残火と天の落とし子   作:yakitori食べたいね

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呪いは廻り出す

 

 

 

 

俺は、生まれた時から意識があった。

何故か言葉もわかったし、考える脳味噌もついてた。多分、幸運な方なんだろう。

 

この家は呪術師の家系だ。

それも、御三家と呼ばれる程の大手の血筋だ。そんな陰険な仕事をする家系の人間がまともなはずも無い。

絶対的な実力主義の家。

そんな家に、俺は生まれてしまった。

幸いというべきか、呪いとでもいうべきか、俺は天からの才に恵まれていた。

呪術師としての才能に。

 

 

 

だから鍛えた。

唯ひたすらに繰り返した。何度も何度も身体を鍛え上げた。身体が呪力に慣れると、身体に呪力を回した分だけ強化される様になった。

子供の身体は便利だった。

鉄が、鍛えれば鍛えるほど純度が増すように、身体に異常な負担をかける度にそれに耐えられる様に進化していった。

 

呪力を身体全体に廻す。

すると、肉体強度と引き換えに身体への負担がかかる。俺はそこそこ多い呪力量を持っていた。それを全て身体に注ぎ込んで無理な動きをすれば肉が千切れ、骨が軋む。

未熟な肉体に、強化率が追いつけていないのだ。

 

そこで呪力と呪力を重ね合わせる。

負のエネルギーである呪力同士を掛け合わせることで、まるで数式のようにプラスへのエネルギーに変換される。

ただ、重ね合わせる呪力の量はぴったり全く同じでなければ大幅に呪力をロスする。

少なくとも俺はそうだった。

そうして生み出した正のエネルギーを使って傷を癒す。

 

そうして修行に明け暮れた。

そうでもしなければ勝てない人物がいたから。

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

俺は夢を見る。

何も無い白い空間の中に、老人が佇んでいる。その老人の顔には皺こそあるものの、その五体にある筋肉は常人を遥かに超えていた。まるで、消えかけの炎の様な印象を俺は受けた。

 

 

 

彼は何も言わなかった。

ただ、俺に修行をつけるかのように殺してきた。

 

最初は訳も分からぬまま死んだ。

目を離してなどいないのに彼はいつの間にか消えて、そして俺は目が覚める。それを繰り返すだけだった。悪夢にしては意味の無いものだと思った。

 

ある日彼が俺のことを殴って殺している事に気づいた。単純に速過ぎて気づけなかっただけだったのだ。

 

 

その後気付いたからといって反応できる訳もなく、予測して拳を置いてみたものの寧ろこっちの拳が砕けると言う悲惨なものだった。それを何度か繰り返す内に、今のままでは何もかも足りないと気づいた。

実力も、経験も、呪力も、筋力も、その全てが足りなかった。

 

だから必死に鍛えた。

全部を学ぶ為に、家業にも力を入れた。

呪霊や呪詛師との戦闘経験を、俺よりも強い人物との殺し合いを、そして何より自らの地力を。それら全てを鍛える為には、禪院という環境は最適だったといえる。

 

自分より優れた実力を認めたくない者が家には何人もいた。実際躯倶留隊や灯の連中は何度か襲ってくることがあった。

が、それは当主によって行動を諫められ、そう行動する人物は日に日に減っていった。

 

その分、外での実戦経験が増えた。

俺は呪詛師連中にも賞金をかけられている様で、そこそこ強い連中もいた。

ただ、彼ほどの化け物には会ったことが無かった。

 

 

 

 

10歳の冬、彼の全力を始めて見る。

 

 

10歳になって数ヶ月、彼の殴りを捌けるようになった。気がつけばいつの日からか黒く焼け焦げただけの刀が空間の中にポツンと在った。

 

 

その時重國は理解した。この刀こそが、彼の正体なのだと。生き方そのものが刀の形に具現化したものだと。

 

理解したまでは良かった。彼が刀を地面より引き抜いた瞬間、圧倒的な熱波が空間を襲った。

 

『残火の太刀"西"残日獄衣』

 

全身と刀に太陽の中心温度と等しい千五百万度という超高温の炎を纏い、近づくことすら許さない守りに置いて残火の太刀最高の技。

 

顕現した炎の熱によって空間の気温が上がる。

上がるといっても四十度とかの次元ではなく、一瞬にして重國の周りの空間は摂氏五百度を優に超える文字通りの灼熱と化した。顕現して2秒もたたないうちに空間を完全に支配する存在は彼へと完全に変わった。

