劣等生は"阿修羅"   作:ぷぼっ!

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とても長くなりましたすんません。


第3話 理由

 第一高校が利用する駅の名前はずばり「第一高校前」。

駅から学校まではほぼ一本道だ。

途中で同じ電車に乗り合う、ということは、電車の形態が変わったことにより無くなってしまったが、駅から学校までの通学路で友達と一緒になる、というイベントは、この学校に関して言えば頻繁に生じる。

 入学二日目の昨日もそういう事例を数多く見たし、今朝も先程から、そういう実例を何度も目にしている。

…だが、それでも今は腑に落ちない事がある。

 

王馬『使ったことねぇぞ。そんなもん。』

 

十鬼蛇王馬…今年の新入生、そして同じくE組のクラスメイトだ。入学二日目で、問題を起こしかけた張本人でもある。まぁ、あれに関しては周りも悪かったと思うが、彼自身で上級生に、生徒会メンバーにも挑戦的な態度を取っていた。…そして『CAD』を携行どころか、手にすらした事が無いという…

 

美月「今まで扱った事が無く、魔法科高校に入学出来るなんて……それに、マトモに魔法は使えるのでしょうか?」

 

達也「それは自分にも分からない。真実を知るのはあいつのみ、だ。」

 

レオ「しっかしよぉ、変わった奴も居るもんだぜ。あいつCADに興味無ぇって言うしよぉ。」

 

エリカ「まぁでも良いんじゃない?本人がそれで良いなら。あたしは別にとやかくは言わないかな。」

 

レオ「お?何だお前?あいつ自身の意見を尊重するって事はあいつに気があんのか?」

 

エリカ「ハァ!?バカなの!?確かに顔は良いからってほとんど初対面の男に揺さぶられるほどあたしは甘くないっての!!」

 

達也(またか…)

 

美月(飽きないですね…)

 

レオとエリカはいつもどおりの漫才をやっている。

朝からこんな展開に、達也はややテンションが下がっていた。それは美月も同様だ。

 

深雪「…」

 

達也「…」

 

昨日からずっとこうだ。最近のところ深雪の歯切れが悪い。何を話そうにも何処か空回っているような…どこかを見ているような…しかし、体調に問題があるわけでは無さそうだ。

 

 

王馬「よぉ。」スッ…

 

エリカ「ギャァァァァァァァァァァッッッ!?!?」

 

レオ「アァァァァァァァァァァァッッッ!!!」

 

またこれだ。気配が無い。

その挙げ句エリカは驚いている、レオは多分、エリカの声がうるさすぎて耳を抑えて絶叫しているんだろう…

 

王馬「びっくりしたかい?かなり前から居たんだけどな。そりゃ少し残念だ。」

 

美月「え?今ここに来られたのでは無いのですか?」

 

王馬「かなり前から居たぞ、前から。」

 

達也「…」

 

きっと電車を降りたあとぐらいか…、その時から俺たちの近くに居た…いや、共に行動していたという事になるのか?やつが言っているんだ…信じるしか無い…

また今日も一日がスタートするのか。

またしても、いや、入学してここ三日間全く良いスタートをしていない…

それもこいつのせいだ…せめて朝だけは清々しい気持ちになりたかったが、朝から焼肉をしている気分だ…

ムカムカするような…胃が気持ち悪い…

六人で校門までのそれ程長くない道をのんびりと歩んでいると背後から声が聞こえてくる。

 

真由美「達也く〜ん。」

 

活気的な呼び声と共に、軽やかに駆けてくる小柄な人影が迫ってくる。今日も波乱の一日になるに違いない…

 

真由美「おはよう、達也くんに王馬くん、深雪さんもおはようございます。」

 

深雪に比べて随分扱いがぞんざいだ、と達也は感じたが、相手は三年生で生徒会長だ。

 

達也「おはようございます、会長。」

 

深雪「おはようございます。」

 

達也に続き、深雪も頭を下げる。

 

王馬「よう。昨日ぶりだな。」

 

この男は下げる頭なんてものを知らないため大きく出る。

本人は何とも思っていない懐の深い人物なので、特に気にして無さそうだった。だが、深雪は王馬に対して小声で注意する。

 

深雪「ちょっと!王馬さん!相手は生徒会長なんですから頭くらい下げたらどうなんですか!

 

王馬「あ?やだよ。その"セートカイチョー"ってのが何なのか知らねぇけど頭下げるなんてまっぴらごめんだね。」

 

深雪「ちょっと!」

 

真由美「大丈夫ですよ。そんなに気にしていないので。(えっ?生徒会長を知らないって言ったの?どういう事?)」

 

 

王馬「らしいぜ?シバミユキ。」

 

深雪「…もう。(…そう言えば生徒会長を知らないとは…)」

 

王馬「で?あんたは今、一人なのかい?周りにうじゃうじゃと居ねぇみてぇだけど。」

 

達也は見れば分かるだろう、と心の中で突っ込む。

その発言だとこのまま一緒に来るのか?と、言っているようなものだ。なるべくそれは避けたい。別に深い理由があるわけでは無いが、単純にめんどくさいからだ。

 

