劣等生は"阿修羅"   作:ぷぼっ!

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これを読んだ機会にケンガンアシュラという作品を知ってほしい。魔法なんかは無いけどめちゃくちゃ面白い格闘技漫画だから!(非現実的な奴等ばっかしかいないけど)


第一章 入学編
第1話 入学


 夢を見ていました。

 

内容はシンプルかつ波乱で…私は鳥籠に閉じ込められたかのようなお姫様なんです。

 

辺りを見渡せば、発展した技術と主に備わった高層ビル等が並んでいて、現代にしては普通すぎるもの。

 

でも…一つ違ったのはその全てが壊れていた事…

 

ビルは欠陥していて直す気配もありません。

それに雰囲気は重苦しく昼間からネオン街のような…

 

私は囚われの身であって周りには強面をした男達が複数。

 

女の子なら誰もは一度夢を見ます。

ピンチ的な状況から王子様が救いに来てくれて、そこから始まる恋…お姫様になる夢が…

 

私の夢にも王子様は現れます…

 

 

 

 

 

最悪という言葉を表して良い王子様が…

 

 

 

その王子様は刃物を両手に持っていて覗かせた犬歯は今にも噛み殺されてしまいそうなほど尖っていて、その瞳は殺意に満ちあふれていました。

王子様は男達を一蹴すると私の方に顔を向けると何も言わずそのまま振り返って立ち去って行きます。

 

深雪「待って下さい!あなたは!あなたの名前は!!」

 

私の問いかけにも応じずひたすら歩いて行く姿は追い付けないくらいに小さくなっていきます。

手を伸ばしても、どれだけ走っても彼に届く事はありません。

 

 

 

 

深雪「…ん……また、…この夢…」

 

 

そういえばいつからでしょうか。

この夢を見る様になったのは。

 

これは一体悪夢なのでしょうか。

 

…でも私は、この続きが知りたい。

この続きを待ち受けるのが現実だろうとなんだろうと貴方を知りたい。

 

たとえ…この世界中の全てを崩してでも…

 

深雪「いつか…探しにいきます…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

二十一世紀ー西暦二○九五年を迎えても未だ統一される気配すら見せぬ世界の各国は、魔法技能師の育成に競って取り組んでいる。

 

ー国立魔法大学付属第一高校ー

 

毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られている。

それは同時に、優秀な『魔法技能師』(魔法師)を多く輩出しているエリート校ということでもある。

魔法教育に、教育機会の均等などという建前は存在しない。この国にそんな余裕は無い。

それ以上に、使える者と使えない者の間に存在する歴然とした差が、甘ったれた理想論の介在を許さない。

 

徹底した才能主義。

残酷なまでの実力主義。

それが、魔法の世界。

 

この学校に入学を許されたということ自体がエリートということであり、入学の時点から既に優等生と劣等生が存在する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

深雪「納得できません。」

 

達也「まだ言っているのか…?」

 

第一高校の入学式の日、新生活とそれがもたらす未来予想図に胸躍らせる新入生も、彼ら以上に舞い上がっている父兄の姿も、さすがに疎らだ。

 

深雪「何故お兄様が補欠なのですか?入学の成績はトップだったじゃありませんか!本来ならば私ではなく、お兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」

 

達也「お前が何処から入試結果を手に入れたのかは横に置いておくとして…魔法科高校なんだから、ペーパーテストより魔法実技が優先されるのは当然じゃないか。」

 

激しい口調で食って掛かる女子生徒を、男子生徒がなんとか宥めようとしている構図だった。

よく見ると二人の制服は微妙に、しかし明確に異なる。

女子生徒の胸には八枚の花弁をデザインした第一高校のエンブレム。男子生徒にはそれが無い。

 

先程「お兄様」と呼んでいたことから察すると兄妹なのだろう。しかし兄妹というには似ているところは無いと言ってもいい。

 

妹の方は人の目を惹かずにはおかない、十人が十人、百人が百人認めるに違いない可憐な美少女。

一方で兄は、ピンと伸びた背筋と鋭い目つき以外、取り立てて言い及ぶところのない平凡な容姿をしている。

 