 

呼吸するだけで肺は爛れ、皮膚は破れる。皮膚表面は呪力で全く覆わずに捨てる。両拳と体を動かす最低限の筋肉だけを呪力で守り、インパクトの瞬間の一撃にその余剰分の呪力を全て込める。

重國に残った勝ち筋は攻撃させる間も無く拳で殴り殺すことだけだ。

 

 

 

 

 

そして打撃を加えた瞬間、黒い光が彼に微笑む。

 

"黒閃"

 

打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。

 

これを成功させた術師は一種のゾーン状態に入る。現実、彼は既に2撃目を入れようとしていた。そしてまたもや黒い光は彼に味方する─────

 

 

 

『残火の太刀"東"旭日刃』

 

彼は纏っていた炎を全て刀の刃先の一筋に集中し、牙突を行った。

 

 

太陽と見紛う程の熱量。それを一点に収束させたことにより、消滅したかのように重國の胴は燃え尽きた。

其れにより拳は勢いを無くし、彼の胸にコツンと当たるのみに終わる。

 

身体を支える骨が無くなり自然と倒れてゆく。だが、倒れゆく重國の眼には、絶望も、恐怖も映っていなかった。

そこにあるのは思考だけ。どうすれば勝てるか、何が足りないのかを彼は冷静に考えて男を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

母は愚かだった。

禪院の当主から産まれておきながら術式も持たず、並以上に呪力はあれどそれを扱うセンスは一切有していなかった。それは、女性蔑視に実力主義の二つが組み込まれている禪院の家においては、致命的な弱点だった。

 

故に婿取りの為の材料となることは必然だった。だが、そこでも彼女は失敗してしまった。何年経っても、子を産むことができなかったのだ。

 

婿に来た男は若くして準一級術師となり、術式も優秀なものだったらしい。

一級術師になるのも時間の問題と言われていた。そんな有望株を捨て置く禪院ではなく、別の女が男にはあてがわれた。

もしかすると、男側に問題があったかもしれないとの考えがあったらしい。

 

 

 

そしてその三カ月後、新しくきた女を男は孕ませた。母は、気が狂ってしまった。

政略結婚ではあったが、男のことを母は愛していたらしい。

それ故の狂気に満ちた行動だった。

 

母は()()()誰にも気づかれることなく男と女の寝床に侵入し、()()()忌庫から取り出すことができた呪具を使って男の頭を何度も刺した。男は即死、女は物音で目が覚め絶叫をあげた。

 

その声に反応した"灯"の1人が部屋に突入するも時すでに遅し、女の胎を母は切り開いて滅多刺しにしていた。特に下腹部を念入りに、生き残る事がないように。

灯は直ぐに母を殺そうとした。無抵抗で母は受け入れようとしていたが、そこに当主である直毘人が登場した瞬間、母は叫んだという。

 

『私はあの人の子を孕んでいる。この売女は私からあの人を奪った、死んで当たり前だ』

 

そのような意志を彼女は示したらしい。

それに当主は驚いていた。それはそうだ、子ができたのならわざわざ父を殺す必要はなかった。女だけを始末すれば良かった。

母は父に裏切られたと思っていたらしい。

 

『ならば子が生まれるまで待とう』

 

そう彼は言った。その言葉の中に、どんな感情が込められていたのかはわからない。実の娘がこの行動に及んだ意図を理解した時、彼は一体どう思ったのだろうか。

俺は疑問に思った。

 

 

約10ヶ月後、母は特に問題なく俺を産んだ。そしてその数日後、遺言も何も残さず彼女は首を吊って死んだ。

俺を産むことは所詮父への愛情でしかなくて、それだけが今は亡き父との繋がりを感じる手段だったからなのだろう。

 

 

それが、俺の出生の話。

実に呪術師らしい産まれ方だと俺は思った。

それと同時に、母の死に方も呪術師らしい末路だと感じた。

 

 

 

その後俺は禪院扇の養子となった。

彼の子が恵まれていなかったことの皮肉も含められていたのかもしれない。

 

 

彼からはそれなりに愛されていたと思う。

それは彼に2人の娘がいたからだ。

俺の一個上の姉であるその2人は双子だった。だから彼女達は冷遇されていた。

 