真由美「うじゃうじゃって…朝は特に待ちあわせはしないんだよ。」

 

この生徒会長はとても馴れ馴れしいが、それ以上に王馬が馴れ馴れしい。まるで彼女の方が霞んで見えてしまうくらいだ。

 

真由美「深雪さんと少しお話したいこともあるし…ご一緒しても構わないかしら?」

 

やはりこの女そうだったか…馴れ馴れしい。

確かに一緒に行動をしても構わんが、少しは自分の立場を考えてほしいものだ。それにこんな状況を他の者が見たらどうするか。二科生が一科生、ましてや生徒会長と登校など考えられん…

 

王馬「あぁ、良いぜ。」

 

達也「!」

 

だからお前は何時からこのメンバーで指揮を取るようになったんだ。突然現れたと思ったらこれだ、昨日もそうだった。一悶着あった後、『帰ろうぜ。』なんて言いやがる。こうやって自由奔放な奴はあまり好きじゃない…

これからも、となると我々も巻き込まれる可能性があるか…特に深雪を巻き込もうものなら、早速排除させてもらおうか。

 

王馬「へっ…そんなかっかすんなよ、()()()()()。こいつ、悪そうな奴じゃないし、良いだろ?」

 

達也「ッ!…あ、あぁ問題無い…」

 

真由美(()()()呼ばわりはさすがに許そうとはおもわないなぁ…)ピキッ

 

深雪「王馬さん!会長に()()()は無いでしょう!謝ってください!」

 

王馬「あ?なんで謝んなきゃいけねぇんだよ…ほら、さっさと行こうぜ。ガッコー。」

 

深雪「ちょ、ちょっと王馬さん!」

 

真由美「君は一回生徒会室に来ようか?」

 

王馬「セートカイシツ?なんだそれ、楽しいのか?」

 

真由美「えぇ。、とっても楽しいところよ!とっっっても……ね?」

 

王馬「へぇ、それは楽しみだな。」

 

真由美「それは良かったわ……フフフ…」

 

真由美は顔でこそ笑っているが、目が死んでいる。

額に青筋を浮かべていることからかなり怒っている事が見られる。……それはそうと何故だろうか。あのとき顔に出ていたのか?あいつは直ぐに気づいた。

 

深雪「はぁ………なんだか放っておけませんね。」

 

レオ「俺あいつと一緒に居る事が怖くなってきたよ。」

 

エリカ「こいつって…三年生なら分かるけどさぁ…あたし等と同じ一年生だよ?それも同じクラスだし。なんかもう頭痛くなってきた。」

 

まぁ、全員そんな反応になるか…しかし、こいつは無いだろ…早速だが、俺はこの男が嫌いになりそうだ。

 

深雪「会長、お話というのは生徒会のことでしょうか?」

 

真由美「ええ。一度、ゆっくりご説明したいと思って。お昼はどうするご予定かしら?」

 

深雪「食堂でいただくことになると思います。」

 

真由美「達也くんと一緒に?」

 

深雪「いえ、兄とはクラスも違いますし…」

 

昨日のことを思い出したのだろう。

やや俯き加減で答えた深雪に何やら訳知り顔で真由美は何度も頷く。

 

真由美「変なことを気にする生徒が多いですものね。」

 

チラッと横を見る達也。

案の定、美月がウンウンと頷いている。昨日の一件を、結構引きずっているようだ。

しかし会長、貴女が言うと、それは問題発言なのでは?

と達也は心の中で呟いた。

 

真由美「じゃあ、生徒会室でお昼をご一緒しない?ランチボックスでよければ、自配機があるし。」

 

深雪「…生徒会室にダイニングサーバーが置かれているのですか?」

 

物に動じない深雪が、驚きを隠せず問い返す。

呆れ気味でもある。

空港の無人食堂や長距離列車の食堂車両に置かれている自動配膳機が、何故高校の生徒会室に置かれているのだろうか。

 

真由美「入ってもらう前からこういうことは余り言いたくないんだけど、遅くまで仕事をすることもありますので。」

 

真由美はバツ悪気に照れ笑いを浮かべながら、深雪に対する勧誘を続けた。

 

真由美「生徒会室なら、達也くんが一緒でも問題ありませんし……それに王馬くんも。」

 

王馬「おう。じゃあそのセートカイシツって所に行けばいいんだな?」

 

達也「問題ならあるでしょう。副会長と揉め事なんてゴメンですよ、俺は。…それに、こいつも同行するなら尚更問題ですよ。生徒会室に二科生が二人…バレれれば貴女方の顔を潰す事になりますよ?」

 

入学式の日、真由美の背後から彼を睨みつけていた男子生徒は二年生の副会長だったはずだ。

あの視線は、誤解しようのないものだった。

彼が気安く生徒会室で昼食など摂っていようものなら、喧嘩を売りつけられること、ほぼ間違いなしである。

しかし、達也の言うことが、真由美にはすぐに思い当たらなかったようだ。

 

真由美「副会長…?」

 

