聖典とある右手の輪廻還し   作:全智一皆

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ども、全智一皆です。
前書きっていうのは、あれですね。書くのが大変ですねw。
pixivでは、あまり書いていなかったものですから、やはりまだ慣れませんね。


第一章 理想と輪廻 Old_world_is_desirable

■  ■

 それでは、ここでハーレムと純愛のどちらの方が良いのかを語り合おう。

「…一応、聞きます。貴方はどうなんです、上条翔馬さん。貴方もまた、そこのハーレム肯定野郎と同じ意見ですか?」

 薄暗い部屋の中、平凡な高校生“だった”高校生である上里翔流は、つい先程まで行っていた上条当麻との言い合いをずっと傍観していた上条翔馬に突然、質問を投げてきた。

 上里翔流という高校生は、つい最近まで普通の高校生だった。

 彼も、彼の幼馴染である少女も、彼のクラスメイトの少女も、皆そうだった。

 だが、上里翔流の右手に『理想送り』という力が宿ったその時から、その普通は皆等しく狂わされたのだと、彼は言った。

 上里翔流という高校生自体に、意味は無い。彼女達が寄ってくれるのは、その右手があるからだ、と。

 魔神が勝手に押し付けた産物。平凡を壊した魔神に復讐する為に、やってきた。

 上里は、上条翔馬がどうしてその右手に『輪廻還し』という力を宿したのか知っている。

 上条翔馬は、上条当麻とインデックスという少女を守る為に、救う為に、厄災を自身に宿した。

 そんな彼の答えなど分かりきっている。

 だが、聞きたいと思った。もしかしたら、を信じて聞こうと思った。

 だから、上里は問う。上条翔馬に、問う。

 

「…俺は、君の気持ちが分からないでもない」

「…!」

「…」

 

 上里は、目を見開いた。当麻は、何も言わなかった。

 降ろしていた腰を、ゆっくりと上げて翔馬は立ち上がった。

 その目は、とても真剣で。纏う雰囲気は、怒っているというよりは困っている、という感じに近かった。

 

「右手があるから、皆が来てくれる。右手が無ければ、見向きもされない。右手の力が、人を簡単に依存させる。人を簡単の駄目にする。…そう考えない事が、無い訳じゃない。もしも俺が、君のように『輪廻還し』を宿したなら、恐らく君と似たような考えに至っていたかもしれない」

 

 静かに口を開き、語る。

 ずっと、普通の人間として生きていたとして。

 突如、訳の分からない存在から訳の分からない力を宿されて。

 それまで見向きもされなかったのに、そんな力が宿って、その力を使ったその瞬間に色んな人から敬われるように近付かれる。

 そんな状況が作り出されたら。そんな現実になってしまったら。

 上里のように考えていたのかもしれない、と。青年は言った。

 しかし、続ける。

 

「でも、右手の力が無ければただの凡人で、自分は何も出来ないという君の考えは、否定する。右手の力が無くても、君は彼女達に慕われていた筈だよ」

 

 青年の弟である当麻は、その力は『魔神』が“押し付けたもの”ではなく『魔神』が“与えてくれたもの”だと言った。

 上里翔流という人間と関わりたいのに、あと少しの意思が足りない少女達の背中をちょっと後押ししただけだったのもしれない、と。

 魔神が上里翔流に“要らない力を押し付けた”のではなく、魔神が上里翔流に“本来持つべき力を与えた”のであると。

 上条当麻という少年に、『幻想殺し』が宿る程の何かがあるように。

 上里翔流という少年にも、『理想送り』が宿る程のものがあると。

 そう確信しているからこそ、青年は上里翔流という少年の考えを否定した。

 

「俺は、当麻とも君とも違う。力を手に入れた境遇も違うし、俺のは『救う力』であるかも怪しい。だから、全てを理解出来る訳じゃない。でも、上里くん。君が、『救う力』そのものが無くたって、彼女達の立派なヒーローであった事は確かだと分かるよ」

「…アンタも、結局は殆ど同じか。…一応聞きますが、どうして、ぼくが右手の力が無くとも彼女達のヒーローである事が確かだと、思うんだ?」

 

「だって、“君はパトリシアを

見捨てなかったじゃないか”。」

 

「……………………………………」

 

「君は彼女を見捨てなかった。捨ててしまいたい力を使ってでも、彼女を助けようとした。本当に、自分は平均値かそれ以下しか出せないような人間だと思っているなら、彼女を助けなかった筈なんだ。右手の力を嫌っている人間が、右手の力で色んな子から慕われる事を嫌っている、そんな人間である君が、誰かを助けるなんて俺は考えられない。」

 

「でも、君は彼女を助けた。見捨てずに、しっかりと彼女と向き合ってパトリシアという少女を助けた。嫌悪する右手を使ってでも、彼女を助けたいとした。それは、君がヒーローである事の証明に、十分足りるものであると、俺は思う。」

 

「俺の考えを否定したって構わない。結局、これは俺の勝手な考えだ。でも、君が何を言ったとしても、俺は何度も同じように答えるよ。自惚れの考えだとしても、俺はこの考えを捨てない。君がヒーローである事を、俺は肯定しているよ。」

 

 困ったような表情を浮かべながら、青年は説くように語った。

 上条当麻も上里翔流も、ヒーロー性という魂の輝きを持っている。

 上条当麻のヒーロー性は、一言で言ってしまえば「否定」。

 歪みが生じた対象の理想を否定し、正しい道へ戻すという救い方。

 上里翔流のヒーロー性は、一言で言えば「肯定」。

 対象の理想を尊重し、それを成し遂げる手助けをすることで救う事を信条とする。

 その魂の輝き故に、右手に特殊な力が宿されたのだ。

 上条翔馬もまた、その例に漏れず。

 上条翔馬のヒーロー性とは、完全なる自己犠牲である。

 対象の理想を、自分の何もかもを犠牲にして救おうとする、もうどうにも出来ない偽善性。

 歪みが生じた理想を正しい方へ導く為に否定しながらも、その理想をやんわりと肯定する。

 自分を蔑む事を第一に。彼は自分の思考が破綻したものである事を自分で理解していながら、しかしそれを捨てきれないのだ。

 

「時間を掛けてでも良い。たった一度だけでも良いから、どうか彼女達に自分の事をを聞いてくれ。今のままでは、君も、そして彼女達も、どれだけ先に進んだとしても報われないから。君が彼女達に自分を問う。それだけで、道は更に開ける筈だ。」

 

 大人だから、ではない。

 彼らより長く生き、彼らより長く人を助けてきたからこそ、それは言える事だ。

 上里からすれば、お節介だろう。余計な事だろう。

 だが、上条翔馬という人間の性質が分かってしまったからには、それだけでは済まされない。

 自己犠牲精神の塊である彼の影響というのは、それ程までに凄まじいものだ。

 

「…貴方は、何故そこまでぼくに言ってくれるんですか。貴方からすれば、ぼくは他人でしょう。」

 上里は、訝しむように青年へと問う。

 青年は少し困ったような表情を浮かべて、

「“助けたい”と思ったから。」

 そう、答えた。

 

 根底は、全く一緒なのだ。

 




これからも投稿していくぞー。

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