呪術的に双子は凶兆とされている。

それは本来一つとして生まれるはずの一つの魂が双子は二つに分けられた魂が同じものと解釈される為、2人で1人として呪術的に扱われる。つまり単純に弱くなる。

それはただただ忌み嫌われる原因にしかなることはなかった。

 

 

姉2人は、家の人間からは疎まれていた。

それに反して、俺は受け入れられていた。

特に上の姉である真希は叔父の直哉によく虐められていた。可哀想だとは思ったが、それ以上に興味は持たなかった。

母の弟だった彼は、よく俺にも絡んできた。

俺が7歳の時既に、彼の評判は地に落ちていて、唯一認められているのは実力だけ。

性格はゴミ、カス、呪霊以下などと揶揄されるような人物だったらしい。

 

ただ彼は俺に対して他の人に対する言動よりは悪意に満ちていなかった。

所詮母と姉を貶される程度。

俺を直接馬鹿にする様な発言は聞いたことが無かった。

 

ある日、また彼が真希を虐めているのを見て単純に疑問が湧いた。

だから直接聞いてみる事にした。

 

「直哉」

「ん?どしたん重國くん」

「何故真希を虐めるんだ?」

 

何も包み隠さず、疑問をそのまま伝えた。

 

「怖いなぁ、正義感だしたくなっちゃった感じなん?」

 

まぁええわ、そう言って彼は説明する。

 

 

「そりゃあの子が無能だからや。無駄に頑張って強なろうとしとる。女としての自覚もない。女はな、男の三歩後ろ歩かなあかんねん。それができん奴は背中刺されて死んだらええ」

 

──因みにこの子の親は畜生腹のカスやったけどそこら辺はちゃあんと理解しとったで。

 

なんてアイツは続けた。

 

「想像よりどうでもいい理由だったな」

「あ、そう。因みになんでやと思っとったん?」

「"理由なんてない"それが答えだと勝手に思っていた。『唯の気紛れ、憂さ晴らしに過ぎない』でなければ虐める必要がない」

「君やっぱ俺より性格悪いんとちゃうか?」

「それは無い」

 

 

 

 

 

そして俺が14になった時、姉2人は家を出た。真希は禪院家当主となるのだと言う。

真希に追随するように、真依も高専に通うこととなった。

厄介払いの意も込められていたのだろう。

簡単に通うことは叶った。

ただ、当主になると発言したことで扇らの怒りを買ってしまい、躯倶留隊にて培われた経験があれば二級程度には直ぐになれそうなところを、わざわざ妨害してまで四級に留めていた。

 

そして彼女等が入学して数ヶ月後、転機が訪れる。

 

 

 

特級呪詛師夏油傑が高専に宣戦布告を行った。12月24日新宿と京都にそれぞれ千の呪霊を放つ。百鬼夜行を現代に再現する。

ブラフで天元や御三家の忌庫を狙う可能性もあると思われるが百鬼夜行を行うということ自体は真実だろう。実際の計画をバラすことでの縛りを結び、百鬼夜行という出来事を再現してさらに効力を上げる縛りと思われる。

夏油が言ったことは確実に行われると見て大丈夫だろう。

 

問題は裏で何を考えているか。本当にただ呪術界に喧嘩を売るだけで終わるなんてことはない。呪霊操術は間違いなく無下限呪術と張り合える術式だ。だが、彼本人の実力も他とは突出していた。それ故に彼は最強と言われていたのだ。

そんな男がそこまで見通せないわけがない。

 

 

兎にも角にも俺が呪霊を祓いまくることには変わりない。出来るだけ早々に殲滅を終わらせて夏油の動向を探る。それが目的だった。

 

 

 

 

が、百鬼夜行は夏油傑の死という形で幕を下ろした。

俺の戦績は一級呪霊三体、準一級呪霊七体、呪詛師2名という微妙な結果に終わった。

特級は京都校のゴリラが祓った。

 

夏油傑の目的は、乙骨憂太を殺害後、特級禍呪怨霊である祈本里香を使役し、五条悟を殺害して呪術界に勝利した後、非術師を大量殺戮する作戦だったらしい。

 

結局は乙骨憂太に敗北し五条悟が殺害したとのことだ。

 

俺は今回の事件や、今までの高専とのやり取りを含めて俺は高専に勧誘を受けた。

家にも多額の支援が送られることもあり、躯倶留隊や灯に数名の被害が出ていたことも考慮されて受領された。

 