真由美はちょこんと首を傾げ、すぐに芝居じみた仕草でポンッと手を打った。

 

真由美「はんぞーくんのことなら、気にしなくても大丈夫。」

 

達也「…それはもしかして、服部副会長のことですか?」

 

真由美「そうだけど?」

 

 この瞬間、真由美にあだ名を付けられるような事態は絶対に避けよう、と達也は固く決心した。

 

真由美「はんぞーくんは、お昼はいつも部室だから。」

 

達也のそんな思いとは無関係に…当たり前だが…ニコニコと笑みを絶やさず真由美は勧誘を続ける。

 

真由美「何だったら、皆さんで来ていただいてもいいんですよ。生徒会の活動を知っていただくのも、役員の務めですから。」

 

エリカ「せっかくですけど、あたしたちはご遠慮します。」

 

遠慮した、にしては、やけにキッパリとした返答、拒絶。

 

真由美「そうですか。」

 

王馬「なんでだよ、チバエリカも来りゃいいのに。」

 

エリカ「いや〜、あたし等はちょっと…ね…?」

 

王馬「()()()だな…」

 

その発言に、王馬以外の全員が『お前がそれを言うか。』やエリカに関しては『お前に言われたく無い。』と、心の中で呟いた。

 

達也「…分かりました。深雪と二人でお邪魔させていただきます。」

 

王馬「おいおい、俺も忘れんじゃねぇぞ。」

 

真由美「そうですか。よかった。じゃあ、詳しいお話はその時に。お待ちしてますね。」

 

何がそんなに楽しいのか、くるりと背を向けた真由美は、スキップでもしそうな足取りで立ち去った。

同じ校舎へ向かうというのに、見送った五人の足取りは重い。王馬は全くと言って表情を変えない。

 

王馬「何かあいつ()()()だな。」

 

深雪「王馬さん!居なくなったからといってそんな発言はいけません!」

 

達也の口からため息が漏れた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして早くも昼休み。

足が重かった。

たかが二回分の階段を上ったくらいでへばってしまうような、やわな鍛え方はしていない。

本当に重いのは気分で、足が重いというのは比喩でしかないのだが、前に進みたくなくなるという意味では同じだ。

 

王馬「♪」

 

こいつは本当に緊張感という物が無いのだろうか。

足が軽いのかスラスラと上がっていく。

おまけに「早く行こうぜ。」などとほざく。

こいつは辛い、苦しいという感情が欠如しているのだろうか。前向きな性格が羨ましいよ。楽しそうな人生だな。

 

深雪「王馬さんはダイニングサーバーをご存知ですか?」

 

王馬「初めて聞いたな。で、そのダイニングサーバーってのは美味いのかい?」

 

二人は達也の前を歩みながら楽しそうに会話をしている。

そういえば深雪が達也以外の男に興味を持つのは珍しい事だ。嫉妬では無いが警戒心とも言えない感情を王馬にぶつける達也。だが、本人は何も気づく事無く会話を繰り広げている。

 

四階の廊下、突き当りが目的地。

見た目は他の教室と同じ、合板の引き戸。

違いは中央に埋め込まれた木彫りのプレートと、壁のインターホン、そして巧妙にカムフラージュされているであろう数々のセキュリティ機器。

プレートには「生徒会室」と刻まれていた。

 

王馬「ここか。へぇ〜…」

 

招かれたのは深雪であって二人はオマケだ。

だが、それにも関わらず扉の前でドッと、仁王立ちで構えている。

すると彼は引き戸の取手に指を掛け、何も考えてなさそうな表情で戸を開く。

 

真由美「いらっしゃい。遠慮しないで入って。」

 

正面、奥の机から声が掛けられた。

何がそんなに楽しいのだろう、と訊きたくなるようなえがで、真由美が手招きしている。

王馬がズカズカと入り込み深雪が直ぐ後に続く。

達也は最後に入り、戸を閉める。

 

王馬「結構良いところじゃねーか、セートカイシツってのは。」

 

真由美「ふふっ、気に入ってくれた?」

 

王馬「あぁ、それより腹が減った。そのダイニングサーバーってやつを見せてもらおうか。」

 

司波兄妹は生徒会室に入るとすぐさま礼をするのだが、王馬は生徒会室が気に入ったのかあちこちをウロウロとしている。中でもダイニングサーバーが気になるらしい。

 

真由美「もう王馬くんったら…深雪さんや達也くんを少し見習いなさいよ…」

 

王馬「う〜ん…そいつは…どうしようかね〜。」

 

未だにウロウロとする王馬。

達也と深雪は「申し訳無い。」と、一言だけ。

少し声を大きくして言ったのだが、当の本人は我が物顔で徘徊していた。

他にもニ名の役員が同席していたが、いきなり入ってきたかと思えばの奇行にやや慌てている。

もうひとり、役員以外で唯一同席している風紀委員長は王馬の行動に対して喝を入れる。

 

真由美「どうぞ掛けて。ほら、王馬くんも。お話は、お食事をしながらにしましょう。」

 

王馬「やっとかよ。俺は待ち侘びてたぜ。」

 

