この世界の結末は?   作:ありくい

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勇者の決意

 

≪勇者視点≫

あの襲撃後、何の問題もなく学園へとたどり着いた。一応、全員が寝ていてしまっていたことが問題にはなっていたが、物が取られるなどはなかったため黙殺された。俺は聖剣の事は黙っておく事にしたので、その提案を呑んだ。俺は何も見ていない。夜になんか起きていない。

 

王都の発展具合には度肝を抜かれた物だが、入学式は恙無く進み、無事学びはじめた。魔法や片手剣を中心にクラスの仲間とも交流を深めながら成長していける学園生活は辛くもあるが楽しい物で、人類と魔族の戦争の事なんて忘れていた。

 

そしてなんと驚くべき事に、リュアが学園へ入学した。しかも聖女。勇者の仲間の一人として良く物語に出てくる、これまた有名で希少な職業だ。まあリュアは村でも騎士の人達を助けていたし、優しい彼女にはお似合いだろう。まあ、目の前でハンマーを振り回しているリュアを見ると、そうでも無いような気がしてきたけど。

 

そんな楽しい学園生活の中で悲しい話があった。二刀流を学ぶクラスが戦場へと駆り出され、全滅したという話だ。命からがら帰ってきた兵士の話によると、学園の参戦によって不利な状況から一変、有利な状況へと変わったという。そして、押しに押した結果、一人の魔族の自爆魔法で分断され、主力が敵陣に取り残されてしまったらしい。主力は全滅、残ったのは僅かな兵で絶望しかなかった時、一人の学園の生徒がとんでもない才覚を現した。

 

軍に対して、一人でやり合ってみせたのだ。相手の敵陣に突っ込み、ぽんぽんと魔族の首を飛ばしていく。まさに英雄の誕生であった。しかし、その場にいたものからすれば、それはいつまで続くか分からない物で、その人物が暴れている間に逃げて来たらしい。そして、後にその戦場で大爆発を確認。その生徒の生死は不明。だがらほぼ確実に死んだとの事だ。

 

この話は学園内で大きく話題となり、調査隊が分析した結果大爆発は魔族複数名の自爆魔法という事がわかった。そこから、その学園の生徒を確実に殺すためにそうさせたんだと噂が広まり、ついには物語として語られる事になった。その生徒は、腕前からレイトと呼ばれる生徒だとされ、英雄として多くの者の憧れとなった。

 

この話は耳にタコが出来そうになるくらいあちこちで話されて有名になっている。同時に、俺は自身の浮かれを自覚した。こんな所でのんびりしている場合ではない。

 

強くならないと。

 

勇者として多くを守れるように、俺はひたすらに訓練を続けた。積極的に聖剣を使い、慣らし、いつでも戦えるようにした。だが、この聖剣を見るといつも思い出してしまう。

 

あの日の、絶望的なまでの力を持ったもう一人の俺。今の俺ですら敵わないであろう相手で、そして、あの時以来何もアクションを起こしていない存在でもある。

 

あれは一体何なのか。何故、聖剣を奪うだけでなく、新たな聖剣に変わる剣、いや、間違いなく本物の聖剣を渡して来たのか。何も分からない彼の存在が、ずっと胸にひっかかると同時に、それは俺の成長の手助けとなった。

 

もしあれが敵に回れば、そう考えたとき、このままではダメだと焦りが生まれる。それが俺から慢心をなくして、強くなるのに一役買ってくれた。たまに無理しすぎて熱を出して、リュアに迷惑をかけたけど、それでも、俺は強くなった。

 

明日、俺は戦場へ行く。多くの魔族を殺しに行く。人類の希望として、この戦争に勝つために。

 

 


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