多分だが禪院としては建前で、姉2人を身近に妨害したいがための行動でもあるだろう。

くだらない老害連中はさっさと除去したほうが都合がいいと俺は常々思っているのだがそんな塵でも呪術界の一翼を担う人間、やはりいなくなればいなくなったらで都合が悪い。

 

無能な怠け者より無能な働き者の方が圧倒的に邪魔だとはよくいうが、少し働けるだけの塵が1番面倒だと俺は最近知った。

 

 

 

───────────────────

 

 

私達には弟がいた。

恐ろしいほど強い弟が。

アイツはあの家の中で1番強かった。

私よりも、直哉よりも、ジジイよりも。

私が家を出る時点で既に実質的な禪院家最強の地位を得ていた。私のような天与呪縛の歪な強さでもなく、ただただ術師としての実力がずば抜けていた。バカ目隠しと同じ領域の天才。

孤高の天才、誰1人奴を理解できず、誰1人として理解しようとしなかった。

 

直哉以外は。

 

アイツは私達がガキの頃からシゲにずっと張り付いていた。きっと気づいていたのだろう。アイツが他の人間とは何か違うということを。それは直感的なものか、それとも経験からきているものかは私には分らなかった。

 

クソ親父は大層アイツのことを可愛がっていたようで、求めさえされれば好きなものを与えていた。

そもそも求める機会はかなり少なかったが、アイツが刀を欲しがった時にはすぐに与えていた。

 

血の繋がった親子関係ではないが、間違いなく奴はシゲに愛情を与えていた。

それが、憎かったのか、羨ましかったのかは覚えていない。

 

本当は気づいていた。扇がアイツじゃなく、アイツの強さしか見ていないことを。

それでも、そうだとしても。

 

ただ、真依にその優しさを分けてあげて欲しかった。

 

 

 

 

だから、私はアイツのことがずっと嫌いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんか、とんでもないことになっちゃったなあ」

 

ポツンと一人で教室にいる憂太が言った。

ガラリと真希が教室のドアを勢いよく開けると憂太は驚いているようだった。

 

「真希さん」

「何してんだ今週は休講だろ」

「いやなんか落ち着かなくって…寮の人達も全然いないし」

「2年は前から京都に遠征中だったからな。棘は3、4年と新宿でバックアップ。パンダは学長のお気に入りだからな、多分棘と一緒だろ」

「そっかぁ」

 

憂太は会話を終わらせると、少し気まずい様子だった。

 

 

「聞けよ」

「えっ!?」

「気になってんだろ。なんで私が落ちこぼれか」

「いや………うん………はい…」

「ウチ…禪院家はな、御三家って呼ばれるエリート呪術師の家系なんだよ」

 

憂太の脳内には3色の2回進化する生物が浮かんだが、流石に口には出さなかった。

 

「オマエ、呪術師に必要な最低限の素質って分かるか?」

「えっ何かなぁ…」

「呪いが"見える"ことだ」

「あ、そっか」

「一般人でも死に際とか特殊な状況で見えることがあるけどな」

 

真希は目元から眼鏡を取って言う。

 

「私はこのダセェ眼鏡がねぇと呪いが見えねぇ。私の呪具は初めから呪力がこもってるモンで、私がどうこうしてる訳じゃねぇ。

おかげで家出られたけどな!!飯は不味いし部屋は狭いし弟も彷徨いてる。本当最悪だったわ!」

 

 

 

「その弟って…前にも言ってた人?」

「あ?あぁ、そうだ。重國…シゲな。気持ち悪りぃクソガキだよ本当に。私を敬いもしねぇ、ずっとお前には興味ないですーみたいな面で出歩いていやがる」

 

その後も、数分間ずっと重國の愚痴を言い続けていた。

 

 

そして、一息ついた頃憂太が笑って喋り出す。

 

 

 

 

 

「あはは…真希さんは多分その子のことそんな嫌いになってないと思うよ」

「はぁ?何言ってんだオマエ」

 

心底真希は疑問の様で、自分がどんな表情でその話をしていたかを把握していない様子だった。

 

「だって真希さん、弟君の話する時すっごく懐かしそうな顔してるんだもん」

 

 

 

瞬間、真希の脳内に数少ない思い出が巡る。

花火が上がるのを共に見る光景、思い出さない様にしていた呪霊から守られたこと。

本当に昔の、家族みんなで寝ていた記憶。

 

それを今、無視しようとしていた感情と共に思い出した。

 

 