達也は正直、今日の食事が楽しみでは無かった。

なぜならこいつ、王馬が居るからだ。

先ず彼は、先日見てもらったら分かる通り、たとえ相手が上級生であろうと挑戦的な態度をとる。

煽りセンスはピカ一で、恐怖というのを知らない。

 

学校の備品としては珍しい重厚な木製の方卓に、椅子を引いて深雪を座らせ、自分はその隣、下座に腰掛ける。

そしてその横に王馬がドシッと腰掛ける。

そして二年生の書紀『中条あずさ』が昼食の種類について尋ねる。

 

あずさ「お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

 

王馬「俺は肉だ。」

 

達也が精進を選び、深雪は肉と精進で迷っていたようだが、ここは分をわきまえて精進にした。あとは待つだけだ。ホスト席に真由美、その隣、深雪の前に三年生の女子生徒、その隣、達也の前に風紀委員長、その隣ら王馬の前にあずさという順番で席につくと、真由美が話を切り出した。

 

真由美「入学式で紹介しましたけど、念の為、もう一度紹介しておきますね。私の隣が会計の『市原鈴音』、通称"リンちゃん"!」

 

鈴音「…私のことをそう呼ぶのは会長だけです。」

 

王馬「ふ〜ん…リンちゃんっていうのか。」

 

鈴音「…会長。」

 

真由美「ごめんなさいね〜。」

 

整ってはいるが顔の各パーツがきつめの印象で、背が高く手足も長い鈴音は、美少女というより美人と表現する方が相応しい容姿の女子だ。

確かに「リンちゃん」というより「鈴音さん」の方がイメージに合っているだろう。

 

真由美「その隣は知ってますよね?風紀委員長の渡辺摩利。」

 

王馬「おう、あんたか。よろしくな、ワタナベマリ。」

 

摩利「……フルネームで呼ぶのか?」

 

深雪「王馬さんはこれが普通なので。」

 

摩利「そ、そうか。」

 

確かに今考えて見ればこいつは人の名前をフルネームで呼ぶ癖がある。それにぎこちない。かなり棒読みで読んでいる事からあまり、学習能力は高くないのかもしれない。

 

真由美「それから書紀の中条あずさ、通称あーちゃん。」

 

あずさ「会長…お願いですから下級生の前で『あーちゃん』は止めてください。わたしにも立場というものがあるんです。」

 

王馬「へぇ〜、かわいいじゃん、あーちゃん。」

 

あずさ「会長!!」

 

彼女は真由美よりも更に小柄な上に童顔で、本当にそのつもりが無くても上目遣いの潤んだ瞳は、拗ねて今にも泣き出しそうな子供に見える。なるほど、これは「あーちゃん」だろう、と達也は思った。

 

深雪「…」ジーッ…

 

王馬「あ?どうかしたのか?シバミユキ。」

 

深雪「な、なんでもありません!」

 

王馬「?」

 

何故か深雪は王馬の言葉に反応し、じーっと王馬の方を見つめていた。まぁ、見つめていたというよりもジト目…

 

真由美「もうひとり、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会役員です。」

 

摩利「私は違うがな。」

 

真由美「そうね。摩利は別だけど。あっ、準備が出来たようです。」

 

ダイニングサーバーのパネルが開き、無個性ながら盛り付けられた料理がトレーに乗って出てきた。合計六つ。

一つ足りない…と思いつつ、自分が口を挟むことではない、どうするのかと達也が見ている前で、摩利がおもむろに弁当箱を取り出した。

 

王馬「へぇ〜、これがダイニングサーバーってやつか。結構、面白いんだな。」

 

あずさ「気に入ってくれましたか?」

 

王馬「ああ。おもしれーよ、これ。」

 

王馬とあずさが立ち上がったのを見て、深雪も席を立つ。

自動配膳機はその名の通り、自動的に配膳する機能もついているのだが、自配機対応のテーブルで無ければ人の手を使った方が速い。

こうして、奇妙な会食が始まった。

 

王馬「うめーなコレ。」

 

肉をガツガツと食すこの男。この面子の中で良くも豪快に食す事が出来る。正直に言ってはしたないであろう。

もしこの場に副会長が居れば何と言うか…いや、それ以前に、だったな。

 

達也「そのお弁当は渡辺先輩がご自分でお作りになられたのですか?」

 

摩利「そうだ……意外か?」

 

達也「いえ、少しも。」

 

王馬「あんた料理出来るんだな。」

 

またこいつは、とついつい言葉に出そうになってしまう。

せっかく良い印象を与えられる機会にこの男は逆の事を行う。  

 

摩利「意外で悪かったな。」

 

王馬「?怒ってんのか?」

 

摩利「うるさい!」

 

達也はもう話したくなくなってきた。

せめて、食事中くらいは黙っていてほしいものだ。

 

摩利「はぁ…一週回ってお前には感心すら覚えるよ。」

 

王馬「ん、褒めてくれんのかい?そりゃ嬉しいな。」

 

もうこの場に居る全員が一斉に大きなため息をこぼした。

 

真由美「そろそろ本題に入りましょうか。」

 