朝から兄妹喧嘩をしている状況に、周囲は困惑と嫉妬の感情が混ざったようなドロドロな気持ちを兄妹にぶつける。

主に達也。

 

コツコツコツ…

 

深雪「!」

 

達也「ッ!」

 

兄妹喧嘩に目もくれず一人の男が通り過ぎていった。

それに引かれ兄妹も男の方を一瞬見る。

その男は、とてもガタイが良く制服ごしからでも分かる厚い胸板にはち切れんばかりに肥大した腕。

おまけに達也をも上回る長身に男前と言っていい程に整った顔。振り返る女子達、いや男子達もその男に釘付けになっていた。

 

ならばこの兄妹もそうなのか、というとそういう事では無かった。ただ一人堂々と歩く男から感じ取られるオーラ…ブワッとしたような…まるで噴火する前の火山のようなオーラが男からは感じ取られた。

 

兄、『司波達也』は直ぐに我に帰るが妹、『司波深雪』は…

 

達也「何だったんだ…………深雪?……深雪?」

 

深雪「…へ?あ、はい!どうされましたか?」

 

達也「いや、不思議な生徒も居るものだなと思って。」

 

深雪「え、えぇ!そうですね。確かに、この魔法科高校ですもの。それに私達は新入生ですから様々な新しい発見があるのは当然の事ですから。」

 

達也「……あぁ…そうだな。」

 

一旦その場は静かになり兄妹喧嘩は既に終わっていた。

兄、達也は名もしれないその男に密かに感謝をし、妹、深雪は…

 

深雪「…何故でしょう…何処かで見覚えが…」

 

達也と離れた場所、一人で呟くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

当校は本当に良い整備が行われていると改めて思う。

本棟、実技棟、実験棟の三校舎。

司波達也は三人がけのベンチに腰を落ち着け、携帯端末を開いてお気に入りの書籍サイトにアクセスしながらそう思う。この中庭は準備棟から講堂へ通じる近道のようだ。

 

在校生が達也の前を少し距離をとって横切っていく。

彼ら、彼女たちの左胸には一様に、八枚花弁のエンブレム。通り過ぎていったその背中から、無邪気な悪意が溢れる

 

ーあの子、"ウィード"じゃない?

 

ーこんなに早くから…補欠なのに張り切っちゃって。

 

ー所詮、スペアなのにな。

 

聞きたくもない会話が達也の耳に流れる。

 

"ウィード"とは、二科生徒を指す言葉だ。

左胸に八枚花弁を持つ生徒、一科生をそのエンブレムの意匠から、"ブルーム"と呼ばれる。

その逆である"ウィード"は『花の咲かない雑草』と比喩している。

結局、才能を持った者が上に立ち、そうでない者達は下に居る存在だ。

良く『平等』という言葉を聞く事があるが世の中そんな甘くは無い。

 

達也(…余計なお世話だ…)

 

苛立ちすら覚えないものの、あまり良く思わないという気持ちをしまい書籍データへと意識を向けた。

 

???「…」スッ…

 

 

 

あれからかなり時間が経ち、開いていた端末に時計が表示されると入学式まであと三十分。

 

達也(熱中しすぎたか…気づかなかったな。)

 

書籍サイトからログアウトし、端末を閉じてベンチから立とうとしたちょうどその時、頭上から声が降ってきた。

 

???「新入生ですね?開場の時間ですよ。」

 

まず目についたのは制服のスカート。

それから左腕に巻かれた幅広のブレスレット。

普及型より大幅に薄型化され、ファッション性も考慮された最新式の〘CAD〙だ。

 

ー CAD ー術式補助演算機(Casting Assistant Device)

 

デバイス、アシスタントとも呼ばれている。

魔法を発動する為の起動式を、呪文や呪符、印契、魔法陣、魔法書などの伝統的な手芸、道具に代わり提供する現代の魔法技能師に必須のツール

 

CADが無ければ魔法を発動出来ないというわけでは無いが、魔法発動を飛躍的に高速化したCADを使わない魔法技能師は皆無に等しい。

 