「ああ、私シゲになーんもやってあげてないか」

 

 

それは、後悔だった。

なんだかんだと理由をつけて弟に関わらないようにしていたことを真希はやっと理解した。真希は真依にしか手が届かなかった。

アイツのことを理解も、共感もしていない。

 

 

理解しようとしなかったのは、怖かったから。

 

それでも

 

「これからでも姉らしいことしてやれんのかな…」

 

 

そう弱気でも、心の奥にしまってあった本心を口にして表すことができた。

 

「真希さんなら大丈夫だよ!僕に出来ることがあったらなんでも言って!」

「ハッ…余計なお世話だよ」

「えぇ…」

 

憂太の気遣いを無為にするような発言に、つい声が出てしまった。

 

ただ、と真希は続ける。

 

 

「ありがとよ、憂太」

 

 

その顔には、先ほどまでの憂いは写っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

入学数日前、伏黒恵と初めて会った。

 

「君が、伏黒か」

「はい。禪院重國さんですよね?」

 

邂逅の場は、禪院家の本家にある、俺の自室。

 

 

「同学年だろう、そんなに緊張しなくても構わない」

「…わかりました。なら単刀直入に聞きます。何故俺はあなたに呼ばれたんでしょうか」

「禪院家相伝の術式を持っている…十種影法術を持つ人間を放っておけると思うか?それも五条悟の関係者」

「いや、思わないです。なら品定めと言ったところですか」

「少し違う、ただ現状を知りたいんだそうだ」

「というと?」

 

俺は手招きをして返す。

 

「全力で来い、揉んでやる」

 

そう言った直後、背後より巨大な蛇が俺に噛み付いた。

 

「有無を言わさせない奇襲、悪くない」

 

噛み付く口を拳で弾き返す。

 

「"鵺"!」

 

伏黒の方へ振り向くと彼は既に怪鳥を盾にして突撃してきていた。

 

「術者本人もステゴロで殴るか。確かに電気との組み合わせは良いな。それも五条悟の教育か?」

 

そう言って俺は彼の攻撃を捌きながら話す。

ラッシュが途切れた瞬間、俺は彼を噸の間に蹴り飛ばす。

 

「ガハッ…」

「狼狽える暇はないぞ、次だ」

 

飛ばされる伏黒に追いつきながら助言を施す。蹴った衝撃で数本骨は折れたかヒビが入っただろうが、この程度でダメになるなら呪術師なんて到底させられない。

 

すると、後ろからさっきの鳥が襲い掛かる。

先程と同様に身体に電気を纏った突進は、相手が防いだとしても痺れる良い判断だ。

 

「消してなかったか。…そして対処する間に立て直す…と。ふむ、及第点だな」

 

俺が鵺を殴る間に立て直し、破壊される前に消した。

 

「"玉犬"…!」

 

犬を模る影絵を作り、二匹の犬を呼び出した。ここまで追い詰めて三種しか出さないのなら調伏済みは先程の二体のみか。

 

1人と2体での波状攻撃を仕掛ける伏黒を対処しながら思考を巡らせる。

 

まともに呪術師を始めようとしたのは丁度去年くらいだったと聞く。それでこの程度なら充分だろう。

体術も悪くない、というか慣れてるな。喧嘩小僧か?

 

「よし、そろそろ終わりに──」

「ちょっとぉ?うちの恵ちゃんになにしてるのぉ???」

 

クソ目隠しカス(五条悟)が現れた。

 

「黙れ、殺すぞ」

「出来るもんならやってみなよ、此処で」

「ちっ…気色悪い」

「負け惜しみにしか聞こえないぜ?坊や」

「…ところで伏黒恵の教育はお前がしているのか?」

「そうだよん。何か問題でも?」

「いや…今は問題ないか。俺が口出しすることでもなし、これからの成長に期待だ」

 

カスから離れて伏黒にボソボソと話しかける。

 

「お前あれと話してて頭おかしくならないのか」

「なります。ただ、実力は信頼してるので」

「そうか、お前も大変だな。今日はこれで終わり、帰って大丈夫だぞ。骨は家入に治してもらえ」

「やっぱ折れてますかね」

「すまんな、手加減が難しかった」

「いえ、これは俺の実力不足のせいなので」

「理解してるならよし。同じ一年同士だ、校舎こそ違うが共に任務をすることもあるだろう。今後ともよろしく」

 