唐突感があるいえ、高校の昼休みにそう時間的な余裕があるわけでもない。フォーマルな口調に直した真由美の言葉に、達也と深雪は揃って頷いた。

 

真由美「当校は生徒の自治を重視しておりら生徒会は学内で大きな権限を与えられています。これは当校だけでなく、公立高校では一般的な傾向です。」

 

相槌の意味で達也は頷いた。管理重視と自治重視は、寄せては返す渚の波のようなもので、大小の違いはあれ交互に訪ねる風潮だ。三年前の沖縄防衛戦における完勝とその後の国際的発言力の向上以来、それ以前の劣勢な外交環境に起因する内政動揺を反映した過度の管理重視風潮への反動から、過度に自治を重視する社会的な傾向がある。

更にその反動として、管理が厳格な一部の私立高校が父兄の人気を集めていたりするものだから、世の中は単純には計れない。

 

真由美「当校の生徒会は伝統に、生徒会長に権限が集められています。大統領型、一極集中型と言っていいかもしれません。」

 

真由美「生徒会長は選挙で選ばれますが、他の役員は生徒会長が選任します。解任も生徒会長の一存二委ねられています。各委員会の委員長も一部を除いて会長に任免権があります。」  

 

摩利「私が務める風紀委員会はその例外の一つだ。生徒会、部活連、教職員会の三者が三名ずつ選任する風紀委員の互選で選ばれる。」

 

真由美「という訳で、摩利はある意味で私と同格の権限を持っているんですね。さて、この仕組み上、生徒会長には任期が定められていますが、他の役員には任期の定めがありません。生徒会長の任期は十月一日から翌年九月三十日まで。その期間中、生徒会長は役員を自由に任免できます。」

 

そろそろ話が見えてきたが、口を挿むことはせず、達也は理解の印に再度、頷いてみせた。

 

真由美「これは毎年の恒例なのですが、新入生総代を務めた一年生は生徒会の役員になってもらっています。趣旨としては後継者育成ですね。そうして役員になった一年生が全員生徒会長に選ばれる、というわけではありませんが、ここ五年間はこのパターンが続いています。」

 

達也「会長も主席入学だったんですね?さすがです。」

 

真由美「あ〜、まぁ、そうです。」  

 

王馬「ふ〜ん、あんた、凄い奴だったんだな。」

 

あすさ「会長に向かって『奴』とは…」 

 

真由美「慣れっこよ、あーちゃん。」

 

王馬の一言で全てが狂いかねないこの状況。

今のところはギリギリのラインである。

生徒会メンバーが懐の深い方々で本当に良かった。

 

真由美「コホン…深雪さん、私は、貴女が生徒会に入ってくださることを希望します。引き受けていただけますか?」  

 

一呼吸、深雪は手元に目を落とし、達也へと振り向いて眼差しで問い掛けた。達也はその背中を押す意思を込めて、小さく頷いた。再び俯き、顔を上げた深雪は、何故か、思い詰めた瞳をしていた。

 

深雪「会長は、兄の入試の成績をご存知ですか?」

 

達也「っ…!」

 

全く予想外の展開に、達也は危うく叫び声を漏らしそうになった。急に何を言い出すつもりだろうか、この妹は。

 

真由美「ええ、知ってますよ。すごいですよねぇ……正直に言いますと、先生にこっそり答案を見せてもらった時は自身を無くしました。」

 

深雪「…成績優秀者、有能の人材を生徒会に迎え入れるのなら、私よりも兄の方が相応しいと思います。」

 

達也「おいっ、み…」

 

王馬「へぇ〜、シバタツヤは頭が良いのか。そりゃ凄いな。入れば良いじゃねぇか、そのセートカイってやつに。」

 

達也「お前まで…」

 

深雪「王馬さん…!…私を生徒会に加えていただけるというお話については、とても光栄に思います。喜んで末席に加わらせていただきたいと存じますが、兄も一緒というわけには参りませんでしょうか?」

 

深雪の言った事は確かだ。達也は知識や判断力で言えば、この学園の中でもトップクラスなのは間違いないだろう。

だがそれと同時に異変も混じる。

それは"身贔屓"だ。いくら兄妹といえど、いくら家族といえど、ここまで来ると不快感を憶えてしまう。

もはや盲目的な言葉でしか無かった。

 

鈴音「残念ながらそれは出来ません。」

 

回答は問われた生徒会長ではなく、隣の席からもたらされた。

 

鈴音「生徒会の役員は第一科の生徒から選ばれます。これは不文律ではなく、規則です。この規則は生徒会長に与えられた任免権に課せられる唯一の制限事項として、生徒会の制度が現在のものとなった時に定められたもので、これを覆す為には全校生徒の参加する生徒総会で制度の改定が決議される必要があります。決議に必要な票数は在校生徒数の三分の二以上ですから、一科生と二科生がほぼ同数の現状では、制度改定は事実上不可能です。」

 

王馬「あんた話長ぇな。さっぱり分からねぇよ。」

 

深雪「王馬さん、折角説明してくださったのに、それはいけませんよ。…申し訳ありませんでした。分を弁えぬ差し出口、お許しください。」

 

立ち上がり、深々と頭を下げる深雪を咎める者は居ない。

王馬は不思議そうな顔でそれを見ていた。

 

真由美「ええと、それでは、深雪さんには書紀として、今期の生徒会に加わっていただくということでよろしいですね?」

 

深雪「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願い致します。」

 

王馬「おう、なにか知らねぇけど頑張りな。」

 

真由美(余計なお世話よ…)

 

摩利(お前は余計だ…)

 

鈴音(不躾な…余計です…)

 

あずさ(本当に一年生ですよね…?)