達也の記憶によれば生徒で学内におけるCADの常時携行が認められているのは、生徒会の役員と特定の委員会のメンバーのみ。

 

達也「ありがとうございます。すぐに行きます。」

 

相手の左胸には当然のエンブレム。

胸の膨らみがあり、普通の男ならばイチコロだろうが、達也はそういう気は一切無い。

 

???「感心ですね、スクリーン型ですか。」

 

達也の手で三つ折りに畳まれる携帯情報端末のフィルムスクリーンに目を遣りながらニコニコ微笑んでいる。

達也はベンチから立ち上がると相手の確認をする。

 

達也の身長が一七五センチに対すると相手は二十センチ程低い。

相手の瞳は曇りなく二科生徒に対しても対等に接するという無邪気な感嘆が感じられた。

 

???「当校では仮想型ディスプレイ端末の持込を認めていません。ですが、残念なことに、仮想型を使用する生徒が大勢います。でもあなたは入学前からスクリーン型を使っているんですね。」

 

達也「仮想型は読書に不向きですので。」

 

達也はあまり素っ気ない態度でそう返す。

だが、相手はその事を気にしていない。

 

???「動画では無く読書ですか。ますます珍しいです。私も資料映像より書籍資料が好きな方だから、何だか嬉しいわね。」

 

達也「…そうですか。」

 

???「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています。『七草(さえぐさ)真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくね。」

 

小柄ながら均整の取れたプロポーションと相まって、高校生になったばかりの男子生徒が勘違いしてもおかしくない蠱惑的な雰囲気を醸し出していた。

 

達也(数字付き(ナンバーズ)…しかも「七草」か…)

 

魔法師としての資質に家系が大きな意味を持つ。

この国において、魔法に優れた血を持つ者は数字を含む苗字を持つ。

数字付き(ナンバーズ)とは優れた遺伝子的素質をもつ魔法師の家系のことである。

七草家はその中でも、現在この国において最有力と見なされている二つの家のうちの一つだった。

 

そんな呟きを心の中き押し留め、何とか愛想笑いを浮かべ名乗りだす。

 

達也「俺、いえ、自分は、司波達也です。」

 

真由美「司波達也くん…そう、あなたが()()()()()()()…」

 

目を大きくし驚いたあと何やら意味ありげに頷く生徒会長。

きっと新入生総代の妹、司波深雪の事であろう、と心の中でおもう。

 

真由美「ありがとう。それで?そちらの方は?」

 

達也はそちらの方と言って指した方を見ると…

 

達也「ッ…!」

 

ただ驚くしかなかった。

最初に言っておくが達也の実力はそうとうな物だ。

それこそ七草真由美にも引けを取らないほどの。

だが、その達也自身が気がつけなかった。

確かに書籍サイトに熱中していたため気づかないのも無理は無いだろう。

それだとしても先ず気配を感じなかった事に対し、達也は驚いていた。

 

真由美「ご友人?」

 

達也「い、いえ…面識はありません。」

 

男はぐっすりと寝ていた。

達也は確信した。

 

今朝の"彼"だという事に気がついた。

 

筋骨隆々の体に整った顔立ち…それに誰もが見て分かるワカメヘアー。腕を組んで一人眠りに落ちていた。

 

真由美「そろそろ起きないと始まっちゃうんだけど…」

 

達也「…自分が起こすので良いですよ。」

 

達也自身の興味なのかなんなのか分からない。

しかし、少なくとも只者では無いという事は視野に入れておきたいと思ったのか。同じく()()()だからなのか…

 

真由美「そう。助かるわ。それじゃ頑張ってね。」

 

達也「失礼します。」

 

軽く会釈をすると真由美は立ち去っていった。

そしてベンチに視線を移すがそこに彼は居なかった。

 

達也「ッ!?」

 

こんな短時間で、またも何も気がつく事は出来なかった。

だがそう遠くには行っていなかったため直ぐに見つける事が出来た。

眠たそうにしながら会場の方へと歩いていく彼を見ていると達也はもう既にわかった事がある。

 