そう言って俺は手を差し出して握手を求めた。伏黒もそれに応えて手を差し伸べ───

 

 

パシっと手が弾かれる音がした。

目の前の白髪の男を見る。

 

「なにしようとしてんの?君」

「何…か。ただのマーキングだ。死んでもらっちゃ困る」

「は?どういうことですか」

「お前が死にかけた時に反応する呪いをかけようとした。まぁ念の為にかけるだけだから強い効力はない。本当に死にかけた時に俺に通知が来るだけで常に場所が把握される訳じゃない」

「それが許されると思ってんの?」

「コイツだって死にたくはないだろう」

 

そう言って俺は五条悟を睨みつける。

 

「まぁ、つけようがつけまいが俺にはどうでもいい。説得はお前がするんだな」

「ってことはやっぱ重國の独断じゃなくてあのジジイか。狸だね」

 

五条は口元を歪めてヘッと飛ばす。

その顔は不快感に満ちた表情だった。

 

「ダメならさっさと帰ってくれないか。お前と同じ空気を吸うだけで不快感がする」

 

何処からか取り出していたファブリーズを噴射しながらそう言った。

 

「カッチーン……恵ー、先タクシーで帰っててー」

「は?まぁいいですけど、何するんですか」

「コイツボッコボコにすんのよ」

「ほう?言うじゃないか、俺にビビり散らかしてた分際の癖して」

「ぶっ殺す」

「やってみろよ、坊や?」

 

 

 

伏黒恵との邂逅は、それで幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして4月1日、俺は呪術高専京都校に入学する。

 

 

 

同級生は新田新という術式を得た元一般人だった。初めて出会った日にはかなり平身低頭だったが、何度か一緒に任務に行くうちに態度は緩んでいった。

 

 

詳しい詳細は聞いていないが、呪力を込めた対象を一時的に固定する術式は呪霊討伐にかなり役立った。というよりコイツと組むと楽だ。

俺は術式を使うと基本オーバーキルして周りにも影響を与えてしまうが、後処理が面倒なのと帳程度ならそのまま壊してしまうので使う訳にはいかない。

ただそうすると範囲攻撃ができないから火力を出しづらい。

 

そこで役立つのがコイツの術式。呪霊をその場で留めてフルボッコにすればすぐに終わる。準一級以上の術式持ちは面倒な奴も多いが、これのおかげでだいぶ楽だった。

 

コイツ自身はそこまで強くないが、これから4年間で鍛えればいい。禪院に招くのもやぶさかではない程度には俺は新田を気に入っていた。

 

 

「田辺、新田は?」

「今回は2年の方と任務です」

「ならこのゴリラは?」

「一級術師の東堂葵さんです」

「そうか…」

 

俺は目の前の半裸の男を見る。

その目元には大きな傷跡が残っており、堅気の人間からすればその道の人だろうと考える様な見た目だ。

 

「どんな女が好み(タイプ)だ?」

 

初対面でいきなり爆弾発言をしてきた。

正直言ってドン引きだった。

 

「おっと、すまない男でも構わないぞ。因みに俺は」

 

 

尻と身長のでかい女がタイプです!!!!

 

 

 

クソデカボイスで叫んできた。

俺は初対面だがもうすでに君のことが嫌いだ。

…?変な電波受信した。

それはそれとして仕事をこれから共にする身だ。一応質問には答えよう。

そう考えたのが間違いだった。

 

「飯が美味い顔のいい女」

「…そうか。つまらんなお前は」

 

そう言って俺に襲いかかった。

 

俺は思い出した。コイツが特級倒した奴だと。対象との位置替えの術式、なる程確かにペアで使うのにはかなり役立つ術式だろう。

ただ、絶望的に性格が合わない人間とは組ませること自体が間違っている。

 

楽巌寺はそんなことも理解できていないのだろうか。やはりボケているか。

爺だもんな、仕方ない。

 

 

 

 

 

「へっくし!…?」

 

唐突に馬鹿にされた、何処かの学長は風邪を訝しんだとか。

 

 

 

 

東堂は最初はこちらを舐めてかかり、攻撃を受けるつもりでいたようだが一撃喰らった時点で力量差を把握したようで本気モードに突入。術式も使って相手をしてきた。

 

こいつの術式は領域だろうが無かろうが術式効果範囲内にいれば必中とかいうなかなか巫山戯た能力をしている。

対象との位置変換…恐らく呪符と田辺を置換したことから呪力を持った物同士が条件と思われる。

 