 

達也(余計だ、少し黙っていろ。)

 

しかしそんな王馬の返しにもニコッと笑みを返し、丁寧にお辞儀をする。

 

深雪「はい、頑張ります。」

 

そう一言だけ言うと深雪は再び席に着く。

 

摩利「さて、本題は終わったか…だが昼休みが終わるまでもう少しあるな。ちょっといいか?」

 

達也「ええ。」

 

王馬「あ?」

 

そう言い出すと摩利は達也と王馬の方へと向き直す。

達也は背筋を伸ばしとても作法の良い姿勢、対する王馬は机に肘をつき、少しはしたない姿勢であるだろう。

 

摩利「風紀委員会の生徒会選任枠のうち、前年度卒業生の一枠がまだ埋まっていない。」

 

真由美「それは今、人選中だと言っているじゃない。まだ新年度が始まって一週間も経っていないでしょう?摩利、そんなに急かさないで。」

 

摩利「確か、生徒会役員の選任規定は、生徒会長を除き第一生徒を任命しなければならない、だったよな?」

 

真由美「そうよ。」

 

しかたないわね、という顔で真由美が頷く。

 

摩利「第一科の縛りがあるのは、副会長、書紀、会計だけだよな?」

 

真由美「そうね。役員は会長、副会長、書紀、会計で構成されると決められているから。」

 

摩利「つまり、風紀委員の生徒会枠に、二科の生徒を選んでも規定違反にはならないわけだ。」

 

真由美「摩利、貴女……」

 

真由美が大きく目を見開き、鈴音、あずさも唖然とした顔をしている。この提案も、先の深雪の発言と同じく、随分突拍子も無いことらしい。

この渡辺摩利という三年生は、相当悪ふざけが好きな性格をしているようだ、と達也は思った。

 

…のだが。

 

真由美「ナイスよ!」

 

達也「はぁ?」

 

王馬「何を話してんのか分かんねぇな。」

 

深雪「王馬さん、つまりはですね…」

 

真由美の予想外な歓声に、思わず、達也の口から間の抜けた声が漏れてしまった。そのことをよそに話の内容がよく分からない王馬は深雪に詳しく教えてもらっていた。

 

真由美「そうよ、風紀委員なら問題無いじゃない。摩利、生徒会は司波達也くんを風紀委員に指名します。」

 

いきなり過ぎる展開に動転したのは一瞬のこと。

 

達也「ちょっと待ってくださ…

 

摩利「ああ、その事なんだが決定事項では無いんだ。一枠だからな?ならばここで()()()()()()()()。」

 

その摩利の一声に今度は真由美が間の抜けた声が漏れてしまう。「決めてもらおうか。」とは、何を決める必要があるのだろうか。………あぁ、そういう事か、その考えは遅れての事。もうひとり居るからだ…

 

摩利「司波達也。そして、……十鬼蛇王馬。」

 

真由美「摩利!何を言ってるの!」

 

摩利「ん?私はただ一枠を埋めるためだけの話をしているだけだろう?なぁに、面白いじゃないか、ペーパーテストの()()()()が居るんだ。どちらか迷うに決まっているだろう?」

 

少し皮肉成分が入った言い方は彼女らしい、いや、わざとらしい。本来ならば達也だけでよいのだが、摩利は少なからず王馬に対して興味を持っていた。

どれだけ威圧を浴びせようとも物ともしない、むしろ逆恨みの如く挑発をしてくる。こんなに面白い生徒は早々いないであろう。

 

真由美「摩利!」

 

深雪「()()()()って…え、王馬さん?」  

 

達也「まさかお前…」

 

ただどうしても引っ掛けるのが摩利の言った『最高と最低』だ。入学試験のときに行ったペーパーテストで達也は高得点を叩き出しそれに当てはまる。

対する王馬なのだが、言葉の通りだ。

最低得点、それ以上でもそれ以下でもない。

 

王馬「…なんだよ、ジロジロ見て。」

 

真由美「生徒会は達也くんを推薦すると言ったはずよ?それでも決める必要があるというの?」

 

摩利「ああ。確かに司波達也の頭脳、知識が十分という点では風紀委員には欲しいものだな。しかし、それと同時に王馬も欲しくなったんだ。正直分かっているんじゃないか?心の何処かで。こいつは普通の生徒とは違う、というのが。上級生相手にも引かない、とても良いじゃないか。」

 

真由美「そう…だけど。」

 

鈴音「ちょっとよろしいでしょうか。」

 