達也(この男…一切の隙が無い…)

 

もうこの頃から穏やかな生活を送れるとは思っていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

講堂に入った時何やら騒ぎが起きていた。

途中で男を見失うと、なにやら騒ぎが男の原因である事が分かっていた。

 

座席でどこに座ろうが指定は無いが、最前列が一科生。

最後列が二科生と別けられていた。

補欠的な扱いを受ける二科生は肩身の狭い者がほとんど。

だがそこに…お構いなく場の空気も読まぬ者が…

 

ーおいあいつ二科生じゃねぇか。なんであんなところに座ってんだよ。

 

ーちょっと顔が良いからって調子乗ってんじゃないの?

 

ーしかも寝てやがる…ここを何だと思ってんだ…?

 

向けられる痛々しい視線にもお構いなく一人堂々とぐっすりと眠っている。

その者は言わなくても分かるだろう。

 

達也「あいつは…あんな所にいたのか。」

 

そう呟きながらもまた違った視線を彼に送る。

だが、面倒事に巻き込まれるのはごめんなので直様席につく。

 

講堂は未だにザワザワとしている。

男は全く起きる気配が無い、周囲も起こそうとはするが見えない壁でも貼られているかのように近づこうとはしない。

 

そんな時…

 

???「あの…違う場所に座られていますよ?」

 

女子が彼を起こそうとしていた。

最初こそ声だけで起こそうとしたが次第に上げていき揺さぶる等をした。

 

すると男はやっと目を覚ます…

 

男「………違うのか…」

 

気だるそうな視線を送り若干不満だっのかその瞳は鋭かった。女子生徒は少しぎこちない喋り方になるがなんとか彼を注目の的から外す事が出来た。

 

達也(はぁ…ヒヤヒヤさせるな…やはり監視が必要か?…俺達に万が一があってはならない。…たしかにまだ素性も分からない奴だが………俺達の生活に干渉するならばその場合…)

 

達也は万が一の事を考えていた。自分と深雪に害を及ぼす様な者ならば即刻始末しようと考えていた。

普段の達也ならばそんな事は考えはしなかった。

だが、彼に対して…あの男に対しては異常なまでの警戒心を抱いていた。

 

???「あの、お隣は空いていますか?」

 

達也「ッ!…どうぞ。」

 

まだ空席は少ないのになぜ見知らぬ生徒の横に座りたがるのか、訝しむ気持ちともう一つ。

まるで銃弾に貫かれたかの様に心臓が一瞬止まる。

相手は細身の体型をした少女…ともう一人。

注目の的になっていた、先程自身が警戒心を剥き出しにしていた当の男。

近くに来るだけでこんなにも大きさが違うのか、と生唾を呑む。

しかし、これは好機。少しの間だけでもこの男に対して自分は好奇心を抱いているのだと驚く。

ほんの少しで良い、なにか情報が知りたい。それが危険なものであろうとそうで無かろうと。

ありがとうございます、と少女は頭を下げて腰掛けると男は既に腰掛けていた。

男に話を切り出そうとしていたがその横に次々と三人の少女が腰を下ろす。

 

???「あの。」

 

達也はなるほど、男以外は友人なのであろう。という思考に少し遅れるが相手が話かけてきていたことに気がつく。

 

???「私、『柴田美月』って言います、よろしくおねがいします。」

 

突然の自己紹介に驚くが直ぐに自分を名乗る事にした、

 

達也「司波達也です。こちらこそよろしく。」

 

なるべく柔らかな表情を浮かべ自己紹介をする。

彼女がメガネを掛けていた事に珍しいと思えた。

二十一世紀中葉から視力矯正治療が普及した結果、この国で近視という病は過去のものとなりつつある。

 

達也(霊子放射光過敏症か…)

 

少し意識を向けただけで、レンズに度の入っていないことがわかる。

『霊子放射光過敏症』とは見えすぎ病とも呼ばれている。

「体質」のことで、意図せずに霊子放射光が見えるという事だ。

一種の知覚制御不全病だ。

 