思い出すまでの数回の格闘を繰り広げるうちに、数撃食らってしまった。

打撃もかなり重い。単純な身体能力はいいとこ俺の半分。ただ、シンプルに強力な術式での撹乱で調子が狂う。

 

それはそれとして、必中ならば落花の情で反応すればいい。ブラフでの拍手も術式を受けた時点で発動する落花の情なら問題ない。

 

 

「あ。」

「あじゃないですよ!どうするんですか!」

 

呪符を散布させてこちらに飛ばした後、俺と呪符を変換した時に身体が自動で反応してそのままダウンさせてしまった。

 

 

「…まぁ報酬は1:1で分けといてくれ」

「現場までまだ距離あるんですけどぉ!?」

「ならとりあえずコイツも持って向かうか」

 

そう言って俺は東堂を肩に担いだ。

 

 

今回の呪霊は窓からの情報によると今まで9人以上の一般人が被害に遭い、階級は最低でも一級。

場所が本土から離れた離島ということもあり被害人数自体は抑えられたが術師はおらず、単独で向かった二級術師は死亡。

一級2人で当たる任務にしては簡単に思えるが、念を押してとのことらしい。

 

「あ゛ぁ?」

 

おっと、東堂が起きたようだ。

 

「おはよう東堂葵。仕事だ」

「お前、誰だ?」

「一級術師の禪院重國。お前の後輩だ」

「ほう…?ならば聞こう、どんな女が」

「もう答えた。その上でお前が襲ってきて勝った。取り敢えず気に入らんかもしれんが仕事だ納得してくれ」

「むぅ…俺は高田ちゃんの握手会が明日にはあるから帰らねばならんのだ」

「アイドルか?なら速攻で終わらせて帰る為にも協力しろ」

「なら仕方ないか、いいだろう重國。手伝ってやる」

 

こういう輩は自分の言葉に正直だから少し折れると扱いやすい。正直助かった。

 

そして、噂の島に到着する。

そこは大きめの地図には乗らない程度の島で普通に開発された、特段変な部分もない街があった。人口は900人程度で人が少ない分繋がりはかなり太かったのだとか。

そんな中たまたま島を訪れた窓が呪霊を確認、今に至るという訳だ。

 

「目撃情報は島の外縁の海道らしい。行くぞ」

「おう!」

 

 

海道に着くと、そこには信号もなく速度制限の看板が在るだけだった。

道沿いに見える海の風景は、自然を感じさせる。帳が降ろされたのを確認し、走り出す。

呪術師…それも一級が出す速度はは間違いなく人間の限界を優に超す速さであり、見つかれば即目立ってしまう。

 

海沿いを走りながら、海側と陸側をそれぞれ確認する。

 

見つけた。道の奥に呪霊を視認した。

その姿は宙に浮かんだ巨大な顔に何本もの四肢が張り付いたような歪な姿をしており、常人が見れば正気を失う様であった。

まぁそもそも大抵の一般人には呪霊は視認できないのだが。

 

呪霊に向かって直進で加速する。

東堂がフォローの為後ろに着いたことを確認した。

 

そして更に加速する。

 

速く、速く、速く。

音を超え、衝撃波で周りの空気が爆ぜる。

それも気にせず、ただ呪霊に向かい加速する。

 

 

 

 

が、一向に辿り着かない。

鏡や蜃気楼の様な術式か…?

だが空間に歪みのような物は確認できず、奥に見える看板も文字が反転するような様子ではなかった。

 

困ったな。このまま長引くと面倒だ。

そういえば東堂は何処に行った。

あ、吹き飛んだか?

 

俺は後ろを振り向いて東堂を探す。

 

そこにはボロボロの半裸の男が山壁に叩きつけられている様子と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()沿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

…は?