綺麗、細く整えられたような左手を挙げ視線が彼女に集まる。それでも臆する事なく冷淡に話を進めようとする。

 

鈴音「それならば私は彼、()()()()()には願い下げです。」

 

摩利「……理由は?」

 

鈴音「理由…そうですね。貴女が仰った事をそのまま押し付けますよ。上級生にも引かない態度をみせる、いや挑発的な態度を出すという事で当てはまってますね。口の利き方、礼儀作法まで…ここに来るまではっきりと見させていただきました。」

 

淡々と発する言葉に普通の生徒ならこの場で涙を出していても可笑しくはない話だろう。容姿端麗、クール系お姉さんだが、それが強く出すぎてしまっている。

 

鈴音「相応しくない…と、一言だけ。」

 

あずさ「確かに、私も…」

 

挙手こそしないものの小さな声で便乗するあずさ。

彼女とて立派な生徒会の一員だ、王馬の素行くらい見抜くことが出来る。

 

摩利「……困ったな、そこまで言われるとは。」

 

真由美「もう達也くんで決まりでいいじゃない…」

 

達也「いやだから俺の意思は…」

 

鈴音「風紀委員会は、校則違反者を取り締まる組織です。」

 

また話を遮られ撃沈する達也。もう自分の声はここには届いていないのだろう、風紀委員になるのも時間の問題だ、と悟りを開き始める。

 

鈴音「魔法使用に関する校則違反者の摘発、魔法を使用した争乱行為の取り締まり。風紀委員長は、違反者に対する罰則の決定にあたり、生徒側の代表として生徒会長と共に、いわば警察と検察を兼ねた組織です。」

 

風紀委員の主な仕事を一言も噛まず、視線を王馬から離さず語る鈴音。この少しピリッした空気に先程までの生易しい空気はもう無い。

 

鈴音「追い打ちを掛けるようで失礼ですが、あなたにその資格があるとは思えません。もし、あなたが任命されたのであれば、あなたはある意味学園中の生徒を敵に回すことになりかねません。」

 

深雪「!…そ、それはどういう…」

 

鈴音「彼がこういった態度を何時までも取り続けるのであれば恨みを買うのも時間の問題でしょう。実際私はあなたの素行が良いものとは認めてません…それにあなたは一年生、しかも二科生………あなた三年間をマトモに送れるとは思えませんよ。」

 

真由美「リンちゃん、そんな言い方!」

 

摩利「実際事実だが…惜しいな。」

 

鈴音の言う事は事実だ。彼女は冷淡に述べていたがそれは彼の事を思っての事。実際王馬があの態度を取り続けるというのであれば彼は多方面から恨みを買われるのは間違い無いだろう。口下手とは言えど彼女なりの優しさがそこにあった。

 

鈴音「夢のためでしょうか?ここに来られたのは?あなたは明確な意思があってここに来たのでしょう?それならばもっと分を弁えた発言を推奨します。それにあなたは二科生でも最下位…それがバレてしまえば余計にあなたの立場は無くな…「ネェちゃん」…はい?」

 

鈴音が話を続けていたが横槍、当の本人がやっと口を開く。それは急の事、皆目を大きく見開いて王馬を見る。

 

王馬「随分心配してくれるんだな。もしかして、()()()()()()()()()()()ん?」

 

その一言は突然だった。一瞬にして皆の思考を打ち砕いた。男はなぜそんな事を言い出したのかは不明。

誰も知る者は居ない。

 

深雪「…は?」

 

達也「は?」

 

真由美「え?」

 

摩利「は?」

 

あずさ「!?」

 

鈴音「……はい?……あの、そんな事を急に仰られても困ります……そうですね、別に心配してるわけではありません…私はあなたが何故、何のためにここ(魔法科高校)に来たのか、理由を知りたいわけですが。」

 

王馬「理由ねぇ…()()()()に一々理由が必要かい?」

 

鈴音「そんな事、あなたは学園中を相手にまわしても構わないという事ですか?魔法というものは便利ですが、時にはより鋭利な物になる事ですよ?」

 

より見つめる瞳をきつくし、王馬に対して少し覇気に似たような物を植え付けるが、それでも動じない。周りはそれを傍観する事しか出来なくなっていた。

 

王馬「やれやれ…黙って聞いてりゃあくだらねぇことをペラペラと…まぁいい答えてやるぜ。」

 

 

 

「誰が一番強いのかハッキリさせる」それだけだよ。

 

 

 

 

男は不適に笑い、それは微笑ましいではなく只々不気味で仕方ない。絶対的な自身と言えるのかくわっと、目を見開いた。

 

王馬「それ以外の理由なんざ全部後付けさ…嘘っぱちだよ。」

 

鈴音「……?それだけの為に?その結果、あなたは怪我では済まされないことになるのかもしれないのですよ?」

 

王馬「ありえねぇな。俺が負けるなんざ未来永劫ありえねぇ。

 

鈴音(!?この男…ハッタリじゃない!自分が敗れる可能性などまるで想定していない!)