霊子(プシオン)と、想子(サイオン)。どちらも「超心理現象」魔法もこれに含まれる、において観測される粒子で、物質を構成しているフェルミン(フェルミ粒子)には該当せず、物質間に相互作用をもたらすボソン(ボース粒子)とも異なる非物理的存在だ。

 

想子(サイオン)は意思や思考を形にする粒子、霊子(プシオン)は意思や思考を産みだす情動を形作っている粒子と考えられている。

通常、魔法に用いられるのは想子の方で、現代魔法の技術体系は想子の制御に力点が置かれている。

魔法師はまず、想子を操作する技能から覚える。

ところが霊子放射光過敏症者は、先天的に霊子放射光…霊子の活動によって生じる非物理的な光に過敏な反応を示してしまう。

霊子放射光は、それを見ている者こ情動に影響を及ぼす。

それ故に霊子は情動を形成する粒子である、という仮説が立てられているわけだが、その為に精神の均衡を崩しやすい傾向にある。

これを予防する為の手立ては根本的に霊子感受性をコントロールすることだがそれが出来ない者には『オーラ カット コーティング レンズ』と呼ばれる特殊なレンズを使ったメガネを使用する事が心掛けられている。

 

???「あたしは『千葉エリカ』。よろしくね、司波くん。」

 

達也「こちらこそ。」

 

ショートの髪型や明るい髪色、ハッキリとした目鼻立ちが、活発的と思わせる。

 

エリカ「うん。…んで?そこの寝ている人は?」

 

二人はえっ?と首を傾げると男は寝ていた。

美月に関してはあまり良く知らないが、達也に関しては、

「こいつ…また寝ているのか…」と、内心呆れてはいる。

 

美月「いや、それが良く分からなくて。」

 

達也「自分も。…特に知った事は…」

 

エリカ「へぇ〜。こんな所で寝れるなんて凄い度胸してるわね。周りなんか騒ぎすぎてうるさいっていうのに。」

 

男「…」

 

三人が間近で話しているにも関わらず起きる気配が全く無い。よっぽど眠たかったのか…と三人は同じ顔をして思う。

 

達也(それにしても千葉ね…また数字付き(ナンバーズ)か?()()千葉家に「エリカ」という名前の娘はいなかったと思うが、傍系という可能性もあるしな…)

 

彼がそんなことを考えている傍らで、二人の笑声が放たれたが、周りから白い目を向けられる程ではない。

エリカの向こう側に座っている残り二人の自己紹介が終わる。そこから達也はもっと好奇心を満たしたくなったのか色々と話をしてみる事にした。特にこれといって面白いものなどは無かったが、悪いものでは無かった。

しかし未だに男が起きる気配は無い。

 

 

 

 

 

深雪の答辞は、予想した通り見事なものだった。

「皆等しく」「一丸となって」「魔法以外にも」「総合的に」かなり際どいワードが多々盛り込まれていたが、深雪自身の美貌でそれを打ち消している。明日からは深雪の周りが騒がしいだろう。

すぐにでも妹を労ってやりたいところだが、式の終了に続いてIDカードの交付がある。

 

エリカ「司波君何組?」

 

達也「E組だ。」

 

エリカ「やたっ!同じクラスね。」

 

何が嬉しいのか良く分からないが、それでいいなら別にいいだろう。オーバーリアクション過ぎると思うが。

 

美月「私も同じクラスです。」

 

美月も同じ組のようだ。

エリカの様にとは言わないが同じ顔をしているため、嬉しいのだろう。

残る女子二人は別々のクラスだったためテンションは低かった。だが、達也はそんな事はどうでもいい。

達也が知りたいのは深雪のクラス、そして…そちらよりも好奇心が抑えられないあの男のクラスだ。

 

達也(少し目を離せば居なくなるのか…見た目こそ目立つ方だと思うが…意図を読まれて無ければいいが…)

 

エリカ「どうする?あたしらもホームルームへ行ってみる?」

 

エリカが達也の顔を見上げてそう訊ねた。美月へ訊ねなかったのは彼女も達也の顔を見上げているからだろう。

達也は男を追おうとする意識が高かったためエリカの声が聞こえていなかった。

 

