この世界の結末は?   作:ありくい

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勇者と魔王は見続ける

 

見晴らしのいい平原にて人類と魔族の大軍が睨み合っていた。その大軍の間には、魔王と勇者が立っていて、互いに一手を警戒している。どちらかがアクションを起こせば、過去最大の規模となる戦争がはじまる。殺意と恐怖でまみれた戦場を、遠くから眺める一人の男と少女がいた。

 

「どうするんだ」  

 

「そっちは?」

 

少女の姿を取るもう一人の魔王は質問に質問で返されたことに不満を覚えるが、飲み込んで話を続けた。

 

「このままだと、またあの戦争がはじまる。が、私は静観しようと思う。これまで通りに」

 

「へー」

 

気の抜けた返事を、男、勇者は返す。そんな勇者に、魔王は苛立ったように言った。

 

「貴様は!人類魔族共に多過ぎる被害を出したあの戦争はどうするんだ!?」

 

「んー。いや、覚悟してた積もりだけど、やっぱきついな。自分のエゴのために止めれる争いを止めないなんて」

 

「…では、あの村へ行くか?」

 

「…ああ」

 

その返事を聞いてから、魔王と勇者は転移魔法でココサ村へ向かった。ココサ村。勇者の生まれ故郷であるが故に争いへ巻き込まれる、何の変哲もないただの村。魔王軍の想定では戦いにすらならないと考えられていたが、ここで、魔王軍精鋭部隊は足止めを受けてしまう。当時、まだ偶然そこで休暇を過ごしていた学園の生徒であるリュアという聖女が、村をまとめあげ魔王軍に対抗したのだ。

 

最終的に魔王軍は突如として作られた即席部隊を倒した。しかし、魔王軍にしてみれば、想定外の事態。リュアという聖女の命を犠牲にはしたが、人類の危機を大幅に遅らせた。まさに、ターニングポイントの一つといえる。

 

勇者と魔王の目的は、この先の未来を変えずに、リュアという少女を助けること。この世界の勇者の中では死んでいることにしなくてはならない。と、言うのも、理由がある。

 

 

 

魔王と勇者は姿形を変えた後、この先について話し合った。しかし、よさ気な意見はどちらも思い浮かぶことはなかった。どうしたって、あの神の使いのような男を止める手段があるとは思えず、その男を止めた所で、世界の崩壊はさらにその奥にいる何かが起こしているのだ。そこで彼等は、一先ず一つ目の歴史をたどる、つまり、下手な干渉をせずに、自分達が通った世界を見ながら考える事にした。

 

しかし、彼等は人を、魔族を守ってきた立場である。よって、見殺しなどということはあまりしたくはなかった。とはいえ、片っ端から助ければ目立つことは避けられない。なので、彼等は自分達の心の平穏を保つため、自分に関わりの深い者だけを助けることにしたのだ。

 

既に、レイトとニアが助けられている。魔族の自爆に合わせて、すくい取るように二人を救出したのだ。彼等には誰の人目にも付かないような私たちの拠点で共に生活している。

 

 

 

 

 

 

 

魔族の精鋭軍が恐ろしいほどに統率の取れた動きで、人類の領地の奥地へと入り込んでいく。戦力の大半を別に裂いている軍程度では止めることはかなわず、ずるずると撤退を続けるばかりだ。戦線がココサ村近くにたどり着いた時、逃げていた兵士は目を見張る。

 

ただの村。早馬によって情報は伝わっているはずで、一般市民は避難を済ませているはずのその村には、壁があった。

 

やけに大きな土の壁。近寄られればそれまでだが、そうでなければ魔法や弓矢を防げるという防衛時にはなくてはならないものだ。壁からなるべく体をださずに遠距離攻撃をすれば、一方的に数を減らせる。しかし、相手は魔王軍というだけでなく、精鋭部隊。当然、対策はあった。

 

ドォン!

 

爆音と衝動を伴う鉄の塊が、土の壁にぶつかった。それは、壁の端っこに当たり、ボロボロとその部分を崩れさせる。二発目、三発目と土の壁は削られていき、防衛側の優位性が崩されていく。だが、その村にはリュアという聖女がいた。

 

聖女とは、ただ回復するだけの役職ではない。戦いもそれなりにこなすが、何よりも高いのはその防衛力である。勇者を援護する事に特化した聖女が得意とするのは、回復、強化、そして、障壁である。

 

四発目以降、飛んだ鉄の塊は、何かに当たったかのように弾かれた。五発目、六発目と続けるが、透明な聖女の障壁は、そう簡単には破れない。そして、人類側の反撃が始まる。絶妙に息が合った魔法が一斉に魔王軍を襲う。堪らないというように、魔王軍は散らばり、物陰へと身をひそめた。

 

こうして、この戦いは攻め手のかける魔王軍と下手に攻めないようにしている、いや、攻める力のない人類で頓着状態へと陥ったのである。

 


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