 

摩利(!!ッ…本当に私は凄い者を見つけたかもしれないな……交えてもいないのにこの"強さ"…本物だな…)

 

真由美(!ッ…傲慢を通り越して清々しいほどの自信への信頼……相当なのね。)

 

達也(ッ!!…この圧力、油断すれば押し潰されそうだ…)

 

深雪「ま、ま、まぁ落ち着いてください!王馬さんも悪気があってこうしてるはずじゃないんです!なので先輩方もお静めください!」

 

深雪が無理矢理にでもこの空気を変えようと必死で仲裁に入る。その時の顔は無理に笑顔を作り目はぐるぐると渦を巻くほどになっていた。

 

鈴音「とはいえ、私は認めません、彼の風紀委員への加入は認めません!」

 

王馬「へっそうかい。俺は別にその『フーキイーン』ってのには興味無ぇんだ。…ただ居るよな、大した強さも持ってねぇのに最強面する奴等が…俺はそれが許せねぇだけだ。」

 

あずさ「そ、そんな理由で…」

 

真由美「随分と無茶な事ばかり考えるのねあなたは。」

 

達也「何を考えているんだお前は…」

 

深雪「もう喋らないでください王馬さん!」

 

摩利「そうか……ならば合格だな。」

 

真由美「え!?」

 

鈴音「な!?」

 

あずさ「ええ!?」

 

摩利の合格ラインに達したのが驚きだったのか生徒会メンバーは姿には似合わない声を上げる。

これには達也も深雪も驚いたようで摩利と王馬をそれぞれ二度見する。

 

摩利「良いじゃないか。そういう理由だからこそ風紀委員としての仕事が当てはまっている。」

 

真由美「摩利…ほんっとうに貴女は…」

 

鈴音「大胆すぎます…解任するのも時間の問題ですよ…」

 

あずさ「私は知りませんからね!!」

 

それぞれ大きなため息をこぼす。そりゃそうだろう、こんな滅茶苦茶な決め方は無い。達也は「これで俺は風紀委員になるはずは無い。」と心でつぶやいていた。

 

摩利「十鬼蛇王馬に"司波達也"、やってくれるな?」

 

あぁ、逃れられない…

 

深雪「さすがはお兄様です。」

 

ニコッと笑う深雪を見て追い打ちをくらった達也。

自分は風紀委員として頑張るしかない、と覚悟を決めた。

 

王馬「あ?さっきあんた一枠とかどうとか言って無かったか?」

 

摩利「生徒会枠の事か?それなら大丈夫だ。もう一枠ぐらい構わないだろう。」

 

真由美「構わないって…貴女ねぇ…」

 

鈴音「生徒会への信頼度が右肩下がりですよ。」

 

あずさ「滅茶苦茶すぎますよ!」

 

達也もこれには同感だ、いくらなんでも無理がある。

再び渡辺摩利という女子生徒への呆れを感じてくる。

 

王馬「ふ〜ん…そうかい。」

 

摩利「ただし、無条件で欲しい事は山々なのだが…我々も拝見させてもらわなければならない。特に王馬、お前をな。」

 

王馬「あん?」

 

摩利「簡単に言ってしまえば風紀委員とは喧嘩が起こったらそれを力ずくで止めなければならない、という事だ。司波達也も例外ではない、王馬、力比べといこうじゃないか。」

 

摩利のその発言に対し達也は自身が実技試験で成績が悪かったことを述べ反論しようとしていたが、横にいる王馬はその発言に耳をピクリとさせ、ニタァっと不気味な笑みを浮かべる。それを見た面子は一歩下がりそうになってしまう。

 

王馬「へぇ…テストかい?おもしれぇ事考えるねぇ…あんた。」

 

摩利「力比べなら私がいる……っと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後に続きを話したいんだが、構わないか?」

 

王馬「構わねぇよ。」

 

達也「……分かりました。」

 

再度ここに出頭するとなると、もう外堀も内堀も埋められた必至の状態になってしまう気がしたが、達也には他の選択肢が無かった。

 

摩利「では、またここに来てくれ。」

 

三人は生徒会室から出ると二人はお辞儀をし、王馬は笑みを浮かべたまま摩利と見つめ合っている。

その視線に入ろうものなら、今すぐ殺されてしまいそうだ。

 

深雪「風紀委員に入れるなんて、すごい事ですよ、お兄様、王馬さん。」

 

達也「それはありがたいが………王馬?」

 

未だにジッと扉を見つめる王馬が気になったのか声を掛ける達也。

 

王馬「これから一体どうなるんだろうねぇ……なぁ、シバタツヤ?」

 

達也「…そう、だな…」

 

深雪「王馬さんも、頑張ってください!確かに力比べとなると相手が強い事は確かですが「わざわざ犠牲になってくれるって言ってんだ。」…王…馬…さん?」

 

王馬は二人に背を向け教室へと向かう、その背中はとても恐ろしくオーラが見えるほどに邪気を放っていた。

 

王馬「盛大にぶっ潰してやるぜ。」

 

男の笑みはより不気味になっていった。

 




次回はとうとう闘います。頑張れ!王馬くん!

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