エリカ「ちょっと、聞いてる?」

 

ジト目で訊ねるエリカに意識を戻されると、妹と待ちあわせをしていると伝える。そこで深雪の事についてある程度話す事にした。双子では無いこと。新入生総代である事。

 

深雪「お兄様、お待たせしました。」

 

講堂の出口に近い隅っこで話をしていた達也の背後から、深雪の声が聞こえた。人垣に囲まれていたが抜け出して来たのだ。

 

達也「早かったね。」

 

と応えた、つもりだったが、言葉は予定通りでもイントネーションが疑問形になってしまった。

 

真由美「こんにちは、司波くん。また会いましたね。」

 

ここでまた生徒会長の七草真由美と出会う。

相変わらず微笑みは崩さず、その分注目を浴びる。

それがポーカーフェイスなのかどうかは分からない。

 

深雪「お兄様、その方たちは…?」

 

達也「こちらが柴田美月さん。そしてこちらが千葉エリカさん。同じクラスなんだ。」

 

深雪「そうですか…早速、クラスメイトとデートですか?」

 

可愛らしく首を傾げ、含むところなんてまるでありませんよ、という表情で深雪が問いを重ねる。唇には淑女の微笑み。

 

達也「そんな訳ないだろ、深雪。お前を待っている間、話をしていただけだって。そういう言い方は二人に対して失礼だよ。」

 

深雪「そうですか。はじめまして、柴田さん、千葉さん。司波深雪です。私も新入生ですので、お兄様同様、よろしくお願いしますね。」

 

美月「柴田美月です。こちらこそよろしくおねがいします。」

 

エリカ「よろしく。あたしのことはエリカでいいわ。貴女のことも深雪って呼ばせてもらっていい?」

 

深雪「ええ、どうぞ。苗字では、お兄様と区別がつきにくいですものね。」

 

そこから三人は達也が思っていたよりも意気投合しており、妹の深雪に友達が増える事については嬉しいと思っている。そこまで気に掛ける必要は無いのかもしれないが、一応のためだ。

深雪は生徒会の者達とも関係を持ち、挨拶だけであったが流石は総代なだけはあるだろう。

 

 

コツコツコツ…

 

 

達也と深雪は一斉に同じ方向へ振り返る。

今朝と同じ感覚…二人の肌に寒気が走る。

相変わらずエリカと美月は二人して仲良く話している。

真由美は生徒会の者と話しているようだ、真由美の後ろに居る男が先程から自分と深雪を見ており、深雪に対しては良い印象かもしれないが、自分に対しては良いものでは無いだろう…

だが、そんな事はどうでも良い。

この気配は間違いなく例の男である事以外考えられない。

殺気なんかでは無い、だがそれに似たようなものである。

二人はキョロキョロと辺りを見渡しているが見つからない

 

達也(今確かに居た筈だ…こんな人混みの中では探しにくいか……クソっ……自分自身へと向けられる視線が邪魔だ。)

 

自分に向けられる視線は悪意に零れるもの…きっと生徒会の者とも接し、自身の妹深雪とも接している事が原因だろう。だが、それはどうでも良い。邪魔にしかならない。

 

達也「…気の所為なのか…?」

 

エリカ「あれ?深雪何処行った?」

 

美月「そういえば少し目を離した隙に…」

 

達也「ッ!?」

 

達也は冷や汗をかく…それと同時に後悔をする。

自分があの男の事を察知しようとしすぎたせいで深雪が居なくなったのだ。

きっと深雪も奴について気づいている…ならば。

 

真由美「深雪さんならあちらに行ったわよ?」

 

達也「ッ!…すみません。失礼します!」

 

少し急ぎながら…早足で向かう事にした。

あの男は危険だ…本能がそう伝えている。

 

エリカ「って、ちょ…!何処行くの!?」

 

美月「早…!」

 

人混みを掻き分け一心不乱に走り出す。

まだそう遠くはない筈だ…視線が痛い…

だが、関係無い。

 

エリカ「はっや〜…」

 

美月「行っちゃいましたね…」

 