 

 

ループしているにしては走る時に違和感がなかったが。

 

 

 

 

 

いや、似た感覚を俺は知っている。

 

"無限"

 

不味い。本当にアレに等しい物だとすれば本当に面倒になる。現状では最低でも一級どころの話じゃない。特級並みは確定的だ。

取り敢えず東堂を回収しなければ。

 

山肌に向かってまた走り出す。

今度は直ぐに到着し、埋まった東堂を引き抜いた。

 

「東堂、手伝え」

「はっ…俺は高田ちゃんに告った後…」

「夢だ忘れろ。敵は特級、しかも術式がかなり面倒そうだ」

「なるほど、理解した。直ぐに行く」

 

言動こそ狂ってはいるが流石に一級、判断が早い。

 

「取り敢えず俺と呪霊交換して殴」

 

そう言い切る前に、俺は既に視界が移り変わっていた。

 

「コミュニケーション取れやクソカス」

 

 

っと。口が悪くなった。呪力の多い方を見ると確かに呪霊と俺が交換されていたが、直ぐに反応されて逆に東堂が吹き飛ばされていた。

やはり無駄に思考を巡らせない動物的直感で動く呪霊だと有効打になりづらいか。

多分呪詛師相手ならかなり効く術式の筈だが。

 

そして東堂の方へ向かおうとするがやはり無駄に終わる。

 

「東堂!!!!!」

 

呪霊と俺が置換される。

 

「ガフっ……あれは…強いな。だが術式を使う気配は見せなかったぞ?」

「ほう…?」

 

どういうことだ。対象が1人に限定される縛りか?

 

「俺にはよく分からないが、お前はその場でずっと留まっているだけだ。作戦か?伝えろ」

「ちょっと待て、留まってるだけとはどういうことだ」

「どういうこともそのままの意味でしかない!ずっとお前は足踏みしている様な状態!それしか言えん!」

 

 

ああ、そうか。やっと理解することができた。

恐らく奴の術式は───

 

 

 

 

 

東堂が目の前から吹き飛ぶ。俺の目には、呪霊自体が映らない。

ただ、東堂は殴られて吹き飛んでいった。

そして俺自体も殴られる。

 

先程の東堂以上の呪力が込められた打撃。

骨までダメージは入らないが少し効いた。

だが失敗したな、呪霊。

これで確信する。

 

 

 

 

奴の術式は催眠。何がトリガーかは分からんが五感を誤魔化して距離感や視界を操る。

 

 

ああ、至って単純なことだった。

 

 

 

 

 

なら全部消せばいい。

俺の知覚外なんて関係ない。

催眠で距離を誤魔化そうが対処できないほどの火力で焼き払う。

 

東堂の首元を掴み、帳の真ん中へ飛ばす。

 

「呪具と変われ」

 

言葉はそれ以外に必要ない。

理解した東堂は帳を解除せずに外に出た。

 

これで気にせず灰にすれば良い。

ああそうか。ビビってんのか。俺が。

"無限"に対してビビってた。

腸が煮え繰り返る程の怒り。

自分自身の不甲斐なさに涙が出てくる。

腹が立つ、殺意が湧く。

俺を小馬鹿にした様な行動をとってきたこいつにも、それにまんまと騙された俺にも。

 

 

その怒りによって生まれる呪力を『いつの間にか持っていた刀』に全て込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

術式限定開放"■■■■"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

目立つ傷をかなり島に残してしまった。

幸いにも非術師に被害は出なかったが隠蔽にかなり労力を費やしたらしく、かなり報酬は減った。

 

家からの支援で本当に困った時には金を援助してもらえるが流石にそれは俺のプライドが傷つく。美味い飯を食う為には高い材料もいる。

 

本当に割に合わない仕事だった。

これのせいで東堂からは熱烈な高田ちゃん推しの勧誘をされる様になった。

顔はいいけれど性格が好きにならない。

が、身長と尻がでかいのは嫌いじゃない。

 

 

 

 

プルプルと電子音が鳴る。

東堂じゃないな。誰だ。

 

電話を出る必要がある時とない時で分けられるように東堂の着メロは帝国のマーチにしてある。ダースベイダーのあれだ。

スターウォーズをまともに見たことはないが。

 

携帯の画面を覗くと、そこには庵歌姫と書かれた人物が電話をかけてきているのがわかる。

 

ふむ、庵か。

 

「もしもし」

『もしもしじゃねーよ!!!訓練サボってんじゃねぇよ早よこいやボゲ!!』

「…うるさいぞ、開口一番騒がしいのはモテない女の特ち」

『あーもう私先生なんですけど!敬いなさいよ!』

「はぁ…取り敢えず今から行くぞ」

『ちょっ早でね!』

「死語だろそれ」

『は?え、マ』

 

返事を返さず通話を切った。ツーツーと音が鳴っている。たまたま制服なこともあって直ぐに向かうことができる。

 

「うし、行くか」

 

 

 




呪霊はほぼほぼ鏡花水月。

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