた。
ボロボロとまではいかないが所々焦げた跡がある馬車。人によってまちまちだが、怪我をしている騎士達。もしかすると、これが王都から派遣されるといっていた迎えの人だったりするのだろうか。ただ、こんなことになっているのなら、村が騒がしくなるのも当然だろう。
「だ、大丈夫ですか?」
見れば、村の人達が騎士達を治療している。その中にリュアも混ざっていて、朝来なかった理由を悟った。と、ぼーっと見ている場合じゃない。少しでも手伝わないと。
そうして手伝って、村が一段落したときには、既に日は高く昇っていた。本来の出発時刻から少し逸れてしまうが、馬の調子も見ないといけないので、出発時刻を遅らせ、その間に俺は、騎士の人達から話を聞くことににした。
「━━━━ということがあったんです」
騎士の人は、悔しそうになにかを握りしめながら、事の端末を語ってくれた。何ということだろう。こちら側は何もしていないのに、突然襲われるなんて。魔族という人類の敵。物語の中でしか知らなかったが、ここで、俺は明確な敵として、魔族という存在を認識した。
「魔王…。絶対に倒さないと」
固く、俺は決意した。
結局、太陽がてっぺんを過ぎるくらいに、やっと村を出ることになった。村の皆に別れを告げて、馬車に揺られること数時間。少し遅れてしまったので、一度野宿することになった。騎士の人達には謝られたけど、むしろ休んで欲しいくらいだ。なんせ、万全の俺を怪我をした人が守っているというのは、なんとも居心地が悪かったからだ。
最低限の食事を終え、明日の朝、はやく出発するため交代で休みを取りはじめる。寝づらかったけど、将来の事を考えると、慣れておくべきなのかも知れない。そうして、休みはじめて何時間か経った頃、体が衝撃を感じた。
「…ん?」
その衝撃を与えていた存在は、聖剣だった。独りでに動きだし、ひたすら布がついたまま刃のない所でペチペチと叩かれている。驚いたが、伝説となる聖剣なのだからおかしくはない…のか?
「なんだよ」
一先ず声をかけて聖剣を握ると、カタカタとふるえ、なにかを伝えようとしていることに気付いた。微細ではあるが、剣先が外を向こうとしている気がした。
━━━もしかして、
魔族の襲撃。最悪の未来を想像して、飛び出るように馬車を出た。辺りは静かで、何の物音もして来ない。そう、見張りの人の生活音も、何も聞こえない。剣を構えて、辺りを警戒する。
「おい」
聞き覚えのある、重い声に呼び止められた。
「な、なんだ!」
恐怖を誤魔化すように声をあげ、音のする方向に剣を向けた。そこには、
「え、」
白く輝く聖剣を持った俺がいた。
「悪いが、その聖剣返して貰うぞ」
その瞬間、俺の視界は暗転して……
馬車の中で朝を迎えた。すぐに俺は聖剣を確認する。
「これは…」
デザインや、手に持った感覚は何一つ変わっていない。ただ、その聖剣は純白の光を宿していた。それが、昨晩の出来事を事実だと物語っていた。