真由美(あら〜…もう少しお話したかったんだけどな〜。…それにしても深雪さんは何かを感じ取ったのかしら…司波くんもなんだけど………そういえば深雪さんが追いかけていった人って…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学試験、どちらも最下位の子じゃない。

 

 

 

 

 

地図がある訳ではありませんが私には分かります。

周りからも視線を浴びますがそんな事はどうでも良い事です。あの人さえ…あの人と話す事さえ出来れば…

 

自分でも何故かは分かりません。

あの人に何を感じているのか…恋でも無ければ懐かしの友人という訳でもありません。

でも、似てるんです…()()()()()()()に!

 

深雪「はぁ…はぁ……!…いた!」

 

後ろ姿なのにこちらを見られているような感覚がしてとても不気味だった。

でも、それは嫌な気では無かった。

その人の周りにはオーラが出ているような…

 

深雪「あ、あの!」

 

声をかけるとこちらを睨むようにして目を向ける。

その瞳には、何か()()()()()()()()()が宿っていました。やがてこちらを振り返ると私は息が詰まったような感覚に陥る…

 

深雪「え…あ、そ…の…」

 

ただこちらを見ているだけなのに…まるで蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。

私はこの日、これ以上にない恐怖を浴びたかもしれない。

振り絞った私の言葉はとても良いように表せない…

 

深雪「な、名前ッ…!お名前をッ…!」

 

聞きたい事はあるのに咄嗟の言葉でしか無かった。

支配されているような状況なのに、まだ会って間もないのに敬意を抱いていた。

やがてゆっくりと男は口を開いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

十鬼蛇 王馬。

 

 

深雪「トキ…タ…オウ…マ…さん…」

 

十鬼蛇王馬(トキタオウマ)……?

逢魔が時…?……名前まで凄い…

 

王馬「………で?」

 

深雪「へ…?」

 

王馬「アンタは?」

 

突然の事で次の事を考えていなかった。

まさか質問をされるとは……でも、最初に質問をしたのは私…当然の事だと思う。

 

深雪「…私の…名前…です…か…?」

 

王馬「…」

 

深雪「…や…その…」ハァハァ…

 

深雪「…深雪ですッ!…司波深雪といいますッ!」

 

少し声が大きかったかもしれない…でもそれほどに言葉をひねり出すのが難しくて…仕方ない…

 

王馬「()()()()()…だな…わかった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…それで?俺と闘るのかい?

 

 

深雪「!!!???ッッッ」

 

更に増した圧迫感…故意的に出されているものじゃないかもしれない…でもジョークなはずがないッ!本気ッ…!

 

救けてください…ッ!お兄ッ…様ッ!…

 

息が苦しい…! 早くッ…、救けにッ…!

 

深雪「…い…え…」

 

王馬「…」

 

現在の深雪を周りの人間が見ればどう思うだろうか。

あの容姿端麗で淑女な彼女がここまで顔を崩す事をどう思うだろうか…決して不細工な訳ではないが…驚きはするかもしれない…

 

王馬「……そうなのか。」

 

フッ…としたような音が聞こえた気がする。

きっと男の意識が解除されたのだろう。

 

王馬「そりゃあ()()だ。」

 

 

 

やがて背中が小さくなっていく。

去り際の彼はとても虚しいような顔をして、期待に応えれなかった自分が悔しい………でも期待に応えていても…

 

この出会いが、私達の物語を大きく揺るがすのかもしれない。十鬼蛇王馬…さん…夢の中に出てくる王子様に酷似している男性…

 

達也「ここにいたのか…深雪。」

 

深雪「…は…へ…?お兄様?」

 

達也「突然居なくなるから驚いたぞ。あまりヒヤヒヤさせないでくれ。」

 

深雪「あ…はい。申し訳ありません。」

 

達也「さぁ…帰ろう。」

 

深雪「…はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

司波達也に司波深雪…そして謎の男、十鬼蛇王馬…

 

この出会いが彼等を狂わせる。

 

王馬「シバミユキ…に()()()()()()()()…」

 

この男、一体…?




クソ駄文でした。

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